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ウォレット×AIエージェントで、この日本に“滑からなデジタル金融社会”を生み出す。 HashPort×HAKUHODO Fintex Base(連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.15)
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ウォレット×AIエージェントで、この日本に“滑からなデジタル金融社会”を生み出す。 HashPort×HAKUHODO Fintex Base(連載:フィンテックが変える生活者体験 Vol.15)

暗号資産を管理するためのデジタルウォレットサービスが相次ぎ登場しています。プラットフォーム大手各社がサービスを投入したことで、今後広く普及する可能性が高まっています。
株式会社HashPortは、ステーブルコイン、暗号資産、NFT、SBT、ポイントを1つのアプリで管理・活用できるウォレットアプリ「HashPort Wallet」を開発・運用しています。HashPort Walletの前身である「EXPO2025デジタルウォレット」が大阪・関西万博で提供され、会期中に100万人以上が利用した実績があります。同社の吉田世博代表取締役CEOと、FinTechサービスにより生活者の金融体験がどう変化するかを研究しているHAKUHODO Fintex Base代表の山本が、ウォレット市場の現在の動向や将来の可能性などについて語り合いました。

 

Web3ビジネスを手掛け、社会実装を目指す。

山本
自己紹介をお願いいたします。
吉田
2018年にHashPortを起業しました。それ以前は外資系のコンサルティング会社におり、ブロックチェーンや当時「トークンエコノミー」と言われていたWeb3の領域に関わりました。こういった新しい技術を社会に実装していきたいと考えたのが起業の理由です。

起業した直後は金融領域の大企業と新しいサービスを展開したいと思い、連携先を探しました。コンサル時代の経験から、こういった新技術を社会に広げるためには、大企業との連携が欠かせないと考えたためです。しかし2018年は、年初に暗号資産が不正流出した「コインチェック」事件があり、その影響で大企業は暗号資産領域のビジネス展開に及び腰でした。

そこで最初の3年間は、国内で暗号資産取引所を展開する事業者の海外の暗号資産取扱支援などのコンサルビジネスに力を入れました。2021年になり、改めて自社でWeb3のプロダクトを開発したいと考えて資金を調達し、日本のウォレット企業の草分けと言われた東大発スタートアップの「フレセッツ」を買収しました。それ以降、ウォレットとブロックチェーン基盤のビジネスに本格的に取り組んでいます。今も当社のウォレットに関する技術者の中核は、旧フレセッツ出身者が担っています。

ウォレットは、インターネットにおけるブラウザと同じ役割

山本
今はウォレットのビジネスに完全にシフトされているのですか。
吉田
いえ、コンサル事業は現在も手掛けていて、今でも重要なビジネスの柱の1つです。
山本
コンサル事業が順調に成長していたにも関わらず、それでもウォレットなどのWeb3関連のプロダクトを開発したい、と考えた理由は何なのでしょうか。
吉田
それは、ウォレットが今後、社会においてとても重要な役割を果たすと認識しているためです。私は、重要な理由が大きく2つあると思っています。

1つはWeb3におけるウォレットは、インターネットにおけるブラウザのようなものであるということです。私たちは、ブラウザを介すことによって、ビジュアライズされた形で簡単にインターネットにアクセスすることができます。インターネット上にあるコンテンツやサービスは時代と共に変わっているものの、ユーザーの一番近くにあるブラウザの主要開発企業はほとんど変化していません。

Web3の世界も同様で、ブロックチェーンゲームやNFTといったアプリケーションはかつてほどの勢いがありませんが、それに代わる新しいアプリケーションがどんどん登場しています。しかしウォレットの主要開発企業はほとんど変わっていませんし、今後も残り続けると思います。

このようにウォレットは、Web3における重要なインフラ、インタフェースです。その部分を日本のユーザーに合わせた形で、日本企業が作っていくことは大きな意味があると考えています。

もう1つは、AIが今後さらに普及していく上で、ウォレットの果たす役割が大きいと考えていることです。従来の金融システムでは、AIを効果的に活用するのが難しく、新しいテクノロジーが必要になっています。その役割をウォレットが担えると考えているのです。

今、ある方が「株券を担保に暗号資産を買いたい」と考えたとしましょう。こういった方が、自身で証券口座を操作する、といったことはあまりありません。アシスタントに取引を依頼します。

アシスタントは株券を担保にお金を借りる場合どこで借りるのが資本効率が良いか、投資をする際にどのやり方が一番レバレッジを利かせられるか、といったことを調べます。そして実際にお金を借り、銀行口座に入金する処理をします。次に銀行口座から暗号資産の取引所に入金し、取引所で暗号資産を購入します。

アシスタントが実行した一連の作業は、AIではできません。もちろん、利率やレバレッジの条件を比較するといったことは可能ですが、金融機関はAIによる処理を可能にするAPIをほとんど外部に公開していません。加えて、証券会社が取引の実行を電話で確認するなど、人でないと対応できないアナログな対応も多く残っています。

一方で、株券をセキュリティトークン化し、ウォレット上で取引すれば、すべての処理はAIで代行可能です。まずセキュリティトークンを担保にステーブルコインを借ります。そしてこのステーブルコインを、イーサリアムなどの暗号資産と交換します。これで終わりです。全てAIによって処理が可能であり、取引がプログラマブルになるのです。

強みは、「ガスレス」と「鍵の管理」の2つ。

山本
とても夢のあるお話ですね。いまうかがったことをHashPort Walletで実現していくということだと思うのですが、HashPort Walletならではの強みと言えることは何でしょうか。

吉田
大きく2つあります。1つは「ガスレス」と呼ばれる機能です。ブロックチェーンネットワーク上で送金や取引などをおこなった際に支払う手数料のことを「ガス代」と言います。

ガス代は、単に手数料がかかるというだけでなく、そのブロックチェーンネットワークで使えるトークンでないと支払えません。このことは、利用者の利便性を大きく損なっています。

我々はユーザーのガス代を代わりに支払い、無料でブロックチェーンを使えるガスレス機能を提供しています。HashPort Walletではガス代の存在自体を全く意識しなかったり、知らなかったりする方が多いのではないかと思います。

もう1つのウォレットの「鍵」の管理です。ウォレットがブロックチェーンの世界の個人の金庫だとした時に、その鍵として数十桁の数字やアルファベットが混ざったパスワードを使ったり、沢山のキーワードを使ったりするのが一般的です。

一方でHashPort Walletの場合、鍵を数個のピースに切り分けた上で、それぞれを暗号化して別々のサーバーに保管します。ユーザーの方が設定した6桁のピンコードが入力された際に、鍵の断片を1か所に集めて復元し、ウォレットを開けるようにします。

このピンコードがないと私たちでも鍵を復元できません。サーバーがハッキングされて鍵の断片が奪われたとしても、ウォレットの中身が流出する心配がありません。非常にセキュアなサービスになっています。

この2つ以外では、日本のユーザーが使う場合、出入金が便利になっているところも特徴です。Pontaポイントからステーブルコインやビットコインをワンタップで買えたり、au PAYにチャージしたりすることができます。ウォレットに連動したクレジットカードもご提供しており、日常的に利用できる機能が多数あります。

ウォレットはパーソナルAIエージェントの基盤になり得る

山本
現在のダウンロード数は100万を超えていますが、勢いが凄いですね。ダウンロードが伸びたターニングポイントはやはり万博ですか。
吉田
そうです。製品やサービスの利用者が増えるほど、その価値が高まる現象を「ネットワーク効果」と呼びますが、ウォレットはその効果が極めて高い分野だと考えています。万博で普及に向けたある程度の利用者を獲得できたのは大きかったですね。期間中は毎月10万人を超えるペースで利用が増えていきました。

具体的には、様々な企業や自治体、官公庁と実施したコラボレーションで、他人に譲渡できず、万博に参加した記念になるSBT(Soul Bound Token)を配布しました。SBTは人の流れを変える力があるサービスだと、万博期間中に実証できたと考えています。

山本
「デジタルウォレット」と言われるとリテラシーが高い人でないと拒絶反応が出てしまうかと思うのですが、万博はそういったものを乗り越える良い機会だったということですね。
吉田
そうですね。万博もそうですし、万博以降は継続してお使いいただいている方に、より我々のサービスに興味を持っていただけるよう、毎日Web3に関する簡単なクイズを実施して正解者にポイントを分配するなど、様々な教育コンテンツを提供しています。
山本
万博で配布したSBTは、スタンプラリーなどの行動に対するインセンティブという側面がありますよね。一方でSBTは、自分の人生の記録として価値があるというものでもあると思います。どちらをより強く押し出したい、といったことはございますか。
吉田
「卵が先か、鶏が先か」の話になりますが、ウォレットが日頃から利用価値があるサービスであると認識していただければ、その利用の記録であるウォレット内のSBTも価値を持ってきます。ですから、HashPort Walletの利用価値を高めることが欠かせないと考えています。

SBTと関連した実証実験として我々が進めているのが、SBTの記録をAIエージェントに学習させることです。将来的には、様々なサービスでAIエージェントが実装されるはずなので、各サービスのAIエージェントとウォレットと接続されたパーソナルAIエージェントが対話することで利便性を高めていけると考えています。

例えばレストランの予約です。ウォレットユーザーの好みを基にパーソナルAIエージェントがレストランを選び、レストラン予約サービスのAIエージェントと対話し、ユーザーの希望する場所や時間で空きのある好みのレストランを予約します。予約のデポジットはウォレットからステーブルコインを使って支払われます。プロセスに人は介在せず、AI間の処理が全て終わったら、ユーザーに予約できたことや予約内容を伝える、といった具合です。このAIエージェントによるレストラン予約でのウォレットとステーブルコインの利用については、既にHashPort Walletによる実証実験が完了しております。

こういった便利さをウォレット側から提示できれば、ユーザーの利用価値は必然的に高まるでしょう。そうなれば、ウォレット内のSBTの価値も上がるはずです。

日常決済にも活用できるように、ウォレットをもっと生活のそばに。

山本
今ウォレットを非常に便利にしていくというお話がありましたが、それは将来的な暗号資産の投資につなげるためですか。それともウォレットが便利になること自体に価値があるとお考えでしょうか。
吉田
後者ですね。ウォレットの役割は、お金の流れを滑らかにすることだと考えています。

投資の世界においては既に一定のインフラやユースケースがあるので、現状のHashPort Walletもそのための機能を多く有しています。ただし、我々の目的はお金に関わるサービス全般を提供することなので、投資というのはあくまで使い道の1つという位置付けです。

山本
ではこれからウォレットのインタフェースがどんどん変わっていくかもしれないのですね。
吉田
そうですね。もしかしたらある日ボタンが完全に無くなり、チャットの画面だけになるかもしれません。現状は「アプリ」という人間のためのインタフェースを持っていますが、将来はAIが利用しやすくするための機能に重心を移していく可能性もあります。そうなると、ウォレットはAIの機能を拡張するためのプラグインという形式になるかもしれません。
山本
今後の日本市場におけるウォレットビジネスの成長をどう展望されているかも教えてください。
吉田
国内の主要プラットフォーマーは軒並みブロックチェーンウォレット市場に参入していますし、当社も2025年11月にKDDIと資本業務提携をして、持ち分法適用会社になりました。既に、ウォレットビジネスをやるかやらないかではなく、どういったアプローチで進めるかという段階に入っています。

我々としては決済などを通して暮らしの中でウォレットを活用できるようにしていくことを目指してサービスを開発しています。QRコード決済が登場し、公共料金なども支払えるようになったことでユーザーを獲得していったように、ウォレット内のステーブルコインを様々な決済に利用できるようにすることで、利用は大きく拡大すると考えています。そのためにはユーザー獲得と同時に、利用できる店舗の拡大にも力を入れる必要があります。

今後は海外のウォレットも日本市場でのビジネスにより力を入れるはずですので、強力なライバルになると思います。我々はPontaポイントやau PAYとの連携といった、外資系企業では簡単に実現できない機能を持っていることが強みになると考えています。

山本
これから、デジタルウォレット市場の成長は勢いを増していきそうですね。ビジネスサイドでは熾烈な戦いになっていくと思いますが、一方、生活者にとっては、デジタルウォレットとの距離がより身近になっていくこととイコールになるはずです。我々HFBもこの分野の生活者研究を続けながら、HashPortさんの挑戦も応援させていただきます。本日は貴重な機会をありがとうございました。
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  • HAKUHODO Fintex Base代表/博報堂ストラテジックプラニング局 チームリーダー
    新卒で外資系大手SIer入社。その後、大手メディアサービス企業にてネット業界ブランディングに従事、総合広告会社を経て現職。クリエイティブ・事業からシステム基盤と振り幅の広いスキルを最大限に活かすフィールドを求め、博報堂に転身。現在は、BtoB、飲料、通信・自動車・HR・Fintechとあらゆる業種を担当し、事業視点からのマーケティング戦略を策定するチーフイノベーションディレクターとして活動。JAAA懸賞論文戦略プランニング部門3度受賞、共著「ウェルビーイング市場を拓く技術開発戦略」
  • 吉田 世博
    吉田 世博
    株式会社HashPort 代表取締役CEO
    2018年に株式会社HashPortを創業。大阪関西万博へのEXPO2025デジタルウォレットの提供をはじめ、多くの事業会社・金融機関・政府機関等にweb3ウォレットのソリューション提供を行っている。現在、100万ユーザーを超える国内最大のノンカストディアルウォレットHashPort Walletを提供している。日本暗号資産ビジネス協会理事も務める。
    HashPort創業以前は、ボストンコンサルティンググループのデジタル事業開発部門であるBCG Digital Venturesにて、東京オフィス最年少のVenture Architect(投資・事業開発担当者)として日本及び中国でのプロジェクトに従事。

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