
マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.10】埋もれたデータを「AI-Ready」で掘り起こす – 事業成長を加速させるデータ活用戦略の最前線
目次
マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。
第10回のテーマは、「埋もれたデータを『AI-Ready』で掘り起こす」です。生成AIの急速な進化がマーケティングにもたらす変化と、それに伴い企業が直面するデータ活用の課題、そしてそれらを解決し、事業成長を加速させるための「AI-Ready」という概念について、我々の視点から掘り下げて解説します。
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土井 京佑
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 部長
マーケティングの未来を拓く「AI×データ」の必然性
今、マーケティングにおいてAIは、事業成長を左右する不可欠な要素となっています。多くの企業でデータが活用しきれていない現状に対し、生成AIはデータの捉え方や活用方法、意思決定の質とスピードにまで影響を与えるパラダイムシフトを引き起こしています。
生成AIの進化はデータマーケティングに変革をもたらします。定量・定性データがAIによって結びつき、顧客理解の解像度が飛躍的に向上するでしょう 。手作業で数ヶ月要したデータ分析や加工、施策立案といったプロセスはAI活用で圧倒的に短縮され、PDCAサイクルが劇的に加速します 。さらに、AIは顧客一人ひとりの行動や文脈を深く理解し、最適なコンテンツや提案を可能にすることで、パーソナライズされた顧客体験を実現します 。
AIは、特定の部署やプロジェクトで試す段階を超え、マーケティング活動全体を再構築し、競争優位性を確立するための必須要素となっています 。
「AI-Ready」へと至る道のりと、企業が直面する壁
AIの恩恵を最大限に受けるには、「AI-Ready」な状態への変革が不可欠です。しかし、多くの企業が以下の壁に直面しています。
まず、業務プロセスの壁です。長年の慣習で確立された業務の多くはAI連携に適した「型」になっていません 。判断が個人の経験に依存しがちで、AI導入を見据えた業務設計や、AIと協働できる人材が不足している点が課題です 。
次に、データ基盤の壁です。従来のシステムは構造化データ中心でしたが 、生成AI時代にはテキストや音声、画像といった「非構造化データ」にこそ、顧客の真のニーズや感情が隠されています 。これらの多様なデータを一元的に収集・統合し、AIが解析しやすい形で管理できる基盤がなければ、AIの能力は十分に発揮されません 。例えば、小売店舗での対面接客情報や商談内容が適切にデータ化されていない場合、デジタル上の行動データだけでは顧客の全体像を捉えきれないといった課題が典型例です 。
これらの壁を放置すると、事業リスクが増大します。AI活用に乗り遅れることは、業務効率化の遅れと競争力低下に直結します 。また、ハルシネーション(誤った情報生成)や機密情報漏洩リスクへの備えも不可欠であり 、適切なルールや体制がなければ、企業の信頼性や法令順守にも影響を及ぼしかねません 。
これらの課題を乗り越え、「データを貯めただけ」の状態から「AIで最大限に活用できる」状態へと変革することこそが、「AI-Ready」の真髄なのです 。
図1:AI-Readyの目指す状態
「AI-Ready」が拓く、次世代のデータ活用戦略
「AI-Ready」な状態を実現するには、単にAIツールを導入するだけでなく、「データ」と「業務プロセス」の抜本的な変革が必要です 。
データ変革の要諦は、これまでの構造化データ中心の考え方から脱却し、多様な非構造化データをいかに収集・統合し、AIが活用しやすい形にするかにあります 。商談音声、SNSの口コミ、画像など、これまで活用用途が限られていたデータに潜在するインサイトをAIが抽出し 、顧客理解を格段に深めます。具体的には、多次元データモデルやイベントベースモデルに加え、ベクトルデータベースを構築することで、商品データや閲覧コンテンツをベクトル化し、最適なパーソナライゼーションやレコメンデーション、営業支援が可能になります 。
そして、このデータ変革と並行して進めるべきなのが業務プロセスの変革です。
AI導入後も既存業務がAIに対応していなければ、誤答や負担増のリスクが生じます 。大切なのは、AI活用を見据えた「業務設計とルール」の再構築です 。顧客獲得から受注までのプロセスにおいて、AIがどこでどのように介入すればボトルネックを解消し、コンバージョン率を向上させられるのかを明確にする必要があります 。手作業の効率化や属人化していた分析のAIによる自動化・高度化により、ヒューマンエラーを削減し、業務改善の質を最大化できます 。AIインサイトに基づきPDCAを高速で回せる仕組みを業務に組み込むことで、市場変化に柔軟に対応し、継続的な施策改善が可能になるのです 。
この「AI-Ready」の実現には、現状のデータと業務プロセスの課題を体系的に整理し、AI活用のユースケースを具体的に策定することが不可欠です 。
具体的なAI活用ユースケースの例
● セグメント高度化:キャンペーンレシート情報やフリーテキスト情報といった非構造化データから顧客の購買・飲用シーンを発掘し、LTV向上に繋がる新たなセグメントを策定します 。
● レコメンド高度化:配信コンテンツへの反応率と顧客属性・行動情報をAIで掛け合わせ、コンテンツの出し分けのキーとなる情報を特定し、顧客とのコミュニケーションを最適化します 。
● 営業支援:営業マンの会話履歴をAIで文字起こしし、パワーワードの抽出や検討段階に応じたスクリプトの提案を行うことで、商談プロセスの改善や若手営業人材の育成を支援します 。
これらのユースケースは、AI-Readyなデータプラットフォームによって実現可能となります。
図2:AI-Ready Data Platformに必要な要素
具体的には、Web行動データや営業進捗データ、売上データといった既存の構造化データに加え、商談音声やSNS上のテキスト、画像などの非構造化データを統合し、AIが扱いやすい形式へと変換するプロセスが重要になります 。
事業成長を加速させる「AI-Ready」への第一歩
「デジタル施策の成果がバラバラ」「オンラインとオフラインの顧客体験に一貫性がない」「データはあるが活用されていない」――もし貴社がこのような課題を抱えているなら、それは「AI-Ready」の必要性を示唆しています 。データをAIで最大限に活用できる状態へ変革することで、より早く、より深く、より多くの顧客に対応できる未来が拓きます 。
AIは、貴社のデータに眠る事業成長のヒントを掘り起こす強力なパートナーです。貴社のビジネスと生活者への深い洞察に基づき、AIとデータを活用した最適な「AI-Ready」への道筋を、共に考え、共に実現していくことを目指しています。
貴社の埋もれたデータをAIで掘り起こし、事業成長を加速させるための具体的な一歩を、今こそ踏み出しませんか。
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株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部 部長生成AIの実装支援から新たなCX開発、事業戦略支援まで、データ・AI活用によるクライアント支援を推進。プロトタイピングによる高速検証、生成AIを活用した人材育成・業務効率化・マーケティングデータ活用・CX革新など、幅広いテーマに対応。データ・AI活用における「Can be(現実的に実現可能なこと)」を重視し、ビジネス成果に直結するデータ・AI利活用モデルの確立に取り組んでいる。