
~躍進するeスポーツ大会の今とこれから~ eスポーツを「興行コンテンツ」へ。VALORANT Challengers Japanに参入するテレビ局の新たな挑戦とエンタメ性の追求
博報堂は日本テレビ放送網とともに、2025年よりVALORANT Challengers Japan2025実行委員会を組成し、日本最大級のeスポーツ大会「VALORANT Challengers Japan」や国内のVALORANT公式大会の運営と配信業務を担当しています。
VALORANTを中心としたeスポーツシーンの拡大に寄与し、日本テレビを初めとするさまざまなパートナーと手を組み、新たな収益機会の創出を図っていくことを見据えています。日本テレビは以前からeスポーツビジネスに参入するなど、この領域に長く関心を持っていた企業です。
今回、博報堂とともにVALORANT Challengers Japan2025実行委員会を立ち上げた背景や、描いている将来像、eスポーツの未来について、日本テレビの小林 大祐氏に、博報堂 オーディエンスアクションビジネス局の笠置淳行が話を聞きました。
日本テレビ放送網株式会社
コンテンツ戦略本部 事業局 イベント事業部 部次長
小林 大祐氏
eスポーツを「興行コンテンツ」へ育てる日本テレビの挑戦
── まずは小林さんの自己紹介と現在の取り組みについて教えてください。
日本テレビのeスポーツ事業は、2018年に日本テレビの社長室から始まった新規事業の一環として始まりました。私は事業立ち上げの初期から推進役として携わってきました。
私自身はもともとゲームが好きで、前職もモバイルゲームの会社の海外進出担当だったのですが、eスポーツというジャンルに本格的に関わるようになったきっかけは、社長室で新規事業提案制度の事務局を担当していたときです。
社員から提出されたアイデアの中で、eスポーツに関するものが18件と予想以上に多く寄せられたため、本格的に研究した方がいいなと思ったんですよ。ちょうど2018年は、eスポーツが盛り上がり始めていた時期で、「日本eスポーツ連合(JeSU)」という大きな業界団体が立ち上がるなど“eスポーツ元年”とも言われていました。
eスポーツについて色々と調べていくために、まずは現場を見てみようと幕張で開催された大会の視察に行ってきました。現地では、自分がプレイしているわけでもないゲームの試合で、観客の皆さんが真剣な眼差しで行方を追っている光景でした。さらに、eスポーツの試合を戦っている選手たちはユニフォームを着ていて、すごくかっこよく見えたんです。
ただ、最初はルールもよく分からなかったので、試合を見ながらスマホで必死に検索していました。それでも、3試合くらい見ているうちに段々ルールが理解できて楽しくなってきて、帰宅してそのゲームを遊び始めてからは、自分自身もeスポーツに夢中になっていきました。自分がeスポーツをプレイする側に回ると、あらためてプロ選手のすごさが身に染みて感じるので、プロ選手が“憧れの存在”になっていくわけです。
最初はeスポーツを研究するところから始まって、プレイヤーとしてeスポーツに関わるようになっていくうちに、「eスポーツをビジネスとして育ててみたい」という願望を抱くようになって。そこから、eスポーツの事業の立ち上げを買って出ることになりました。
── 今回の取り組みをするにあたって、自社のノウハウが活かせているのはどのような部分でしょうか。
日本テレビグループが掲げる「中期経営計画2025-2027」では、eスポーツを新たな成長事業の柱として位置づけるなど、eスポーツを「興行コンテンツ」として育てていくフェーズに入っています。
従来ですと、eスポーツの大型オフラインイベントは、ほとんどがゲーム会社のプロモーション予算で成り立っていました。しかし、現在は状況が変わってきていて、オフラインイベントにはゲームのコアプレイヤーのみならず、カジュアルにゲームを楽しむ方やゲームをほとんどプレイしない方も多く来場するようになってきました。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
そのようなライト層が会場の熱気やプロ選手のかっこよさなどに惹かれて、eスポーツの大会にお金を払うようになっているわけですね。つまり、eスポーツが徐々に“観るスポーツ”として成立しはじめているということです。この流れを受けて、日本テレビは長年培ってきたスポーツイベントやスポーツ中継の興行ノウハウを活かし、eスポーツを事業として育てることに挑戦しています。スポーツイベントだけでなく、音楽ライブや舞台など、多種多様な興行イベントの経験があるからこそ、そのノウハウをeスポーツの興行にも役立てています。
多様化する観客層とeスポーツ独自の“応援文化”が生む一体感
── 「VALORANT Challengers Japan2025 Split 2」を振り返っての感想をお聞かせください。
今回の大会はこれまでのイベントとは少し違った雰囲気を作れていました。
従来のeスポーツイベントは、ゲームに詳しいキャスターやコアなファン層を中心に成り立ってきましたが、今はそこからさらに裾野が広がっていて、「ゲームに詳しくなくても楽しめるエンタメ」として観客の層が多様化しています。
オフラインイベント時に華やかで楽しい空間を演出できるのは、テレビという媒体を通じて、さまざまなエンタメコンテンツをつくってきた日本テレビならではの強みだと考えています。
また、会場では「応援ボードコーナー」を設けていたのですが、初日だけで1500枚もの応援ボードが書かれていたのです。これは相当な数で、来場された多くの方が積極的に応援の言葉を選手に向けて書いていただいたということでした。よく考えてみると、「応援ボードで応援する」という文化は他のスポーツイベントや芸能イベントでもあまり見られなかったと思うんですよね。「◯◯チームWIN!」といったメッセージを掲げて、自分の“推し”のチームや選手に声援を送る応援の仕方は、まさにeスポーツ独自の文化として根付き始めているのではないでしょうか。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
私たち大会運営側もその応援ボードを意識して、映像にしっかり映し出すようにしているので、会場全体がひとつになって盛り上がっている感覚が伝わりやすいんですよ。それがまた、観客の一体感を高めていて、すごく良い応援文化が育ってきているなと感じました。
ちなみに、応援ボードの使われ方にも色々あって、チームや選手への応援メッセージだけではなく、「一緒にゲームしませんか?」と自分のオンラインIDを書いている人もいたりと、自己アピールの場にもなっているんですよ。
会場でそのボードを見た人がIDで連絡を取って、オンラインで一緒にプレイする。そんな流れが自然に生まれているわけです。こういう使われ方がされているのは驚きましたし、eスポーツならではの新しいつながり方だと思っています。
また、 物販ブースも行列ができていたのは本当に印象的でした。
今回ほど物販エリア全体が混雑している光景は、これまであまり見たことがなかったですね。選手たちが各ブースに立っていたことも、ファンにとっては大きな魅力だったと思いますが、やはり「推し」の文化が広がっていることを実感しました。チーム全体を応援する“箱推し”や、特定の選手を応援するファンが応援の気持ちをグッズ購入という形で表現する方が本当に増えているんだなと見ていて思いましたね。
── イベントの公式スペシャルサポーターは手越祐也さんが務め、2日間とも実況で盛り上げていましたね。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
手越さんはゲストではなく参加者の一人として、イベントに深く関わってくれていました。大会当日は「公開ウォッチパーティー形式」で全試合をずっと見続けるばかりか、自分の実況を交えてファンに“VALORANT愛”を伝えるなど、非常に楽しそうな印象でした。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
やはり、テレビで馴染みのあるタレントがオープニングや試合中の実況や試合後のトークなどに登場すると、一気にイベント全体が盛り上がりますし、華やかさも増しますよね。ゲーム好きを公表するタレントの方は多くて、コロナ禍では自身のYouTubeチャンネルなどでゲーム実況を始める方が一気に増えました。
最近ではコロナが落ち着いたこともあり、その流れも少し落ち着いてきた印象がありますが、私たちとしてはさらにエンタメ性を追求し、テレビで培ったノウハウを活かして幅広い層のお客様をeスポーツに呼び込みたいと考えています。そうすることで、タレントの方々も気軽にゲーム好きを公言し、一緒にeスポーツを盛り上げてくれるような良い流れが生まれるといいなと期待しています。
eスポーツの“観て楽しむ文化”は、若い世代の成長とともに広がっていく
── eスポーツは今後、どのような拡がりを見せるとお考えですか?
対戦ゲームというジャンルは、上の世代の方々にはあまり馴染みがなく、他人とリアルタイムで戦うことに対する「抵抗感」や、迷惑をかけてしまうのではという「不安」を感じる方も多いんです。特に年齢が上がるほど、そうしたプレイスタイルを受け入れるのは難しい傾向にあると思います。
その一方で、いまの子どもたちの間では、対戦ゲームがごく自然な存在になっています。たとえば、スプラトゥーンやフォートナイトといったゲームが小学生や中学生の間で流行っているように、その世代にとっては「他人とオンラインで対戦する」というプレイスタイルは日常の一部になっているわけです。
仮に、やったことのないゲームであっても、基本的なゲームの構造は似ているので、ルールもすんなりと理解し、自然に応援できるようになっていきます。サッカーやバスケを知っていれば「相手のゴールに球を入れて得点を稼ぐ」というその他の多くの球技を楽しめるのと似ています。またゲームがうまい人へのリスペクトや憧れも自ずと生まれるでしょう。
つまり、若い世代がこれから成長し、社会の中心になっていくことで、eスポーツの“観て楽しむ文化”が自然と広まっていくのではないでしょうか。
このような文化が当たり前になっていけば、eスポーツは日本でも確固たる地位を築いていくと考えています。
── 広告会社の博報堂が大会運営に関わったことで良かった点は何かありますか?
今回の大会のプロデュースは博報堂DYスポーツマーケティングさんに担当いただいたのですが、場数を多くこなされているからこそ、会場の企画から設営、運営に至るまで安心してお任せできたのは非常に感銘を受けましたね。
実際、今回の大会も大きなトラブルはほとんどなく、会場内の動線設計もスムーズで混乱も起きなかったんですよ。
また、試合の様子を流すモニターも、どの位置からでも見やすいように設計されていたりと、お客様目線での配慮が徹底されていると感じました。こうした視点を持つパートナーとご一緒できて、本当に良かったと思っています。
個人的には、博報堂が新しい文化やエンタメの分野において、特に若年層を対象にした研究を多くされている点に強く魅力を感じています。このような企業とともに、次世代に向けた新しいエンタメカルチャーを創り上げていく取り組みができるというのは非常に意義深いことだと感じています。
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小林 大祐日本テレビ放送網株式会社
コンテンツ戦略本部 事業局 イベント事業部 部次長リクルート、マッキンゼーアンドカンパニー、グリーを経て2014年に日本テレビに入社。2018年に新規事業としてeスポーツ事業を立ち上げ、推進役に。eスポーツ番組『eGG(エッグ)』の制作や日本テレビ開催によるeスポーツイベントの統括、プロeスポーツチーム『AXIZ(アクシズ)』の運営、日本テレビのeスポーツ専門子会社であるJCG社の経営に携わる 。
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博報堂 オーディエンスビジネスアクション局 局長テレビや動画広告ビジネスを中心とした広告・マーケティングビジネスおよび各種コンテンツビジネスなどに従事。
投資領域の業務や新戦略推進業務の戦略広報なども担当。
現在は「オーディエンスアクションビジネス局」の責任者として、テレビ局などとの新規事業やIP開発業務を推進している。