おすすめ検索キーワード
AI社会の新しいインフラづくり Worldプロジェクトに参画する博報堂の狙いとは
TECHNOLOGY

AI社会の新しいインフラづくり Worldプロジェクトに参画する博報堂の狙いとは

博報堂は、「ChatGPT」で知られるOpenAIのサム・アルトマン最高経営責任者(CEO)らが立ち上げた「Worldプロジェクト」に、パートナーとして参画している。2019年に始まったこのプロジェクトは、AIの進化による社会構造の変化に備え、人間とAIを区別し、人間のみが通貨・サービスを受け取れるグローバル経済エコシステムの構築を目指すもの。オンライン上で自身が人間であることを証明するデジタルパスポート「World ID」の提供を世界中で進めている。アルトマン氏と物理学者のアレックス・ブラニア氏が共同創業者を務めるTools for Humanityがプロジェクトの普及を推進している。
Tools for Humanityで東京を拠点にしている牧野友衛氏と片桐雄一郎氏、また博報堂でこの取り組みを主導する森田英佑の3人に、パートナーシップの経緯や広告業界が抱える課題、プロジェクトの今後の可能性などについて聞いた。

デジタルパスポートを公共財として提供

――まずは、「Worldプロジェクト」についてご紹介ください。

牧野
プロジェクトの出発点は、AIの進化により人間が労働から解放される未来において「人々がどう生計を立てていくのか」という課題からでした。この解決策の一つにベーシックインカム(最低所得保障)の導入が挙げられていますが、重複なく配布するためのユニークなIDが必要です。

Tools for Humanity 日本代表 牧野友衛 氏 

そこで開発に至ったのが、個人のプライバシーを守りながらデジタル上で自身がユニークな人間であることを証明するデジタルパスポート「World ID」です。このIDの発行には「Orb(オーブ)」という装置での生体認証が用いられており、身分証明書を持たない世界中のすべての人に公平なアクセスを提供します。

このWorld IDによりオンライン上での投稿や作品、映像などをAIではなく人間によるものだと証明できます。また企業側も、World IDが1人に1IDのみ発行されるという特徴からAIを使った複数アカウントによる不正応募といった問題の防止や、人間のみが参加できるゲームやコミュニティの形成が可能になります。

「人間」であることを証明するIDを発行する 

片桐
このプロジェクトの特徴は、Web3の理念に基づいて公共財的な位置づけで運用していること。具体的には、「World ID」やそのネットワークを我々の組織が独占的に所有するのではなく、企業、自治体、国など幅広い組織体が活用できる分散型の仕組みを目指しています。アレックス(・ブラニア共同創業者)がとある席で、「プロジェクトの成功=10年後にこの組織が存在していないこと」と話していることからもわかるように、一組織の枠を超えた社会的価値の創造を目指しています。

現在はマレーシア、ブラジル、韓国、シンガポールなど、日本を含む多くの国で試験運用や導入が進められており、今後の普及により、社会的影響の拡大が期待されています。

Tools for Humanity マーケットマネージャー 片桐雄一郎 氏 

信頼性のある広告基盤が求められている

――博報堂が国内の主要なパートナーとなった経緯について教えてください。

森田
このプロジェクトについて知ったのは一昨年のことです。既存の広告事業に代わる新たな広告フレームを模索する中で、「オンライン上で1人1アカウントしかつくれない手法」を探っていた時に、片桐さんと出会いました。「Worldプロジェクト」の話を聞いて、まさに「1人1アカウント」を実現する技術だと確信し、パートナーになることを決めました。

そういった手法を模索していた背景には、広告業界に対して長年抱えていた問題意識がありました。広告の本来の役割は、「人々に役立つ情報を届けること」であるはず。しかし、既存の広告技術では本当に役立つ情報が届いたかを正確に見極める術がほとんどありません。特に、AIによるプログラムで成果を不正に増やす広告詐欺が問題視されており、「誰にどの広告が見られたのか」「広告を見た人は本当に人間なのか」、そして「どのような経緯で商品購入やサービス利用などに至ったのか」など、広告の正確な効果を単純な数値結果から測ることが困難になっています。 また、AIによるMFAサイトの生成などの問題も広がっており、信頼性のある広告基盤の必要性を強く感じていました。

この状況への企業や広告会社の対策は不十分なのが現状です。特にデジタル広告においては、「実際に誰が見ているのか」がわかりにくく、マーケティング担当者の数値解釈で判断が左右されるという状況が少なからず存在しています。

そうしたなか出会ったのが、Worldでした。

Worldの特徴的なサービスである「Orb」は虹彩認証をベースに人間か否かを判断しています。虹彩認証の技術自体は既存のものですが、様々な技術を用いて、この球体状の機器「Orb」による個人を特定する仕組みには先進性を感じました。加えてプロジェクトのスケール感も魅力的でした。Worldが普及すれば世界的に統合IDのインフラが築かれる可能性が高く、将来的なビジネスチャンスとして期待が持てます。これを広告基盤に活用すれば、信頼性の高いネットワークを構築し、これまでにない価値を生み出せると感じました。

博報堂 ミライの事業室 JV Studio ビジネスデザインディレクター 森田英佑 

片桐
森田さんを始めとする博報堂メンバーがこのプロジェクトの意義を深く理解し、社会課題を解決する熱意を持っていたことが、パートナー選定における大きな決め手となりました。Worldのネットワーク拡大が、ビジネス面で大きな相乗効果をもたらす可能性があるパートナーであることも重要なポイントでした。

3つの契約を結んでいるのはグローバルで唯一

――実際に現在、パートナーとしてどのような活動を行っていますか。

森田
私たちが目指しているのは、新しい未来型の広告ネットワークを構築すること。そしてこれを実現するには、国内で少なくとも1000万人規模のWorld ID登録者が必要です。そこで現在3つの契約を結び、ID登録者の増加とネットワーク拡大のための具体的な取り組みを進めています。

まず1つ目は、日本市場での事業展開を支援する「プロジェクトマネジメント契約」です。現在、Worldの日本チームは少人数体制のため、当社のネットワークや知見、人材リソースを活用し、ローカライズを加速させるのが目的です。2つ目は国内での「Orb」の設置や運営をサポートする「オペレーター契約」、そして3つ目が国内戦略の策定と実行を協力する「パートナーシップ契約」です。

虹彩認証に用いる球体状の装置「Orb(オーブ)」 

片桐
私たちは各国の拠点でこうした現地のパートナーと活動を進めていますが、この3つの契約を結んでいる企業はほかにないと思います。
牧野
実際にこれらの契約をもとに、広告面でのサポートはもちろん、短期イベントの開催や常設店舗の設置候補を探しオペレーターとして活動していただくなど、多方面で登録促進に向けた施策を行っていただいています。
森田
現在はPoCの段階ですが、来年度にはPoBへ移行、そして実現化する予定です。

この構想が実現すれば、企業が正確に生活者に情報を届けるだけでなく、受け取る側の個人にもメリットが生まれる、新しい広告ネットワークが実現できるでしょう。ただし、当社だけでネットワークを構築するのは難しい。当社が発起人として先導役を務めながら多くの企業に参画していただき、共にこのビジョンを実現していきたいと考えています。

※「AdverTimes.(アドタイ)」に2025年1月27日に掲載された記事広告から抜粋したものです。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 牧野 友衛 氏
    牧野 友衛 氏
    Tools for Humanity
    日本代表
    2024年9月より現職。それ以前はGoogleやYouTubeの事業開発の責任者、Twitterの事業成長戦略担当の上級執行役員、トリップアドバイザー、Activision Blizzard Japanの代表職を歴任。米国のコンシューマープロダクトのテック企業で20年以上の勤務経験。
  • 片桐 雄一郎 氏
    片桐 雄一郎 氏
    Tools for Humanity
    マーケットマネージャー
    2023年10月より現職。Worldにおける日本市場の立ち上げを主導し、現在は事業拡大に向けた戦略立案およびオペレーション全般を統括。それ以前はRevolutでオペレーション責任者を務め、オリバーワイマンでは金融機関向けの戦略策定や市場分析に従事。
  • 博報堂
    ミライの事業室 JV Studio ビジネスデザインディレクター
    AI×Web3の最前線で活躍するリーダーとして、ブロックチェーン技術を活用した広告ネットワークや新たなIDシステムの開発に注力。現在は、Worldの普及と未来型広告プラットフォームの構築を推進している。メディアマーケターとして約5年従事したのち、社内起業制度で多段階式成果報酬型ソリューション「ADsMINE」を構築後、現職。