デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.4】商品の「購買データ」を活用する新しいマーケティング手法
デジタル広告の効果は、クリック率やウェブサイトへの訪問数などによって測られてきました。しかし、店頭での商品販売を主としているメーカー系企業にとって、重要なのは「広告によってどれだけ売れたか」です。これまで、「広告」と店頭での「購買」の関係を把握することは容易ではありませんでした。しかし最近になって「購買データ」と広告配信を紐づけることが技術的に可能になってきました。購買データを活用した広告配信・計測とはどのようなものなのでしょうか。この領域に詳しい博報堂デジタルイニシアティブ(HDI)のメンバーが、購買データ活用の可能性について語りました。
大田 佳奈
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/
博報堂デジタルイニシアティブ(HDI) ビジネスデザイン本部
部長
松隈 祐介
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/
博報堂デジタルイニシアティブ(HDI) ビジネスデザイン本部
鈴木 大地
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/
博報堂デジタルイニシアティブ(HDI) ビジネスデザイン本部
チームリーダー
「購買データ」をもとにリピーター化やブランドスイッチを狙う
──現在、メーカー系企業はデジタルマーケティングにおいてどのような課題をお持ちなのでしょうか。
- 大田
- 例えば、デジタル広告への接触率が高く、そこからオウンドサイトに多くの来訪があっても、それが商品の動きにつながっていないというケースがあったりします。あるいは広告効果と商品の動きが結びついていたとしても、その因果関係の詳細を紐解くことができない。そんなお悩みをお持ちのメーカー企業のご担当者が多いですね。
- 鈴木
- 私も同様に、デジタル広告の評価が高くても、それが店頭販売の成果にどのくらい反映されているかがわからないという声をよくお聞きします。
- 松隈
- 広告を行った結果、どの広告がどれくらい売り上げに寄与しているか、社内で説明できなければならないわけですが、その細かな検証がこれまではなかなかできませんでした。デジタル広告を見た人のうちどのくらいの人が実購買に至っているか。それを可視化することが、クライアントにとっても、クライアントのビジネスを支援する私たちにとっても大きな課題となっています。
──そういった課題を解決する方法はあるのでしょうか。
- 松隈
- 有力な方法の一つが、「購買データ」の活用です。コンビニエンスストア、ドラッグストア、スーパーなどでの商品購買データを保有しているデータプラットフォーマーのソリューションを使ってターゲティング広告の配信をすることが技術的に可能になっています。一度商品を購入した人は、同じ商品を再購入する可能性が高いので、そういった人へ広告を配信すれば、リピーターとなる確率が高いと考えられます。また、類似の商品を買っている生活者に向けて広告配信をすることで、新たな商品の気づきを与えられる可能性もあります。
- 鈴木
- あるいは、自社商品を買っている人をターゲットから外すことで、新規のユーザーにアプローチするという手法も有効ですね。
- 大田
- ほかにも、例えば同じブランドで味違いの商品が新発売された際に、そのブランドの購入経験がある人に新商品をプッシュするという配信の仕方もあります。ブランド購入経験がない場合でも、例えば新商品に「タンパク質含有量が多い」という特徴があるとすれば、健康食品を購入している人や美容系アイテムを購入している人に広告を配信し、「タンパク質の摂取が健康や美容に効果がある」と訴求することで購買を促すことができるかもしれません。
- 松隈
- 購買データをもとに広告を配信し、それを確実に売り上げにつなげて、「広告」と「購買」の関係を可視化する──。それが購買データを活用することの意義であると私たちは考えています。
──購買データにはどのような種類があるのですか。
- 松隈
- 主には、POSデータ、ポイントカードデータ、購買単価が高い商品の場合はクレジットカードのデータや、レシート情報を提供することでポイントがもらえるレシートアプリのデータを活用できる場合もあります。
購買データを活用して広告効果やクリエイティブを検証する
──購買データを活用した具体的な取り組みについてお聞かせください。
- 松隈
- ある商品ブランドに新しいラインナップが加わった際に、従来のブランド購入者に向けて新商品の広告を配信し、購買率を検証したことがあります。先ほど大田が話した考え方に近い取り組みですね。購買データが活用できなければ、このような検証はできなかったと思います。このような検証から、購買ターゲットを類似カテゴリーの商品購入者に広げていくなど、より建設的なPDCAが出来るようになってきたと思います。
- 鈴木
- 購買データを使ったクリエイティブの効果検証にも取り組んでいます。商品のリピーター化を狙うセグメント、競合ブランドからのスイッチを狙うセグメント、同ブランドの新商品を購買してもらうことを狙うセグメントなど、広告配信のターゲットをいくつか設定し、それぞれに最も効くクリエイティブは何かを検証しました。動画や静止画など表現の種類を変えるだけでなく、配信するメディアも変えて、詳細な効果を見ていきました。これもまた、購買データがあるからこそできた検証でしたね。
- 大田
- 今後の取り組みとして考えていることは、購買データを使ってターゲットを拡張できないかということです。クライアントが保有しているアンケートデータなど、これまで蓄積してきた知見を購買データと組み合わせて複数のターゲットセグメントをつくり、それぞれにアプローチして効果を検証するようなことができればと思っています。
先ほどお話したように、購買データの有効な活用方法としてリピーター化があるのですが、同じターゲットに繰り返し広告を配信しても売り上げはどこかで頭打ちになります。自社ブランドを購入したことがある人、購入したことがない人、他社ブランドを購入している人、あるいはまったく別のカテゴリーの商品を購入している人といった購買データを見ながら、新しいリーチ先のペルソナをつくっていくという方法に購買データの活用の一つの可能性があると考えています。それによってファインディングスを得て、より有効な広告展開を行い、売り上げのリフトアップにつなげる。そんな道筋が描ければいいですよね。
データ活用の可能性をさらに広げていくために
──購買データを活用するにあたって、HDIならではのノウハウがありましたらお聞かせください。
- 鈴木
- 購買データをもとにしてどのようなターゲティング設定をするか。それぞれのターゲットにどのようなメッセージを発信していくか──。生活者発想を基にそういったプランニングができるのがHDIの強みの一つだと思います。
- 大田
- 広告を配信する前に、広告の目的を明確にする必要があります。クライアント事業の現状や課題を深く理解して、何のために、誰に、どのような広告を配信するかをクライアントとともに見極めていくことが私たちの役割です。そこにこれまでのデータ活用やデジタル広告への取り組みの経験と知見がいかされると考えています。
──今後、購買データを活用することでどうクライアントに貢献していきたいか。それぞれの思いをお聞かせください。
- 鈴木
- 購買データを活用できる技術環境は整ってきていますが、まだまだ発展途上であると考えています。データが獲得できる商圏や店舗の規模や、そのデータを広告配信に使えるプラットフォームの数が今後さらに拡大していけば、購買データをベースにしたマーケティングはさらに広がっていくと思います。どうやって購買データ活用の可能性を広げていくか。そこに知恵を絞っていきたいと思っています。
- 大田
- 購買データはあくまでもマーケティングの素材の一つで、重要なのは新しいターゲット開拓や新しいコミュニケーションへの取り組みを通じて、商品の売り上げを上げることです。購買データを最大限活用しながら、より大きな視野をもって、有効なコミュニケーションの手法を生み出していきたいですね。
- 松隈
- POSデータ、ポイントカードのデータ、クレジットカードのデータ、アプリのデータなど、購買データにはいろいろな種類があり、それぞれを保有しているプレーヤーがいます。そのすべてを連結させることはID管理や個人情報保護の観点から難しいのが現状です。では、どのようなデータを活用して、どのような検証を行い、どのような成果を出していけばいいのか。その方法論はまだ確立していません。私たちがやるべきことは、これまでの経験やグループ内の人材力をフルに活用して、購買データ活用の一つの形をつくっていくことだと思っています。その取り組みを通じて、メーカーをはじめとするクライアントの事業成長に寄与していきたい。そう考えています。
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デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/
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