D2C時代の大広オリジナル購買モデルを開発 口コミ循環の「アンバサダー“ハリケーン”モデル」とは?
今や、オンラインの購買でもオフラインの購買でも、商品に関心を持ったそばからネットやSNSで口コミを検索するのが当たり前になっています。そうした際、自社商品を特に熱心に勧めてくれるユーザーがいると、購買を迷う人の背中を大きく押すことが見受けられます。そんな推奨行動を積極的に行ってくれる“アンバサダー”がいかにして生まれるのかに注目し、大広では生活者調査を経て「アンバサダー“ハリケーン”モデル」を開発、発表しました。本モデルの構築を担当した大広 顧客価値開発局 顧客育成チームの折橋雄一と、同局 顧客発掘チームの中村友紀子に、こうしたモデルが生まれた背景と、アンバサダーの重要性について聞きました。
※撮影時のみマスクを外しています
緻密に組み立てられたインフォグラフィックの1枚絵
――まず、お二人の所属とこれまでのご経歴をうかがえますか?
- 折橋
- 顧客価値開発局顧客育成チームで、主に企業のCRM活動を支援しています。私自身はダイレクトマーケティング領域のキャリアが長いのですが、2010年代に入ったあたりから獲得自体というよりその後のCRMに課題を抱える企業が多くなり、大広としてもCRM強化を体系化すべきだという考えが大きくなっていきました。その流れの中で、CRMの実務に携わりながら、ナレッジ開発にも取り組んでいます。
- 中村
- 私は同じ局の、顧客発掘チームという部署に所属しています。顧客育成チームがCRMだとしたら、お客様と出会うところのマーケティング活動を支援しています。私もダイレクトマーケティングの仕事が多く、コールセンターでお客様の声を聞いていたこともありました。
――「顧客価値開発局」という名称には、どういった意味合いが込められているのでしょうか?
- 中村
- 近年、大広は「顧客価値」を大事に企業の支援をしてきました。企業視点ではなく、あくまで企業の先にいる「顧客」にとって価値があるかを見極め、それを基軸にブランド活動を支える「ブランドアクティベーション」を強化しています。顧客価値開発局は、まさにそうした価値を掘り下げる部署で、顧客発掘チームでも「企業からの発信だけにならず、顧客の心理や気持ちを掘り下げ、社会課題も含めた真ん中は何か、を追求する」ことに重点を置いています。
――では、今回の「アンバサダー“ハリケーン”モデル」についてうかがっていきますが、「顧客価値」に注目したCRMのモデル開発は、以前から行われていたそうですね。
- 折橋
- はい、今回が第5弾のCRMナレッジツール開発になります。例えば「サプリメント定期購買のカスタマージャーニーマップ」では、サプリメントに対して「不調を治す商品」から「健康生活の必需品」という価値の転換が定期購入3回目あたりで行われると継続化しやすいことを突き止め、「連絡通路のあるデパートの2つの館」になぞらえて表現しました。一般生活者への調査から、定期購入者の離脱・継続のインサイトを分析、メタファーに富んだインフォグラフィックに落とし込んでいます。
- 折橋
- こちらの「ロイヤルカスタマーマップ」は、ロイヤル顧客の分析からわかった5つのタイプを示しています。ポイントは「商品信頼度」と「企業信頼度」の2軸。商品だけでなく、企業の信頼度も高めていくことが、ロイヤル顧客育成へのカギになります。
どうしたら“アンバサダー”を増やせる? モデル開発の原点
――「アンバサダー“ハリケーン”モデル」も、イラストで細部まで作り込まれているのが特徴的ですね。
- 折橋
- ひと目で興味を引く、わかりやすいアウトプットとしてのインフォグラフィック化=メタファーを使ったイラストにこだわってきました。
わかりやすさの点では、あるモチーフにより展開するインフォグラフィックに仕立てることで、感覚的に理解しやすいようにと考えています。新しく開発された“〇〇モデル”がいかに優れていても、テキストばかりの分厚い資料では、読み取るのが困難です。なので1枚絵にして、メタファーを使って、直感的にイメージできる、でも、きちんと説明できるように設計しています。
アウトプットにこだわるのは、我々は調査会社ではなく、コミュニケーションを生業とする会社であり、どうしたら伝わるか、に重きをおいているからです。
ひと目見てインパクトがあり、そこに物語が見えるから積極的に知りたくなる。同時に、分析結果を効果的に示すことを目指して、メタファーを使って細部まで作り込んでいます。
――今回、CRMに関して特にアンバサダーに注目したのは、なぜですか?
- 折橋
- 冒頭でも少し触れたように、近年、新規顧客を獲得するだけでなく「お客様になっていただいた後、いかに絆をつくるか」の重要性が増しています。顧客価値の観点では、新規顧客を獲得して終わりではなく、買い続けていただくことは大前提です。もちろんコストの面でも、CRMは重要です。商材にもよりますが、新規顧客を獲得するのは、既存顧客にリピートしていただくことの5倍以上費用がかかると言われています。
前述のようにCRMやロイヤル顧客に関するナレッジをいくつか開発する中で、私たちは「企業にとって最も大切な顧客は誰か?」を探ってきました。すると、自身が高頻度で購買してくれるだけでなく、口コミを介して他の顧客の購買に影響を与える「推奨行動」や「紹介行動」をしてくれる人こそ、最も大切な存在であることに行き着いたのです。
――それがつまり、アンバサダーということですね。
- 折橋
- はい。一言で言えば、アンバサダーとは、企業・ブランドの応援者です。企業の新規顧客を呼び込む活動を自発的にしてくれます。それならば、自然にアンバサダーが増えるのを待つのではなく、アンバサダーを育成すべき。そこで、どのような段階を経てアンバサダーが生まれるのかを調査から解明しようと考えたのが、今回のモデル開発のきっかけでした。
- 中村
- 同時に、コロナ禍の影響も背景にあります。コロナ禍によってEC利用が拡大したため、ネット検索から口コミに触れる機会が増え、その影響力も増しています。
なので、企業が目指す究極の姿のひとつとして、CRMの中でも「企業を応援し、他の顧客の購買行動を後押ししてくれるアンバサダーの育成」を掲げ、プロジェクトを発足しました。
人間、受けた恩は返そうとする。口コミの連鎖と循環
――具体的にどのような調査を通して、モデルを構築されたのですか?
- 折橋
- まず、20歳から69歳までの男女1080人を、商品に対する好意を確認し、「何らか“ハマっている”商品がある」など3レベルに分け、それぞれのグループごとに、その気持ちになるまでの過程(カスタマージャーニー)に加え「それについて口コミをしているか」「しているならどのような内容か」などを聞いていきました。
今回は、口コミが起こりやすくその影響力も高い、健康食品サプリメントとスキンケア領域を対象にしました。そこから、具体的にどういった口コミが起きていて、アンバサダーに至るまでに何段階の分類が可能かを分析しました。
次に、前段の定量調査で「何らか“ハマっている”商品がある」且つ「商品を他の人に紹介した」方を招き、デプスインタビューを実施しました。それぞれの方の生のインサイトを把握し、定量調査で見通しをつけていた段階と照らし合わせながら、アンバサダーが育っていく過程の解明を試みた……という感じです。
このイラストのハリケーンの渦は、口コミから「信頼」を感じることにより発生します。実は広告では信頼は育ちにくく、一般の人の口コミが最も信頼できます。
その信頼の気持ちが、商品の購入を後押しし、その後の情報取得によって、理解が深まり、継続購入にいたりますが、商品だけではなく、その大好きな商品を生み出している企業・ブランドのことを「応援したい」という気持ちが強くなり、アンバサダーに育っていくのです。
※紹介動画はこちら→https://www.daiko.co.jp/ahm/short.mp4
――生活者調査の結果、アンバサダーに至るまでが5段階に分けられたのですね。各段階でどういった口コミが発せられているか、また全体を通してわかったことなどうかがえますか?
- 折橋
- 口コミとその背景のインサイトを分析した結果、アンバサダーが生まれるまでのプロセスは次の5段階に分類できました。
① 口コミ等の情報収集をする
② 購入する
③ 情報に触れて実感する
④ ハマる、好きになる
⑤ 紹介する
ポイントは2つあります。ひとつは、口コミが循環することです。イラストの縦方向ですね。「企業を応援したい」と思うアンバサダーが、口コミで企業・商品の「良さ」を積極的に発信してくれます。その口コミは、SNS等によって、潜在顧客の目に触れます。そして、そんな口コミにたくさん触れて信頼が形成され、購入に至る。その人が今度はアンバサダーになって、口コミを発信する側になっていくのです。一人では終わらないので、ジャーニーではなくモデルとしました。
おもしろいことに、人間は「受けた恩を返したい」という心理が強いようで、デプスインタビューからは「自分はこんな口コミが役立ったからお返ししたい」と熱心に口コミをする人が少なからずいました。口コミで顧客になった人は、口コミを発信しやすいということです。
――それは興味深いですね。もうひとつのポイントは?
- 折橋
- こちらは横方向の拡大の動きで、下からどんどんスパイラルアップして、渦が大きくなっていっていきます。この渦の大きさは、事業成長であり、顧客数✕熱量です。これがまるで、ハリケーンが成長するような様子だったので、ハリケーンをモチーフにしました。
企業・ブランドを高い熱量で応援していただくには、時間もかかりますし、この段階に応じて様々な施策が必要になります。それを我々はCRMプランニングとして、提案させていただきます。
社員や社長によるリアルな発信が信頼につながる
――だんだん上へとステップアップし、アンバサダーになり得る人というのは、どういう特徴があるのでしょうか?
- 中村
- まず、口コミを積極的に投稿したり、参考にされる人は、特別フォロワー数が多いインフルエンサーというわけではありませんでした。ごく普通の人で、かつオンラインだけでなくリアルで会う知人や友人にも勧めている様子がありました。
わかりやすく言うと、世話好きで、少しおせっかいなところもあります。見返りを目当てにするのではなく、心から「この商品や企業を知ってほしい」というマインドで口コミをしている。そして、それが誰かの役に立てばとてもうれしい、という方々です。
――調査を経て、意外だったことなどはありますか?
- 中村
- イラストでは③の「情報に触れて実感する」に落とし込んでいますが、意外にも、購入後に口コミを確認する人が多かったのは発見でした。③から特に上へと進む人は、本当に熱心で、中には口コミをするために情報収集するような意識も見られましたね。
また、④から⑤あたりになると、商品だけでなく企業やブランド、あるいは社長や社員の方などを支持する口コミが増えてきます。実際デプスインタビューでも、社長の生き方やポリシーに共感しているとか、インスタライブなどで顔を出して頑張っている社員さんを応援している、といったお話しがよく挙がりました。コロナ禍の影響で、社員の方が自らオンラインで発信を行い始めたということも影響しているのではないかと思います。
- 折橋
- 今、大広が特にフォーカスしているD2C事業や、また、スタートアップなどの場合、トップが発信するのはごく普通のことですよね。商品以外の、人柄や価値観を感じさせる発信に共感が集まり、ファンになっていくことも多いと思いますが、大企業だとまだまだトップの人柄を見せる発信や、社員さんの顔出しでの活動が難しかったりします。このモデルを引き続き検証し、そのあたりの認識も変わっていけばと思っています。
より詳細なアンバサダー化のメカニズム解明を目指して
――具体的に、これからこのモデルを活用してどのように企業を支援していくのでしょうか?
- 折橋
- すでにSNS運用を支援させていただいている企業などには、モデルをご説明し、納得感を感じていただけています。これからは主に2つの観点で、このモデルをマーケティング戦略に生かす考えです。
ひとつは、新規顧客の獲得です。口コミ、特にSNSにおける口コミはこれからますます重要になっていくと思います。このモデルに基づいて効果的にアンバサダーを育成するには、そもそも一定量の口コミがネットの“海”に多数存在していることが前提になるので、その部分からお手伝いし、信頼を蓄積していければと考えています。
もうひとつは、既存顧客のLTV向上と、実際のアンバサダー化です。一度顧客になると、実は企業からの接触はほとんどなくなってしまうことが多いので、購入後も関係を続け、深めていくことを目指して、「応援マインド」を醸成できるような戦略、そして戦術を提案していきます。
具体的なことは、ぜひ、お問い合わせください。
――ありがとうございました。最後に、直近の展開など予定していることがあればうかがえますか?
- 折橋
- 今回はあくまで第一弾の発表でして、現在は企業への具体的な適用と同時に、モデルの深化を追求しています。アンバサダー“ハリケーン”の、この、「渦の中」が一体どうなっているのか」を明らかにしたいと考えています。どのような口コミ・情報に触れて、心がどう動き、アンバサダーに成長していくのか?それを解明し、要素を抽出・ツール化して、CRM施策で実行することで、より効果的に企業の「応援者」となるアンバサダーを育てていけると思います。
現状で、かなり興味深い結果が得られています。数カ月のうちに発表しますので、ぜひご期待いただけたらうれしいです。
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大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
顧客価値開発局
顧客育成チーム チームリーダー
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大広 東京第1ブランドアクティベーションプロデュース本部
顧客価値開発局
顧客発掘チーム ディレクター