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「アイデア×テクノロジー」で新しい価値を生み出す 【B2H対談 Vol.2】
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「アイデア×テクノロジー」で新しい価値を生み出す 【B2H対談 Vol.2】

博報堂のマーケティングシステムコンサルティング局(MSC局)とテクニカル・ディレクターのコミュニティであるBASSDRUMが協同で取り組んでいるプロジェクトが「B2H」です。「BASSDRUM to 博報堂」を意味するこのプロジェクトの一環として、新しいプロダクトを生み出す社内プログラムが試みられました。そのプログラムの概要と成果、テクニカル・ディレクターの役割、そして2社のコラボレーションが生み出す価値について、BASSDRUMの鍛治屋敷圭昭氏と博報堂MSC局の西濱大貴が語り合いました。

実現可能性の高いアイデアを生み出すために

──以前のB2Hの対談で、「ビジネスにつながるいろいろなアクションを起こしていきたい」という話が出ていました。今回のワークショップは、そのアクションの一つということですね。

西濱
そうです。前回の対談以降、博報堂MSC局とBASSDRUMのメンバーとで毎週定例の情報交換会議を続けてきました。その中で、次の動きとして2社の強みを活かしてクライアント向けのサービス開発をしていきたいという話が出ました。新しいサービスやソリューションを生み出すプログラムを実際に僕たちの中で実験しました。そのプロセスや思考法を整理して、再プログラム化したものをクライアントに提供していこうという取り組みです。
鍛治屋敷
博報堂グループの皆さんをいわば仮想クライアントにして、BASSDRUMのテクニカル・ディレクターといっしょに「クリエイティビティのテクノロジー化」について考えていくというプログラムで、博報堂グループ各社から8名、BASSDRUMから3名が参加しました。

──テクニカル・ディレクターの役割は、マーケティングやクリエイティブとエンジニアの間に立ち、言葉や考え方を「翻訳」することでコミュニケーションをスムーズにしていくことですよね。

鍛治屋敷
翻訳し、かつ何が技術的に実現可能で、何がそうではないのか、さらに、どうすれば実現可能になるのかをアドバイスする役割と考えていただければいいと思います。
西濱
博報堂は、マーケティングコミュニケーションやクリエイティブのアイデアを考えるプロですが、そのアイデアを実現するテクノロジーについては知らないことも多いわけです。アイデアを生み出す段階からテクニカル・ディレクターに関わっていただくことで、実現するための手段を広く、確度を高く、仕上げていくことができる。それがB2Hの基本的なコンセプトです。
鍛治屋敷
今回は、本来なら1週間から10日くらいをかけて行うプログラムを、3日間の朝8時から正午までという超短時間に凝縮しました。スタートアップ企業では、5日間くらいでアイデア出しからプロトタイピング、その検証までを行うワークショップをよく実施しています。今回のプログラムはそれに近いものでした。

価値のコアをみんなで体験してみる

──具体的にはどのようなテーマが出されたのですか。

西濱

最初から具体的なアイデアが出たのですが、その過程で「プレゼンの資料作成はどこまで自動化できるか」というテーマに絞りました。作業の時間を短縮し、考えることに時間をかけたいという考えからです。対話型でプレゼン資料をつくるサービスを想定し、既存のサービスを組み合わせで実際に試せる環境をつくろうとなり、「Slides(スライズ)*1」と「Slack(スラック)*2」で試してみることにしました。
*1 クラウド上でプレゼン資料を作成できるツール
*2 チャット、音声通話が使えるチームコミュニケーションツール

面白かったのは、それで何ができるかについて意見を出していくプロセスでした。プレゼン資料作成ツールにどのような機能があったら嬉しいか。画像が簡単に入れられること? トーン&マナーを揃えられること? フォントチェックができること?──。そんな視点をそれぞれが出していくわけですが、触れる環境があることで体感しながら意見を言える。技術的にはこのレベルがあればいいということが分かるわけです。

──チャットをしながら資料を作成していく──。それ自体が製品の機能になりそうですね。

鍛治屋敷
そうなんです。一番盛り上がったのは、製品仮説をつくるところでした。製品の仮説をつくる際に重要なことは、完成形をイメージすることではなくて、その製品の価値のコアが何かを見極め、それを検証してみることだと僕たちは考えています。例えば、「チャットでアイデアを壁打ちしながら半自動で資料作成ができる」というのが目指す価値のコアなら、そこにフォーカスして検証すればいい。そのとき自動応答するチャットインターフェースがそこにある必要すらなくて、今回は僕が疑似的にチャットツールのBotの役割を、西濱さんが自動生成ツールの役割を演じながら、使用感をみんなで体験するということをやってみました。
西濱
例えば、タブレットにペンを使って文字や絵を描き込めるというのはすごい技術ですが、そのコアにあるのは「ペンによるダイレクトな書き心地」ですよね。1秒のディレイは待てない。だから技術を実現する前に、手書きの気持ちよさをみんなで体験し、理解している必要があるわけです。そんな「体験価値の共有」が、今回のプログラムの中である程度実現できたと思います。

──それがプロダクト化可能かどうかをテクニカル・ディレクターは技術面から見極めるわけですね。

鍛治屋敷
アイデアを膨らませていくときに、机上の空論にならないように、「現実的な膨らませ方」に導いていくということですよね。アイデアは面白かったけれど、実装の段階になって「結局、実現不可能でした」では困りますから。もう一つ、それを検証していく段階での技術的なバックボーンを考えることもテクニカル・ディレクターの役割でした。
西濱
例えば、「このアイデアって、技術的に実現可能ですか?」とテクニカル・ディレクターに問うと、実現度をその場でジャッジしてもらえるし、できない場合は、「何がどこまでできるのか?」「どうすれば実現できるようになるのか?」と代替案の思考に移ることができます。また、サービス開発をするときに、実は通信環境が非常に重要だったり、思いのほか電力を必要としたり、あるいはプログラム言語の選択が必要だったりと見えないケースがあって、それを指摘してもらえるのもとてもありがたかったですね。
鍛治屋敷
テクニカル・ディレクターがテクノロジーに関するあらゆることを知っているわけではもちろんありません。でも、「テクノロジーの地図」のようなものはある程度頭の中に入っていて、「あの山に登りたい」というニーズがあった場合、正確な道はわからなくても、「だいたいこのルートを使えばたどり着けるだろう」という見通しがつくし、そのためにどんなツールを使えばいいかも見当はつきます。
一方、ユーザーにとっての価値をどう実現していくかという点では、博報堂の皆さんにはとてもかなわないと感じました。いわゆるUX(ユーザーエクスペリエンス)ですよね。僕たちももちろんUXの実現を常に念頭に置いているのですが、エクスペリエンスを想定する幅の広さにおいて博報堂はさすがプロです。今回のワークショップでも「広告会社のプランニングってこんなにいろいろな視点が出るんだ」と驚いていたテクニカル・ディレクターがいました。

テクノロジーとエモーションを融合させる

──UXは生活者発想に直結しているわけですよね。

西濱
テクノロジーを実際に利用する人の立場に立った発想という点については、確かに博報堂グループのメンバーはいろいろなパターンをインプットしていると思います。テクノロジーを単にテクノロジーとして捉えると、冷たい印象になり、機能だけを重視したものになりがちです。そこをユーザーの立場に立って、何が本当に必要で、何が必要ないのかを見極めていく。それが、僕たちが得意とするところです。
スポーツと同じように、デジタルにも心・技・体が必要です。「技」はサービスに適したテクノロジー、「体」は体験できる空間、それに加えて「心」、つまり人々の感情。デジタルの心・技・体この3つが揃って、サービスが継続するのだと考えています。
サイバーフィジカルという言葉がありますよね。現実世界のさまざまなものをセンシングして、それをサイバー空間で価値に変えていくということですが、僕はそこに生活者のエモーションの要素がなければいけないと思っています。つまり「サイバーフィジカルエモーション」がこれから必要になるだろう、と。

──エモーションとテクノロジーはときに相反することもあるのではないでしょうか。

鍛治屋敷
生活者のエモーションに基づいたアイデアがある場合、それを実現させるために一つ一つ技術的な判断をして、一歩ずつ前に進んでいくことが大切です。「そのアイデアは技術的に無理」と仕分けをするのではなくて、構想を現実化し、ユーザーにとっての価値を生み出すために何が必要かを考える。それがB2Hの取り組みだと考えています。その点で、「心」と「技」は決して相反するものではないと思います。
西濱
僕たち広告会社の人間は、想像や空想で考えを飛ばしていきます。テクニカル・ディレクターがそばにいると、何が夢物語で、何が現実的かという尺度ができます。その尺度があれば、逆に「絶対無理だろう」と思っていたことが「いや、できるよ」ということもありうるわけです。
鍛治屋敷
出てくるアイデアが実は今のテクノロジーレベルを超えるようなすごい発想である可能性もありますからね。何が陳腐で、何が本当に画期的なのか。それを見極めるためにも技術の尺度が必要だということです。
西濱
今回僕たちが取り組んだプロセスを博報堂グループで活用していけば、クライアントに対する提案の精度だけでなく、提案の仕方そのものが変わってくると考えています。先ほど鍛治屋敷さんが言われたように、提案が通ってから「やっぱりできませんでした」となるリスクを大きく減らすことができるわけですから。
鍛治屋敷
この方法論を博報堂の中にも広めていきたいし、冒頭に西濱さんが話していたように、今後クライアントにもパッケージプログラムとして広く提供していく予定です。
西濱
できれば、課題の洗い出しと整理の段階からクライアントとご一緒できればいいですよね。このプログラムによって、どんな課題を解決して、どんな成果を出していきたいのか。そこからクライアントと話し合いをすることができれば、より多くのことを達成できるはずです。まずは、B2Hのメンバーが一丸となってプログラムに磨きをかけていきたいと思います。
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  • 鍛治屋敷 圭昭
    鍛治屋敷 圭昭
    BASSDRUM/テクニカルディレクター
    広告会社にてストラテジックプランナー、制作ディレクター、プロデューサーなどに従事したのち、自分で手を動かしてものをつくりたいという欲求とともに、2014年2月にプログラマーとしてAID-DCC Inc.に入社。フロントエンド領域を中心にしつつ、バックエンドからインスタレーション、体験型アトラクションなどテクノロジーが必要とされる業務全般に関わる。2018年、テクニカルディレクター・コレクティブ「BASSDRUM」を設立。カンヌライオンズ:金賞、One Show:Gold Pencil、Spikes Asia:金賞、CODE Awards:グランプリなど、受賞多数。
  • 博報堂マーケティングシステムコンサルティング局プロセスコンサルティング部
    マス・マーケティング、コンサルティング、企業・商品ブランディング、メディアビジネス開発、バックエンドシステム設計と様々な業種のクライアントと多岐に渡る業務を時代とともに歴任している。Senior Web Analystの資格を有し、設計からデータ解析、ワイヤフレーム構築まで一気通貫なコミュニケーション設計を得意とする。ACC、Adfestなど受賞。