膨大な検索ワードの中から生活者のニーズを高い精度で明らかにする分析/広告配信モデルが「クロスワードターゲティング」です。今回は、その検索ビッグデータを提供するヤフー株式会社から、データマーケティング本部長を務める村田剛氏をお迎えし、ソリューション提案を行う博報堂にてデジタルプランニングを担当する小山徹也、博報堂DYデジタルにてメディアプランニングを担当する真野翔一とともに、どうクロスワードターゲティングがコミュニケーション課題の解決に役に立っていけるか? について語り合いました。
従来のデジタルプランニング方法をアップデートするクロスワードターゲティングの威力とは
小山
そもそも「クロスワードターゲティング(以下CWT)とは何か」についてよく説明するのですが、一言でいうと「Yahoo! JAPANの検索ワードデータを活用し、生活者が持つニーズや興味ポイント/モーメントを見つけ出し、そのユーザーへピンポイントにアプローチできるデジタルコミュニケーションのソリューション」です。日々多様に変化する生活者のニーズや特徴を見つけ出し、データでユーザーを捉えることができるソリューションという部分が、他にはないメリットと言えます。
世の中には無数のユーザーデータが存在していますが、日本最大級の検索エンジンを持つYahoo! JAPAN のデータを活用できるのが何より大きな強みですね。
村田
何百種類の検索ワードからモーメントやニーズを捉えて分析し、そのターゲットへの配信までを一気通貫して行うCWTの構想を3年前に博報堂の担当者から聞いて、私たちYahoo! JAPAN は検索データを活用した分析の協力をしてまいりました。さまざまなトライアルを重ねながら、ようやく一連の仕組みが整いましたね。博報堂にとっても大きなチャレンジだったのではないでしょうか?
小山
はい。CWTの登場で当社のデータドリブンマーケティング手法もさらにアップデートされたと感じています。
村田
それは具体的にはどのような?
小山
実際、ソリューションを提案する側の立場からすると、戦略でターゲット規定をした後、従来の実行フェーズに移る際のデジタル広告アプローチ(デジタル広告で使われるキーワードターゲティングやリスティング、興味・関心に基づくインタレストターゲティング)では少し物足りない印象を感じていました。それというのも、「本当に振り向いて欲しい人に広告が届いているのか?」というポイントが、現在の配信テクノロジーでは十分に納得できるものではなかったからです。例えば『ファッション意識が高い女性』に広告を届けたい場合「女性/ファッション関心」と配信設定するだけでは不十分なんです。それは、ファッション意識が高い人でも、興味が湧くきっかけやタイミングは人それぞれだからです。その点で、複数の検索ワードからきっかけやタイミングの条件を絞り込み、ニーズが高まった最適なタイミングで正しいメッセージを届けられるCWTは、ベストなタイミングで生活者のニーズや興味・関心の“気持ち”を的確に捉えられます。これは、単にメディアプランニングやクリエイティブの改善だけでなく、デジタルコミュニケーション設計で大変有効に活用できるものだと考えています。
博報堂DYデジタル デジタルメディアビジョン 第一グループ メディアアカウントスーパーバイザー 真野 翔一
真野
Yahoo! JAPANの協力があったというポイントも、かなり大きい価値ですよね。例えば、ターゲットひとつをとっても、これまではクライアント企業の自社データだけで掲げられるユーザー像は必ずしも鮮明ではありませんでした。一方で、CWTのソリューションでは、国内のインターネットユーザーの約半分が利用しているYahoo! JAPANでの検索ワードや閲覧履歴など膨大なデータを利用できるので、ユーザーの「解像度」は格段に明確になりました。検索データの信頼性も確保されているので、クライアント企業の納得の度合いも高いです。信頼できるデータからユーザーの人物像がはっきりすることで、どのタイミングでどの角度からアプローチすると効果的なのかといったことが、より詳細に設計でき、コミュニケーション施策全体にも良い効果がありますね。
アクチュアルデータを用いユーザーのニーズを高精度に読み解く
小山
ユーザーとのコミュニケーションという意味でもやりやすくなった点があると思います。これまでは、ターゲットユーザーが大きい特徴別のグループ単位で分割され、ユーザーの真の特徴を考慮したコミュケーション設計ができませんでした。
しかし、CWTではユーザーベースで検索アクチュアルデータの分析・配信アプローチができるので、ターゲット設定にブレがなく、ユーザーの深いニーズやインサイトに合わせたアプローチ設計が可能となります。ターゲティング精度の高い施策から、多くのプランで良い成果がもたらされています。
真野
先ほどの人物像が複数の検索ワードで見えてくるという話に関連して、マーケット全体の規模やユーザーニーズ・特徴が正確に見えてくるという効果も見逃せません。例えば、ある商品に反応しているターゲットがYahoo! JAPANユーザーの何割なのか、アクチュアルデータを分析したアウトプットからどのようなニーズの傾向が見られるかがわかるので、クライアントの方々からも参考になるという声が寄せられています。
従来のユーザーデータ情報よりもよりニーズが顕在化された検索ワードが効果的な理由
小山
よい機会なのでこれは村田さんにお聞きしたかったのですが、これまでCookieデータベースでのターゲティングや、機械的に導かれたユーザーデータ情報などは、正直に言うと生活者を捉えるという意味では不十分な情報だと感じていました。一方で、検索ワードは生活者の声が具現化したものだと思っているのですが、Yahoo! JAPANの中で検索データとそれ以外のデータの質の違いをどう捉えていらっしゃいますか。
村田
生活者自らが能動的にキーワードを打ち込んだ検索データは、その生活者のニーズそのものを顕在化できる、他にない価値あるデータだと考えています。「興味・関心」という切り口でまとめてしまう情報は、いろいろなデータをかき集めればそれっぽいものができてしまいますが、検索データからはその人の興味・関心の基となっている特徴的な部分を炙り出せるのです。その本質的な欲求を知ることができるデータで他に代わるものはまずないでしょうね。
ヤフー株式会社 メディアカンパニー マーケティングソリューション統括本部 データマーケティング 本部長 村田 剛
小山
やっぱり検索データの価値はかなり高いですよね。私たちも生活者一人一人の“意識の繋がり・ストーリー”を検索ワードのデータから読み解いて、それに寄り添ったコミュニケーションをプランニングしています。クロスワードのような精度の高い分析や施策アプローチが可能になったことで、より具体的なプランニング設計を作れるだけでなく、提案される側の広告主も納得・社内説明できる安心感も持ってもらえています。
真野
カスタマージャーニーを描く際にも、これまでアンケート調査やグループインタビューなどからターゲットのユーザーペルソナを組み立ててから仮説を立てて……、といったように仮説に仮説を重ねる手順を踏んでいましたが、クロスワードでは検索ワードベースでペルソナ化して、さらにそのワードベースで配信が行えるのですから効果が高いのはある意味当然のことですね。
クロスワードターゲティングの効果が発揮された高級輸入車の事例
小山
一方で、CWTには検索ワードを用いるという性格上、得意とする業界や商材・サービスがはっきりとしているという傾向もありますね。検索しなくても済む日常的で低価格な消費財よりは、購入前にしっかりと検討する単価の高い商品やサービスは顕著にそれが現れます。具体的には自動車や高級ブランドの商品、不動産や金融・保険商品などはCWTとの親和性が高いと言えます。
真野
関わった事例で言うと、高級輸入車のキャンペーンがCWTの効果がよく現れていてわかりやすいですね。CWTは潜在層から競合との検討を開始した層、検討ニーズが高まったHOT層に到るまで、それぞれの領域でのユーザー意識の変化を検索行動の中身によってジャーニー化できるのですが、高級輸入車の事例はHOT層へのアプローチで効果を発揮した典型的なケースと言えます。
株式会社博報堂 デジタルビジネス推進局 兼 データドリブンマーケティング局 小山 徹也
小山
そうですね。例えば、新しく自動車を購入しようと思っている人も、四六時中車のことだけを考えて調べているわけではありません。その人の生活の中で、自動車の購入・買い替えを検討する“きっかけ”となる「修理」「キャンプ」「住み替え」「ゴルフ」といった特徴的なキーワードを発見しメッセージシグナルに設定しています。そして、得られた8つのインサイトに合わせて8種類のクリエイティブバナーやLPを出し分けています。その結果として、通常のコントロール配信と比較するとCTRは2倍から3倍、クリエイティブ別では最大で10倍以上というあり得ない数字を叩き出しました。これはCWTからニーズを的確に捉えられたということの結果だと感じています。
村田
まさしく検索データのパワーを有効活用されている事例ですね。単純にターゲットの精度が高まったというだけでなく、データに基づくことでマーケティング活動全体の改善にも寄与しているのではないかと思います。デジタルマーケティングはテクノロジーの進化で発展してきたこともあって、どうしても扱えるデータの種類や量、リターゲティングなどの手法にばかり目が行きがちです。でも本来のマーケティング活動というのは、生活者に自分たちの製品を正しく理解してもらって、購入した後も満足して使ってもらうことが大切ですよね。その生活者理解のためにデータの「質」に注目して活用する使われ方はとてもよい流れではないかと思います。
データの使い方を広げていくクロスワードターゲティングの応用可能性
小山
個人的に、広告会社はテクノロジーの進化を追い続けていかなければいけないものと考えています。ただ一方で、現段階で今あるものと最新の技術をどう組み合わせてアウトプットを高めていくかという地道なアイディアや工夫も重要だと感じています。CWTはこうしたアイディアや工夫の一種だと思うのですが、これが他の広告会社やプランナーとの差を作るポイントになっていくのではないでしょうか。
村田
工夫を積み重ねるというお話に共感します。私はマーケティングには技術が進化しても変わらない本質があると思っていて、その届け方が時代とともにどんどん進化しているのだと思います。インターネット広告のクリエイティブもバナーなのか動画なのか、そこで何を選択するのが最適なのかが求められていくと思います。方法もひとつではなく複数の施策を組み合わせて効果を最大化することもあるでしょう。いずれにせよ、感覚値ではなくデータに基づいて思考し、最適な施策を選んでいくことがこれからのマーケティング担当者に求められる資質だと思います。
真野
現場の感覚としても、マーケティングがどんどん「シームレス」なものになってきているのを感じます。クロスワードがそうであるように、デジタル広告はターゲット選択、クリエイティブ、配信といった一連の流れがデータによって一本化が進んでいますが、ここからさらに進み「正確な購買計測」にまでつながっていくとよいのではないかと思っています。そうすることでこれまではっきりとわからなかった、コミュニケーション効果にコミットした戦略設計と施策につながっていくとイメージしています。すでに海外ではアクチュアルデータを商品開発のコンサルティングに生かす動きもあるようですし。
小山
確かに検索ワードからどのような行動をして、どの製品を購入したかというゴールまで追えるようになるともっと広告主の施策にコミットできるようになりますね。これは個人的なYahoo! JAPANへのリクエストなのですが(笑)、デジタルだけでなく興味を持ってフラグが立った段階から購入までのカスタマージャーニーのすべてをYahoo! JAPANのデータだけで描けたらクライアント企業に対する説得力の重みもさらに増すのではないかと期待しています。
村田
IoTなどオフラインのデジタル化も進んでいるので、いずれスマホかPCかといったデバイスの違いやオンラインかオフラインか、テレビかネットかといった区別はなく、トータルで必要な情報を最適な人にベストのタイミングで届けられるようになるはずです。
小山
将来におけるクロスワードターゲティングの応用可能性は非常に広いということですね。ターゲティングという語感からどうしても「絞り込み」のイメージを持たれる方も多いようですが、使い方の工夫によってはこれまでにない新しい市場を作り出すことにも貢献できるのではないでしょうか。もちろん増え続ける膨大なビッグデータをどのように読み解き、どう使いこなしていくのかは難しいチャレンジであるとは思いますが、広告会社にとっても腕の見せ所であり大きな可能性が広がっているのを感じます。本日はみなさんにお集まりいただき、ありがとうございました。