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「AI-POWERED CREATIVITY: AIと、価値ある未来をデザインする」─Advertising Week Asia 2025より
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「AI-POWERED CREATIVITY: AIと、価値ある未来をデザインする」─Advertising Week Asia 2025より

2025年12月2日(火)~4日(木)、シェラトン都ホテル東京にて、世界的なマーケティングイベントのアジア版である「アドバタイジングウィーク・アジア2025」が開催されました。記念すべきAWA10周年でもある今回、AI活用により新時代を迎えつつある広告業界にとって本質的で刺激的なさまざまなコンテンツや議論が展開されました。

本稿では、Keynote「AI-POWERED CREATIVITY: AIと、価値ある未来をデザインする」の内容をご紹介します。

スピーカー
松任谷 正隆
音楽プロデューサー

西山 泰央
(株)博報堂DYホールディングス
代表取締役社長

森 正弥
(株)博報堂DYホールディングス
執行役員 Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表

モデレーター
佐々木 紀彦
PIVOT株式会社
代表取締役/CEO

■キーノートスピーチ

博報堂DYグループが掲げる「AI-POWERED CREATIVITY」とは

西山
私たちの根底にはHuman-Centered AI、人間中心の AI という哲学があります。北米ではAI の投資の拡大を背景に大規模なレイオフが続く中で、私たちは今分岐点に立たされています。人間はAI に使われるのか、それとも使いこなすことができるのか。私たちが明確に決めたのは、AI を単なる効率化の道具ととらえるのではなく、人間の可能性を拡張する共創のパートナーとして向き合っていくということです。

先日発表した「バーチャル生活者」は、我々が蓄積し、日々アップデートしている膨大な生活者データを、AI を活用し人格として再現したものです。PCを開くといつでも対話し本音を聞ける生活者がいる。そんな新しい世界が既に社内で始まっています。

私たちは、「AI-POWERED CREATIVITY」という方針のもと、クリエイティビティの定義までも変えようとしています。これからのクリエイティビティは、「独自性の高い新しい発想を生み出す能力」というだけでなく、「AI によって無限に増殖・分配・循環 できる新しい資本」にもなります。だからこそ、この新たな資本を使って、より難しい社会課題や新たな産業創造などに取り組んでみたいと考えています。

私たちはその資本を企業や産業の枠を超え、社会全体で活用出来る「クリエイティビティ・プラットフォーム」として開放します。「クリエイティビティ・プラットフォーム」とは、生活者を起点としたクリエイティビティをエッジに、生活者・企業・社会をつなぎ、新たな関係価値を生み出すことで、未来を創造していくプラットフォーム(基盤)のことを指します。この実現に向けては、人間の独創性とAI の能力を掛け合わせ、企業、行政、スタートアップ、そして生活者の皆さんをしっかりつなぎ、「知や技術のオーケストレーション」を築いていきます。そうすることで、社会の仕組みつまり「社会のOS」をもっと価値あるもの、ワクワクするものへとアップデートできるのではないか。これが我々のやっていきたい挑戦です。

これほどまでの変革がなぜ今必要なのでしょうか。
野中郁次郎先生が『失敗の本質』で指摘されるように、多くの企業や組織は成功体験の過剰適応に陥っていると思うからです。私たちはどうしても過去の地図に固執してしまいがちですが、日本には素晴らしい技術と人材があることを私自身もよく知っています。
問われているのは、その眠れる力をしっかり解き放つ覚悟だけです。AIは皆様方の内発的動機にきっと火をつけて、常識を揺さぶる、荒ぶる羅針盤になっていくでしょう。私たちはそんな AI 時代に、皆様方と変革に向けてしっかりと舵を切っていきたいと思っています。

その覚悟をこめた動画をご覧ください。

この動画は、全てAIで描いていて、皆さまへの「冒険の覚悟」の問いかけです。
すべてての始まりは皆様方の内発的な動機=Aspiration(アスピレーション)であり、それこそが冒険の目的地を示す「希望のナラティブ」の源泉です。AI 時代に人間が担うべき資本の正体とは、計算されたデータではなく、私たちの奥底にある内発的動機そのものです。
自動化=Automation(オートメーション)はAIに任せ、私たち人間はその先にある能力拡張=Augmentation(オーグメンテーション)にこそ、命を燃やすべきではないでしょうか。

「伝統を残したい」とか、「世界の言葉の壁を越えたい」といった、一人ひとりの小さな想いや内発的動機をもとに、AIとプラットフォームの力で社会を大きく動かすプロジェクトに仕立てていく。これこそが、私たちが目指す AI-POWERED CREATIVITYの本質的な姿です。

AIというパートナーを得て、クリエイティビティという資本の価値はかつてないほど高まっています。思考停止をしている暇はありません。
皆様方の企業、個人の内なる想い、Aspirationを我々のこのプラットフォームに投資していただき、効率化の先にある価値ある未来を一緒にデザインしていければと考えております。

■パネルディスカッション

「無知」は最強の武器。AIとのセッションで蘇るクリエイティブの初期衝動

佐々木
ここからはゲストに松任谷正隆さんを迎えたパネルディスカッションです。
松任谷さんは2025年11月18日に発売された、AI による歌声合成技術を活用した松任谷由美さんのアルバム『Wormhole(ワームホール) / Yumi AraI』を手掛けられました。
松任谷さん、アルバムづくりを通して発見した AIの可能性や課題はありますか。

松任谷
今回使った「 Synthesizer V」というソフトに組み込まれている AIは(音楽生成AIや動画生成AIのような)最先端のものではありませんが、由実さんの歌をラーニングさせて、歌声を再構築しました。その歌声と今の生声をコラージュして制作したのが今回のアルバムです。そこには新しさと怖さを感じました。実は 3年前、某大学の研究所から同じような提案を受けたのですが、まだ発展途上でした。なので今回、3年間でこれほど技術が進化したのかと驚きました。

プリプロダクション段階では彼女はラララで音を入れて作曲するのですが、音域が自由になっただけでなく、自分の声以外も拡張させることができ、詞のイメージもしやすくなって、創作的に新しいことができたようです。
僕も、最初に彼女の声を入れることで、周波数帯域に合った適切な楽器を選ぶことができ、サウンド的にも面白いことができました。

いろいろできた一方で、怖さも想像しました。
つまり、由実さんができるということは誰にでもできるということ。AIには作曲能力もあるので、ビギナーの人がAIを使うことで、50年も音楽をやっている僕らにはできない、ものすごく新鮮で面白いものができるかもしれないと感じました。

佐々木
「初期衝動が戻ってきた」とも言われていました。
音楽を始めた時の衝動が戻ってきたような感じでしたか。
松任谷
無知ってすごい強みだと思うんですよ。
これってこうやって作れるんじゃないかとか、これはこうなってるんじゃないかとか、無知だから想像する。
そこがとても大事で、初期衝動もそれに近い感覚だと思います。

数値化できない「ゆらぎ」——AIと人間の決定的な差

西山
無知=真っ白な状態のときは、周りの環境や情報が大事になってきますよね。素晴らしい環境や人、音楽などに触れたときに、自分の創作意欲が掻き立てられるといったことはあると思うんです。環境という意味では、松任谷さんが音楽制作をされる現場もやはり超一流のミュージシャンが集まり、打ち込みではなく、きちんとそこでグルーヴ、音源を集めるということをやられていると思います。テクノロジーも人間もどちらも大事にされているとは思いますが、両者の違いについてはどう感じられましたか。
松任谷
両者の違いを一言で言うと、音楽に揺らぎを求めるか求めないかです。クラフトワークやYMOなどの音楽はきちんと数値で表せる。でも人間のグルーヴは数字上ではでたらめなんです。そこに違いがあります。
西山
おそらく聴いている側も、そのわずかな揺らぎをなんとなく分かってしまうんですよね。人間の感覚にはものすごいものがあるなと思います。
佐々木
森さんはいかがですか。
アントニ・ガウディは、「オリジナリティ」という言葉は「オリジン」に戻っていくという意味を包含すると語っています。松任谷由実さんが、今回AIに荒井由実を学習させることでいろいろと創発されたというのは、ある種オリジンに戻っていきながらも新しいものを作られたのかなと感じました。
企業の場合も、非構造化データ、つまりドキュメントのようなものを全部AIが読み込むことによって、企業のオリジンの部分、「本当はこうだった」といったことを発見できるんじゃないでしょうか。それを踏まえて、企業の次なるステージをとらえることも可能ではないかなと思いました。
松任谷
次に何ができるかというのは個人もそうですよね。あるAI研究者の先生は、数年後には自分のコピーをつくれると言われていました。
自我はコピーできないけれど、自分と同じ記憶を持ち、自分と同じ行動、同じ思考ができるものは、近い将来必ず実現するのだと。なので、企業だけでなく個人でも、同じようなことが可能になりそうです。
佐々木
「オリジン」という話もありましたが、昔からの蓄積を活かすだけではなく、ゼロイチで音楽を作ることもAIにはできるのでしょうか。
松任谷
今回ソフトを使いながら感じたのは、ゆらぎ以外にも何か決定的なもの、雰囲気が足りないということです。
雰囲気の実態というのは、その時の自分の体の状態とか、スタジオの気温とか気分、直前に言われた言葉とか……人間がさまざまなセンサーで感じたことです。
そうした偶発的に起こるものについて考えた時、想起したのが「ミスプリント」という考え方です。そして、人間にあって今までのAIにはないものはミスプリントであり、人間はあらゆる側面でミスプリントだらけのことを偶発的に起こしているのではないかという仮説を立てました。
その「ミスプリント」は、あるときは体内で病気の原因になったり、人格破綻みたいなことにもつながりますから、そのままAIに導入することはとてもリスクが高い。でもそうした「ミスプリント」的な要素を入れない限り、AIは本物の人間には近づかないだろうなとは思いました。

佐々木
AI時代のクリエイティビティを考えた時に、音楽の世界はどう変わっていくと思いますか。もっとより良い音楽が出てくるのか、似たものばかりが出てきて均質化してしまうのか。
松任谷
会社と一緒で、音楽には「ある程度のルール」がある。だから、それがない音楽は異色すぎて、気持ちが悪くて聞けないと思う。得体の知れない食べ物を突然出されたら怖いと思うのと一緒。音楽はある程度カテゴライズできる範囲の中にあって、AIで新しい何かが付与できるということだと思います。

効率化を超えて——人間の身体性や内発的動機(アスピレーション)とAI活用

佐々木
企業経営の面では AIを使うことについてどんなことが言えますか。
西山
結局、エンターテインメントにおいても企業においても、AI と身体性の区分、あるいはその連携が大事だと思います。

弊社も優秀なクリエイターやマーケターをAIエージェント化していますが、使ってみると、本人たちにも気づきがあるぐらいに面白いんです。
今までクローズドだった知恵がオープンになることで、さまざまな活動が活性化することが考えられます。一方で、我々人間自体はどう進化していくべきなのか。それは、五感を駆使するとか空気感を読むといった身体性にヒントがあるような気がします。人間は“同じ釜の飯を食う”ことで、身体性が揃ってくるそうです。やはり人間の体は、革新的なものを生み出す根っこを持っていると思います。

そうした身体性が生む爆発力や、松任谷さんのご著書にもあった“奇跡”みたいなことは、AI からは生まれてきません。人間だからこそ起こり得る奇跡を、僕はビジネスにつなげていきたいと思います。

佐々木
音楽領域でも、皆さん集まって騒いで、そこで感情が生まれるというライブの人気が再熱し、再評価されています。
松任谷
満員電車の中では誰もがスマホを見ています。
同じ場所に集まりたい衝動とか、行動を同じくすることによって得られる安心があるのかなと思いますね。
西山
人は誰かと空間や雰囲気を共有している生き物ですが、特にコロナ後は、あらゆるスポーツ観戦イベントの人気が増しています。純粋にスポーツを楽しみたいのと同時に、観客同士で得られる調和や一体感を楽しみたいというのも大きいのでしょう。
やっぱり人間の行動って素直で本能的で素晴らしい、尊いものがある。それをうまく使っていくことも、この時代だからこそできるし、必要なことだと思います。

今はAIで生成したコンテンツが溢れていて、アメリカでも日本でもある種のAIコンテンツ疲れが起きています。AI が出すアウトプットは全て情報化されていますが、今生活者は、言語化されていない身体性に基づく、まだ言語化できてないもの、データ化しにくいものの中に価値を見い出し始めているのではないかと感じます。
松任谷
たとえばお笑いの本質には、どこか一部に破綻があり、私たちはその破綻を面白く感じます。破綻は、「ミスプリント」と同様こちらがインプットしない限りAIからは生まれません。むしろインプットすると危険なことでもある。
佐々木
ミスプリントであり、破綻であり、感情が人間の価値だとすると、人はそちらの方の能力を磨いていくべきなのでしょうか。
松任谷
磨くというよりも人間は、日常的に破綻を起こしながら生きているのではないでしょうか。 たとえば由実さんがピアノで作曲しているのを外から聴いていると、こちらは「次はEフラットセブンに行くんだろうな」と“正解”がわかるんですが、彼女はそれができないんです。迷いながら、変な回り道をしちゃう。でも、そこからつじつまを合わせようとして試行錯誤するうちに、今までに聞いたことのない新しい曲をつくってしまうんです。それを見ていると間違えることが不正解ではないと感じますね。
今の AI のアーキテクチャ上、ヘタウマなものはつくれません。なぜならヘタとウマいという、矛盾する概念を同時に取り扱うことができないからです。それができるのが人間です。逆に言うと、人間が生み出せる本質的な価値であればAI が最適化してくれる。一方で人間には、矛盾した概念も取りこみながら、非最適化するという重要な役割があると思います。

佐々木
最後に、今回のセッションのテーマでもある、価値ある未来をデザインするために、AIを企業、個人に関わらずどう活かしていくかについて、皆さんからメッセージを頂けますか。
西山
AIによって、我々を取り巻く情報環境やこれまで培ってきたビジネスを中心にモデルを体系化できるようになりました。それをどう使っていくかが今問われています。企業や国が抱えている多くの課題に対して、現在自分たちが持っているリソースだけでは解決できないということが見えてくると思っています。そこで大事なのは、いかに適切なパートナー、コラボレーション相手を見つけるかです。

データだけではなく対話と身体性の中で、本当に奇跡的なイノベーションが創発できる環境づくりが可能になった今、ぜひその場づくりを皆様とご一緒できればと思います。

松任谷由実さんの新アルバム『Wormhole (ワームホール)/ Yumi AraI』では、活動50 周年という到達点をアーティストとしてさらに超えていくための新たな挑戦として、AI を活用されています。
一方企業は、どちらかというとトレンドだから、自動化・効率化でコストが削減されるからといった理由で、AI活用を推進しておりワクワク感に欠けるものになってしまっているのではないかと思います。企業はもっとアスピレーションを持って AI を活用していくべきではないでしょうか。
松任谷
僕の父親は、銀行が初めてコンピューターを導入し始めた時代に銀行員をやっていました。当時のコンピューターは相当大きいサイズで、銀行のデータだけを取り扱っていた。今のAIはまさにその状態なのかなと思います。
コンピューターも何年後かには携帯サイズになり、皆のパーソナルなものになりました。AIもそうなります。…って、なんとなく断言してみちゃおうかな(笑)。
佐々木
そうですね。未来に向けてはAIを過度に恐れず、楽しみながらうまく活用していくということですね。
皆さん、ご清聴いただきましてありがとうございました!
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  • 松任谷 正隆
    松任谷 正隆
    音楽プロデューサー
    1951年、東京都生まれ。
    作編曲家、音楽プロデューサー。1974年 慶應義塾大学・文学部卒。
    4歳からクラシックピアノを習い始め、14歳の頃にバンド活動を始める。
    20歳の頃プロのスタジオプレイヤー活動を開始し、バンド“キャラメル・ママ”“ティン・パン・アレイ”を経て、数多くのセッションに参加。
    その後アレンジャー、プロデューサーとして松任谷由実、松田聖子、ゆず、いきものがかりなど多くのアーティストの作品に携わる。
    1986年には音楽学校「MICA MUSIC LABORATORY」を開校。ジュニアクラスも設け、子供の育成にも力を入れている。
    松任谷由実のコンサートをはじめ、JUJU、平原綾香など様々なアーティストのコンサートやイベントを演出。また、映画、舞台音楽も多数手掛ける。
    2021年よりバンドSKYEに参加。2024年7月に2ndアルバム「Collage」をリリース。
    日本自動車ジャーナリスト協会に所属し、長年にわたり、「CAR GRAPHIC TV」のキャスターを務める他、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」の選考委員でもある。
    FMラジオのレギュラー番組として、TFM「松任谷正隆のちょっと変なこと聞いてもいいですか?」(毎週金曜日17:30~)を放送中。
  • (株)博報堂DYホールディングス 代表取締役社長
    1966年東京都生まれ。上智大学法学部卒業。1989年博報堂入社。2019年同社執行役員。21年博報堂DYメディアパートナーズ執行役員。22年博報堂常務執行役員兼博報堂DYメディアパートナーズ常務執行役員。23年博報堂取締役常務執行役員。24年博報堂DYホールディングス執行役員兼博報堂取締役常務執行役員兼博報堂DYメディアパートナーズ取締役常務執行役員。25年4月博報堂取締役(現任)。25年6月から現職。
  • (株)博報堂DYホールディングス
    執行役員 Chief AI Officer
    Human-Centered AI Institute代表
    外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。慶應義塾大学 xDignityセンター アドバイザリー ボードメンバー、日本ディープラーニング協会 顧問、内閣府AI戦略専門調査会委員。
    著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
  • 佐々木 紀彦
    佐々木 紀彦
    PIVOT株式会社
    代表取締役/CEO
    「東洋経済オンライン」編集長を経て、NewsPicksの初代編集長に。
    動画プロデュースを手がけるNewsPicks Studiosの初代CEOも務める。
    スタンフォード大学大学院で修士号取得(国際政治経済専攻)。
    著書に『米国製エリートは本当にすごいのか?』『5年後、メディアは稼げるか』『日本3.0』『編集思考』。
    2021年秋に『起業のすすめ』(文藝春秋)を刊行。

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