
~躍進するeスポーツ大会の今とこれから~『VALORANT』が牽引するeスポーツの今。熱狂を生んだオフライン大会の舞台裏
近年盛り上がりを見せる国内のeスポーツシーン。
「見る」「応援する」「関わる」ことができるeスポーツならではの文化が生み出され、柔軟で多様なコミュニティが形成されています。
そんななか、eスポーツシーンを牽引してきたのが、Riot Gamesが開発・運営する5対5の対戦型シューティングゲーム『VALORANT(ヴァロラント)』です。2020年6月のリリースから1年で世界の月間アクティブユーザー数が1,400万人を超え、プレイされた対戦数は5億回を突破するなど、一躍人気ゲームとして世界中で注目を集めるようになりました。2025年には世界の月間アクティブユーザー数は3,500万人を超えるほどに成長しています。
そんなVALORANTの日本最大級のeスポーツ大会「VALORANT Challengers Japan」は、2021年から毎年開催されています。そして2025年より、博報堂が日本テレビ放送網と「VALORANT Challengers Japan 2025 実行委員会」を組成し、大会運営パートナーとして新たに参画しました。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
2025年5月17日(土)と18日(日)に行われた大会には、2日間で延べ9000人超の来場者が参加し、感動と熱気に包まれたのちに幕を閉じました。
イベントではコスプレイヤーと写真を撮ったり、推しのチームブースでグッズを購入したり、美味しい料理を味わったりと、多彩なコンテンツが来場者を楽しませていました。スポンサーブースにも多くの来場者が訪れるなど、賑わいを見せていました。
こうしたeスポーツ関連のイベントの盛り上がりは、単に市場規模の拡大のみならず、“エンタメ”としての楽しさや生活者を巻き込む一種の“メディア”として機能する「新たなビジネスチャンス」につながっていくのではないでしょうか。
本稿では、VALORANT Challengers Japanを主催するライアットゲームズ の泉氏に、eスポーツにおけるオフライン大会の魅力や伝統的なスポーツにはない「ファンと選手の距離感の近さ」について、大会運営に携わった博報堂 オーディエンスアクションビジネス局の笠置淳行が話を聞きました。
泉 航平氏
合同会社ライアットゲームズ
VALORANT Esports Japan プロデューサー
コロナ禍がeスポーツの「転機」に。ミラー配信の台頭でオンライン視聴が定着
── まずはじめに、泉さんの自己紹介とライアットゲームズの会社概要を教えてください。
私がライアットゲームズへ入社する前は、7~8年ほどゲーム開発の現場で主にモバイルゲームのプロデューサーやディレクターを担当していました。
人気アニメ・漫画を原作としたアクションゲームを手がけたり、運営側としてイベントを企画してユーザーの皆さんに楽しさを届ける仕事をしてきました。
一方で、プレイヤーとしてもeスポーツに深くのめり込んだ経緯があります。
特に、5対5で拠点を取り合うリアルタイム戦略ゲーム(MOBA)に熱中していて、毎月開催される20~30人規模の大会には2年間欠かさず出場していたんですよ。ただ、相手が強すぎていつも初戦で敗退していました(笑)。通常の試合時間は20分くらいなのですが、10分間持ちこたえるのがやっとでしたね。
それでも、会社が終わった後にミーティングルームに集まり、「まずは一勝」を掲げて仲間と練習に打ち込んでいました。こうしたeスポーツに対する原体験がきっかけになって、2021年にライアットゲームズへ入社し、プロデューサーとして「VALORANT Challengers Japan」の立ち上げ初期から携わっています。
── 立ち上げ当初と今を比べたときに、大会の盛り上がり方の違いは何か感じますか?
私がライアットゲームズに入社した頃はコロナ禍の真っ只中で、eスポーツ大会のオフラインイベントが軒並み中止となっていたことから、目に見える形でのeスポーツの盛り上がりは一旦収束していた状況でした。
しかし、この状況が結果的に“逆風”ではなく“転機”になったとも感じています。
ちょうどその頃から「eスポーツをオンラインで視聴する文化」がインフルエンサーを中心に広がり始めていて。公式配信を観るだけではなく、インフルエンサーが公式配信を観ている様子をファンが一緒に観て盛り上がる「ウォッチパーティ」というスタイルが徐々に定着し始めていたんです。
今でこそ配信者(ストリーマー)やインフルエンサーによるウォッチパーティは当たり前になっていますが、その原型ができ始めたのが、2021~2022年くらいのコロナ禍の時期だったと思います。
「オンライン」で日常的に楽しみ、「オフライン」で熱狂できるのがeスポーツの魅力
── オンラインを中心としたeスポーツ大会を「オフライン」で開催する意義や魅力はどこにあるとお考えですか?
eスポーツの魅力の一つは、やはりオンラインで皆と一緒に盛り上がって楽しめる点にあります。ただ、それとはまったく違う価値を持っているのが、オフラインで体感する「熱気」と「感動」だと考えています。
eスポーツも“スポーツ”である以上、選手のひらめきや判断によって生まれる名プレーや一瞬のドラマを、リアルタイムで共有できる場には特別な魅力があります。オンラインでもそれを楽しむことはできますが、実際にその空間を他のオーディエンスと共有することで得られる臨場感や感動の深さは別次元です。
このように、eスポーツは「オフラインで瞬間の感動を分かち合う体験」と「オンラインで日常的に生活の一部として楽しむ習慣」の両輪によって、自然と根付いてきたと思っています。
VALORANT Challengers Japanに関して、2021年は完全オンラインでの大会でしたが、2022年にはさいたまスーパーアリーナでオフライン大会を初開催し、2日間で総来場者数は2万6千人を超えるなど、国内eスポーツ史上最多動員記録を達成しました。まさにオフラインならではの一体感と感動を分かち合う体験を提供できたイベントだと思っていて、それ以来毎年2~3回の頻度でオフラインイベントを開催しています。
『VALORANT』で特徴的なのは、プレイしたことがない人でも観戦を楽しめるという点です。実は視聴者の多くがVALORANTを一度もプレイしたことがない人たちなんです。
このゲームの魅力として、一つは「わかりやすさ」が挙げられます。
たとえば、ヘッドショット(頭を撃ち抜かれれば一発で倒れてしまう)が決まれば、どんなに強い相手でも一撃で倒せてしまう。常に予測不能な“逆転劇”が起こり得るのは、誰が見ても直感的に盛り上がれる要素になっています。
また、『VALORANT』は5対5のチーム戦で各メンバーが役割を分担し、マップ上のエリアを広げていく戦略性の高いゲームです。チームで戦略を立て、エリアを制圧するための高度な駆け引きや陣取りの思考戦は、PCの大画面でじっくりと腰を据えてプレイを分析する観戦スタイルとも相性が良いんです。
このように、スマホで気軽に観るカジュアルな視聴にも向いているし、PCの前で戦術を深掘りしながら視聴するコアな楽しみ方もできるのが『VALORANT』の魅力です。プレイスタイルや視聴スタイルに寄らず、ゲームの持つ「わかりやすさ」と「奥深さ」のバランスが多様な層にアプローチできている要因だと感じています。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
「推し」ではなく「家族」を応援するような距離感の近さ
── イベント会場では、出場チームの物販に長蛇の列ができていました。eスポーツのチームが人気を誇る理由を教えてください。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
eスポーツにおいて、チームの存在は非常に大きいと感じています。
その魅力の一つに「選手との距離感の近さ」が挙げられます。もちろん、オフライン会場での物理的な距離の近さもありますが、多くの選手が普段から配信をしているのも多くのファンに注目される理由だと思いますね。
特にZ世代の視聴習慣では、ストリーマーの配信をBGMのように垂れ流しにして、何か作業をしながら見たりするなど、まるで一緒に暮らしているかのような感覚で楽しむスタイルが広まっています。いわば選手が”友達”のような存在に映っているわけなんですね。
そうした下地があるからこそ、選手たちが表舞台で戦っている姿を見る時は、家族を応援するような感覚と一緒で、全力で応援したくなります。その結果として、熱量の高いファンが一堂に会する場がeスポーツのオフラインイベントだと言えます。
野球やサッカーのように、プロとしての「格」があるのも伝統的なスポーツの良さですが、eスポーツの場合はスター性を持ちながらも、ファンとの距離感を絶妙に維持できている点が大きな強みだと考えます。
── eスポーツは若年層以外にどのような層に広がっていくとお考えですか?
私たち運営側としては、VALORANT Esportsのブランドをしっかり打ち出しつつ、主要ターゲットとなる20代のコア層に対して積極的にアプローチすることが基本方針です。ですが、eスポーツ全体の広がり方に目を向けると、「どんなチームが参加するのか」というのが鍵を握るのではないでしょうか。
たとえば、今回初めてオフライン大会に参加したNOEZ FOXXというチームは、Repezen FoxxのDJふぉいさんが立ち上げたプロゲーミングチームで、今までeスポーツにあまり関心のなかった新しいファン層を引き込んでくれました。実際に会場でも、以前の大会とは雰囲気の違うファンの方々が多く見受けられましたし、年齢層もやや若返っている印象も受けましたね。
こうした変化は、参加するチームの個性や、シーンを支える配信者、日々のトレンドなどが複合的に重なって、それがファン層の多様化・世代の広がりへと繋がっているように感じます。
また日本のeスポーツシーンは、韓国や中国のように競技性が前面に出るわけではなく、「エンタメ性」と「競技性」が絶妙に融合していて、ステージ上でのパフォーマンスやファンサービスが非常に重視される傾向にあります。FENNELのGON選手のように、ただゲームが強いだけでなく、観客を巻き込んで盛り上げる力を持った選手が増えているのも、日本のeスポーツのユニークな部分ですし、大きな魅力になっていますね。
©2025 Riot Games, Inc. Used With Permission
eスポーツへの“愛”がファンの心を動かす体験を創出できる
── 最後に今後の展望や、広告会社の博報堂が大会運営を行うメリットをお聞かせください。
現状は東京、大阪、名古屋といった首都圏でオフライン大会を開催することが多くなっていますが、今後は小規模であってもローカルなコミュニティを育てていく活動を積極的に展開していきたいと考えています。
今回、博報堂と一緒に取り組んでみて非常に良かったと感じたのは、安定感のある運営体制はもちろんのこと、チームの皆さんが『VALORANT』のシーンやeスポーツの文化を深く理解し、愛情を持っていただいていて運営に携わっていたことでした。
その姿勢があったからこそ、ファン目線で物事をとらえた細部へのこだわりや、ファンが喜ぶ体験の実現につながったと思います。今回配布したプレイヤーカードなども、まさにその一例で、単なる興行としてではなく、1つの「プロダクト」としての“愛”から生まれたものだと実感しています。
このようなパートナーと共に運営できたことは、私たちにとっても非常に心強かったですね。
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泉 航平ライアットゲームズ
VALORANT Esports Japan プロデューサー2021年よりVALORANT Esportsのプロデュースに携わり、Challengers Japanを軸に国内外の大会・放送を統括。来場者数3万7000人を記録した国際大会Masters Tokyoでは日本側の責任者として開催を主導した。
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博報堂 オーディエンスビジネスアクション局 局長テレビや動画広告ビジネスを中心とした広告・マーケティングビジネスおよび各種コンテンツビジネスなどに従事。
投資領域の業務や新戦略推進業務の戦略広報なども担当。
現在は「オーディエンスアクションビジネス局」の責任者として、テレビ局などとの新規事業やIP開発業務を推進している。