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「アテンション計測」とは何か──デジタル広告へのアテンションを数値化する新しい効果測定手法
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「アテンション計測」とは何か──デジタル広告へのアテンションを数値化する新しい効果測定手法

デジタル広告は本当はどのくらい見られているのか──。これまで、それを定量的に数値化する手法はほとんどありませんでした。ここ数年の間に海外で広まってきた「アテンション計測」は、実際に広告が見られている時間や割合を明らかにする新しい広告効果測定手法です。この方法に国内でいち早く取り組んでいる株式会社Hakuhodo DY ONEの宮﨑 雅子、財津 翔子と、海外の広告ビジネスやテクノロジーの情報を社内に発信している株式会社博報堂DYメディアパートナーズの大野光貴が、アテンション計測の可能性について語り合いました。

大野 光貴
株式会社博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局

宮﨑 雅子
株式会社Hakuhodo DY ONE ビジネスデザイン本部

財津 翔子
株式会社Hakuhodo DY ONE ビジネスデザイン本部

広告の「実視認値」を算出する手法

大野
今からちょうど100年前の1924年に、アメリカで『Attention and interest in advertising』という本が出版されました。雑誌の読者が雑誌広告をどのように見ているか、つまり読者の広告に対するアテンション(注目、関心)について論じた本です。広告ビジネスにおいて、生活者のアテンションは100年前の時点ですでに重要な要素であったということです。

近年、デジタル広告市場の成長にともなって、広告効果がかなり正確に測定できるようになっています。しかし、アテンションを定量的に測定する方法はこれまで確立していませんでした。そんな中、海外では「アテンション計測」という手法が広まってきています。今日は、いち早くこの方法に取り組んでいるHakuhodo DY ONEのお二人に話を聞いていきたいと思います。まず、アテンション計測とはどのようなものか、解説していただけますか。

宮﨑
アテンション計測とは、デジタル広告が表示された際、生活者がその広告を注視している時間、注視している場所、注視した割合などを可視化する手法のことです。これまでも「ビューアビリティ」という指標はありました。これは、表示されたデジタル広告の中で「生活者が視認できる範囲に表示された広告の割合」をあらわす指標です。しかし、この指標はあくまでも「広告が視認可能な状態にあること」を示すものであり、「実際に広告がどのくらい視認されたか」を明らかにするものではありません。

それに対してアテンション計測は、複数のデータを組み合わせることによって、広告の「実視認値」を算出する手法です。具体的には、生活者が広告を視認していた秒数をあらわす「アテンションタイム」や、全インプレッションの中で実際に視認されていた割合を示す「ビュードレート」を明らかにすることができます。とくにアテンション計測で重視されるのは、アテンションタイムです。

大野
具体的な計測方法についてご説明ください。
財津
一定数のパネラーから取得したアイトラッキング(視線の動きを追跡する技術)のデータに、広告コンテンツ量、スクロールの速度、クリエイティブフォーマット、広告が表示されていた時間、エンゲージメント率といったデータを掛け合わせるのが、アテンション計測の基本的な方法です。それによって、「このような条件下であれば、生活者は広告を何秒間注視したであろう」ということを推計できるわけです。
大野
日本でもそのような計測手法は実用化されているのですか。
財津
海外では、LumenやAdelaideといったアテンション計測専門のベンダーがサービスを提供しています。しかし、それらの企業の日本法人はまだないので、サービスを利用する場合はグローバル本社と直接やり取りする必要があります。もっとも、国内のDSP(デマンドサイドプラットフォーム)事業者の中にも、独自のアテンション計測ソリューションを開発している企業や、海外ベンダーのサービスを活用してアテンション計測を実施している企業が出始めています。

マルチスクリーン時代に対応するために

大野
アテンション計測に注目が集まっている背景には、どのような事情があるのでしょうか。
財津
宮﨑さんから話があったように、広告が視聴可能な状態にあることを示すビューアビリティという指標がこれまでもありました。また、動画広告を最後まで見た数を示す「完全視聴数」といったデータも使われていました。しかし、それらの指標は必ずしも実視聴を示していないと考えられています。

最近では、マルチスクリーン、もしくはマルチブラウザと呼ばれるコンテンツ接触が常態化しています。例えば、スマートフォンとタブレット端末を見ながら同時にテレビを見る、あるいは、動画プラットフォームで動画や音楽を流しながら、ブラウザでコンテンツを見るといった視聴スタイルです。そのようなスタイルの場合、広告が視聴可能な状態にあっても、実際に視聴されているかどうかはわかりません。
そういった課題に対して、実視聴に近いデータを算出できる手法としてのアテンション計測へのまさにアテンションが高まっていると考えられます。

大野
「一人が視聴できる範囲は限られている中で、デバイスの種類は増えています。
あるいは、1つのデバイスで同時に複数のコンテンツを視聴することも可能になっています。そうなったときに、人はどこを見ているのか。それを明らかにできるのがアテンション計測ということですよね。

アテンション計測の変数の1つであるアイトラッキングデータ自体は、以前から使われてきました。博報堂DYグループは、アイトラッキング測定によって広告がどのように見られたかを検証する取り組みを2000年というかなり早い段階で始めています。しかし、そういった検証は広告キャンペーンが終わったあとや、広告キャンペーンとは関係のない実証実験として行われていました。それに対して現在のアテンション計測は、広告キャンペーンを実施しているさなかにリアルタイムで数値を出すことができて、その数値をもとに広告配信を改善していくことができる。そのような点に新しさがあると言えそうです。

財津
おっしゃるとおりですね。アテンション計測の導入を検討している国内企業も徐々に増えてきていて、海外ベンダーへの日本からの問い合わせも増加傾向にあると聞いています。先ほど名前が出たLumenやAdelaideへの日本からの問い合わせは、2022年時点では私たちのチームだけでした。国内DSPへのアテンション計測に関する問い合わせも、今年に入って昨年比で4倍から5倍に増えているとのことです。博報堂DYグループでも、クライアントのアテンション計測活用を支援する事例がすでにいくつか出てきています。

アテンション計測の2つの活用法

大野
アテンション計測の活用法にはどのようなものがあるでしょうか。
宮﨑
広告のブランディング効果を明らかにする活用法と、クリエイティブ評価のための活用法。大きくその2つがあります。
前者については、「アテンションタイムが長いほどブランディング効果も高い」という傾向があることがわかっています。私たちのチームが取り組んだ案件でも、アテンションタイムの長さとブランドリフトサーベイの値には、正の相関関係があることが明らかになっています。
大野
ブランドリフトサーベイとは、広告キャンペーン後にブランドへの認知度などがどのくらい上がったかをアンケート調査する手法ですね。
宮﨑
そうです。事後的な調査なので、これまでは広告キャンペーン実施中のPDCAサイクルにサーベイの結果を反映させることができませんでした。しかしアテンション計測は、キャンペーン実施中にリアルタイムに数値を出すことができるので、PDCAサイクルをタイムリーに回していくことが可能です。
大野
これまでもデジタル広告には、CPA(顧客獲得単価)などのリアルタイム指標がありました。CPAは獲得型広告に関してはたいへん有効な指標ですが、ブランディング広告に適合する指標ではないと考えられてきました。アテンションタイムという新しい指標によって、ブランディング広告をリアルタイムに最適化していくことが可能になりそうです。
2つ目のクリエイティブ評価についてもご説明いただけますか。
宮﨑
クリエイティブ評価においても、アテンションタイムという指標が力を発揮します。これまで、広告に接触した生活者のマインドシフトに効果のあるクリエイティブを明らかにするには、事後的なアンケート調査などを活用するしかありませんでした。一方、アテンション計測では、「アテンションタイムが長いクリエイティブほど、生活者のマインドシフトに力を発揮する」という傾向が明らかになっています。リアルタイムにアテンションタイムを算出することで、現在配信されているクリエイティブがどれだけ生活者のマインドや行動に影響があるかがわかるわけです。

クリエイティブ、とくに動画広告の場合、目的に応じたストーリーや構成などがすでにある程度体系化されています。しかし当然ながら、クリエイターのアイデアやセンスがブランドリフトに大きく作用する場合も少なくありません。アテンション計測は、後者の解像度を大きく向上させることが可能な手法であると考えられます。

「ポストCookie時代」の広告効果指標

大野
これまでの具体的な取り組みについてお聞かせください。
宮﨑
クライアントのキャンペーンなどで、アテンション計測に何度かチャレンジしてきました。昨年取り組んだのが、今お話ししたようなアテンション計測の手法を使ったクリエイティブ評価です。あるキャンペーンにおいて、複数のクリエイティブフォーマットで広告を配信し、フォーマットごとのアテンションタイムの長さ、ビュードレート、ブランドリフトへの影響、CPAの4つの指標を計測しました。その結果を整理して、そのブランド、あるいはキャンペーンの目的に対して最適なクリエイティブフォーマットが何だったかを検証し、次の展開にいかす道筋をつくりました。
大野
アテンション計測に取り組むにあたって発揮されるHakuhodo DY ONEの強みはどのような点にあると思われますか。
財津
アテンション計測は新しい手法ですが、私たちのチームはすでに複数クライアント、複数メディアでの計測の実績があります。媒体を横断して実際のキャンペーンでアテンション計測を行ったのは、国内では私たちが初めてだと思います。またその過程で、クライアントへの提案、計測実施、レポーティングまでを一気通貫で行うことができる体制をつくりました。さらに、LumenやAdelaideなどの海外ベンダーとのパイプも構築しています。そういった経験値や体制をいかして、クライアントの課題や要望に応じたアテンション計測サービスをご提供できること。その点に私たちの最大の強みがあると考えています。

大野
アテンション計測の手法はデジタル広告だけではなく、マス広告でも活用できると思われますか。
宮﨑
可能性はあると思います。
とくにアテンションタイム計測と相性がいいと考えられるのが、ラジオなどの音声広告です。目で見るメディアの場合、コンテンツが流れていても「見ない」「集中しない」という選択がありえます。それに対して音声メディアには、接触態度の取捨選択が難しいという特徴があります。耳をふさがない限り、音は必ず聞こえるからです。それはすなわち、広告へのアテンションが高くなることを意味します。音声広告の効果をアテンション計測の方法で検証し、広告効果を高めていくといった取り組みも今後はありうると思います。
大野
アテンション計測はこれからどのように発展していくと考えられますか。
財津
これまで、ブランディング広告の効果はほぼ定性的評価しかできず、追求すべき中間指標が曖昧でした。しかしアテンション計測によって、ブランディング広告を数値的に評価することが可能になりました。アテンション計測によって明らかになるアテンションタイムやビュードレートといった指標は、広告効果測定の標準的な要素になっていく可能性があると私たちは考えています。
現在デジタル広告業界では、「ポストCookie時代」の広告効果指標の模索が続いています。新しい広告評価指標が求められている中で、実データで広告効果を評価できるアテンション計測へのニーズは、今後いっそう高まっていくと思います。
大野
最後に、今後に向けた意気込みをお聞かせください。
宮﨑
私たちが最初にアテンション計測に取り組んだのは、外資系のクライアントからのご要望があったからです。グローバル全体の方針に則って、日本でもアテンションタイム計測を実施したい──。そんなご要望でした。そこから、まったく未体験だったアテンション計測へのチャレンジが始まりました。その取り組みを通じて得られたナレッジを博報堂DYグループ全体で共有して、クライアントの広告効果の最大化に寄与していきたい。そう考えています。

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  • 株式会社博報堂DYメディアパートナーズ 
    ナレッジイノベーション局
    ラジオ局のビジネス企画開発部、メディアビジネス開発センター、データドリブンビジネス開発センターなど新規開発系部署を経て、2018年よりナレッジデザイン局(現ナレッジイノベーション局)で主に海外のテクノロジーやメディアにおけるDXを調査。
  • 株式会社Hakuhodo DY ONE 
    ビジネスデザイン本部 デジタル業務ディレクター
    2021年、株式会社博報堂DYメディアパートナーズ入社。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(現Hakuhodo DY ONE)へ出向。
    以降、現在まで外資系クライアントを中心にデジタルメディアのマーケティング、プランニングに従事。
  • 株式会社Hakuhodo DY ONE 
    ビジネスデザイン本部 デジタル業務ディレクター
    2023年、株式会社博報堂入社。デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社(現Hakuhodo DY ONE)へ出向。
    以降、現在までBranding領域を中心に運用型広告のコンサルティングに従事。

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