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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第3回】──CDP活用 成功のカギとは?
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〈マーケティングシステム・イニシアティブ〉の挑戦【連載第3回】──CDP活用 成功のカギとは?

博報堂DYグループの6社からマーケティングシステムのスペシャリスト500人が集結した〈マーケティングシステム・イニシアティブ(MSI)〉の活動をご紹介する連載の第3回。今回は、CDP(カスタマーデータプラットフォーム)などのマーケティングシステム基盤をめぐる企業の課題と、MSIのケイパビリティについて、3人のリーダーに語ってもらいました。マーケティングシステム基盤から生まれる価値を最大化する方法とは──。

上田 周平
博報堂 CRM&システムコンサルティング局
CRM推進グループGM

大谷 俊裕
博報堂 CRM&システムコンサルティング局 兼
博報堂マーケティングシステムズ 取締役 兼 執行役員CEO室長

小山 裕香
Hakuhodo DY ONE
執行役員 兼 TXソリューション本部 本部長

CDPは今、見直しと改善のフェーズへ

──はじめに、「マーケティングシステム基盤」について解説していただけますか。

上田
生活者とのタッチポイントがデジタル化していく中で、顧客データを集約し蓄積するCDP(カスタマーデータプラットフォーム)、またそのデータをマーケティング施策へと展開していく MA(マーケティングオートメーション)、マーケティング効果を可視化するBI(ビジネスインテリジェンス)、掲出するコンテンツをコントロールするCMS (コンテンツ・マネジメント・システム) など、デジタル時代のマーケティング活動に必要なシステム群をマーケティングシステム基盤と呼んでいます。今回は、とくにその中のCDPにフォーカスしてお話をしていきたいと思います。

──企業のCDPの導入や活用の現状についてお聞かせください。

上田
現在、大手企業の多くがCDPを導入しています。しかし、導入したもののうまく活用できていない、あるいはシステムが古くなってきていて改良もしくはリプレイスが必要になっている。そんな課題に直面しているケースが増えています。また、最近はCookie規制が進み、マーケティングにサードパーティデータを活用することが難しくなってきています。それにともなって、企業が保有するファーストパーティデータの重要性が高まっています。その観点から、あらためてCDPの運用や活用を見直したいというニーズもあります。

大谷
CDPという言葉が使われだしたのは2013年頃からですが、顧客データの活用はそれより以前からも行われていました。生活者とのオンラインの接点があるインターネット系企業を中心に、データ活用の重要性が唱えられていたと記憶しています。その後、スマートフォンが普及したり、ECが販売チャネルとして定着していったりする中で、以前はオンラインでの生活者接点がなかった企業も、顧客データを直接獲得できるようになりました。CDP導入が一気に加速したのはその頃からです。その動きが2020年くらいになってひと段落して、この数年はCDPの見直しのフェーズになっています。
小山
一方で、CDPへのデータ統合があまり進んでいないケースも少なくありません。部門ごとのデータ集約は実現していても、それを全社的に一つのシステムで活用することができない。そんな状況をよく見かけます。
大谷
顧客データの活用は必須であるという意識は、現在ではあらゆる企業に浸透していると思います。しかし、方法論が確立していなかったり、最適化できていなかったりするケースも多く見られます。それぞれの課題に応じて、各企業の皆さんが独自に改善に取り組んでいるのが現状ですね。

CDPの導入・活用を成功させるにはどうすべきか

上田
CDPはいわばデータを溜める「箱」です。しかし、溜めること自体が目的となってしまっては意味がありません。データを活用して事業の収益を上げ、企業としての成長を目指していくためのツールとして捉えるべきです。では、具体的にどのようにCDPを活用していけばいいのか。そこで壁にぶつかっている企業も多いと思います。
小山
データを具体的な施策につなげていく道筋をつくらなければならないということですよね。そのためには、データ活用のモデルだけでなく、「どの部署の・誰が・どのように、データを使うのか」といった社内の仕組みを整備する必要があります。場合によっては、これまでのビジネスフローを変えていかなければならないこともあります。
上田
ビジネスフローだけではなく、組織自体を変える必要がある場合もあります。最近では、社内の各部門のデジタル活用を俯瞰して管轄するDX部門を設ける企業も増えてきています。そのような部門がイニシアティブを握ってデータ活用のモデルをつくりながら、各部門のオペレーションをデザインしていくのが理想だと思います。

──CDPの導入や活用の成功ケースと失敗ケースにはどのようなものがあるのでしょうか。

大谷
典型的な失敗例として挙げられるのは、「データ統合に集中しすぎた」ケースです。社内にある顧客データを統括して管理できるのがCDPですが、企業が所有する全てのデータが即座に価値に変換できるわけではありません。しかし、データの包括性にこだわるあまり、ありとあらゆる顧客データを統合しようと考え、その作業にたいへんな手間とコストがかかってしまう。結果、CDPにデータを溜めるプロセスで力尽きてしまい、データ活用まで進むことができない──。それでは本末転倒です。

そのような事態を避けるためには、できるところからデータ統合の作業に着手して、小さな成功を積み重ねていく方法が有効です。その過程でデータを取捨選択しながら、最終的な統合を目指していく。そんな流れをつくるのが望ましいと思います。

小山
成功例としては、先ほど話した「どの部署の・誰が・どのように、データを使うのか」をCDP構築時から想定しているケースが挙げられます。また、CDPの構築がある程度進んでからは、データを活用してゆくための施策リストをつくり、その優先づけをし、施策実行のために必要な要件を整理するといったプロセスづくりも重要です。そのようなプロセスが整備されている企業の多くは、CDPの有効活用に成功しています。
大谷
もう1つ、失敗例としてしばしば見られるのは、マーケティング部門と情報システム部門の連携がうまくいっていないケースです。マーケティングと情報システムは、もともと異なるロジックで動いている部門と私自身は捉えています。マーケティング部門では、施策を実行し、スピーディにPDCAサイクルを回し、施策をブラッシュアップして成果に結びつけていくことが重視されます。それに対して、情シス部門にとって大切なのは、業務要件に沿ったすべての機能を網羅し、安定的に稼働するシステムを十分な時間をかけて構築することです。そのためシステムリリース後のPDCAではなく、事前の設計をとても重要視しています。マーケティング部門には一般に技術のプロはいないので、CDPの構築や活用に関しては情シス部門の力を借りなければなりませんが、しばしば齟齬が生じてしまったという話をよく聞きます。「マーケティングシステム」とひと口で言っても、「マーケティング」と「システム」の間には、本来ギャップがあるわけです。そのギャップを埋めていくことが、CDPの構築や活用においては非常に重要になります。
上田
CDPに蓄積したデータを活用するフェーズで見ると、「失敗を許容する」ことがむしろ成功への近道であると言えると思います。CDPはあらゆることを可能にする「魔法の箱」ではないし、データ自体も「嘘をつく」ことがあります。例えば、ある仮説を立てて、データを使って検証してみたところ、データがすでに古くなっていたりボリュームが少なかったりして、役に立たないというケースが往々にしてあります。その場合は、新しいデータを獲得して、検証しなおさなければなりません。そういった失敗を繰り返しながらデータの活用法をブラッシュアップしていくことで、成功モデルを段階的につくっていく。そんな構えが必要だと思います。

私たちはCDPのプロジェクト全体をデザインしていく

──そうした現状の中で、マーケティングシステム・イニシアティブ(MSI)には何ができるのでしょうか。

上田
CDP活用には、大きく「構想」「実装」「定着化および運用」の3つのフェーズがあります。そのすべてのフェーズをトータルに捉えて、一つの体制で動かしていくことが、CDP活用の成功の条件になると僕たちは考えています。構想の段階から支援させていただいて、クライアントの事業内容や組織のサイズを踏まえた上で、CDP構築の大きな目的とKPI、KGIをクライアントと一緒に考え、プロジェクト全体をデザインし、実行していく──。それが、MSIが目指す支援のあり方です。

──博報堂DYグループでは、これまでもグループ内の各社がクライアントのCDP導入や構築支援をしてきたと思います。MSIという組織体ができたことによって、大きく変わったのはどのような点ですか。

上田
MSIを構成する各社には、それぞれ得意な領域があります。例えば博報堂は、特にマーケティング全体の戦略を踏まえて構想を練るプロセスで力を発揮できます。また、博報堂マーケティングシステムズやDACは、実装の領域を得意としています。同様に、ほかの参加企業もそれぞれに強みがあります。MSIができたことで、各社が得意領域で力を発揮しながら、それぞれを補い合い、CDPの構想、実装、定着・運用の全プロセスにわたってクライアントに伴走できる。それが、MSIという組織体がつくられた大きな意義です。
大谷
MSIの各社がもつ機能には、重なり合っている部分もあります。それを整理しながら、役割分担をしっかりすることで、より効率的に成果を生み出せるフォーメーションをつくることができます。クライアントの課題やご要望に応じて最適なフォーメーションをつくり、CDPに対するクライアントの投資対効果を最大化することがMSIのミッションであると考えています。
小山
MSIは500人規模の専門家集団です。そのマンパワーによってクライアントメリットを追求していけるのも、MSIの大きな特徴です。以前は、それぞれの会社がクライアントからご相談をいただいた場合、マンバワー不足や自社の事業領域外のご相談をいただいた場合、仕事をお受けできないこともありました。しかし、MSIという6社合同の組織体ができたことによって、CDPを始めとするマーケティングシステム全般の案件に常に対応することが可能になりました。

上田
個社でご相談に対応する場合でも、その案件の具体的な内容や成果などをMSI全体でシェアするようにしています。それによって、マーケティングシステムの知見がMSIの共有財産となり、個社やそれぞれのメンバーのスキルが向上していくと考えています。
小山
もう1点、MSIとして研修の機会をメンバーに提供しているのも、重要な点だと思います。マーケティングシステムに関わる広い領域を学ぶことができる研修によって、人材力が確実に底上げされてきています。

──6社横断でクライアントのCDPプロジェクトを支援する場合は、これまでとは違ったアカウントマネジメントやプロジェクトマネジメントのあり方が求められるのではないでしょうか。

大谷
おっしゃるとおりです。一般的なシステム開発は、さまざまなプレーヤーが開発のフェーズごとに役割を分担していくのが普通です。しかし、MSIは構想、実装、運用までをトータルでご支援することを目指しているので、その全体を一気通貫でマネジメントする体制が必要です。その整備を現在進めているところです。
上田
プロジェクトをマネジメントするリーダーに求められるのは、テクノロジー、マーケティング、クライアントの事業のすべてに精通していて、的確な判断力やコミュニケーション力があることです。そういった人材は決して多くはありません。MSIとして、そのようなマネジメント人材をさらに育成していくことを目指しています。

CDPから生まれる価値の最大化を目指して

──今後CDP導入や活用を支援していく際の課題や見通しについて、お考えをお聞かせください。

小山
先ほど大谷さんから、クライアントのCDPへの投資対効果を最大化することがMSIの1つのミッションであるという話がありました。そのミッションを達成するためには、投資額や投資内容の妥当性を私たちがクライアントに示していく必要があります。そのために、プロジェクト全体を財務面でも統括できる体制をつくっていかなければならないと考えています。
大谷
投資対効果の最大化は重要なテーマです。それを実現するためには、クライアントが現在導入しているCDPをコストの面から見直す必要があります。例えば、CDPを導入したけれど、その機能の1割しか使っていない。そんなケースもよく見られます。機能を1割しか使っていなくても、コストは残りの9割の部分にもかかっています。つまり、CDPがオーバースペックになると、余計なコスト負担が発生してしまうということです。僕たちができるのは、データ活用に関するクライアントのニーズや課題を整理して、システムをそれに見合った形に改めることによってコストバランスを最適化していくことです。今後は、そのようなご支援にも注力していきたいと思っています。

それから、これも先に話の出たマーケティング部門と情シス部門のギャップの調整もぜひお手伝いさせていただきたいですね。プロジェクトの中で両部門のベクトルをうまく合わせていくことができれば、CDPの構築や運用は格段にスムーズになるはずです。

もう1つ、僕たちが忘れてはいけないのは生活者視点です。データを活用したマーケティングは、数値的な成果が重視されるあまり、「生活者に届けるべき価値は何か」「企業と生活者の関係はどうあるべきか」といった観点から離れてしまう危険性があります。博報堂のフィロソフィーでもある生活者発想を念頭に置き、マーケティングの本来の目的に立ちかえって、クライアントのCDP運用やデータ活用のあり方をともに考えていく。そんなスタンスを大事にしたいですね。

上田
僕からは2つあります。まずクライアント支援という点では、CDPのデータ活用について、博報堂グループの強みで価値をさらに大きくするお手伝いをしたいと思っています。例えば、データをもとにして新しいCX(顧客体験)を設計する場合には、MSIのメンバーのスキルに加えて、グループ内のクリエイティブのメンバーの力を借りることができます。また、CDPのデータはマーケティングの以外の用途でも活用することが可能です。例えば、データから需要予測をして生産管理の方法を改善するといった使い方も大いにあり得ます。そのようなデータの有効活用の道筋をつくる際にも、MSIのメンバーのアイデア力がいかされます。

CDPをはじめとするマーケティングシステム基盤の最適な使い方は、企業ごとに異なります。クライアントに寄り添いながら、技術力、アイデア力、クリエイティビティを駆使して、CDPから生まれる価値を最大化していくことをご支援したいと考えています。

一方、MSIの内部での取り組みとしては、500人のメンバーのそれぞれがスキルや専門領域を「越境」していくことのできる環境を整備していくことを目指します。自分ができることを増やしていけば、力を発揮できる場面がどんどん広がって、仕事はどんどん面白くなっていくはずです。そして、それは必ずクライアントのメリットにつながっていくはずです。MSIのポテンシャルを伸ばしていくことで、クライアントのマーケティングシステム基盤活用を確実に成功に導いていきたい。それがこれからの大きな目標です。

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  • 博報堂 CRM&システムコンサルティング局
    CRM推進グループGM
    SI企業を経て、2005年よりマーケティングシステムのプロデュース、プロジェクトマネジメントに従事。2018年博報堂入社。企業のマーケティングDX/デジタルマーケティング実行へのコンサルティング~システム導入~運用までシームレスに支援。
  • 博報堂 CRM&システムコンサルティング局 兼
    博報堂マーケティングシステムズ 取締役 兼 執行役員CEO室長
    複数の企業でデータアナリスト・データサイエンティストとしてデータ分析・データ活用・データ基盤構築のプロジェクトを経験し、2022年に博報堂に入社。マーケティング領域のシステム開発 / コンサルティングに従事。エンジニアリングとビジネス両面の経験から価値創出を行えるのが強み。
  • Hakuhodo DY ONE
    執行役員
    兼 TXソリューション本部 本部長
    インターネット専業広告代理店を経て、2007年博報堂DYグループ(現:Hakuhodo DY ONE)入社。運用型広告、ダイレクトマーケティングなど、大量のデータを継続的に取り扱う部門での経験を通してオペレーションフレームワークの構築や社内外の組織へのシステムの導入を多数経験。現在は、博報堂DYグループのデジタルコア新会社であるHakuhodo DY ONEにて、クライアントへのSalesforceなどのマーケティングシステムやCDPの開発・導入・活用支援を行う組織のマネジメントを行う。