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web3と博報堂の未来#3 「NFTで生活者の行動がどう変わるのか?」
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web3と博報堂の未来#3 「NFTで生活者の行動がどう変わるのか?」

連載企画「web3と博報堂の未来」のVol.3では、「NFTで生活者の行動がどう変わるのか?」をテーマに、NFTマーケットプレイス「TofuNFT」のBizDevを担う山田浩也さんを迎え、博報堂キースリー取締役COOの寺内康人とシニアプロジェクトマネージャーの彌重向太郎を交えたクロストークを行いました。
過去の連載記事はこちら→Vol.1 Vol.2

「投機目的」から「IPやコミュニティ」として注目されるNFT

──はじめにNFTとは何か、どんな可能性があるのかについて、あらためて伺えればと思います。

寺内
NFTとは「何かを証明する」手段として捉えていて、要は一種の新しいテクノロジーなので、NFT自体には価値がないわけです。コレクタブル(収集品)や保有者に実用的な価値を与えるユーティリティなどもありますが、博報堂キースリーではNFTを「生活者との関係性を創る手法」として認識しています。

サービスやプロモーション、マーケティングなど、あらゆる視点から生活者と企業の関係性を考える際、今まで可視化できなかった生活者の行動や想いを、NFTという手段を用いることで表現できるのではと考えており、そのプラニングを博報堂キースリーで行っています。

山田
COINJINJAが提供するtofuNFTは、30以上のチェーンに対応しているNFTマーケットプレイスで、世界3位の出来高を持つ「X2Y2」というNFTマーケットプレイスと技術面・事業開発面で協業しています。
これまではゲーム系のNFTの取引が多くを占めていて、1万以上のNFTプロジェクトと提携してきた実績があります。
法人向けには、プロダクトの開発および運営の知見を生かし、NFT関連事業の立ち上げを開発面でサポートする事業を展開しています。

──現在、主なNFTマーケットプレイスはどのようなものがあるのでしょうか?

山田
CtoC(個人間)でNFTを売買できるNFTマーケットプレイスは、2018年ごろから登場していて、投機目的でNFTの売買を最適化した「トレーダー向けマーケットプレイス」と、各ジャンル毎のNFTに特化した「ジャンル特化型のマーケットプレイス」、ブランドや特定のNFTプロジェクトに紐づいた「独自マーケットプレイス」の3つに大別されます。

加えて、既存の顧客基盤を持つ大手企業が独自でNFTマーケットプレイスを持つ事例も増えてきていています。
大手企業が独自でマーケットプレイスを開発する理由として、サードパーティー連携する際に他社のマーケットプレイスに依存せず、ロイヤリティ手数料をしっかり確保したいこと、そして自社のブランドの世界観を維持したいことなどが挙げられます。

──NFTにおける最近のトレンドやユースケースについて教えてください。

彌重
SNSのアイコンに設定できるPFP(Picture For Profile)系のNFTは全体として縮小傾向にあると思っています。その一方で、各プロジェクトではコミュニティを盛り上げるために、コミュニティ内での貢献度をスコア化してトークンを発行したり、リアルイベント参加や購入などのアクティビティをDynamic NFT(動的に変化するNFT)で表現したりするなど、さまざまな試みが繰り返されています。

投機目的でNFTに参入していた人が去った今、本当にファンが付いているNFTが残ると思っていて。今後はNFT自体がIP・ブランド化していき、金融商品というよりもファンコミュニティとしてNFTプロジェクトを応援する、IPを育てていくフェーズに差し掛かっているという所感を抱いています。

山田
NFTにおけるトレードボリュームはPFPが多くを占めていますが、各事業者はコミュニティの熱量を上げるための施策を考え、いろいろと取り組んでいるような状況です。コミュニティ内でのロイヤリティをいかに可視化できるかという観点から、リアルイベントや貢献に応じた格付けなどを行い、ファンのエンゲージメントを高めるための実験をしている段階だと思いますね。
他方で“脱PFP”の流れとして、大手企業やブランドの参入は大きなインパクトがありました。
アメリカの掲示板型ソーシャルニュースサイト「Reddit」が出したCollectible Avatarsは、アバターをNFTではなくデジタルコレクタブルと呼び、クリプトネイティブ層以外の新規ユーザーを多く取り込むことに成功し、1,120万個のNFT、750万人のホルダーという成果を出しました。
そのほか、ロイヤリティプログラムやメタバース、フィジタル(フィジカルとデジタルの造語)など、多くの実験的な要素を組み合わせながら、デジタルアイテムとして各ブランドの立ち位置を築こうとしている動きがあります。
寺内
博報堂キースリーでは、企業のブランドや商品、アセットがNFTと紐づき、顧客に対して新たな体験価値や付加価値をつけることが可能だと考えています。

山田さんにお聞きしたかったのは、企業のEC活用の流れと同じように、ECプラットフォームから自社ECに切り替えたり、企業によっては上手く使い分けをしていたりと、NFTマーケットプレイスも同じような路線をたどるような気がするのですが、その辺いかがでしょう?

山田
自社のマーケットプレイスのメリットは、サードパーティーリスクに晒されないことが大きいでしょう。
現在、主要なNFTマーケットプレイスは、トレーダーファーストにするために、NFTプロジェクトを手がける事業者が受け取れるロイヤリティ(印税)のフィーを下げる傾向にあります。
その為、ビジネスとして継続的に収益を確保する為に、独自でNFTマーケットプレイスを持ちつつ、ロイヤリティが保証されるマーケットプレイスにのみ外部出品を許可する、というような方針を持つプロジェクトも増えてきています。
挙げていただいたEC活用の例と近く、上手く使い分けをするような事業者が増えていくのでは、と考えています。

大手企業がweb3に参入し、NFTを活用したユースケースが増えている

──tofuNFTで用意しているソリューションについて具体的に教えていただけますか?

山田
グローバルでNo.1のNFTマーケットプレイスを目指していくなかで、ブロックチェーンゲームなど、あるドメインに特化したものを作っていくわけではないので、各領域で強みを持つ企業と連携していきながら進めていくことを考えています。
既存で事業アセットを持ちつつ、web3領域への参入を考えている企業に向けて、独自のNFTマーケットプレイスの構築やDapps(分散型アプリケーション)の開発支援、事業成長支援で貢献していきたいですね。

──web3は動きが非常に速い業界ですが、NFTは今後どうなっていくと考えていますか。

山田
未来を予測することは非常に難しく、何も保証はできませんが、あくまで我々がどのように考えているかをお話したいと思います。

「暗号資産の冬(クリプト・ウィンター)」と呼ばれ、全体的にNFTの取引高は落ち込んでいますが、アクティブユーザーや開発者の数は減っていないんですよ。むしろ、着実に伸びてきている指標も出ている。
これはweb3以外の事業アセットを持つ大手企業がweb3に参入してきていることもあり、「次のバブルに向けて仕込む時期」と捉えている人が多いのが一因だと考えています。
現在の冬の時代は、多くのプレイヤーがさまざまなユースケースの発展を見据えた企画・開発に注力している時期でして、我々が見ているユースケースをお話すると、まずは現物アイテムと紐付けるNFT(フィジタル)です。
例えば、ブランドバッグなどを指定の倉庫に送るとNFTが発行され、2次流通を経た後にNFTをBurn(NFTを永久的に削除することの意)することで倉庫にあるブランドバッグを手に入れられるなどが考えられます。
今までは非公式に2次流通市場ができ上がっていた現物アイテムも、NFTを使うことで流動性の大幅な向上はもとよりロイヤリティによる収益性の向上やユーザビリティ、トレーサビリティの向上など、事業者・ユーザー共にメリットが大きくなるでしょう。

彌重
私が着用しているパーカーもフィジタルアイテムなんです。VERBALさんが手がけるアパレルブランド「AMBUSH」と世界的に人気が高いNFTプロジェクト「Azuki」がコラボしたもので、袖のところにNFTチップが埋め込まれていて、この服自体が本物かどうかを証明することができます。

さらに、自分が保有するNFTのAzukiにこの服をデジタルアイテムとして着せることも可能で。自分だけのオリジナルNFTに仕立てられるため、さらにブランドが好きになり、エンゲージメントが高くなっていく仕組みになっているんですよ。

山田
続いてはチケット系NFTです。これはライブイベントの入場券をNFT化することで、プログラマブルな2次流通市場の形成、ダイナミックプライシングなどがより進展してくるのではと思っています。
そして、NFTを活用したロイヤリティプログラムの領域にも注目しています。ブランドの認知拡大やエンゲージメントの向上、デジタル上での証明書やアセットを与えることで、顧客のロイヤリティを高めるような取り組みで、新たなブランドのタッチポイントを増やしたり、付加価値を見出したりすることを考える企業にとっては、非常に関連性のある領域となっています。
以上のように各プレイヤーが今、あるいはこれから準備、企画していくことで、今後NFTの新しい使い方や体験を切り開いていくのではないでしょうか。

NFTとのコラボは生活者と企業の新しい関係性を生み出す

──NFTプロジェクトとはどういうものがあり、既存のIPと何が違うのでしょうか。

彌重
私が思うに「スモールIP市場」が形成されたと感じています。影響範囲は小さいものの、コミュニティの熱量がものすごく高く、そこから大きなムーブメントを起こす力が備わっていると思っています。
IPが大きくなれば制約も出てくるので、そのぶんコラボの実現はハードルが高くなりますが、NFTに関しては今のフェーズだとその価値が上がることで、FloorPrice(フロア価格、マーケットプレイスに出品されているNFTの最低価格)も上がるような副次的な効果があるため、既存のIPと比べてNFTは企業コラボに積極的なんですね。
今の時代は“推し文化”が浸透してきているので、インフルエンサーもフォロワー数ではなく、いかにコアなファンを持っているかが重要になってきている。
寺内が前回の連載で話していたカルビー「じゃがりこ」の事例は、ベリーロングアニマルズというNFTのIPを使って、商品紹介ではなくNFTとコラボしたことでSNSで話題化することができました。
ベリーロングアニマルズはファンの密度が濃く、熱量が高いので、既存の施策に比べても広告効果を高く出せたのではと個人的に思っています。

──博報堂キースリーのweb3事業推進力と、tofuNFTのマーケットプレイス構築力を組み合わせてできる価値提供はどのようなものがあるとお考えですか?

彌重
企業の持つブランドやサービスとNFT発の人気IPをコラボしていくソリューション「KEY3 IP Lab.」を開発しました。

KEY3 IP Labは「企業の商品とNFT発のIPが共創するweb3 IPコラボレーション」を実現します。NFT発IPとは、NFTをきっかけに誕生した様々なプロジェクトを指すのですが、その特徴は既存IPと比べ、1つ1つのIPの影響範囲は数万人規模と小さくとも、圧倒的な熱量のファンコミュニティが出来上がっていることにあります。推しの分散化がトレンドとなっている今の世の中で、NFT発IPの活用はまさに適切なソリューションたと考えています。具体的には、
・企業企業商品のブランディング / 販促でのIP活用企業
・NFT IPとの共同商品開発
・NFT IPとのコンテンツ開発

といったメニューを用意しており、弊社で手掛けたカルビーさんのじゃがりこ&ベリロン(NFTプロジェクト)のコラボNFTやスニーカーもこのIPを有効活用した施策と言えます。
NFTを活用した施策に興味があれど企業は「自社の商品やコンテンツにどのNFTを、どのような形で活用すれば良いかわからない」という課題がある中、
企画開発設計から、適切なNFTプロジェクトの選定などを博報堂キースリーで行い、そこにtofuNFTさんの開発力やシステム運用の知見も併せながら、NFTに取り組みたい大手企業を支援していく体制を整えていきたいですね。

ここで肝になるのが「1回だけで終わらせない」ことです。

単にNFTを配布するのではなく、その先のサービスの設計やユーザー体験を考え、ブランドとの接点を多く持てるような顧客体験を作ることが大事になってきます。
企画やマーケティング面に関しては博報堂キースリーが得意領域ですので、開発面でサポートしていただくtofuNFTさんと連携しながら、NFTを活用したソリューションを提供していきたい。
実際に想定している例として、toC向けのハイブランドはブルーチップNFT(価値の高い、成長性に優れているNFT)と相性が良く、お菓子や飲料、化粧品といった消費財は熱量の高いNFTプロジェクトが、親和性が高いと思っています。
どんなに開発費をかけて新商品を作ったり、デジタル予算を積んでマーケティングを行ったりしても、結局はブランドへの愛や熱量に尽きるわけで。
そういう意味でも、NFTとのコラボはファンの裾野を広げるひとつの手段として有用なのではと考えています。

寺内
web3では企画や構想が肝になりますが、加えて、事業を推進する基盤としては思い描いたことをシステムで実装する開発力も大事な要素で、その辺りはtofuNFTさんと連携することで実現していきたいですね。
彌重
NFTを掛け合わせると、新しい関係性が生まれる。そう考えています。
NFTを買うことで、自然と仲間意識が芽生え、深い繋がりが築けるんです。私自身、NFTを持っているのは簡易株式を所有しているようなイメージなんですよ。株を買う場合は何百万円もする場合もありますが、それがもっと民主化して一口数万円~数千円でNFTプロジェクトの仲間になれるわけです。同じNFTを持っている同士だからこそ、一緒にプロジェクトを盛り上げようと、結びつきや交流が深化していくんですね。
山田
好きなもの、興味あるものをデジタル上で共有できるのは、NFTのユニークなところです。
博報堂キースリーさんの知見やネットワークを生かし、企業のweb3進出や新しい形での顧客ロイヤリティの向上など、これからもユースケースを生み出していきたい。特に我々は、開発や技術面で補完していきたいと思っています。

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  • 山田 浩也
    山田 浩也
    株式会社COINJINJA
    Biz Manager/ 執行役員
    外資系IT企業、Web3スタートアップを経て、22年COINJINJA入社。
    NFTマーケットプレイスtofuNFT/X2Y2にてグローバルNFTプロジェクトとのアライアンス業務に従事すると共に、国内法人様向け事業のマーケティング、アライアンス業務を管掌
  • 博報堂キースリー
    COO / 取締役
    デジタル専業代理店、外資系広告会社を経て、14年博報堂入社。
    多くの企業のDX関連業務のプロジェクトマネジメントを経験し、KEY3の立ち上げに参画。
  • 博報堂キースリー
    シニアプロジェクトマネージャー
    大学時の起業を経て、デジタル系広告代理店へ入社。内定者時代より子会社代表としてライブ配信事業を運営。その後人材系大企業にて戦略設計、新規事業開発に携わる。独立起業後、web3新規事業開発、NFTやBCGの開発を行う。2023年3月より現職。