デジタルマーケティングの最前線 【博報堂デジタルイニシアティブの挑戦 Vol.3】 リターゲティング広告の新しい手法──「ユニバーサルID」の可能性
「Cookieレス」が段階的に進んでいる中で、主にサードパーティCookieを活用してきたリターゲティング広告の効率がその影響を受けつつあります。今後、サードパーティCookieが完全に使えなくなると、これまでとは違った方法論を確立する必要があります。では、考えられる新しい方法論とはどのようなものなのでしょうか。「ユニバーサルID」を活用したリターゲティング広告配信の可能性について、博報堂デジタルイニシアティブ(HDI)のメンバーに解説してもらいました。
吉田 瑞基
デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/博報堂デジタルイニシアティブ
ビジネスデザイン本部 ダイレクト営業局
リターゲティング広告は配信できなくなるのか
──デジタルマーケティングにおける「Cookieレス」の影響をあらためて整理していただけますか。
- 吉田
- サードパーティCookieは、Apple社のiOSではほぼ使えなくなっており、GoogleのブラウザであるChromeでも2024年には利用不可となる予定となっています。これまでサードパーティCookieは、主にリターゲティング広告配信に使用されていました。Webサイトを1度訪れた人に対して広告を配信する手法です。リターゲティング広告は、非常に精度が高く、広告の投資対効果も高いので、デジタルマーケティングを行う企業にとって定型の広告配信手法として定着していました。サードパーティCookieが使えなくなるということは、その手法を見直さなければならなくなることを意味します。
──リターゲティング広告配信の効率はすでにその影響を受けているのでしょうか。
- 吉田
- iOSのユーザーに対するリーチが難しくなっているという点では、一部効率は落ちていると言えます。iOSユーザーへ従来のリターゲティング配信ができず、これまで効率的に獲得できていたユーザーへの機会損失につながります。オンラインでのビジネスをメインにしている企業にとっては、リターゲティング広告の機会損失が売り上げにも影響します。実際、リターゲティング広告によってコンバージョンを実現してきたクライアントの中には、デジタルマーケティング全体の方向性を考え直さなければならないといった危機感を抱いていらっしゃる企業もあります。
サードパーティCookieの代替手法とは
──サードパーティCookieの活用に代わる新しい方法はあるのでしょうか。
- 吉田
- 考えられる代替手法はいくつかあります。大きくは4種類あると考えられます。
1つは、その生活者が興味をもっていそうなワードが出てくるコンテンツに対して広告を配信していく「コンテクスチュアルターゲティング」です。
これは、コンテンツの「コンテキスト(文脈)」を読み取って分析し、その内容に合わせて広告を配信するターゲティング手法です。一般に、生活者は現在閲覧しているページのコンテンツ内容に興味があると考えられます。そこで、そのコンテンツに関連性の高い広告を表示させるわけです。「人」ではなく「面」に対して配信する広告手法と言われます。
2つめは、「クラスター活用」と言われる手法で、一人のユーザーを特定するのではなく、ユーザーを「群」として捉え、その群に属する生活者に対して広告を配信していくものです。メリットは多くの広告を配信できることで、デメリットは「個」に対する広告配信である従来のリターゲティング広告に比べて精度が落ちることです。
残りの2つは、「ID」を活用する方法です。
リターゲティングに使えるIDには「確定ID」と「類推ID」の2つがあります。確定IDとは、ハードシグナルと呼ばれる個人情報をもとに、生活者の同意を取ったうえで生成するIDを意味します。この場合の個人情報とは、メールアドレスや電話番号などです。例えば、会員登録をするときには、メールアドレスの入力が必要ですよね。その際に広告配信の同意を取得しておけば、そのユーザーに対する広告配信は可能になります。配信先となる媒体等でユーザーが登録したメールアドレス、同じく広告配信に対する同意取得済みのメールアドレスと突合することで、先ほどの会員登録済みのユーザーと同じユーザーであることがわかるので、その結果をもとにIDを生成します。 そして、そのIDに対してリターゲティング広告を配信していく。それが確定IDの使い方です。
一方の類推IDは、ソフトシグナルと呼ばれる個人を特定しない情報、例えばPCのIPアドレスなど複数の情報をもとに生成したIDを意味します。複数情報の条件が同じだから同じ生活者だろうと類推してIDをつくるわけです。ファーストパーティーCookieを使用してID生成を行うものになる為、サイト上のプライバシーポリシーにおいて利用目的の明記とオプトアウト導線の設置を行うことが望ましいです。
この2つのIDを総称して「ユニバーサルID」といいます。
OSやプラットフォームの壁を越えて使えるIDということです。確定IDは、個人情報に基づいたIDなので、広告配信の精度は非常に高くなるのですが、メールアドレスが取得できて、かつ同意を得られなければ使えません。それに対して類推IDは、精度は落ちてしまいますが、ユーザーを類推した形でのコミュニケーションができ、広告配信のボリュームも期待できることが大きなメリットです。今後の活発に活用されていくのではと考えています。
ユニバーサルIDを活用した最初の成功事例をつくりたい
──IDを提供するのはどのようなプレーヤーなのですか。
- 吉田
- ID生成の仕組みをサービス化しているプレーヤーがすでにいくつかあります。博報堂DYグループでも、DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)が自社のDMP(データマネジメントプラットフォーム)である「AudienceOne🄬」を使ったIDの仕組みを開発しています。
──ユニバーサルIDを使った広告配信に課題があるとすれば、どのような点ですか。
- 吉田
- 大きな課題は「広告効率面」です。
類推IDを使った広告配信の効率を向上させるには、生活者をできるだけピンポイントで類推する精度を上げていく必要があります。そこは技術面での課題になるので、我々としてはできるだけ精度の高いソリューションをクライアントにご提案できるよう、常にアンテナを張っておく必要があります。もちろん、弊社のAudienceOne🄬IDの精度を上げる取り組みも進めていきます。
──新しいリターゲティング広告の展開においてHDIができること、やるべきことは何ですか。
- 吉田
- 先ほど申し上げたように、最先端のソリューションをとりわけ国内外から導入する努力を続けることが1つです。海外のテクノロジーベンダーの中には日本市場の開拓を目指している企業も少なくありません。優れたソリューションをもつベンダーとのコネクションを作り、我々がハブとなって、日本のクライアントに最新・最適なソリューションを適宜ご提案していく。そんな形をつくれるのが理想的だと思います。
もちろん、ソリューションを見つけて提供するだけでは十分ではありません。重要なのは、そのソリューションを実際に使って、ナレッジを蓄積していくことです。ソリューションをどう活用すれば、どのような広告効果を得られるのか。その方法論を確立するところまで、クライアントに伴走していくことが僕たちの役割であると考えています。
──サードパーティCookieが完全に使えなくなる2024年まで、それほど時間はありません。それまでにリターゲティング広告の新しい方法論を確立する必要がありますね。
- 吉田
- そのとおりです。別の見方をすれば、確立した方法論はまだないので、この領域はまったくのブルーオーシャンであるとも言えます。果敢にチャレンジして「勝ち筋」を見極めたプレーヤーに先行者利益がもたらされる。そう考えれば、非常に挑戦しがいがあると思います。ぜひ、クライアントの皆さんとともに最初の成功事例をつくっていきたいですね。
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デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)/博報堂デジタルイニシアティブ
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