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「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.1】博報堂が「デジタル田園都市国家構想」に参画した意味とは
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「社会課題解決プロジェクト」が目指すもの【Vol.1】博報堂が「デジタル田園都市国家構想」に参画した意味とは

富山県朝日町で公共交通やまちづくりの課題解決に取り組み大きな成果を上げてきたメンバーが、新しいプロジェクトに着手しました。それが「生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクト」です。このプロジェクトの最初の大きなチャレンジが、内閣官房や内閣府が推進している「デジタル田園都市国家構想」への参画でした。この挑戦の意義やビジョンについて、プロジェクトを牽引する3人のメンバーに語ってもらいました。
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官・民・住民が手をつないで地域の課題を解決していく

堀内
僕たちはこれまで、富山県朝日町における地方課題を解決するために、公共交通サービス「ノッカルあさひまち」や、ポイントの仕組みを使って住民の皆さんの移動、商業、健康を活性化させるプラットフォーム「ポHUNT」といった試みにチャレンジしてきました。その経験をさらに広い社会課題解決にいかしていくために新たに立ち上げたのが、「生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクト」です。

「ノッカル」は、自家用車を保有している地域住民がドライバーとなって、同じ地域の住民の移動を手助けする新しい形の公共交通サービスです。ノッカルがもたらしたインパクトは僕たちが考えていた以上に大きく、100を超える地方自治体や企業からお問い合わせをいただきました。人口減少をはじめとする日本の課題は、地方において特に顕在化しています。朝日町での取り組みを続けながら、日本全国のさまざまな地方課題を解決する汎用的なモデルをつくっていくことがこのプロジェクトの大きな目的です。

畠山
プロジェクトのベースにある思想は、博報堂が一貫して掲げてきた「生活者発想」です。生活者の視点に立って、どう社会課題を解決していくか、どうやって一人ひとりの生活者を豊かにしていくか──。その考え方を中心において、ゆくゆくは博報堂DYグループ横断でこのプロジェクトを進めていきたいと考えています。

このプロジェクトは「社会課題解決」を謳っていますが、単なるCSR活動ではありません。博報堂では「生活者発想」でさまざまな新しい市場を作る取り組みをしています。社会のさまざまな課題を解決し、生活者を豊かにしていく活動が結果的にビジネスにつながること。社会的インパクトと経済的インパクトの両方を実現すること。それを僕たちは目指しています。

堀内
生活者発想とは、単に生活者中心に物事を考えるだけでなく、生活者と一緒に新しい価値を生み出していくことだと僕たちは捉えています。「ノッカル」や「ポHUNT」、そしてその延長線上にあるこのプロジェクトが、博報堂と地方行政が協業するだけでなく、地域住民の皆さんに参加していただく共助・共創モデルを構築しているのはそのためです。
畠山
人口が減っていくこれからの日本は、人々がともに助け合う共助型社会を目指していく必要があります。しかし、それを実現するのは簡単ではありません。日本各地で共助型社会をつくっていくには、一人ひとりの生活者が共助に取り組むきっかけを得て、そのメリットや楽しさを実感してもらい、その取り組みが自分たちの幸せや豊かさに確実につながるという手応えをつかんでいただくことが必要です。その道筋をつくる試みが「ノッカル」や「ポHUNT」であり、これから僕たちがチャレンジしようとしている新しいサービスです。
古矢
重要なのは、そのような道筋を「構想」するだけではなく、仕組みやサービスを地域に根づかせていくこと、つまり「社会実装」することです。システムやサービスという具体的なアウトプットを生み出し、それを実装し、さらに運用まで責任をもって設計できるのが博報堂の強みであると考えています。

デジタル田園都市国家構想における3つの取り組み

堀内
この社会課題解決プロジェクトの最初の本格的な取り組みが、「デジタル田園都市国家構想」への参画です。この構想は内閣官房や内閣府が昨年発表したもので、日本全体でDX(デジタルトランスフォーメーション)を進め、地域の過疎化、高齢化、インフラの老朽化、生活環境の悪化といった課題を解決していくことを目指しています。
古矢
デジタルの力を使って、全国の街やインフラをアップデートしていく。それがデジタル田園都市国家構想の目標です。僕たちは、この構想の担い手の公募に朝日町と一緒に応募して、無事採択されました。採択の形には、大きく3つの種類があります。「type1」は地域においてすでに実現しているベストプラクティスを全国に横展開する取り組み。「type2」は新しいサービスやソリューションを開発して、それを広げていく取り組み。そして「type3」は、type2を早期に実現すること。具体的には2022年度中の実現を目指す取り組みです。僕たちが選ばれたのは「type3」です。
堀内
支給される予算額が最も大きく、そのぶんハードルも高いのが「type3」です。日本全国で採択されたのは、僕たちを含め6件のみです。
古矢
デジタル田園都市国家構想において僕たちが進めている活動は、大きく3つの柱からなっています。まず、これまで取り組んできた「ノッカルあさひまち」と「ポHUNT」をより多くの住民の皆さんに利用していくただく仕組みづくりが1つ。それから、地域住民同士で相互に教え学び合う「共教育サービス」の開発が1つ。もう1つは、データを活用して地域の皆さんの安全運転を支援する「グッドラチャレンジ」というサービスの開発です。

ノッカルあさひまち

この3つは別々の取り組みに見えますが、根底に共通してあるのは「共助・共創」の考え方です。いずれも、官、民、住民が一体となったまちづくりの活動の一環であり、それぞれの取り組みは匿名のデータによってつながっています。僕たちが得意とするデータ活用によって、サービスの質を高め、地域の生活者がより楽しく、より豊かになる仕組みを、生活者と一緒につくっていくことを僕たちは目指しています。

畠山
3つの取り組みの背景には、「お互いさま」に代表されるのコミュニティ文化を守っていかなければならないという僕たちの強い思いがあります。共助型社会とはすなわち、「お互いさま」の思想で人々が結びついているコミュニティ社会です。それが実現すれば、大きなコストをかけずとも、豊かで持続性のある生活が実現する。そう僕たちは考えています。
堀内
「コスト」はとても重要な視点ですよね。例えば、これまでは地域交通を維持するために多くの税金が投入されてきましたが、今後人口が減少し、納税者が減っていくことを考えれば、多額の税金の投入を前提とした公助モデルを変えていかなければなりません。そのためには、住民の支え合いも含めた共助によって地域生活を成り立たせることが必要になります。そして、その意識を住民の皆さんにもっていただくには、前向きに楽しく共助に取り組める仕組みが求められます。僕たちがこのプロジェクトで実現したいのは、地域の地域による地域のための共助型サービスです。

畠山
これまでの日本社会では、「公共」とは自分たちではない誰かが担うものと考えられてきました。しかし今後は、自分たちの幸せや豊かさは自分たちでつくっていかなければなりません。しかし、それが強制的なものになってしまったら、決して長続きはしないはず。楽しく、便利で、近隣の仲間から「ありがとう」と言ってもらえる。そういう仕組みが持続可能な共助のベースになるのだと思います。
古矢
まさしく、長続きする仕組みを地域の生活者の視点に立って考えて、それを生活者と一緒に運用し、育て、地域に根づかせていくことが、僕たちが目指すところです。僕たちは、システム開発やコンサルティングサービスの専門事業者ではありません。しかし、「生活者視点に立つ」という点においてはプロフェッショナルであるという自負があります。生活者視点に立った持続的な共助の仕組みをつくって長く運用していくことが僕たちの役割です。デジタル田園都市国家構想では今年度中に成果を出すことが求められていますし、もちろんそれに全力で取り組んでいます。しかし、僕たちと地域の皆さんとの関係がそこで終わるものではないということは強調しておきたいですね。

地域からイノベーションを生み出していく

畠山
博報堂が一貫して掲げている「パートナー主義」。それもまた、この取り組みの根幹にある思想の1つです。僕たちは、朝日町を世界のイノベーションのショーケースにしたいと考えています。そう言うと非常に大げさに聞こえますが、イノベーションとはすなわち「集合知による新しい価値の創出」のことです。そして、その基盤となるのがパートナー主義です。官、民、住民に加えて、社会課題の解決を企業活動の1つの柱としていきたいと考えている世界中のプレーヤーをパートナーとし、多様な知を地域に集結させて課題解決に継続的に取り組み、同時に収益性を確立することができれば、朝日町を世界最先端のショーケースにすることも夢ではありません。

堀内
そのようなパートナーシップを推進するために、僕たちはさまざまな企業の皆さんと社会課題解決の方法について考える「社会イノベーションプログラム」も運営しています。まずは朝日町というフィールドでこのプログラムに一緒に取り組んでいただき、それをほかの地域にも広げていきたいと考えています。
古矢
もちろん、朝日町における成果を単純にほかの地域にそのまま流用していくということではありません。それぞれの地域には、それぞれの文化があり、課題があります。そのそれぞれに最適化した形で仕組みやサービスをつくっていくことが大切です。朝日町で展開しているサービスを支えるシステム設計に柔軟性をもたせているのは、地域ごとの最適化を可能にするためです。
畠山
つけ加えるならば、「朝日町で成果が出たから、次の場所に行く」ということでもありません。繰り返しになりますが、重要なのは継続性です。仮にその地域における1つの課題が解決したとしても、次に解決しなければならない課題は山のようにあります。だからこそ、1つの地域にしっかり根を下ろし、継続的にさまざまな課題解決に取り組むことが必要なのです。その「継続的モデル」自体をほかの地域に活用していきたいというのが僕たちの思いです。

広告会社は、これまでは一つの商品やサービスを一定期間注力する「単発プロモーション」を多く行ってきました。1つのプロモーションの成果を最大化し、それが終わったらミッションは終わる。そんな、いわば「点のビジネス」が主要なビジネスモデルでした。もちろん、そのようなクライアントニーズは今後もあるでしょうし、それに対してはこれまで同様真摯に全力で対応いたします。しかし、そのビジネスモデルだけでは今後の僕たちのビジネスは成立しなくなると考えています。「点」から「線」へ、「線」から「面」へ。つまり、単発型のモデルから、継続的で広がりのあるモデルへ。それが、今後博報堂が目指すべき方向性の1つであると考えています。

社会課題解決をビジネスにする新しいモデルを

堀内
デジタル田園都市国家構想の取り組みでは、マイナンバーも積極的に活用していきたいと考えています。マイナンバーで個人認証をしたり、電子決済を行う仕組みを使えば、お金を払う方ももらう方も手間がかからないし、個人認証が確実にできるので双方に安心感が生まれます。さらにマイナポイントと連動した地域通貨を導入するアイデアもあります。
古矢
個人情報への配慮はしつつ、マイナンバーの仕組みをうまく使うことで、データを収集してサービスの利便性を上げていくことも可能ですよね。
堀内
例えば、「ノッカル」は現在延べ2500回程度の利用回数があります。データからその利用状況を分析すれば、サービスを改善して住民メリットを拡大していくことができます。つまり、PDCAを回しながら、社会インフラを改善していく試みを始めているのです。博報堂が培ってきたデータマーケティングの手法をいかしながら、住民の皆さんとともにサービスをどんどんブラッシュアップしていくことが、これからの目標の1つです。
畠山
朝日町での取り組みにご興味があれば、ぜひ一度町にお越しいただきたいと思います。そうすれば、地域課題を解決する活動のイメージを具体的に捉えていただけるはずです。そうやって共創の和を広げて、多くの方々と一緒に未来の日本の豊かさをつくっていきたい。そう思っています。
古矢
デジタル田園都市国家構想の「type3」に選ばれたことの責任はたいへん大きいのですが、採択されたことはあくまでもきっかけに過ぎません。新しい仕組みやサービスを実装して、そこから継続的に価値を生み出していくためにやるべきことはたくさんあると感じています。

堀内
先ほども話が出たように、忘れてはならないのは、僕たちが取り組んでいるのはあくまでもビジネスであるということです。社会課題解決をビジネスにしていく新しいモデルを僕たちがつくることができれば、いろいろな企業の皆さんが社会課題解決に参画していただくことが可能になるはずです。どのようなモデルがつくれるか。まさにクリエイティビティを武器とする博報堂の腕の見せどころだと思っています。
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  • 博報堂 MDコンサルティング局 局長代理/生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクトリーダー
    奈良県生駒市出身。
    入社後、営業職で広告業務などに9年携わった後に、営業職を離れ、従業員組合の委員長として会社運営へコミット。その後、大手通信会社営業として担当し、2016年人事局に異動。人事制度設計などを担当し、2019年度より再び営業職に復帰。現在は社会課題解決と得意先課題解決を両立し、博報堂の次世代収益作りへ、プロデューサーとして邁進中。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局ソリューション開発推進二グループ グループマネージャー/生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクトリーダー
    京都生まれ京都育ち。2006年博報堂入社。入社以来、一貫してマーケティング領域を担当。
    事業戦略、ブランド戦略、CRM、商品開発など、マーケティング領域全般の戦略立案から企画プロデュースまで、様々な手口で市場成果を上げ続ける。
    近年は、新規事業の成長戦略策定やデータドリブンマーケティングの経験を活かし、自社事業立上げやDXソリューション開発など、広告会社の枠を拡張する業務がメインに。
  • 博報堂 DXソリューションデザイン局 ビジネスデベロップメントプラナー/生活者主導社会を導く社会課題解決プロジェクトメンバー
    2016年博報堂DYメディアパートナーズ入社。DMPを用いたソリューション開発・分析業務に従事した後、2020年から現職。
    データを用いたビジネス開発経験を活かし、MaaS開発やLINEを使ったソリューション開発に取り組む。

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