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モビリティDXの新潮流 テクノロジーで進化する自動車のマーケティングとセールス
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モビリティDXの新潮流 テクノロジーで進化する自動車のマーケティングとセールス

近年、コネクテッドサービスやMobility as a Service(以下MaaS)のような、移動に関連するサービスが次々にリリースされています(関連記事)。それに伴い自動車業界のマーケティング&セールス領域においても、新たな手法が次々に登場し、プレイヤーも大きく変わって来ています。現在の市場の状況や博報堂の取り組みについて、CMP推進局の野口、多田、BXマーケティング局の西垣に聞きました。

―自己紹介をお願いします。

野口
CMP推進局グローバル第一グループに所属している野口です。ASEANで事業を展開している企業様のデジタル・データマーケティング領域の支援を行っています。
多田
CMP推進局第二グループに所属している多田です。国内の自動車業界中心にマーケティング支援や、データソリューションの開発をしています。
西垣
第三BXマーケティング局に所属している西垣です。国内の通信、小売りのクライアントに対するマーケティング支援をしています。前職では生活者データと地域モビリティを活用したサービス開発に関わっていました。
野口
昨年度、CMP推進局とプランニング局で横断プロジェクトを立ち上げ、デジタル・テクノロジーによる変化が激しいモビリティ領域のマーケティング&セールスDXのトレンドを研究しました。
本日はそこから見えて来た、注目に値する動向と対策についてお話したいと思います。

―まずは、最近の自動車業界のマーケティング&セールス領域のDX動向を教えてください。

西垣
大きな変化として、テクノロジーの発展と活用により、自動車メーカーだけでなく、異業種、新興企業、さらにはプラットフォーマーがモビリティ領域に進出しはじめていることがあります。その背景として、自動車メーカーがマーケティングを担い、ディーラーがセールスを担う、という従来の役割分担を見直す動きがあります。以前であれば、Pre-Store(認知・興味・検討の段階)と、In-Store(購入の段階)、Post-Store(アフターサービスの段階)は、はっきりと役割が分かれていました。しかし近年はその垣根が無くなってきています。
野口
例えばヨーロッパでは、自動車メーカーとディーラーが一体となってオンラインとオフラインの顧客接点を統合するという動きも出てきています。そういった事例では、ディーラーの負担になっていた在庫管理費などのコストについて、自動車メーカーが一部責任を負うという形を採っています。
多田
日本は、そこまでドラスティックな変化は起きていないですが、自動車メーカーのID取得や、ディーラーと協力する動きは徐々に起きています。
西垣
メーカーとディーラー以外にも、海外のプラットフォーマーや、新興の電気自動車メーカーといった新規参入組が、ディーラーを通さないネットでの直販をはじめ、全く新しい形態での販売を始めており、その影響は既存のメーカーやディーラーにも及んできています。
多田
以前は、ディーラーに行き、そこで試乗して購入するという流れが主流でしたが、サブスクやカーシェアなどが増えてきたことで、そうしたことをきっかけに車に興味を持ち、より長いリードタイムで購入に至るような事例も増えてきました。
野口
自動車メーカーやディーラーが、プラットフォーマーを中心とした他企業と組んで自社ではカバーできない知見や情報を得て、お客様と向き合う、といった動きも増えています。

プラットフォーマーと連携して新サービスを開発

―プラットフォーマーがこの業界に進出しているということですが、例えばどういった事例があるのでしょうか。

野口
実店舗やイベント会場でお客様の検討車種やオプションの情報を取得できるディーラー向けのソリューション開発が、例えば米国で進んでいる事例があります。これを活用すれば、ディーラーはそのデータを基に、お客様の検討状況を踏まえたアプローチを行うことが可能になります。
西垣
プラットフォーマーは顧客データやID、属性、購入した商品、車以外を含めたライフスタイルの情報を持っています。プラットフォーマーとデータを連携すれば、今までとは異なるマーケティングやセールスの手法を活用することができるようになります。
多田
例えば、生活者がポータルサイトなどでショッピングやニュース閲覧・検索などをした先に、興味対象の商品やサービスがより精緻に、よりお得に提供されることになれば、生活者にとってもより良いマーケティング施策になると思っていますし、企業側にとっても購買確率が高い顧客を獲得できる施策になると考えています。

―メーカーは販売以外でも利益を上げられる、というお話でしたが、サブスクやカーシェアに対してメーカーはどういうスタンスなのでしょうか。

西垣
MaaSなどの非保有型のサービスについても、メーカーは前向きに捉えているのを感じます。将来的にはそれらのサービスが、販売以外の収益の柱になるかもしれませんし、サービスを利用してもらうことで車のあるライフスタイルや車種に興味を持ってもらえれば、販売にも繋げられる可能性は十分にあります。
多田
また、色々な分野で人口減少の影響について言及されていますが、自動車産業の場合は購買層の減少や高齢者の免許返納の影響も受けることが考えられます。そういった状況への対応として、サブスク・シェアリングなどで興味・間口を広げる取り組みや、地域交通サービスを運営する自動車メーカーも出てきています。
野口
生活者のニーズや価値観の多様化が進む中で、車の利活用の選択肢を豊富に用意することが重要になっています。同じ人であっても、若い時は車を借りていたけれど、ライフステージが変わり家族ができたことで購入したくなった、といったことはよくあると思います。選択肢が増えることは、長い目でみれば自動車メーカーの強みになるはずです。

進む自動車の提供価値の拡張

―自動車業界におけるマーケティング&セールスのDXの動向を整理するとどのような特徴がありますか。

西垣
近年の自動車のマーケティング&セールスに関わるDX動向を3つのレイヤーで説明します。

一つ目は、産業・事業のレイヤーで「カーライフ、カービジネス全体をリデザインする」という動きが進んでいることです。二つ目は、マーケティングコミュニケーションのレイヤーで「顧客関係構築接点の高度化/統合化」が急速に進展していることです。この二つについては、ここまでお話したことの繰り返しになりますが、自動車メーカーとディーラーによる従来の役割分担が変わって来ていることが背景にあります。そこを、新しい形で車を提供したり、プラットフォーマーを中心とした他企業と協力して施策を行うなどしたりして変化に対応しようとしています。三つ目は、プロダクトのレイヤーで「車の提供価値/体験価値の拡張」が進んでいることです。

野口
車の提供価値/体験価値の拡張とは、例えばコネクテッドカーなど、デジタル技術によってこれまでとは異なる価値を提供しようとすることを指します。この動きの背景には、移動手段であることや、所有することがステータスになる、といったこれまでの車の利活用とは異なるものを求める生活者が増えていることがあります。
西垣
車で移動している時間をどう過ごしてもらうか、その時間に顧客とどういった接点を持てるか、といったことをメーカーが考えるようになっています。移動に付随した、メディアとしての車の使い方です。また車からリアルタイムに走行状況をメーカーやディーラーに送る、ということも容易になって来ているので、そのデータを基にメンテナンスの提案をする、といった取り組みも始まっています。こうしたことによって顧客との関係が密になれば、ロイヤルティが高まり、将来的な販売に繋がっていくことも考えられます。
西垣
ブランディングも変わって来ています。以前のCMは道を走る車を空撮して、成功のシンボルのように映し出すものが多く見られました。最近は、車を自分の生活を形づくる上で必要なものとして映すCMが増えています。

見えて来たモビリティ領域におけるマーケティング&セールスDXの“特徴”

野口
マーケティング&セールスのDXについて、国内外の企業がどういった打ち手を展開しているかを調べていく中で、自動車を購入するお客様のカスタマージャーニーに沿った打ち手の特徴が見えてきたので紹介したいと思います。
西垣
まずPre-Storeにおいては、例えばモーターショーなどのイベントのオンライン化があります。オンラインならではのメリットを考えてのもので、自宅で待ち時間なく車を見られたり、好きな部分を細部まで見られたり、といったリアルではできなかったことを可能にしています。こうした取り組みによって、特に若者に対して車に興味を持ってもらい、車種などの認知に繋げたいという考えがあります。また、「車を保有してもいいと思っているが、運転に対して漠然と不安がある」という人が多いことが分かっており、そうした人の不安を解消するための取り組みも進んでいます。例えばリアルに近い運転が体感できるゲームをサービスとして提供する、といった具合です。
野口
In-Storeでは、例えば販売支援プラットフォームといったものがあります。従来の接客は、ディーラーに行ってからどの車があるか探したり、保険がおりるのかどうかを調べたりしていました。このプラットフォームを活用することで、そういったことが来店前に確認でき、待ち時間を非常に少なくできます。他には、来店しなくても、ディーラーの店員がかけているスマートグラス越しに、お客様が店内や車両の中を見ながら接客を受けることができるスマート接客というものも出てきています。
多田
Post-Storeでは、例えば先ほどご紹介した、点検サービスを自宅で受けられるものがあります。車を預けている間には修理などの進捗がどうなっているかを専用のサイトやアプリで確認することもできます。また、ディーラーが車を販売する際、通常のメンテナンス以外にも洗車のサブスクを提供するような動きも出てきています。サブスクを提供することができれば、顧客との接点を持てるので、ロイヤルティを深め、次回の買い替えの際に再度購入してもらえる可能性が高まります。

―博報堂ではそういった最新の動きに合わせたサービスを提供しているのでしょうか。

野口
はい、各企業の取り組みの特徴が分かってきたので、その特徴に対応したソリューションを開発・提供しています。Pre-Storeでいえば、オンラインイベントを企画・運営するソリューションをご提供しています。
多田
その他にも、プラットフォーマーのような普段の生活で利用されているようなサービスを提供している企業と連携することで、生活者にとっても、ストレスが無く必要なモノと出会えるような体験/サービス設計のご支援を行っています。
野口
コンサルティング型のソリューションもご用意しており、例えば新サービス開発のコンサルティングがあります。また「通常の業務に追われてデジタル化が進まない、十分なナレッジが蓄えられない」といったご相談にも対応可能で、例えばMAやBIツールなどのデジタルツールに不慣れな方への支援も行っています。他にも多数のサービスをご用意しておりますので、ご興味をお持ちいただいた方は是非お問い合わせください。
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  • 博報堂 CMP推進局 ディレクター
    広告会社、コンサルティングファームなどを経て2017年博報堂入社。ASEANにおけるデータマーケティングの推進やデータ基盤構築に関連する業務に従事。マーケティングに関わる戦略策定からオンラインとオフラインの統合プランニング、データ分析に基づくPDCAまで幅広く取り組む。
  • 博報堂 CMP推進局 ディレクター
    2010年IT企業に入社。ビッグデータ解析を用いてEC戦略立案、会員育成、施策改善など、デジタルマーケティングを中心に携わる。2019年に博報堂へ参加。これらの経験を活かし、デジタルマーケティングを中心に、ソリューション開発などに取り組む。
  • 博報堂 第三BXマーケティング局 ストラテジックプラニングディレクター
    2011年印刷会社に入社。官民連携による個人データ流通活用事業開発を担当。観光分野におけるID・ペイメント・モビリティ活用による地域DXを推進。2019年より博報堂に参加し、オンライン~オフラインをまたぐ統合対応力を武器に、ブランド・コミュニケーション戦略立案/PDCAに取り組む。