いまさら聞けないインフルエンサーマーケティングとは ~その本質と最新手法を探る~
生活者のメディア接点が増え、情報過多の時代、「誰が言っている情報か」が生活者の購買行動の決め手にもなってきています。本稿では、企業にとってますます重要性を増しつつあるインフルエンサーマーケティングについて、いまさら聞けない定義から提案方法、そして将来像まで、すべてを解き明かします。博報堂生活者エクスペリエンスクリエイティブ局永川智也、スパイスボックス大月均、DACメディアソリューション本部第一メディアソリューション部原悠介に、博報堂DYメディアパートナーズナレッジイノベーション局兼メディア環境研究所の斎藤葵が聞きました。
■インフルエンサーって、そもそも何??
- 斎藤
- インフルエンサーマーケティングについて、なんとなくは理解していてもその定義が非常に広いと感じている方も多いと思います。改めて、インフルエンサーとはどういう人を指すのか教えてください。
- 永川
- インフルエンサーはいろいろな使われ方がされていますが、シンプルに考えるのが一番よく、その名の通り影響力がある人です。もう少し厳密にいえば、「特定の人、または多くの人の意識を変えたり、行動を喚起できたりする人」のことです。
たとえばフォロワー数約850万人のHIKAKINさんと、SNSをやっていなくてフォロワー数ゼロのスティーブ・ジョブズがいたとして、どちらがインフルエンサーでしょうか。両方正解です。ここで重要なのは、SNSのフォロワー数が多いことがインフルエンサーの条件ではない、ということです。消費者庁の調査でインフルエンサーの投稿をチェックする理由を聞いたところ「自分では得られない情報が得られるから」という回答が最も多かった。変化の激しい今、多くの人にとって「自分が知らない情報、先の情報や知見を知っているイノベーターであるかどうか」が、インフルエンサーとして評価される一つの大きな要素になっています。
少なくともこの調査ではわかることは、インフルエンサーとはフォロワー数が多いことではなく、イノベーターがSNSアカウントを持てば、必然的にフォローする人が増えるということです。イノベーターが主であってフォロワー数が多いかは関係ないという構造です。
- 大月
- インフルエンサーとは「オピニオンリーダー」である、と考えています。とある価値観やスタイル、アイディアなどが情報として流通すると、それを受け取った人はなんらかの気づきやインスピレーションを得たり、共感を抱いたりすることがありますが、SNS誕生以前は、そのような情報はメディアを媒介して生活者に提供されるか、リアルな人間関係をベースとしたクチコミとして共有されることが大半でした。それが、スマホ x SNSの浸透によって変化しました。企業や個人の分け隔てなく、誰もがメディアと化したのです。
今では、あらゆるテーマやジャンルで、インフルエンサー/オピニオンリーダーが日々続々と生まれています。これは現在のメディア環境に起因するものだと捉えています。SNSによって文字、写真、動画、音声など主たるコンテンツも一様ではなく、またそれぞれに特有のカルチャーや暗黙知などが存在します。そのため、場所によって好んでやりとりされる情報は異なり、SNS上へ話題を提供したりコンテンツを発信したりするプレイヤーも自ずと棲み分けがはかられていきます。
また、数百万~数千万という大規模なMAU(月間アクティブユーザー)を誇るSNSがいくつも共存し、ユーザーにとっての選択肢となっている点が、SNS上で開花している多様性の源泉と言えます。どれだけニッチなテーマであっても、それに高い熱量を持つユーザーがそれなりのボリュームで存在し、つながりが形成されていきます。こうした状況を踏まえると、各SNSでの栄枯盛衰は世の常ですが、SNSという仕組み自体は無くならず、それぞれの場所にはインフルエンサー/オピニオンリーダーが存在する、という構造は今後も変わらないでしょう。
■インフルエンサーマーケティングとは
- 永川
- アメリカマーケティング協会(AMA)では、インフルエンサーマーケティングは、潜在的な購買層に影響力を持つ個人を活用し、その個人を中心にマーケティング活動を展開することで、ブランドメッセージをより大きな市場に届けることを目的とした活動として紹介しています。
シンプルに言えば、企業が生活者に直接情報を届けるのではなく、「インフルエンサーという情報をドライブさせる人々と連携して、企業の情報をより市場に届きやすくする活動」ということになると思います。
少し前まではバズというキーワードが流行していましたが、リーチ重視でこれを捉えるとインフルエンサーを通して情報を広げてもらうという発想になります。今は情報がありすぎるため、企業が発信する情報への信用付与が大切になっているように思います。インフルエンサーに自社情報をどのようにドライブしてもらうかは、扱う商材特性などや目的などによって異なります。
それからインフルエンサーマーケティングというとSNS上で展開されるイメージが強いと思いますが、たとえばテレビ番組でマツコ・デラックスさんがある企業の商品を試食し、「これ美味しい!」と言ったとする。これはインフルエンサーマーケティングにあたるでしょうか。答えはイエス。インフルエンサー=スマホスター、もしくはSNSスターであるというイメージがあるかもしれませんが、必ずしもそうではありせん。マスメディアもデジタルプラットフォームもそれらは全て情報を伝える手段にすぎず、インフルエンサーマーケティングをSNSだけのものと考えない方がマーケティング活動の幅を広げることができます。
■インフルエンサーマーケティングを成功させるための、ただ一つのこと
- 永川
- 「インフルエンサーが乗り気であること」につきます。
今までのメディアタイアップ広告は、相手は継続的な利益成長を重視する企業であり、広告費を払えば情報の掲載は原則的にはできました。視聴者や読者が望むかどうかに関係なく、タイアップ広告も半ば強制的に見せることができました。
インフルエンサーの場合は個人であることが多く、著名であればあるほどすでにお金には余裕があったりしますので、広告費を払うということだけでは彼ら・彼女らの心はあまり動きません。お金がもらえるからという理由だけで自分が望まない情報を自分のSNSアカウントに掲載し、大切な友人や知人に対して紹介することには、おそらく多くの人が抵抗感をもつのではないかと思いますが、それはインフルエンサーも同じです。むしろそういった情報を掲載するとインフルエンサーの信用が揺らぐので、今後、誰も自分が発信するものを見てくれなくなるリスクさえ抱えてしまいます。しかも今は、本音ではない投稿や言わされている投稿を見分ける生活者の力は非常に高く、また、掲載した情報が支持されなければ、マスメディアでのタイアップと異なり、プラットフォーマーのアルゴリズムによって誰の目にも触れられないように調整されてしまいます。
ですので、インフルエンサーが乗り気である=インフルエンサー自身とそのフォロワーに喜んでもらえる情報を企業が提供する必要が出てきます。少なくとも広告動画のようなものをそのまま掲載依頼することは、その動画がよほどおもしろいか、そのインフルエンサーが自社のファンでない限りは避けた方がよいでしょう。
このあたりは、企業の広報・PR活動とよく似ていると思います。
■インフルエンサーマーケティングを成立させるための3つの要素
- 永川
- 先ほどインフルエンサーはSNS上のスマホスターだけではないと言いましたが、スマホスターには企業の情報発信活動において魅力的な3つの機能が最初から備わっているので、インフルエンサーマーケティングはSNS上で行うものというイメージがつきやすくなっていると思います。
その3つの機能というのは、スター(≒タレント)であること、情報を発信するメディアを持っていること、そのメディアで発信するクリエイティブをつくれることになります。これまでの広告はこの3つの機能がそれぞれ独立していて個別に調整する必要がありましたが、SNS上のインフルエンサーはその全てを包含しているので、非常に機能的であり、原則的には短時間で情報を発信することができます。
例えばマツコ・デラックスさんはスマホスターではなくテレビスターですが、自分の冠番組というメディアをもち、そこで発信するクリエイティブに主体的に関与しているという点で、スマホスターと同様に3つの機能を満たすインフルエンサーであると僕らは捉えています。
この考え方はさまざまに応用が可能で、例えばSNSアカウントや冠番組などはもっていないが大きなインフルエンス力をもつカリスマやタレントを迎え、自社のオウンドメディアに彼ら・彼女らのメディアを設け、そこのクリエイティブに関与してもらうことで、自社の影響範囲内においてある程度コントロールしながらインフルエンサーマーケティングをすることが可能になります。
ただし、この場合もインフルエンサー自身やインフルエンサーのファンが喜ぶ有益な情報を届けることが重要で、インフォマーシャルのようなコンテンツだと、広告などで強制的に誘引して視聴数を稼いだとしても、誰もインフルエンスされない(意識変容や行動喚起が起こらない)ことになります。インフルエンサーやそのファンを乗り気にさせつつ、自社の情報も発信できるコンテンツ開発が最も重要になります。
■インフルエンサーマーケティングの役割
- 永川
- インフルエンサーマーケティングには他の広告手法と比べて4つの優れたポイントがあります。
1つ目は、「認知獲得段階において、自社商材に関心のない生活者にも情報を見てもらえる」ことです。このような生活者は通常の商材中心の広告だと無視される可能性が高いですが、インフルエンサーからの情報だと聞く耳をもってくれるので、これまで自社の顧客として存在してなかったような新しいタイプの潜在顧客にアプローチできます。
2つ目は、「理解促進が図りやすい」ことです。これはYouTuberのような動画やブロガーなどの記事で顕著ですが、特に自社商材の未認知層や低関心層に対しては、動画広告では6秒程度の時間接触が得られる一方で、YouTuberなら10分程度の時間接触を得ることができます。それだけ自社商材について伝えられる情報の量が増えるので、理解や検討意向の向上が図りやすくなります。新聞や雑誌広告の役割に似ていると思います。
3つ目は、「購買の後押しをしやすい」ということです。インフルエンサーが熱量をもって自社商材について話してくれると、そもそもそのインフルエンサーを支持しているフォロワーにとってはとても魅力的に感じやすいということもありますが、著名なインフルエンサーはカリスマやタレントとしての要素ももっていますので、そのようなインフルエンサーがおすすめしていることを店頭POPなどで展開すると購買が促進されやすくなります。アニメやキャラクターなどとのコラボレーションと同じです。実際、店頭での売上げを押し上げた事例もあります。
最後、4つ目は、「認知から検討意向の獲得や、場合によっては購入まで一気に進める」ことができます。書籍に例えるとわかりやすいと思いますが、例えば知人や有名人、記事などでおすすめされている書籍をその場ですぐ買ってしまった経験をもつ人は多いのではないかと思います。これと同じで、それまでは全く知らなかったものを、インフルエンサーというフィルターを通すことで、認知から購買まで一気に進めることができます。中国などで盛んなライブ配信はその典型例だと思います。日本ではこうした取り組みはまだまだこれからですが、この特性をうまく活用していけば、新しいタイプの顧客をより獲得しやすくなるのではと思います。
- 斎藤
- 企業がインフルエンサーに、インフルエンサー自身やそのファン・フォロワーにとって有益な情報を届けるということ。それができれば、そのファン・フォロワーがファネルを越えて一気に自社の顧客になってくれる可能性があるということですね。
- 斎藤
- なぜ生活者はインフルエンサーを求めるようになったのでしょうか。
- 永川
- 「選択の時短化」が重要なキーワードだと思っています。
例えばどの映画を見るかを決めるときに、3.5以上の評価のあるものの口コミや映画の概要を比較検討して最終候補を選ぶだけでもなかなかの手間がかかります。それよりも、著名人がSNSや記事上で、絶対見ておいた方がよい映画ベスト5と推奨していたものから選ぶ方が簡単ですし、「このヒトが本気で推奨しているならハズさないだろう」という意識も働きます。
博報堂買物研究所のデータによると、「関心が高い商材でも、自分で選びたくない」という商材が多数あります。世代が若くなるほどこの傾向が全ての商材にあてはまるようになります。要するに「買い物する、もっというと商品を選ぶという行為が、楽しみから面倒になりつつある」ということだと思います。
今のように選択候補となる商品が多数あったり、機能が多数ついていたり、同じ商材でも役割によって商品が細分化されている中で、どれが自分に合ったものかを判断することは容易ではありません。少し前まではそれがしっかりとできることを賢い買い物と言ったりもしましたが、商品や商品にまつわる情報が増えすぎて個人で見極めることはすでに限界がきつつあるのではないでしょうか。それに加えて、共働きなどで余暇時間が少なくなったり、無料化やサブスクリプションで没頭したいことにはいくらでも時間をかけられたりすることが、よほど興味があること以外の買い物においての「選択の時短化」に拍車をかけているように思います。
インフルエンサーによって喚起される「あの人がすすめているからこれでいいや」という情報接触は、「選択の時短化」ニーズにうまくはまるのです。
- 大月
- 「信頼できる広告(情報)は何か?」という質問に対し、友人や知人のオススメと答える人は9割超、オンライン上のレビューという人が7割程度…といった調査結果がいくつもあります。そもそも企業は顧客化を実現するまでに、認知してもらい、理解してもらい、共感してもらい、信頼性や優位性も保ちつつ、購入してみて実際によかったと思ってもらう…これだけのバリアを超えなければなりません。しかし、マーケティングファネル上の認知獲得にばかり予算や施策を投入している企業がいまだに多いです。
広告を用いて「とりあえず知ってもらう」だけでは興味喚起や購入には繋がりにくいですし、無数にある情報をかいくぐって「理解や共感まで促す」のはさらに難しいことです。事実、広告を表示させないアドブロックアプリは、常に有料アプリのランキング上位に位置しています。インフルエンサーマーケティングは、こうした状況を打破するコミュニケーション手法としても注目されています。
ファンやフォロワーにとって、インフルエンサーは「SNSを介してダイレクトにつながっていて、日常的に接点のある人物」なので心理的な距離が近く、彼ら/彼女らが発信する情報に対する信頼性も極めて高い。つまり、インフルエンサーによるクチコミは、認知と同時に、好意や共感、信頼にまで結びつきやすい。前述した様々なバリアを一気に飛び越えることができる、非常に効率的で効果的なアプローチなのです。 - もう一つ付け加えると、多様化と細分化が進む生活者に対して、企業やメディア/プラットフォームはどのように情報を届けていくのかが大きな課題となって久しいですが、その鍵となるのが「トライブやコミュニティの活用」です。SNS内外に形成されている「興味関心や価値観を共にする集団」に対して、「その集団の中で発信力や影響力のある第三者」を介して情報を届ける。これが、クチコミのチカラを最大限引き出すにあたっての、インフルエンサーマーケティングのセオリーです。
■データマーケティングの弱点を補うインフルエンサーマーケティング
- 斎藤
- フィルターバブルなどといわれるように個人個人が触れる情報が同じような情報ばかりになってしまうという状況がここ数年言われていますが、インフルエンサーマーケティングによって偶然の出会い、セレンディピティをつくることができる、という側面もあるかと思いますが、その部分についても教えていただけますか?
- 永川
- 前提として、いま生活者の状況は、情報過多で「目に入らない」、供給過多で「ほしくない」、コモディティ化で「ほかにもある」、さらには製品ライフサイクルの短縮で「飽きた」、なんならまだ使えるから買い替える必要はないという…企業にとっては5重苦のなかで新しい製品を売らなければなりません。そこでほしい人にのみしっかりと情報を届けるデータマーケティングが注目されているわけですが、データマーケティングには2つの基本的な弱点があります。
データマーケティングを使えば、過去にお客さんになってくれた人はこういう人だから、それに近い人にターゲティングし広告を当てるということになりますが、それだと既存の顧客によく似た特徴をもつ類似顧客は効率よく獲得できても、まったく違うタイプの新しい顧客を連れてくることはできません。グローバル市場のように、人口が増加しており類似顧客が次々と生まれてくる状況ではそれでもよいかもしれませんが、国内のように人口減少の市場においては、それだけだと企業の顧客数を増やすことについてはいずれ頭打ちになってしまいます。
もう一つは、利用しているデータについてですが、おそらく多くの企業がメジャーなプラットフォームのデータを使っていると思います。そのプラットフォームのデータはお金さえ払えば競合他社も利用できますので、よほど自社で特殊なデータや大量のデータを保持していない限り、競合優位性にはなりにくい。結果として、限られた顧客を多数の会社が奪い合うことでより競争が激しくなる可能性があります。
データマーケティングはやらなければならないのですが、それだけでは特に国内においては企業成長を実現することは困難な可能性があり、これまでの顧客にはいない新しいタイプの顧客をいかに獲得するかが重要になります。
この点において、インフルエンサーマーケティングは、インフルエンサーを経由することで生活者の聞く耳をつくり、たとえそのブランドや商材に関心がなかったとしても「こんな商品があるのだ」という新しい出会いをつくることができ、その人が紹介するくらいだからよいものなのだろうと思ってもらえる。さらに、企業がクリエイティブを作らなくても、インフルエンサーがファン・フォロワーにとっておそらくAI以上に最適なクリエイティブを自らつくり、届けてくれます。
結果として、データではアプローチできない人たちに商品との偶然の出会いをつくるだけでなく、商品への興味関心まで一気に導くことができます。自社にとって新しいタイプの顧客をつくることができる可能性が高いマーケティング手法だと言えます。
- 斎藤
- なるほど。非常によくわかりました。
■総合広告会社だからこそ可能な、包括的インフルエンサーマーケティング
- 斎藤
- ここで、皆さんが参加されている「インフルエンサーマーケティングEXPERT’S」のソリューションや特徴について教えていただけますか。
- 永川
- 「インフルエンサーマーケティングEXPERT’S」は、戦略立案、企画、キャスティング、実施、効果計測、PDCAまでを一気通貫で行う博報堂DYグループ横断型のチームです。企業課題に対して、マイクロインフルエンサーから、マスメディア、テレビ番組、海外セレブなど、僕らがインフルエンサーと定義するものすべてを活用し、データを活用した解析と、企業のKPIにどう影響するかまで見ていく。ここまでできるチームは唯一無二だと思います。
- 原
- SNSインフルエンサーはもちろん、テレビタレント、ラジオパーソナリティなど、それぞれのメディアに存在するさまざまなインフルエンサーとその都度組んでいくというのが一つの特徴になります。座組みとしては、まず博報堂DYメディアパートナーズのクリエイティブテクノロジー局内に生成された当チームに、グループ会社各社…私はDACからの参加ですが、スパイスボックスの大月さん、博報堂の永川さんというふうに、各社の精鋭が集まり、連携しながらインフルエンサーマーケティングを推進しています。マスに強い人もいればデジタルに強い人もいて、総合広告会社としての強みを存分に生かせる座組となっています。
- 斎藤
- 具体的な取り組み事例を教えていただけますでしょうか?
- 永川
- ある企業案件でスーパーモデルを起用したキャンペーンを実施しました。このモデルに会いたい日本の錚々たるインフルエンサーたちが一気にその企業イベントに集まり、それぞれのSNSでその企業に関する投稿をしていただけました。SNSの場合は海外セレブリティから1次情報源になっていることが多く、海外セレブリティと連携すると、国内での情報発信において非常に有効に作用します。もちろん、ここにテレビなどの取材も誘致することで、マスメディアでも情報が拡散されました。このように、総合広告会社としてのネットワークを活かし、マスメディアやSNSインフルエンサー、海外セレブリティなど、あらゆるジャンルのインフルエンサーとあらゆる手段の情報発信手段とを組み合わせて展開することで、より効果的な情報発信をすることが可能です。
- 大月
- スパイスボックスでは、まずトライブを発見することから始めます。どのようなテーマであっても、SNS上には関連性や親和性のあるトライブは存在しています。そして、各トライブには大抵オピニオンリーダーがいて、好んで語られている話題があります。膨大なソーシャルビッグデータを用いてそうした生態系を捉えることは、今やSNS施策のみならず、ブランドコミュニケーション全般の戦略策定や実行に際しても不可欠です。
具体的には、クライアントの商品サービスに関連するアカウントやキーワード、ハッシュタグなどを起点として、投稿内容やフォロー傾向などについてソーシャルリスニングを行い、ブランドに関連性がありSNS上でも言及されやすい文脈を発見し、それぞれの切り口におけるインフルエンサー候補もリストアップし、企画に落とし込んでいきます。
■志や価値観で長期的なつながりをつくる
- 斎藤
- 最後に、インフルエンサーマーケティングはこれからどうなっていくのでしょうか。皆様の今後の展望も含めてお教えください。
- 永川
- 我々の仕事でもっとも大事なのは、インフルエンサーのやりたいことや価値観と、企業のやりたいこと、価値観をマッチングさせること。インフルエンサーは信頼が大前提ですから、嘘をつかずに本音で語るしかない。そのため、かつてのようなお金の関係から心理的なつながりにシフトしていくだろうと思います。自社のことをわかってくれるインフルエンサーと価値観でつながり、その時だけではなく、長期的にお付き合いしていく。どれだけさまざまなインフルエンサーとつながれるかは企業にとって計測可能なひとつの資産になると思います。自社のファンインフルエンサーを増やし、顕在化し、つながり、一緒に活動していく。投稿に対する直接的な支払いから、インフルエンサーに対するブランド構築費と関係構築費、維持費にコストの対象は変わってくると思います。
- 原
- インフルエンサーの言葉をファンは受け入れるという事実がある一方で、嘘のないことが条件になります。そのクリエイターがちゃんと自分の言葉で届けるということを、企業側も理解する必要があります。YouTubeの動画収益化プログラム以外にもライブアプリの投げ銭で稼ぐ人も増えており、クリエイターをサポートするサービスは多々あって、クリエイター側からすると企業とタイアップしなくても稼げる世界になってきています。そうなると今以上に本当にやりたい仕事以外は受けなくなってくると思います。僕らDACは元々メディアに寄り添った立ち位置で仕事をしていますので、クリエイターがやりたいことを引き出して、企業と想いとマッチングしていくようなサービスをつくりたいと思っています。
- 大月
- Googleが提唱するパルス消費に代表されるように、生活者のメディア接触や消費購買行動は多様化と複雑化がますます進んでおり、かつてのペルソナやカスタマージャーニーのようなメソッドは通用しにくくなっています。また、企業や商品サービスに対して、ブランドパーパス/存在意義が当たり前に問われるようになってきました。今はそこからさらに一歩進み、ブランドによる積極的な行動が求められ始めています。いわゆる「ポストパーパス、ブランドアカウンタビリティとアクティビズム」の段階に入っています。
どのような考えに根差し、何を発信~提供するのか。コアとなるユーザー層を見極め、嘘をつかず約束を守り、期待を超え、信頼を勝ち得ていく。…そうした本質的な取り組みが必要です。
こういった活動を推進していく上で、特定の興味関心や価値観を持つトライブやコミュニティの中で発信力や影響力を持つインフルエンサーとの共創は極めて有効な手段の一つです。一部では課題も散見されるものの、「ブランドがソーシャルとつながっていくための取り組み」としてさらに浸透していくでしょう。
私たちエージェンシーにおいては、データやネットワークを活かし、企業とメディアやプラットフォーム、そしてインフルエンサーとの幸せな結びつきを仲人するという役割がますます求められていると感じます。
- 永川
- SNS広告だけでなく、マスメディア広告、コミュニケーションの仕方も、インフルエンサーマーケティング的なアプローチに近くなっていくかもしれませんね。お金を払うからこのタイム枠でよろしく、という関係性から、この番組はこういう価値観で発信しているから、そこに共感する僕らも乗ろうといった関係性になっていく気がします。単なる枠というとらえ方ではなく、自分たちの信念、志を具現化するためのタイム広告を、局と一緒につくっていく。パートナー同士が価値観の結びつきをベースに情報を出していくというやり方に変わっていく気がしています。もしかしたら、過去はそうだったかもしれず、原点に回帰するということかもしれませんね。
- 大月
- こういった将来像が予見されるからこそ、異なる専門領域や経験を持つメンバーによる「インフルエンサーマーケティングEXPERT’S」のような総合力や視点が不可欠になってきています。
- 斎藤
- これからもどんどん広がっていきそうですね。本日はどうもありがとうございました。
この記事はいかがでしたか?
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株式会社博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局 永川チーム リーダープラットフォームデータや統計解析などを使った戦略設計から、制作、キャスティング、配信、ナーチャリング、KPI設計、PDCAまで、データを活用した統合的なコミュニケーションプランニングのディレクションとチームマネジメントを担当。報道ディレクター、サイバーエージェント・メディアプランナー、ヤフー・プロジェクトリーダーを経て博報堂へ。MBA。
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株式会社スパイスボックス コミュニケーションディレクター/プロデューサーマーケティングファームを経て、2014年よりスパイスボックス。幅広いクライアントの広告、マーケティング業務に携わりながら、講演や執筆、R&Dも担当。ソーシャルリスニング、SNS、インフルエンサー、動画など、デジタル領域を駆使した統合マーケティングコミュニケーションの戦略立案、企画、実行を得意とする。宣伝会議講師、信州大学社会基盤研究所特任講師。
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デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム
メディアソリューション本部 第一メディア部長2013年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム入社。入社当初からYouTubeをはじめとする動画メディアのバイイングや商品開発を担当。現在は動画メディアやキュレーションメディアのバイイングや商品開発、インフルエンサーマーケティングの推進に従事。
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博報堂DYメディアパートナーズ
ナレッジイノベーション局 ナレッジマネージメントグループ ナレッジビジネスプロデューサー 兼 メディア環境研究所 上席研究員2002年博報堂入社。雑誌・出版ビジネスを中心としたメディアプロデューサーを経て2016年より現職。現在はメディア・テクノロジー・デジタルマーケティング業界のプレイヤーとのビジネスマッチングやディスカッションの場の企画・運営・プロデュースを行う傍ら、当サイトの編集部員として取材・発信活動も行っている。