PRドリブンの統合型マーケティングを実現させるために ──産学連携による「データ×PR」プロジェクト【後編】
商品やサービスが大きな話題を集める現象である「バズ」が発生する構造や法則を明らかにすることよって、バズを意識的にデザインし、話題性を売り上げにつなげていく──。それが「PR起点のデータドリブンマーケティング」の考え方です。この考え方と従来のバズマーケティングにはどのような違いがあるのでしょうか。また、それを実現する方法とはどのようなものなのでしょうか。「データ×PR」の可能性を探る座談会の後編をお届けします。
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「バズをデザインする」ことは可能か
──データ分析の中からどのようなことが見えてきましたか。
- 早矢仕
- データを子細に見ていく中で、企業側が意図しない形でユーザーコミュニティが拡大する現象を時系列で確認することができました。突然リツイートが大量に発生し、情報が爆発的に拡散していくようなケースもありましたね。
- 登坂
- バズの量の遷移を見ていくと、一番大きなバズの山ができる前には、必ずいくつかの小さな山があるんです。最初のバズは特定のグループの中で起こり、そのバズが別のグループに波及して、どこかのタイミングで大きな山が形成されるという流れです。これは、「日」単位ではなかなか見えてこない現象で、「分」や「時」といった細かな単位で見ることによって初めて明らかになります。また、Twitterのトレンドになるにはどのくらいのバズの量やスピードが必要かといったアルゴリズムも、そのような細かな観察からわかってきました。
──バズが起こる構造や法則がわかれば、逆にそれを意図的に発生させたり、大きくしたりすることもできそうですね。
- 登坂
- 「バズをデザインする」ということですよね。そこにこのプロジェクトの大きなチャレンジがあると思っています。あらかじめ網を張ってリツイートの予期せぬ大量発生を捉えることが難しいとしても、バズの現象が発生した最初期の段階でその動きを察知することはある程度可能だと思います。それができれば、広告投下などの施策によってバズを大きくすることができます。
- 猿田
- 広告出稿には「日予算」という考え方がありますよね。それを「時間予算」と捉えなおすとより細かに考えることができ、バズの流れや盛り上がりをコントロールできないか考え方です。
- 早矢仕
- あるいは、ネタを仕込むことによってバズを「発火」させることもできるかもしれません。バズを発火させ、コミュニティからコミュニティへのバズの伝播をウォッチし、Googleトレンドなどへの波及も観察し、さらにInstagramへの写真投稿の動きも見ながら、連鎖がしぼんでいるところあれば、そこに「燃料」を加えて、最終的に売り上げにつなげていく──。そんな流れがつくれれば理想的です。
バズの最初期の「発火」に着目する
──これまでも、バズマーケティングと呼ばれる手法はありました。このプロジェクトの取り組みとバズマーケティングにはどのような違いがあるのでしょうか。
- 登坂
- 基本的な考え方は同じですが、着目するバズの「量」が異なります。一般的なバズマーケティングでは、何万、何十万という単位でバズを捉えることが多いと思います。それに対して私たちは、そこに達する前段階の「大きなバズになりえる小さなバズ」に着目しています。燃え上がったところをバズの発生と見るのがこれまでのバズマーケティングだとしたら、私たちは大きく燃え上がる前段階を重視しているということです。
- 早矢仕
- 例えば、深夜に特定のコミュニティで百くらいのバズが発生したとすると、朝になってそれを見た人たちが反応して、そこに中くらいの盛り上がりが生まれます。さらにそこにトレンドセッターと呼ばれるような人たちが食いつき、続いて一般の人々の検索行動が活発になります。これまではその段階に達してようやく「バズが発生した」と捉えられていました。しかし、このプロジェクトの中で、大きなバズが発生する前のプロセスが実は重要であるということが見えてきたわけです。
- 猿田
- そこを的確に捉えることができれば、打ち手が見えてくるということですよね。
- 登坂
- その一連のプロセスがバズの短期的な動きだとすると、一方に、もう少し中長期的なバズ効果もあると僕は考えています。例えば、バズによって商品のブランドパワーが底上げされて、売り上げの伸びが長期的に継続するといったケースです。それがPRによって実現すれば、あらためてPR活動の重要性が見直されることになると思います。話題をつくったり、市場における興味関心を生み出したりするだけでなく、それを長期的に持続させていく。そんな方法論もこのプロジェクトの中で見つけていければいいと思っています。
「デジタルPR」の手法を確立する
──このプロジェクトの一つの目的であるツール開発はどのくらいまで進んでいるのですか。
- 猿田
- 機能はある程度完成していて、現在はユーザーが使いやすいインターフェースの開発に取り組んでいます。
このツールの特徴は、量を計るためのデータと、量をいろんな角度から分解してみるためのデータをまとめて取り込める点にあります。前者は例えばSNSへの投稿数や売り上げ、PVやGoogleトレンドなどの数字で表現されるもので、後者はキャンペーンの実施有無や広告出稿の有無、季節棚の時期、気候データなどさまざまです。データは目的や応じて選択し成形することが重要です。
また、「ライトに使える」というのもこのツールのコンセプトです。ROI(投資対効果)の視点はあえて組み込まず、先にも触れたように、施策の実行前、実行中、実行後にどのような変化があったかをトレースして、その「シンプルな事実」をもとに企業のマーケティングご担当者に戦略を考えていただくという発想でつくっています。
──そのようなツールがあれば、より合理的なPRや広告のプランニングが実現しそうですね。
- 猿田
- まさにそれを目指しています。バズの拡大のプロセスなどに合わせて、マーケティングの予算配分やメディア選定を合理的かつ戦略的に決定できるようになることが、このプロジェクトの一つの達成点になると思います。
──プロジェクトは今後も続いていくのでしょうか。
- 早矢仕
- 2020年は新型コロナショックで思うような活動ができませんでしたが、プロジェクトはこれからも続いていきます。さまざまなデータを連携させる取り組みは日本でもようやく広まってきて、学会でも注目されるようになっています。この取り組みを続けていくことによって、産官学のそれぞれの領域でデータ活用をさらに活性化させていくことができると考えています。
また、新型コロナショックの中で人々の興味、嗜好性、あるいは情報の取得方法が変化した可能性があります。新たに生活者のデータを収集し分析していく中から、これまではなかった傾向が明らかになるかもしれません。そのような視点もぜひプロジェクトに組み入れていきたいですね。
──最後に、今後の見通しをお聞かせください。
- 登坂
- これまで、PRは不確実性が高い領域であると考えられてきました。それゆえに、マーケティングコミュニケーション全体のプランニングの最後についてくるのがPRというのが一般的な捉えられ方でした。
しかし、PRにデータを活用する方法論があれば、「話題性」や「空気感」のような計測不可能と思われていたものもある程度可視化することができるし、それによってPR効果をより確実なものにしていくことができると思います。これまでPR業界ではそのような方法論づくりにあまり取り組んできませんでしたが、これからのPR業界の発展のために、また企業のPR活動に寄与するために、絶対に必要とされる方法論だと僕は思っています。多様なプレーヤーの皆さんと手を取り合いながら、PRの効果測定のメソッドをぜひ確立していきたいと考えています。
- 猿田
- 「デジタルPR」の手法を確立することと、PRを起点とした統合マーケティングの動きをつくっていくこと。その二つをぜひ実現させたいですね。繰り返しになりますが、企業のコミュニケーション部門は、広報、宣伝、販促、デジタルマーケティングなど各セクションに分かれていて、横の連携がとりにくいのが現状です。それを統合して、コミュニケーション効果を最大化し、確実に売り上げにつなげていく。そんな動きをPR会社の立場から推進していきたいと思います。
- 早矢仕
- 私の興味もまさにそこにあります。データ選定やシナリオ設計からコミュニケーションの各段階における意思決定までをシステマティックに実現できる仕組みがあれば、統合型マーケティングが実現すると思います。そのようなトータルプロセスをつくることが、このプロジェクトの一つの目標です。
- 登坂
- 統合型マーケティングの重要性は、これまでもいろいろな場面で指摘されてきました。それをPR起点でつくり出していく力がこのプロジェクトにはあると思います。PRドリブンの統合型マーケティング。それをぜひ実現したいですね。
※本サービスに関するお問い合わせ:strategy-com@ozma.co.jp
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登坂 泰斗オズマピーアール
ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 部長ファッション系の広告代理店に3年間勤務の後、2013年に当社入社。
入社後は、戦略PRの立案からPRコンテンツの企画開発を手がける。現在、主にデータに基づいたコミュニケーションプランニングを専門領域とし、PR戦略の立案だけでなく、統合型の効果検証ツールを東京大学と共同で研究開発なども行っている。
●早稲田大学商学部 招聘講師
●産業能率大学 地域創生・産学連携研究所 客員研究員
●宣伝会議 デジタル広報講座他レギュラー講師
●人工知能学会 東京大学との共同論文執筆
●東京大学とのマーケティング効果検証における産学連携研究プロジェクトメンバー
●AppApeアワード2018 登壇(東京ミッドタウン)
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猿田 一揮オズマピーアール
ビジネス開発本部 戦略コミュニケーション部 コミュニケーション・ディレクター東証一部上場企業にて、6年間マーケティング部・経営管理部に従事。主にキャンペーン企画・メディアプランニングを担当。年間数十億円規模のプランニングを行ってきた。Googleアナリティクスや購買データ等のクローズデータやジオデモデータなどのオープンデータの活用が得意。当社に入社後は統合型のマーケティング施策の立案をメインで行い、特にデジタルマーケティング領域ではPRファクトを活用した設計を行っており、獲得効率の向上に貢献。
●東京大学とのマーケティング効果検証における産学連携研究PJメンバー
●宣伝会議 講師
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早矢仕 晃章東京大学
大学院工学系研究科 システム創成学専攻 助教博士(工学)2012年東京大学工学部卒業。2017年に同大学院工学系研究科システム創成学専攻博士課程修了。専門はデータ利活用知識の構造化とシナリオ創出支援。データ流通・データ市場マーケットデザインと制度設計、支援技術の開発に従事。企業との共同研究から、産官学民・国内外問わず300回以上のデータ利活用方法検討ワークショップを開催し、その成果を発信。主な著書に「データ市場」近代科学社(2017)。