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「生活者インターフェース市場」の到来 ~オールデジタル化社会におけるビジネスの要諦~
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「生活者インターフェース市場」の到来 ~オールデジタル化社会におけるビジネスの要諦~

5GやIoTといったテクノロジーの進化によって、あらゆるものがデジタル化し、生活者と企業が常時接続する時代が、目の前に迫っています。生活者インターフェース市場とはなにを意味するのか。そして、この市場でビジネスをする上で大切なことはなにか。博報堂の新しい取り組みについて、代表取締役社長・水島正幸が、先日行った「HAKUHODO Executive Forum 2019」にて説明いたしました。本稿ではその内容をご紹介します。

「生活のデジタル化」がモノと生活者の関係を進化させる

今年は5G元年とも言われています。アメリカや韓国などではすでに商用化がはじまり、日本でも着々と準備が進められています。この5Gに代表されるように、デジタルトランスフォーメーションは、今や私たちの生活のあらゆる所で起きはじめています。技術進化による生活革新がはじまったということです。

たとえば、身に着けているモノを考えてみましょう。もうスマホは当たり前になりましたが、スマートウォッチや、リストバンド型の活動量計、センサーを埋め込んだシューズなど、ウェアラブル端末を身に着けている方が増えてきていますし、来年にはARメガネが出るという話もあります。このように人が身に着けているモノがインターネットにどんどんつながり、人の行動や状態がデータ化されていく時代です。
家の中もデジタル化し、インターネットにつながるようになってきました。AIスピーカーやスマートリモコン、ロボット掃除機などを導入されている方も増えてきました。冷蔵庫、照明器具、湯沸かし器といったものがスマート化され、IoT化していて、すでにエアコンの新製品は、外出先からスマホで操作できるのが当たり前になっています。
街はどうでしょう。IoTやセンサー、AIなどを活用して、交通網やエネルギーなどを最適化し、そして様々な社会課題の解決を目指す―そういった「スマートシティ」の構想が始まっています。カメラやセルフレジを使うスマート店舗、つまり無人店舗も、24時間営業のコンビニなどで始まっています。都市全体がネットワーク化され、自動運転のクルマと信号機がつながると、将来は渋滞がない世の中がやってくるかもしれません。

つまり、5Gなどのテクノロジーの進歩によって、生活者の周りにある、あらゆるモノがデジタル化され、ネットワークにつながっていく「オールデジタル化」がやってきます。モノとモノもつながっていきます。これまでがPCやスマホを中心とした「情報のデジタル化」だとすれば、これからは「生活のデジタル化」です。私たちは様々なモノにかこまれて生活していますが、これらのモノが進化してデジタル化、ネットワーク化するということは、モノと生活者との関係が進化していくということを意味します。

モノがネットワークにつながると、生活者と直接“やり取り”が始まります。たとえばカメラやセンサーが私たちの動きや表情からデータを収集し、それをAIが解析して、より便利で快適なサービスを提供するといったことが可能になります。モノと生活者の“やり取り”から、新たな生活者価値が生まれるのです。さらに言うと、たとえばある生活者の課題があるとして、それに対応したサービスを提供するモノがあります。生活者がそのサービスを使うと、そのデータからニーズが把握されます。そのニーズを把握したモノはさらに進化し、最適化したサービスを生活者に提供していく。こうした“やり取り”がくりかえされることによって、今まで解決できなかった生活者の様々な課題が解決されていくのです。

クリエイティビティで、産業の枠を超えた「大きな生活者価値」を構想する

では具体的に、学習方法の最適化という課題について考えてみましょう。来年から始まる新学習指導要領では、「デジタル教科書」の導入が始まります。紙の教科書がデジタル化されると、図形を立体で確認することができたり、音符から音が出たり、英単語の発音をすぐに確認できたりする。体験型学習や自宅学習もはかどるでしょう。そしてその学習データはネットワークにつながっているので、蓄積・解析され、一人一人に合った最適な学習方法が提供されるようになります。そうして学習の効率化を進めるという構想だそうです。
教科書がデジタル化、ネットワーク化するということは、教育に関わる企業にとって、新しいビジネスの機会が広がることを意味します。これまでのような“売って終わり”のビジネスから、サブスクリプション型のような、生活者と継続的な関係を構築することを目指すビジネスが可能となります。モノの進化により、事業のあり方や、経営の方法も大きく変わっていくということです。
さらにモノのデジタル化、ネットワーク化は、一企業だけでなく産業全体にも影響を与えます。たとえばMaaSについて考えてみましょう。生活者の「移動」というニーズに合わせたサービスの最適化は、自動車、鉄道、飛行機と、それぞれの産業の中で閉じていては不可能です。それらを統合する「最適移動サービス」が必要となるのです。
ヘルスケアではどうでしょうか。健康の管理・改善という課題において、健康器具メーカーや飲料メーカー、トイレタリーメーカーなどが連携し、寿命100年時代の大きな健康価値を提供していく―。そんなことも起きるかもしれません。様々な陣営が現われ、新しいサービスが次々と生まれてくるでしょう。産業もまた、生活者を中心に最適化されていくのです。

産業の垣根がなくなることで、まだ世の中にない「大きな生活者価値」が生まれる可能性が広がっています。これから企業には、そうした産業の枠にとどまらない構想力・クリエイティビティが求められてくるでしょう。クリエイティビティこそがこれからの市場をつくる。そう私は考えています。

生活者インターフェースという考え方

このように、IoTや5Gなどの発展により、私たちの周りのあらゆるものがデジタル化され、ネットワークにつながっていく「生活のデジタル化」が進んでいきます。モノの進化は、生活者とモノとの接点を大きく変容させます。“やり取り”を始めたモノと生活者。この関係は単なる「接点」ではなく「インターフェース」へと進化していきます。生活者の周りには、様々なインターフェースが生まれ、それを用いた、様々なサービスができていく。そこに、生活者にとっての新しい価値、生活が創出されていくのです。
巧みに設計されたインターフェースは、生活者に認められ、価値を生み、課金の伴うサービスとして、企業に大きな収益をもたらすことになります。生活者とのインターフェース創造が、企業活動に必須になってくるということです。モノ同士もつながっていきますので、業種の垣根を超えた新たなインターフェースが出現し、産業の地図を塗り替えるといったこともあるかもしれません。

このインターフェースの爆発的な広がりを、私たちは「生活者インターフェース市場」と呼ぶことにしました。大きなビジネスチャンスが広がるという意味で、この市場で勝つことは簡単ではありません。なぜなら、生活者という捉えにくい存在がこの「生活者インターフェース市場」の中心にあるからです。

心ふるわせる価値や体験で、企業と生活者の新しい絆をつくる

技術革新はどんどん進み、モノがデジタル化し、ネットワークにつながり始めていますが、では、生活者とはどうでしょうか?生活者の欲求や願望とつながっているでしょうか?モノをネットワークにつなげるだけでは大きな市場は生まれません。生活者とつながることで、初めて生活者価値となり、市場は生まれていくのです。しかし実際には、「店頭でのデジタルサービスの骨格は決まったが、ユーザーが動き出す感じがしない。何が足りないのか」「5Gでできることは聞いているが、うちのお客さんにとって何をすべきか、どう考えたらいいのかわからない」といった声が当社にもたくさん寄せられているのが現状です。
モノにシステムとテクノロジーが組み込まれると、データを収集・分析することができるようになりますが、先程のような声を伺っていると、モノの進化ばかりが先行し、生活者が後回しになっているように感じられます。生活者を置いてきぼりにして、モノの仕組みだけが高度化していないでしょうか?

そもそもインターフェースとは、「2つの異なるものを、一番理想的な形でつなぐ」という意味を持っています。互いをしっかりとつなぐには、双方の仕組みをよく理解する必要があります。そして、生活者にも願望や行動を生む「仕組み」があります。生活者個人の属性、仕事、趣味や生き方。家族構成や所属しているコミュニティ、置かれている社会や経済の環境。このような様々な要素によって、人の感情や願望、そして行動は生まれていくのです。こういった生活者の仕組みを深く理解することで初めて、生活者インターフェースを設計できるようになるのです。
生活者の仕組みと、モノの仕組み。その両者をつなぐ最適な生活者インターフェースをデザインすることで、生活者価値が生まれます。そこには心を動かす感動や喜びさえも生まれてくるでしょう。

たとえば、先程の教育のデジタル化・ネットワーク化についてもう一度考えてみましょう。先程は「教科書がデジタル化しネットワークにつながると、その子のレベルにあった学習方法が提供できるようになる」という効率化の話をしました。しかし、デジタル教科書を「生活者インターフェース」と捉えて設計すれば、ただの効率化だけではなく、子どもの潜在的な興味や可能性を引き出すことだってできるだろうと考えます。
こんな話を聞いたことがあります。あるロボット好きの小学生は、ロボットについて色々調べていたところ、ロボットが数式で動いていることを知ったそうです。そしてそれまであまり得意ではなかった算数を猛烈に勉強するようになったそうです。興味があることだったら、人は頑張れる。ましてや子どもはそうだと思います。大事なことは、子どもが興味をもつ、最初のきっかけを与えること。そこを生活者インターフェースが担うのです。
生活者インターフェースとして設計されたデジタル教科書なら、「君はここに興味があるんだね?だったら、これを学ぶといいんじゃない?」といった提案を、多くの子どもたちにたくさん展開できるかもしれません。子どもたち一人ひとりが、ドキドキする、目がさめるような学びの体験を提供できるようになるかもしれません。

移動体のネットワークである、モビリティについてはどうでしょうか?「クルマや公共交通がネットワークにつながることで、目的地に最適なルートで行ける」というのが一般的なスマートモビリティの考え方です。こんな問題提起があります。「免許返納後に、高齢者が家から出られなくなる。そうすると、健康状態も悪くなっていく。こういった課題をMaaSで解決できないだろうか。高齢者がもっと外に出たくなるようなサービスを考えるべきではないだろうか」―。モビリティを生活者インターフェースとしてデザインするなら、高齢者に出かける楽しさや喜びを提供するサービスが生まれてくるはずです。

生活者の心をふるわせる体験や価値をつくる。それによって、企業と生活者の間には、かけがえのない信頼や愛着が生まれます。それは、企業と生活者の新しい絆となります。これが「生活者インターフェース」の本質なのです。

博報堂が取り組んでいる、3つの課題に応えるアクション

博報堂は、生活者インターフェース市場の創造には次の3つが重要だと考えています。1つ目は、生活者への深い理解から生まれる価値の設計。2つ目は、モノ・技術への深い理解から生まれる仕組みの設計。そして3つ目は、事業・サービスへの理解から生まれるビジネスの設計です。私たち博報堂が「生活者インターフェース市場」の創造へ動き始めるにあたり取り組んでいる、この3つの課題に応える様々なアクションのうちのいくつかをご紹介しましょう。

まず、これから起こる未来への洞察力を高めることに取り組んでいます。テクノロジーの未来はもちろん見通せなくてはなりません。それだけでなく、生活者のありたい未来からバックキャストして考える、新たなコンサルティングWAYを開発しています。
次に、生活者理解の進化を図っています。博報堂が保有する膨大な生活者データも色々と進化しています。また、当社の特許技術を使って、安心・安全に企業の顧客データと外部データを連携するソリューションを提供する、「株式会社Data EX Platform」という新会社を今月立ち上げました。
そして、サービスの構築力も重要視しています。UI/UX、システム構築の専門部隊を組成しており、コンサルタント、デザイナー、システムエンジニアといった多様なメンバーが連携して、戦略からシステム構築までを一気通貫して機動力高く対応していきます。
自社で関連技術の開発も始めました。これから非常に重要になってくるであろう、ARクラウドや、欠かせないAI技術など、生活者インターフェースの核となる次世代技術の開発に積極的に取り組んでいきます。
そしてマーケティング領域の進化です。生活者インターフェース構築には、バリューチェーンの改革も重要です。IoT商品の開発、店舗の開発、アプリサービスの開発など、様々な領域に対応していきます。

新しいVI(ビジュアルアイデンティティ)に込める想い

博報堂は2019年7月より新たなVIを導入しました。そのシンボルは「センタードット」。センタードットにはふたつの意味があります。ひとつは、「起点」です。社員一人ひとりが起点となり、自ら考え、動き、仕掛け、新しい社会や生活を生み出していきます。もうひとつは、「結節点」です。様々な社会課題、未来のテーマ、企業や人、スタートアップなど、様々なプレーヤーをつなぐハブとなり、社会に新たな仕組みを実装していく。この二つの想いから、センタードットをシンボルといたしました。

生活者インターフェース市場とは、生活者と企業の新しい絆がつくる、無限の可能性をもった市場です。我々は皆様と一緒に、この市場を大きく広げていきたいと考えます。我々が皆様の起点となり、また様々なプレーヤーをつなぐ結節点となって、社会と生活者と企業の新しい関係、価値をつくっていきたいと考えています。

  • 株式会社博報堂 代表取締役社長
    1982年博報堂入社。第六営業局長、取締役常務執行役員などを経て2017年4月より代表取締役社長。2019年6月より博報堂DYホールディングスの代表取締役社長も兼任。