キャッシュレス決済の現状と今後<博報堂ダイレクト通信>
2018年もいろいろな新しい動きがありましたが、“QRコード決済”もその一つではないでしょうか。
仕事柄、コンビニのレジなどで、つい、ほかのお客さんの行動を見てしまうことが多いのですが、SuicaやPASMOなどの交通系電子マネーに加えて、スマホで、スマートに支払いを済ませる人が増えたなーと実感したり、レジで小銭を数える自分をちょっと恥ずかしいと思う瞬間、ってありますよね。
今回はQRコード決済を筆頭とするキャッシュレス化について、今、何が起きているのか、そして、今後、どうなっていくのか、について書いてみたいと思います。
群雄割拠の新決済サービス。今だからこそ知っておきたい現状と今後
●日本のキャッシュレス決済比率は20%程度で、世界の中ではまだまだ低い方
感覚的には、小銭を出す人が少なくなったという印象ですが、数字的には、まだこんなもの。しかもほとんどがクレジットカードで、店頭(小口決済)でのキャッシュレス化は非常に少ないというのが実態です。
ちなみに、世界的にみると、韓国が約9割でトップ、ついで中国の6割、カナダ、イギリス、オーストラリア、スウェーデンなどが5割程度、という状況。
日本のキャッシュレス化が他国と比べて遅れている理由は、以下のようなことのようです。
・治安のよい社会情勢(偽札が少ないなど現金に対する信頼性が高い)
・ATM環境の充実(いつでも現金が入手できる)
・「使いすぎ」への不安感
・店舗側のコスト負担(決済端末の導入費、運用費+決済手数料、入金までのタイムラグなど)
上記に加えて、“ニコニコ現金払い”的な国民性もあるんでしょうね。
都心では、若者を中心に、スマホ決済が急激に進んでいるように感じますが、日本全体でみるとまだまだというのがわかります。
そんな実態を打開するためなのか、経済産業省が、今年4月に「キャッシュレス・ビジョン」を発表。
来年の消費税増税対策(キャッシュレス決済で増税分がポイント還元?)、2020年を経て、2025年までにキャッシュレス比率40%を目指すという国家的な取り組みで、いよいよ日本もキャッシュレスに向け始動した、というところでしょうか。
(出典:経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」 平成30年4月)
●キャッシュレス化を後押しするプレイヤーたち
ここ2,3年で、新たなプレイヤーがユニークな決済サービスを続々とローンチし、活況を呈しています。その代表格が、QRコード決済。
QRコード決済は、
・スマホのアプリでQRコードを表示し、店舗がQRコードリーダーで読み取る
・店舗側で表示したQRコードを、ユーザーのスマホで読み取る
のいずれかの方法で支払いが完了するというもの。
これまでも“おサイフケータイ“はありましたが、QRコード決済は、
アプリを入れれば、機種やOSを問わず、すぐにスマホがおサイフになるので、キャッシュレス化の突破口になりそうです。
このQRコード決済というカテゴリーは、2012年ころITベンチャーがサービスを開始しており、そこに、LINE、楽天、ヤフー、ドコモなど強大な顧客基盤をもっている大手IT事業社やプラットフォーマー、さらには、メガバンクも参入し、今年、いよいよ戦国時代に突入という訳です。
キャッシュレス決済は、使う人と使える場所の双方がそろって始めて成立するので、各社ともユーザーと店舗双方を対象に、様々なキャンペーンを展開し、普及を後押ししています。
2018年末には、決済金額の20%がキャッシュバックされるという大胆なキャンペーンが話題になりましたね。ユーザー獲得はますます過熱しそうです。
●店頭での新しい取り組み
一昨年、某大手ファミレスチェーンが日本橋馬喰町に“現金お断り”(=完全キャッシュレス)のカフェを実験的にオープン。看板には“キャッシュレスチャレンジ”と書かれており、実験的な試みをいろいろやったようですが、基本的には店長業務や店舗オペレーションの効率化が目的のようです。
また、ある雑貨・家具ショップでは、代官山で同社初の完全キャッシュレスを期間限定でスタート。店舗オペレーションを効率化し、顧客と向き合う時間を増やすことを目指しての取り組みとのこと。
おもしろい試みですが、運営側のメリットのみが先行しているあたり、少し気になります。
両店とも、今度、行ってみたいと思います。
●キャッシュレス決済はこれからどうなる?
2018年は、QRコード決済を中心に盛り上がりをみせた訳ですが、今年、どうなっていくのでしょうか。サービス事業社、店舗、生活者それぞれの視点から、少し考察してみたいと思います。
◇サービス事業社
現在、各社とも”おトク”を前面に出したユーザー獲得、店舗開拓に必死ですが、これだと、体力があるところが有利であり、消耗戦になってしまいます。いかに、おトクや便利以外の“らしさ”のあるUI/UXを提案できるかが鍵。
◇店舗
最終的には、できるだけ多くの決済サービスを利用できるようにすることが必要(“うちのお店は、●●しか使えません”は避けたいはず)なのでしょうが、一方で、特定サービス事業社と組んで、そのお店限定の特典を引き出すということも戦略的に必要なフェーズかもしれません。(たとえば、某大手牛丼チェーンは、あるQR決済サービスを使った時のみ割引をするというキャンペーンを展開中)
また、特定事業者と組むことで、お店のCRM(会員管理)に活用していく、みたいなことも今後は起こってくると思います。
◇ユーザー(生活者)
ある程度リテラシーがある生活者は、いかに多くのお店で使え、一番お得なのはどのサービス(アプリ)なんだろう?と考え、自分に最適なサービスをチョイス、あるいは、使い分けるでしょう。
一方で、あまりに選択肢が多いので、どれがいいのか判断できず(判断すること自体がストレス)、利用を躊躇するユーザーも少なくないはず。自分のスマホがおサイフになっていくという流れは頭で理解できても、セキュリティ面や使いすぎへの不安など、心理的なハードルがクリアされるまでにはもう少し時間がかかるのではないでしょうか。
といろいろ課題がありながら、今後、キャッシュレス化は確実に加速していきます。膨大な生活者の決済データが蓄積された先に、どんな新しいマーケティングが展開されるのか、今から準備をしても遅くないと思います。
※※博報堂ダイレクト通信より転載いたしました。
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博報堂ダイレクト 取締役常務執行役員1991年博報堂入社。IT部門にて、基幹システムの大規模リニューアル、新聞社、雑誌社とのデジタル化推進プロジェクトなどに従事。以降、インタラクティブ局等でネットマーケティングやダイレクトマーケティング業務に携わる。2006年BrandXing(現、博報堂ダイレクト)設立時より参画。マーケティング×IT視点でのプロジェクトワークデザイン、CRMプランニングを得意領域とする。