マーケティングアクションの肝は、「粒度の細かい第三者データ」と「分かりやすい可視化」
デジタルトランスフォーメーション時代における、マーケティングダッシュボードの活用事例を語る対談企画。今回は、博報堂DYホールディングスのマーケティングダッシュボード「Vision-Graphics」の担当者が、当ツールの基盤技術を提供いただいているウイングアーク1st(以下、ウイングアーク社) 技術本部 クラウド統括部 リテール事業開発部 部長 中土井 利行さんに話を聞きました。
博報堂×ウイングアークが開発した「Vision-Graphics」
- 木下
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まずは中土井さんの自己紹介をお願いたします。合わせてウイングアーク社の概要についても教えてもらえますか。
- 中土井
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私は、2004年ウイングアーク社設立時よりBI事業の立ち上げに参画し、BI事業責任者を経て、2014年より第三者データ提供サービス「3rdParty Data Gallery」を立上げ、データ流通基盤を事業化しました。
ウイングアーク社はデータを分析・活用するためのソフトウェア、いわゆるBI(ビジネスインテリジェンス)ツールと呼ばれているソフトウェアを開発しているITベンダーです。主な商品としては、データを高速に集計するデータベースエンジン「Dr.Sum」やデータを分かりやすく可視化する「MotionBoard」といったもので、現在、非常に多くのお客様にご利用をいただいております。
- 木下
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われわれとの協業は4年前でしたよね。
- 中土井
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そうですね、2014年9月に業務提携を発表しました。弊社のクラウド型のダッシュボードサービス「MotionBoard Cloud」を博報堂DYホールディングスさんのマーケティングダッシュボード「Vision-Graphics」の基盤技術として採用していただきました。
- 木下
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博報堂メンバーの自己紹介もお願いします。
- 戸梶
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私は、博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター(以下MTC)で、システム開発を担当しています。ウイングアークさんとの業務提携の際には、システム連携やフィジビリティの確認、クライアントへの導入支援を担当しました。
- 米岡
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僕は戸梶と同じMTCで、生活者データを集めたり、 集めたデータをソリューション化したりなど、ローデータを色々な形で表現することに関わっています。それらのデータが流通する場として、博報堂DYホールディングスの「データ・エクスチェンジ・プラットフォーム設立準備室」という新しい組織を立ち上げ、事務局も担当しています。
- 木下
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ここにいるメンバーは、毎月1回定例会を実施し、クライアントの動向や新しいデータについて情報交換をしたり、新しいソリューションを考えたりしているチームです。中土井さん、われわれとの業務提携時の背景をお話いただけますか。
- 中土井
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従来、IT化の主な目的は、生産、販売、管理という基幹業務の効率化でしたが、その需要も二巡三巡して、IT投資目的が「コスト削減」から「売上向上、顧客獲得」へとマーケティング視点に変わり始めていました。
また、デジタルマーケティングだけでなく、マスマーケティング領域においてもアクションの「データ化」「デジタル化」が進み始め、マーケティング活動の効果測定が数値で行えるようになり、クライアントからも、マーケティング施策の可視化を求められてきた時期だと記憶しています。
広告効果測定のためには、お客様の販売データや来場データだけではなく、出稿データ、天候、視聴率、反応データなどバリエーションに富んだ多くのビッグデータを時系列的に表示し、比較し、相関関係を導き出すことが求められます。
また、クライアントごとに異なるレポート要求にも柔軟にかつ迅速に対応することも求められていました。PowerPointやExcelでのレポート作成では手間暇も工数もデータの更新のたびに資料の再作成の必要もありました。「MotionBoard」は様々なデータを多彩なグラフ・チャートにより表現力豊かなダッシュボードを設計、提供できるサービスです。設計の柔軟性、設計ツールの操作性、大量データの高速レンダリング性能、そして、当時はやり始めていた「クラウド型」のサービスということで、ご利用されるお客様に過大なシステム投資をお願いすることがなかった、というのもご評価していただいたと記憶しています。そういった背景があり、博報堂DYホールディングスとの業務提携となりました。
オープンデータをカジュアルに使うことができる「3rdParty Data Gallery」
- 木下
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2014年にウイングアーク社がリリースされた「3rdParty Data Gallery」についても教えてください。
- 中土井
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当時、官民あげてオープンデータをビジネス活用する機運が盛り上がっていた時期でした。一方で、オープンデータは提供される官庁や事業者ごとにフォーマットがバラバラで、データ利用するための成形に苦労をしていました。
ウイングアークでは、このオープンデータをBIツール上で利用しやすい形式(フォーマット)を定義・成形し、提供するサービスとして、「3rdParty Data Gallery」を始めました。国勢調査や住民基本台帳といった人口分布データを基本に、年収や貯蓄別の世帯数、ライフスタイル別の世帯数、将来の人口増減の推計数など、マーケティング施策にも重要な外部データです。
この「3rdParty Data Gallery」のデータを「MotionBoard」内でいかに表現できるか、両輪で開発を進め、いわゆる GIS(Geographic Information System:地理情報システム)ツールと、BIツールが融合し、意思決定できるマーケティングアクションができる基盤を作ってきました。
また、民間事業者からも非常に魅力的なデータがリリースされています。代表的なものとして、国内の携帯端末の位置情報を元に、人がどのエリアにどの時間帯にどれくらい存在するかというデータがあります。この大量のエリアマーケティングデータを地図情報上にマッピングできるのも「MotionBoard」の大きな特徴のひとつです。
- 木下
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われわれのデジタルトランスフォーメーション業務の中でも、エリアデータを使ってマーケティングしたいというニーズが年々強まってきています。
- 戸梶
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昔だと、 GIS は何百万円もして専用システムを入れなければいけませんでしたが、「MotionBoard Cloud」一つのオプションとして、エリアの描画機能があり、高機能で速いという点で非常に優れています。
- 米岡
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POS データを扱っている側面からみても、エリアデータの組み合わせのニーズは非常に増えています。しかし、先ほど中土井さんがおっしゃっていたように、国のデータが公開されているとはいえ、企業側にデータを使いこなせる人材が少ないので、取り込んで使えるか?というのはまた別の話です。
ですから、「3rdParty Data Gallery」や「MotionBoard」で、国のデータをカジュアルに使えるのは非常にいいですよね。 エリアデータと自社データ、購買データなどの組み合わせは、今後はあって当たり前で、マーケティングを考える上での基礎になっていくと思います。
- 中土井
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これまでのデータ販売は CD-ROM 1枚でいくら、というプライシングでした。彼らのビジネスモデル上、データが知財なのでそれは仕方ないのですが、ウイングアーク社はそれをクラウドで提供するために工夫し、生のデータがわれわれのシステム上から絶対流出しないセキュリティを作りました。データを見て、分析することしかできないようになっています。
つまり、データの二次入手ができない仕組みなので、「自分たちのビジネスモデルは壊さず、かつ新しい販路を開いていただいた」とデータホルダーに非常に喜んでいただいています。データホルダーがサブスクリプションモデルを第三者に認めてくれたのは、 実は日本で初めてだと思いますが、これはデータを民主化することに対して業界に賛同いただいたのが大きな要因かと思います。
ここまでわかる人流データ
- 木下
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今までの商圏分析は、市区町村やエリア単位のデータを元にすることが普通でした。最近では、そのエリアの曜日・時間帯別で見た男女比、年代の構成比、どこから来ているのかなどの人流データを見たうえで、出店計画やデジタル広告を検討するニーズが増えてきています。
- 中土井
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まさにそのニーズは増えています。ちょっとここで皆さんに聞いてみたいのですが、昼間の人口と夜の人口の差が顕著なエリアをご存知ですか?
答えは大手町です。
下記はイメージになりますが、上のグラフが1時間単位の人口の推移です。これが曜日ごと、時間ごと、男女比などがわかります。大手町は土日に人が少なく、月曜日から金曜日までの時間ごとの人口の波形はほとんど変わりません。
対して、例えば銀座を見てみると金曜日の20時に人口のピークを迎え、土日も人がたくさん来ていることが、実データで確認することができます。
さらに、 このエリアにいる人たちが、どこから来てるかもわかります。 商業地域での出店計画やキャンペーン実施の際に「どこの立地であれば、自分たちが望むお客様を集客させることができるのか?」がわかります。
一駅違うだけで乗り入れる路線が違うので、特に首都圏においてはターゲットとなる居住者人口が全く変わってきます。例として、たった1ブロックしか違わないのに銀座と東銀座では全く属性が違うのです。
- 木下
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データが素晴らしいのはもちろんですが、 BI ツールで可視化できることとセットで説明しないと、このデータの良さは伝わりません。「MotionBoard」のエリアの可視化、精度の高さ、見やすさは世界で見てもかなり高いレベルだと思います。
- 中土井
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私が知っている限りでは、BI ツールは世界中で500程度あります。その中でも、われわれはデータを高速にレンダリングできる技術が特徴です。
- 木下
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米岡さん、流通からはどんな要望が多いですか?
- 米岡
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今は都市部の話をされていましたが、これがベッドタウン側だと逆になります。これまでは感覚的に、昼間いる人と夜いる人が違うといったことや、都心に働きに行ってる人が夜帰ってくることはわかっていましたが、実際にはどの程度の人口の差があるのか、どういう人がいるのかというのを推測し、店舗の品揃えやマーケティングを行っていました。
今、小売が抱えてる課題としてECとの棲み分けがあります。店舗が生き残るためは、周辺に住んでいる生活者の特性理解や行動理解が、ますます重要になってきます。「MotionBoard」は、彼らが抱えてる課題にフィットするツールであり、 データであると思います。
- 木下
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これまでは、エリアデータは出店計画だけに使われていました。現在では店舗ができた後、顧客に対してどうマーケティングしていくかという時に、 人流データに加え、POS データやエリアデータなどが必要になってきているので、われわれとしてもそのサービスを拡充していきたいと思っています。
- 木下
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最後に、今ダッシュボードの大きなテーマとしてあがっている IoT について教えてください。
- 中土井
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最近、IT業界ではIoTがトレンドでして、様々なIoTデバイスを通じてデータが取得できるようになってきました。マーケティング用途で言えば、カメラの画像処理を使った人流測定が中心ですが、最近、実効性のある非常に興味深いサービスもいくつかリリースされ、実績が出てきている段階です。
例として、百貨店や専門店で見かけるショーウインドウや屋外広告などのサインディスプレイ広告効果を、Googleアナリティクスのように効果測定を可視化する「ESASY」というサービスがあります。これは実際にショーウインドウをデザイン・設置する会社が開発しているというのが興味深いのですが。最近、彼らと実証実験を行い、MotionBoard Cloudで可視化するところまで技術検証を完了しました。サイン&ディスプレイ広告が入店にどのくらい効果があるのかご関心を持っていただけるクライアント様に、ぜひご提案したいです。
- 木下
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一緒に提案していきましょう。これまでは取れなかったオフラインのデータがどんどん取れるようになってきているので、それらを活用した新しいソリューションとして提供していきたいと考えています。本日はありがとうございました。
この記事はいかがでしたか?
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中土井 利行ウイングアーク1st 技術本部 クラウド統括部 リテール事業開発部 部長2004年ウイングアーク設立時よりBI事業の立ち上げに参画。BI事業責任者を経て、2014年より第三者データ提供サービス「3rdParty Data Gallery」を立上げ、データ流通基盤を事業化。2017年11月より小売業の店頭マーケティングの最適化ソリューションを提供する株式会社リテールマーケティングワンを設立、同社取締役も兼任するイントラプレナー。
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博報堂 研究開発局 木下グループ グループマネージャー
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 開発1グループ グループマネージャー2002年博報堂入社。以来、マーケティング職・コンサルタント職として、自動車、金融、医薬、スポーツ、ゲームなど業種のコミュニケーション戦略、ブランド戦略、保険、通信でのダイレクトビジネス戦略の立案や新規事業開発に携わる。2010年より現職で、現在データ・デジタルマーケティングに関わるサービスソリューション開発に携わり、Vision-Graphicsシリーズ, m-Quad, Tealiumを活用したサービス開発、得意先導入PDCA業務を担当。またAI領域、XR領域の技術を活用したサービスプロダクト開発、ユースケースプロトタイププロジェクトを複数推進、テクノロジーベンチャープレイヤーとのアライアンスも行っている。また、コンテンツ起点のビジネス設計支援チーム「コンテンツビジネスラボ」のリーダーとして、特にスポーツ、音楽を中心としたコンテンツビジネスの専門家として活動中。
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博報堂 研究開発局 主席研究員 博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 開発2グループ グループマネージャー2011年博報堂中途入社。前職では大手SI会社のシステムエンジニアとしてマーケティング関連のシステム開発を数多く経験。博報堂入社後は, 博報堂DYホールディングスに出向し, 同社のマーケティング・テクノロジー・センターにて, 博報堂DYグループのデータ・デジタルマーケティング領域におけるシステム基盤の開発と導入支援に従事。Vision-Graphicsシリーズ, 「生活者DMP」のシステム基盤, 大規模ライフログ分析システムなどのシステム開発責任者として開発実績が多数ある。
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株式会社博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジー・センター 開発3グループ グループマネージャー1996年入社以来、営業職として食品メーカー、自動車メーカーなどのクライアントを担当。2011年より現在まで研究開発局に異動し、ナレッジ開発職として、生活者データ全般の中でも、特に購買データに軸足をおきながらデータ分析やサービス開発に従事。2016年4月より現職。