ヒット習慣予報 vol.403『繕いアップデート』

こんにちは、ヒット習慣メーカーズの山田です。
気づけば3月、年度末ですね。
春から新生活で環境が変わる方も多いのではないでしょうか。
新年度を機に古くなった・壊れてしまったモノを捨てたり、気分転換に新しいモノに買い替えたり様々な選択がありますが、今、あえて「直して、さらに自分らしくする」という選択をする人が増えているようです。
これまでのサステナビリティが「環境のために、しなければいけないこと(義務のように感じることも)」だったとすると、今の動きは「もっと愛着を持ちたいから、やりたいこと(≒自己表現)」に近づいています。
そんな変化を、『繕いアップデート』と名付けました。
身近な3つの兆しから、その正体を探ってみましょう。
一つ目は、陶器の割れ跡を隠すのではなく、敢えて金粉で美しく目立たせることで、新たな価値を生み出す「金継ぎ」です。
古くから続く日本の伝統的な文化ですが、最近では若年層向けに手軽に体験できるワークショップが開催されていたり、SNSで実際にやってみた動画等が多く投稿されています。
Googleの検索数を見ても、2021年以降右肩上がりの推移を見せています。

出典:Google Trends「金継ぎ」検索量(2021年3月~2026年2月)
実は私も、実際に金継ぎを依頼した一人です。
お気に入りの陶器の置物を割ってしまい、捨てるしかないのかと落ち込んでいたのですが、金継ぎによる修理サービスを知り修理をお願いしました。
割れる前の状態に戻る訳ではないですが、割ってしまったこともそのモノとの思い出の一つとして刻まれ、世界に一つだけとなったことで、より一層の愛着を持つようになりました。
二つ目は、母の想いを受け継ぐ「ママ振り」です。
成人式などのハレの日に、母親の振袖をリメイクして着る「ママ振り」が定番化しています。
単にそのまま着るだけでなく、帯締めやバッグ、髪飾りを最新のトレンドに替えたり、現代的なシルエットに仕立て直したりすることで、「歴史の重み」と「今の自分」を融合させる着こなしも多く見受けられます。
新品を買うよりも、ストーリーがある一着を選ぶことが、若い世代にとっての価値となっているようです。
私の友人でも、成人式や卒業式で「ママ振り」を着ている子が多かったのですが、「敢えてママ振りを着ている自分を誇りに思っている、ママ振りを魅力的だと思い着こなしている」ポジティブな文脈で着ている子ばかりでした。

三つ目は、リペア(修理)そのものをエンターテインメントとして楽しむ動きです。
大手アパレルやアウトドアブランドが共催する「リペアイベント」は、今や数時間待ちの行列ができるほどの盛況ぶりのようです。
ここでも「目立たない修理」だけではなく、あえて違う色のパッチを当てたり、太い糸でステッチを効かせたりして、「修理したことが一目でわかる」仕上げにする人も多いようで、長く使い込んだ証を隠すのではなく、むしろ「勲章」として可視化する、傷跡をデザインとして取り込む体験そのものが、自己表現の手段になっています。
SNS上では、リペア前と後の比較画像を載せていたり、リペアに使うワッペンや布を楽しそうに選んでいる様子が見られます。
ではなぜ今、『繕いアップデート』が起きているのでしょうか?
この背景には、「正解のコモディティ化」への反動があると考えられます。
どこでも同じ質の新品が安く手に入る時代だからこそ、「誰もが持っていないもの」への渇望が強まっています。
新品の完璧さよりも、使い込まれ、繕われた跡にある「不完全な美」や「唯一無二のストーリー」に、生活者は価値を感じ始めているようです。
また、モノが溢れる社会において、「一つのモノと長く付き合い続けるスキル」を持っていることが、ある種の知的なステータスとして認識され始めたことも一因ではないでしょうか。
最後に『繕いアップデート』のビジネスチャンスとして、下記のようなことを考えてみました。
【「繕いアップデート」のビジネスチャンス例】
■ 「未完成」で売るプロダクト: あえて「繕い」を前提とし、傷がついたら専用パテで埋めていく、育てる家具など。
■「愛着のアーカイブ」サービス: 修理履歴をNFT化し、二次流通時に「大切に直してきた証」が価格に反映される仕組み。
■リメイク専門の「マッチングプラットフォーム」: タンスに眠る思い出の品を、現代のクリエイターが今のライフスタイルに合わせてアップデートしてくれるマッチングサービス。
単なる修理を超えて、直した跡をデザインとして楽しみ、モノの寿命をポジティブに更新していく『繕いアップデート』は、これからの私たちの消費行動を、より豊かでクリエイティブなものに変えていくかもしれません。
▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。
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博報堂 中部ビジネスデザイン局
ヒット習慣メーカーズ メンバー2022年博報堂入社。趣味は旅行で、休日は常に複数の旅行計画に追われている。
転勤を機に国内旅行へのモチベーションがアップ中。


