マーケティングシステムの今~マーケティング&ITの実務家集団が語る事業グロースへのヒント【vol.18】マーケティングツール導入前に知っておくべき4つのアンチパターン
マーケティング活動において、データとテクノロジーが果たす役割は年々高まっています。データ基盤整備やCDP(カスタマーデータプラットフォーム)活用、マーケティングオートメーション、AI活用といった言葉は、もはや特別なものではなくなりました。一方で、それらを「実際の事業成長」に結びつけられている企業は、想像以上に少ないのが実情です。本連載では、博報堂マーケティングシステムコンサルティング局(以下、マーシス局)のメンバーが、事業グロースに向けた「生活者発想×データ×テクノロジー」の挑戦について、日々現場で向き合っている知見や視点から発信していきます。
第18回のテーマは「マーケティングツール導入前に知っておくべき4つのアンチパターン」です。「高機能なツールを導入したはずなのに、思うような成果につながらない。」MAやCDPなど、マーケティングツールの運用現場ではこのような切実な悩みを頻繁に伺います。そして、その原因の多くは導入後に新たに発生した課題ではなく、導入前の段階から存在した課題が顕在化したパターンであることがほとんどです。そこで今回は、マーケティングツール導入における4つのアンチパターンを元に、企業が導入前に整理しておくべき検討事項をまとめたいと思います。
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山崎 銀次郎
株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局 データプラットフォーム推進部
システムアーキテクト/ディレクター
アンチパターン①:施策設計の失敗
なぜ多くの企業はツール導入で期待通りの成果が得られないのでしょうか。
その一つに、ツール活用やパーソナライゼーション自体が目的化し、施策設計が複雑化してしまうことが挙げられます。
CDPやMAを使えば高度なセグメンテーションやパーソナライゼーションを実現できますが、過度に細かい施策設計はリーチ数減、コスト増に繋がり、ROIがマイナスに転じてしまいます。またパーソナライゼーションを行えばCVRは一定まで向上していきますが、徐々に頭打ちになるため、ビジネス効果の高い最適なポイントを見極めることが重要です。
一方、導入前から最適なポイントを見極めることは困難なため、まずは一斉配信やシンプルなセグメンテーション・ジャーニー・クリエイティブから開始し、それらの施策結果を効果測定していく中でセグメント設計やクリエイティブを磨いていくといったステップ論で運用を進めていくことを推奨します。

図1:最適なセグメンテーション・パーソナライゼーションの見極め
アンチパターン②:不十分な機能理解
マーケティングツールに限らず、SaaSの利点は「開発を最小化してコア機能を使えること」にあります。一方、その開発の容易性はシステムの柔軟性とのトレードオフであるため、制約事項の理解が非常に重要です。つまり「何ができて、何ができないか」を正しく理解したうえで施策設計を行うことが必要不可欠です。
機能理解が不十分なまま施策設計を進めると、導入後に「蓋を開けてみると実現したいことができなかった。」という事態に直面し、施策を諦めざるを得なくなったり、複雑な開発や3rdパーティツールの導入による追加コストの負担を余儀なくされることがあります。
例えば、ある企業でMAツールの導入を検討していた際「メール配信だけでなく、LINEメッセージの配信も行いたい」という要望がありました。ツール選定時にはMAに「LINEメッセージ配信機能がある」ことを確認していましたが、具体的な配信形式のすり合わせが不足していた結果、ツール導入後に「LINEの画像カルーセル配信」という機能要件が満たせないことが発覚しました。
こうしたリスクを避けるためにも「LINEメッセージ配信機能があること」ではなく、以下のように具体的なユースケースを想定し、導入後の認識齟齬の発生を防ぐことが必要です。
<LINEメッセージ配信機能要件例>
・配信形式:テキスト、画像、リッチメニュー、カルーセル配信が可能であること
・セグメンテーション機能:自社DBに格納されているデータを参照し、特定の条件に合致するユーザーに配信できること
・シナリオ配信:友だち登録後、1日目、3日目と設定したスケジュールで自動配信できること
アンチパターン③:過度なカスタム開発
マーケティングツールに限らず、どのSaaSにも基本的には「標準機能(ノーコード・ローコード)」と「カスタム開発(コーディング)」があります。
注意すべきは、可能な限り標準機能で開発を完結させることです。過度なカスタム開発を行うと単純な開発コストの増加だけでなく、下記図のようなリスクが発生します。

実際、ある企業が既存の運用に準拠した要件を満たすため、95%をカスタム開発で実装した結果、大幅な工数の増加や大量の不具合の発生につながり、最終的には法的な紛争に発展する事態となりました。この事例から学ぶべきは、カスタム開発の割合を高めすぎると、システムの複雑性が増大し、品質管理が困難になるということです。可能な限り標準機能を活用し、カスタム開発は必要最小限に留めることが重要です。
ツールの標準仕様に業務を寄せる(Fit to Standard)と聞くと、一見「自社の要望が蔑ろにされるのでは」と懸念される方もいるかもしれませんが、標準仕様をベースにしてコスト、リスクを抑えながら、効果的な施策を行うことは十分に可能です。多くのビジネスゴールは標準機能の組み合わせで十分に達成できます。それができない背景には、ビジネスゴールの達成ではなく「既存の仕様に合わせること」が目的化しているプロジェクト構造自体に問題があることが多いと感じます。
アンチパターン④:データの不備
「施策に必要なデータが存在しない、あるいは品質が低く使い物にならない。」これは最も多くの企業で挙がる課題です。新たにデータを取得するには、新規計測のための実装やプライバシー対応など、相応のコストが伴います。そのため、理想のデータが揃うのを待って施策実施を足止めするのではなく、現状のデータで実行可能なスモールスタートを定義し、今あるデータで成果を出していくアプローチがツール導入を失敗させない現実的な決断となります。
最後に:正しいステップで着実にマーケティングDXを成功させるために
博報堂では、企業のマーケティングDXを支援するアセスメントサービスを提供しています。上記の内容だけでなく、300件以上の実績に基づくナレッジをベースに、施策実行を具体的な運用レベルで明確化するとともに、エンジニアチームと連携し、テクノロジー面も考慮した評価を行います。
博報堂のアセスメントは、以下の3つのポイントを重視しています。
1. 生活者視点の戦略設計
方針レベルにとどまらず、生活者への価値提供まで含めたプラニングを行います。企業側の都合ではなく、生活者にとって価値がある取り組みにするための設計を実施します。
2. 全体を俯瞰したシステムの把握
サービスレイヤだけではなく、データを統合・可視化するデジタル基盤レイヤも含め全体を俯瞰したシステム環境の構築を評価します。
3. Can Be(現実解)の設定
To Be(なりたい姿)だけでなく、Can Be(現実的に実現可能なこと)を定義・設定します。As Is(現状)からTo Be(理想)への道のりを、実現可能性を考慮しながら設計します。
正しいステップで着実にマーケティングDXを成功させるために、ぜひお気軽にご相談ください。
※肩書は取材当時のものです
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株式会社博報堂
マーケティングシステムコンサルティング局
データプラットフォーム推進部
システムアーキテクト/ディレクターエンジニアとしてCRMシステムの要件定義~開発フェーズにおける導入支援に従事したのち、博報堂に入社。現在はプロジェクトマネージャー/コンサルタントとしてCRM領域を中心に、営業、コールセンター、デジタルマーケティング関連のプロジェクトに参画し、業務・システムの両面からプロジェクト推進を支援。

