
音声解析・生成AIを活用してビジネスを進化させる ~対面商談活用へのチャレンジ~【セミナーレポート】 後編
生成AIの発展ともに、音声解析サービスの可能性も急速に広がっています。
しかし、AIを活用した音声書き起こしサービスなどの多くは、録音データやオンライン会議からの音声取得にとどまっており、リアル音声データの解析や要約といったサービスの提供は、依然として難易度が高い状況です。
博報堂DYグループでは、2018年から音声データの解析とビジネス活用に向けた技術開発や事業化に取り組んできました。今後、生成AIの活用は、広告・マーケティング領域だけにとどまらず、営業や商談現場でもさらに進んでいくでしょう。
本記事では、先日開催した博報堂DYグループが主催する“生活者データ・ドリブン”マーケティングセミナー「音声解析・生成AIを活用してビジネスを進化させる ~対面商談活用へのチャレンジ~」の様子を編集しお届けします。
セミナーレポートの後半では、博報堂DYグループのAI研究拠点「Human-Centered AI Institute」の代表を務める森正弥を迎え、3つのテーマを軸に「音声解析と生成AIの展望について」トークセッションをした模様をお伝えします。
<登壇者>
森 正弥
博報堂DYホールディングス執行役員
Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表
西村 啓太
博報堂DYホールディングス
Human-Centered AI Institute所長補佐
マーケティング・テクノロジー・センター室長補佐
金野 敏和
株式会社博報堂
ミライデザイン事業ユニット
gmove 事業責任者
前編はこちら>
【第三部】トークセッション ~音声解析と生成AIの展望~
営業や販売現場にAIを活用できるフェーズに入ってきた
- 西村
- 本日は、主に3つのテーマを軸にディスカッションしていきたいと思います。
まずは、生成AIにおける音声データ解析市場の盛り上がりについてです。森さんは、最近の盛り上がりをどうご覧になっていますか?
- 森
- はじめに自己紹介をさせていただくと、私は、博報堂DYホールディングスのCAIO(Chief AI Officer)と、人間中心のAIというコンセプトでAIの活用・ガバナンスを推進していく先端研究組織「Human-Centered AI Institute」の代表を務めています。また、日本ディープラーニング協会の顧問や、東北大学でAIの人材育成や産学連携に関する特任教授も兼任しています。
AIに関しては20年以上従事してきましたが、昨今はとくに、画像・音声・テキストなど異なる種類の情報をまとめて扱える「マルチモーダルAI」の拡大によって、さまざまなデータが扱いやすくなり、盛り上がりにつながっているのだと思います。
とくに、音声データを扱えるようになったことで、企業の営業チームの中でこれまで暗黙知になっていた商談も可視化できるようになりました。さらに、音声データをただテキスト化するだけでなく、高度な解析をしたり、インサイトを得たりと、企業や営業スタッフが活用できるフェーズに入ってきたことを実感しています。
- 西村
- 今お話をお伺いしていて思ったのですが、一昔前のチャットボットやスピーカー型のサービスでは、指示通りに動作ができたとしても、人間に何か気づきを与えるような創造的な解釈まではできていなかったですもんね。
- 森
- そうですね。最近では、検索文の意味を理解して意味に沿った検索結果を提供する「セマンティックサーチ」というキーワードもありますが、そうした技術とも連携していくことで、単に音声をテキスト化したり意味を捉えたりするだけではなく、AIからインサイトを得ることも増えていくでしょう。技術の進化とともに、「そんなこともできるんだ」という理解も広がってきていると思います。
音声解析で、商談のトレーニングが可能に
- 西村
- ちなみに、音声データを解析する場合、現在は「音声をテキスト化→AIが意味を理解→テキストでアウトプット」という形が多いと思うのですが、音声データをインプットして、音声で出力されるようなケースもあるのでしょうか?
- 森
- 今はまだそこまではできないのですが、そうなったら生成AIも次のステージに入っていくような気がしますね。たとえば、商談時に最適な間合いだとか、話し方など、テキストではわからない部分もAIが解析して音声でアウトプットできるようになれば、より効果的な話し方を模索していくことも可能になりますからね。
- 西村
- なるほど。今までだと、会話ができるロボットであっても、少しタイムラグがあったり、一定のリズムで再生されることも多かったのが、少し間があったり緩急がついたりすることで、より人間らしい対応もできるようになりそうですね。
- 金野
- また、商談では声の高低や大きさ、緩急をお客様と合わせていくことも重要ですが、お客様は千差万別だから合わせていくのも大変ですよね。営業スタッフの方は、目の前のお客様を見て、話すスピードや話し方を随時チューニングしていると思うのですが、今後AIはそういったことも可能になるのでしょうか?
- 森
- それもすごく重要なポイントですよね。現在のAI分析だと、音声や動画は一度テキスト化して分析する流れになっているため、営業スタッフとお客様の間合いや商談の雰囲気みたいなところまではカバーできていません。これを今後どうアップデートしていくかが、次の指針になると思いますね。
AIによって効果的な話し方やノウハウを発見できれば、チームでの共有もしやすいですし、AIを活用しながらトレーニングができるようになるのも大きいと思います。
- 西村
- AIを通じて、自分の癖や持ち味を確認できるし、直した方がいいところがあれば、何度も試しながらチューニングできると。営業シーンでのAI活用が一気に進みそうですね。
- 金野
- 今まさに、営業現場でもAIを相手に商談のトレーニングをしていくという流れがありますが、
将来的に、AIが営業スタッフの代わりに商談することを見据えた場合、AIと人間のコミュニケーションの差はどのように埋めていけばいいのでしょうか。
- 森
- 今はまだ、AIにお客様を演じてもらっても、AIらしさは強く残ってしまいます。もちろん、技術の進化によって少しずつ改善されていくとしても、完全には払拭できないと思うんです。
また、AIの対応をリアルなお客様が求めるのかということもあるかと思います。お客様が心を開いてくださるには時間がかかるものですし、何回も会って、何時間もかけた上で言ってくれる一言が、商談においてキーになることもある。私は、その体験をAIで再現するのは難しいんじゃないかと思っています。そうであれば、AIに人間らしさやリアルさを求めるよりも、営業スタッフのスキルを磨くためにAIを活用する方がいいと思いますね。
- 西村
- 今の「AIでいかに人間の能力を拡張するか」ということに関しては、私たちのサービスでも重視しています。たとえば、第二部で紹介させていただいた『商談サポートアプリ』には、商談の評価機能がありますが、AIで自分の商談を可視化して、次の商談に活かしていくという観点が大事ですよね。
“AIは人工知能だ”と捉えると営業スタッフのリプレイスという話になってしまうのですが、“AIは営業スタッフの力を拡張するもの”と捉えるのが大切だと思っています。
「バーチャルヒューマン」と「AIエージェント」
- 西村
- 近年、AIを搭載し人間のような姿でリアルに動く「バーチャルヒューマン」や、ユーザーのニーズに応じて業務の自動化や意思決定を支援する「AIエージェント」にも注目が集まっていますが、森さんはこれらをどのように考えていますか?
- 森
- 「バーチャルヒューマン」と「AIエージェント」は、少し違うものだと思っています。
「AIエージェント」にできるのは、マルチモーダルでさまざまなドキュメントやデータを処理しながら、人間が介入せずにワークフローをこなすこと。調達のような、要件が明確で市場の状況を把握するほどマッチングしやすくなっていく営業シーンで役に立つと思います。
一方、「バーチャルヒューマン」は、人間を模しているという特徴を活かして、単にデータを処理したりワークフローをこなしたりするだけでなく、営業スタッフの方にアドバイスをしたり、お客様にオプションをご提案したりと、人間に気づきや示唆を与え、視野を広げていく存在であってほしい。なので、営業現場においては、営業スタッフにも気づきを与える「バーチャルヒューマン」が必要なのではないかと思います。
AIには、優秀なデータのみを学習させるべきか?
- 西村
- AIに学習させるデータについてもディスカッションさせてください。データから気づきを得ようとする場合、優秀な営業スタッフのデータのみを学習させるべきでしょうか。それとも、さまざまな営業スタッフのデータも学習させた方がいいのでしょうか。
- 森
- さまざまな営業スタッフのデータを学習させるべきだと思います。理由は二つあります。
一つは、AIのレベルを上げていくには、優秀なデータだけではダメということです。
数々の研究でも言われていることなのですが、シリコンバレーで自動運転車を作っている会社が2019年に出した論文では、「優秀なドライバーのデータだけを学習させたらうまくいかなかったが、運転が得意ではないドライバーのデータを学習させることで、自動運転能力が大幅に向上した」と述べられていました。このように、優秀かどうかにかかわらず、いろんなデータをインプットすることで総合的な判断ができるようになり、精度向上にもつながるのです。
もう一つは、優秀な営業スタッフだけのデータを学習したAIを、人々が求めているのかという話です。営業スタッフからすると、優秀な営業スタッフのやり方だけでなく、「今自分がこのステップにいるから、もう一つ上のステップに行くためのアドバイスがほしい」といった、段階的なアドバイスがほしい場合もあるはずです。そのためにも、いろいろなスキルレベルの営業スタッフのデータをインプットしておく必要があると思いますね。
汎用型と領域特化型を併せ持つ必要性
- 西村
- また、エリアごとの営業スタイルや方言などについてはどう考えていますか?
- 森
- 営業現場において、地域特性は重要なテーマだと考えています。その土地の営業スタッフの方は、各地域に根差した独特のコミュニケーションスタイルやプロトコルを踏まえて日々活動していると思うのですが、そういった地域特性をAIにインプットできていなければ、新入社員の方や転勤されてきた方だと、AIでトレーニングをしてもなかなか成果に結びつかないかもしれません。
- 西村
- 汎用的な営業のトレーニングはもちろん、地域特性も押さえる必要があると。そうなると、たとえば本社が管理する全国のデータを集約した「汎用型プラットフォーム」と、各地域の支社が集めたデータを学習した「領域特化型プラットフォーム」の2つが必要になりそうですね。
- 森
- ただ、企業様の中には、地域統括支店が分かれていたり、販売会社だけが別会社だったりすることもあると思うので、ベースのプラットフォームは本社が提供しつつも、そこに入るデータは各支社や各販売会社が保有しているといった形にするのが適切かもしれません。
当社グループとしても、本社への基盤技術の提供はもちろん、多様な事業構造に合わせたデータの集め方についてもさらに考えていく必要がありそうです。
- 西村
- 本日はありがとうございました。最後になりますが、当社グループは、AI技術を活用したサービスを通じて、さまざまな企業様を支援させていただくとともに、今後もAIの可能性を追求しながら、その成長に貢献していきたいと思っています。今回ご紹介したサービスについてご興味がありましたら、ぜひお気軽にお問い合わせください。
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博報堂DYホールディングス執行役員
Chief AI Officer
Human-Centered AI Institute代表1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て、監査法人グループにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。東北大学 特任教授、東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問、日本ディープラーニング協会 顧問。著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。
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博報堂DYホールディングス
Human-Centered AI Institute所長補佐
マーケティング・テクノロジー・センター室長補佐The University of York, M.Sc. in Environmental Economics and Environmental Management修了、およびCentral Saint Martins College of Art & Design, M.A. in Design Studies修了。
株式会社博報堂コンサルティングにてブランド戦略および事業戦略に関するコンサルティングに従事。株式会社博報堂ネットプリズムの設立、エグゼクティブ・マネージャーを経て、2018年より博報堂DYホールディングスにて研究開発および事業開発に従事。
2019年より株式会社Data EX Platform 取締役COOを務める。2020年より一般社団法人日本インタラクティブ広告協会(JIAA)にて、データポリシー委員会、Consent Management Platform W.G.リーダーを務める。
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株式会社博報堂
ミライデザイン事業ユニット
gmove 事業責任者2005 年博報堂入社。自動車・流通業界などでビジネスプロデューサーとして活動後、現在は博報堂顧客接点専門チーム「gmove」のリーダーとして SMS関連サービス、CTIソリューション、オンライン接客ロープレサービスなど、販売現場に向けたさまざまなソリューション・サービスを開発している。