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生成AIで中堅・中小企業の未来を切り拓く ~生成AIの社内導入・活用を促す『& MAICO』の可能性~
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生成AIで中堅・中小企業の未来を切り拓く ~生成AIの社内導入・活用を促す『& MAICO』の可能性~

博報堂DYホールディングスは2024年4月、AI(人工知能)に関する先端研究機関「Human Centered AI Institute」(HCAI Institute)を設立しました。

HCAI Instituteは、生活者と社会を支える基盤となる「人間中心のAI」の実現をビジョンとし、AIに関する先端技術研究に加え、国内外のAI専門家や研究者、テクノロジー企業やAIスタートアップなどと連携しながら、博報堂DYグループにおけるAI活用の推進役を担います。

本格的なスタートを切ったHCAI Instituteを管掌する、グループのCAIO(Chief AI Officer)である森正弥が、博報堂DYグループのソリューションを紹介し、そのトップランナーと語り合うシリーズ対談を「Human Centered AI Works」と題してお届けします。

第3回は、アンドデジタル株式会社執行役員CTO 岡村悠久氏に、生成AIを効果的に導入・活用するためのプラットフォーム「& MAICO(アンドマイコ)」について伺いました。

DXの現場から見えてきた生成AIの可能性

まずは岡村さんの経歴と、現在のお立場についてお聞かせいただけますか?
岡村
私は2016年にソウルドアウトに参画したのですが、実は入社前から同社と関わりがありました。当時、ソウルドアウトの上場に向けた基幹システムの開発をプロジェクトマネージャーとして外部から支援していたんです。そして上場直前のタイミングで、「社内のIT部門を一から作ってほしい」というお話をいただき、入社を決めました。

上場を控えた重要なタイミングでの参画だったんですね。
岡村
そうですね。当時は経理やITを含め、管理機能全体が、上場企業として必要な水準には十分に整っていない状況でした。そこからグループウェアや会計システムなどの各種システムの整備や、スマートフォンをはじめとしたデバイスの導入を進め、組織のDX基盤を作り上げていきました。その後、一度フィンテックのスタートアップでCTOを務める機会があり、2021年7月にアンドデジタルのCTOとして戻ってきました。
外部でCTOとして知見を拡げて、また戻ってこられたと。アンドデジタルは、ソウルドアウトグループの中でどのような位置づけなのでしょうか?
岡村
アンドデジタルは、ソウルドアウトグループのDX推進企業として設立されました。ソウルドアウトはデジタル広告事業を主軸とする会社なのですが、広告と売上拡大の親和性が低い企業や、デジタルとデータ活用が進まず成果につながりにくい企業と多く出会ってきました。
そうした企業から「デジタル化の段階から支援してほしい」という声を多くいただいたことを受け、グループのパーパスを体現する形で、DXの専門会社を立ち上げたんです。

特にデータ活用を重視しており、社員の約4分の1がデータサイエンティストという構成です。デジタル活用によるデータ創出から、データを基にした意思決定や施策展開までを支援し、ソウルドアウトの広告事業と他のデータを連携させる取り組みも積極的に展開しています。

生成AI活用の課題から生まれた&MAICO

DX推進は日本の多くの企業での課題ですよね。そのような中で&MAICOの開発が始まりました。&MAICO はある意味、AIによるDX推進を加速する大きな武器でもあると思ってますが、そもそもの開発のきっかけは何だったのでしょうか?
岡村
&MAICOは、もともとソウルドアウトグループの社内ツールとして始まりました。2023年の春頃から、ChatGPT 3.5を導入したところ、一部の社員のパフォーマンスが劇的に向上したんです。これはすごいと思って社内に展開したのですが、そこで大きな課題が見えてきました。
どのような課題だったのでしょう?
岡村
大きく二つありました。一つは、AIを使いこなせる人と使いこなせない人の間でスキルの差が顕著に表れたこと。もう一つは、使いこなせる人たちが次第に疲弊してしまった事です。具体的には、スキルが高い人たちのプロンプトを共有する取り組みを始めたのですが、その人たちに要望が集中してしまい、しかも十分な評価も得られない状況が続きました。結果として、次第にノウハウの共有が滞ってしまったんです。
なるほど。DX全般に言えることですが、デジタルツールの導入では、活用する人と活用しない人の差が明確に出てしまい、推進における大きな課題の一つになりますよね。
岡村
その通りです。特に生成AIは、トップダウンの巨大なシステムというよりは、日常的に使っていくツールやインフラとしての性格が強い。だからこそ、ボトムアップ的に使いこなしていく必要があるんです。

業務フローに組み込むことが大切

そこで&MAICOでは、どのようなアプローチを取られたのでしょうか?
岡村
まず重視したのが、業務フローへの組み込みやすさです。ユーザーが簡単にAIの効果を引き出せるよう、入力項目をフォーム化し、プロンプトを裏側に組み込めるようにしました。さらに、プロンプトに直接URLからアクセスできる仕組みを実装しています。これにより、ユーザーは慣れないプロンプトを一から作成したり、何度も同じプロンプトを書く必要がなくなりました。ブラウザのブックマークから必要なプロンプトを直接開けるため、作業効率も大幅に向上します。

また、プロンプトの公開範囲を細かく設定できる機能も付けました。実は面白い使われ方をしていて、「厳しい上司」の思考を模したプロンプトを作って、機嫌の悪い日の上司とのコミュニケーションに活用している人もいるんです。こういった個人的なノウハウは非公開設定で管理されています。

UI/UXの工夫が重要ですね。また、プロンプトの評価システムについても工夫されていると聞きました。
岡村
はい。プロンプトの使用回数や、「いいね」「ブックマーク」といった評価が可視化される仕組みを整えています。さらに、ダッシュボードで組織全体のAI活用状況を把握することもできます。

実際に、これらの機能を活用して弊社内では社内コンテストも実施しました。最初は面白いプロンプトが人気を集めるんですが、最終的には業務で実際に役立つプロンプトが高評価を得る。そうやって実用的なナレッジが自然と集まってくるんです。

可視化によって組織における共有が進み、活用も後押しされていく。最初は面白いものに注目が集まるけれど、活用が進んでいくと実際の効果の認知も進んでいくということですね。組織としての予想外の発見や気づきはありましたか?
岡村
ありました。去年の11月頃のことですが、普段あまりAIを使わないと思っていた35、36歳くらいの営業担当者が、突然プロンプト活用のランキングで1位になったんです。話を聞いてみると、自分ではプロンプトは作成出来ないものの、他の人が作ったプロンプトを非常に効果的に活用していたんです。こういった「隠れた活用者」の存在が見えてきたのは、組織としても大きな気づきでした。

AI時代、ベテランが活躍する可能性

まずは社内で活用していった&MAICOですが、社外にも、顧客企業にも展開を行っています。社内での気づきとは異なる発見もあったかと思いますが、導入企業での活用事例について、印象的なものはありますか?
岡村
結婚式場での導入事例が面白かったですね。ウェディングプランナー、ウェブ制作者、料理人など、様々な職種の方々が参加するワークショップを開催したんです。その中で、職種による理解度の差が見えました。例えば、ウェブ制作者は技術的な理解が早い一方で、プランナーの方々は操作に戸惑う場面も。
結婚式場での導入というのは意外ですね。それほどまでに生成AI活用というのは普及しているのと、一見遠そうな企業においても導入に大きな関心を払っている。DXが重大な関心事であり、まだまだ現在進行形のテーマであることがわかります。職種による理解度の差というのも導入定着の観点から興味のあるポイントです。そこから何か気づきはありましたか?
岡村
はい。当初は職種ごとにグループ分けしていたんですが、それだと既存の業務の枠内での議論に終始してしまう。クロスファンクショナルな編成にすることで、職種を超えた視点が加わり、より創造的なアイデアが生まれやすいことに気づきました。

さらに、世代間の違いも重要な要素だと実感しています。若手はAIツールの操作に長けている一方、ベテラン社員は豊富な業務知識を持っています。この組み合わせが、新しい価値を生み出す可能性を秘めているんです。

それは興味深いですね。使いこなす若手と経験のあるベテラン社員の組み合わせが、高いパフォーマンスを実現し、今までにない価値を生み出しうる。さらに言うと、使いこなしが進んだら、豊富な業務知識を持っている人のパフォーマンスはよりあがるかもしれないと思いました。2年前になりますが、ガートナー社が5年以内に起こるディスラプションの可能性として、「ゴールデン・エイジ・オブ・シルバーワーカー」という予測を出しています。今後生成AIの普及によって活用している社員の生産性があがる。活用したら生産性があがるのであれば、生成AIの中にデータとして含まれていない、暗黙知や経験・実績を豊富に持っているシニア世代の活躍の場はもっと広がるかもしれないというものです。業務知識、暗黙知、経験・実績が、個人を多能工化していき、あるいはクリエイティブにしていき、黄金時代を作るということもありうるのかなと。

岡村
まさにその通りだと思います。例えば、私自身の音楽活動をしていた時期があるのですが、これまで、作曲するには、自分が弾けない楽器を演奏できるメンバーが必要でした。でも今は生成AIで他のパートの演奏を作り出せる。つまり、演奏に関する高度な知識や経験がなくても、アイデアさえあれば一人でクリエイティブな活動ができるようになってきているんです。

オンボーディング起点の組織変革

&MAICOの導入支援において、何か工夫されていることとかありますか?
岡村
導入の理由として多いのが、「社長からAIを使わないとまずいと言われたが、どうしたらいいかわからない」というケースです。そういった企業には、まずAIの基礎知識から丁寧に説明していきます。

私たちのAIエバンジェリストが提供する研修では、座学だけでなく、実際の業務に即したワークショップを重視しています。参加者それぞれの業務で具体的にどのようにAIを活用できるか、一緒に考え、実際にプロンプトを作成してみる。この実践的な体験が、AIへの理解と活用意欲を高めることにつながっています。

なるほど。実際に業務にのっとるのはとても大事ですね。研修の効果はいかがですか?
岡村
面白いのは、研修を通じて意外な人物がAI活用をリードすることがある点です。これまでデジタルに馴染みがなかった人が活躍し、「まさかこの人が」と驚く場面も少なくありません。また、部署を超えた協力関係が生まれたりします。AIの導入が、組織の活性化にもつながっているんです。

地方創生とAI活用の未来

やや視点を拡げた形で聞きますが、中小企業や地方企業のAI活用について、どのようにお考えですか?
岡村
現状、地方企業でのAI導入は都市部と比べて遅れている印象です。東京の企業だと、スタートアップでも中小企業でも、社内にAIについて発信する人材がいたり、経営者同士のつながりで情報が広がったりします。でも地方では、まだAIについて「聞いたことがない」という状況も珍しくありません。
ある意味、そこにこそチャンスがあるというところでしょうか?
岡村
その通りです。実は、人材不足という課題があるからこそ、AIを本気で活用する必要性が高まる可能性があります。地方には素晴らしい技術や知見が眠っています。それをAIと組み合わせることで、新しい価値を生み出せるのではないでしょうか。

プラットフォームの未来像

生成AIと「& MAICO」の今後の展開についてお聞かせください。
岡村
現在、生成AI関連のツールやサービスは急速に進化しています。例えば検索機能や自動実行機能など、高度な機能が次々と登場していますが、私たちは個々の機能で競うのではなく、様々なAIプラットフォームのプロンプトを補完・評価できる場としての位置づけを目指しています。

具体的には、求人情報サイトのように、各種AIプラットフォームのプロンプトを集約し、評価・共有できる場所を作りたいと考えています。

最後に、これからAI導入を考えている中堅・中小企業の方へのメッセージをお願いします。
岡村
AIがもたらす可能性は、まだ途中ですが、どんどん大きくなっていくと確信しています。それを形にするのは、私たちや、これを見てくださる方々一人一人の挑戦と創意工夫です。その挑戦を楽しみながら、その先にある景色を一緒に見られることを願っています。
ありがとうございます。ちなみにですが、AIエージェントについても何か構想はありますか?
岡村
はい、業種業界に特化したAIエージェントの開発を検討しています。汎用的なものではなく、特定の業界に特化しており、業界特有のシステムと連携したソリューションを提供することで、より実践的な価値を届けたいと考えています。
汎用的なAIエージェントは今後も出ますが、業務においてはどう特化させて効果を高めるところがポイントですね。現場を見られているからこその方向性だと思います。最後に、岡村さんご自身のAIとの向き合い方について教えていただけますか?
岡村
エンジニアの教育現場で興味深い発見がありました。最近、内定者の研修を見ていると、リードエンジニアが2週間かかると想定した課題を、わずか3日で終えてしまうケースが出てきたんです。これはAIをうまく活用している結果なんですが、同時に新しい課題も見えてきました。

以前の新人教育では、フレームワークの裏側を理解させるため、あえて素描を経験させることがありました。しかし今では、全てを飛び越えてAIが直接コードを生成します。このような状況の中で、AIの回答を紐解いて本質的に理解させるべきか、それとも効率を重視してAIの回答を活用する方を優先すべきか、AI時代の開発プロセスを改めて考える必要性を感じています。

変化の速度は、私たちの想像以上に速いかもしれません。だからこそ、人とAIの協業の形を柔軟に考え、試行錯誤を重ねていく必要があります。そして、その過程で見つけた知見を共有し、より多くの企業や個人がAIの恩恵を受けられる環境を作っていきたいと考えています。

本日は貴重なお話をありがとうございました。& MAICOの今後の展開が非常に楽しみです。
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  • 岡村 悠久
    岡村 悠久
    アンドデジタル株式会社
    DXカンパニー執行役員CTO
    1979年生まれ。コンサルティング会社、ソフトウェアデベロッパーでソフトウェア開発業務に従事。2016年よりソウルドアウトに参画し、プロダクト開発部門、情報システム部門の責任者に就任。2020年にフィンテックベンチャーのCTOに就任後、新規サービスの企画開発、既存サービスの運用、取締役として経営への参画、開発部門の組織運営、プロダクトインフラと情報システムインフラの刷新等を経験した後、2021年7月よりアンドデジタル株式会社に参画しCTO就任。2024年4月より現職。
  • 博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO
    Human-Centered AI Institute代表
    外資系コンサルティング会社、インターネット企業を経て、グローバルプロフェッショナルファームにてAIおよび先端技術を活用したDX、企業支援、産業支援に従事。東北大学 特任教授、東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問、日本ディープラーニング協会 顧問。著訳書に、『ウェブ大変化 パワーシフトの始まり』(近代セールス社)、『グローバルAI活用企業動向調査 第5版』(共訳、デロイト トーマツ社)、『信頼できるAIへのアプローチ』(監訳、共立出版)など多数。

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