新しい価値創造の源泉になる人間中心のAIとは
生成AIが社会に定着しはじめ、さまざまな場面での実装が進む中で、単なる効率化だけにとどまらない「人間中心のAI」のあり方が注目されている。博報堂DYホールディングス取締役常務執行役員CTOでグループのテクノロジー戦略を統括する安藤元博と、同社において人間中心のアプローチによるAIの先端研究や技術開発を行うHuman-Centered AI Institute(HCAI)の代表を務める執行役員/CAIO 森正弥に話を聞いた。
AIで実現できるのは効率化だけではない
森は、世の中のAIに対する理解がまだ十分ではないと指摘する。
「さまざまな企業がAIを活用していますが、『精度が低い』『自動化が進まない』という声も聞かれます。私は、その原因はAIの捉え方に誤りがあるのではないかと思っています。現代のAIは基本的に機械学習をベースにしているため、アウトプットに誤差が伴い、常に正解を出すわけではありません。人間の作業をAIに完全に代替させようとする従来の考え方では、基本的にうまくいかないでしょう。むしろ、人の作業を支援したり、アイデアの壁打ちをしたり、人の創造性を引き出したりするような使い方考え方こそが、AIの本質にあった使い方ではないか。我々は、AIを自分たちの領域を広げていくための『別解』を出すソリューションではないかと捉えています」(森)
人間中心のAIで AIと共に人も進化する
2023年、ユネスコは生成AIの活用のためのガイダンスを発表し、「AIは人間の能力を拡張するために活用し、人間中心のアプローチが必要だ」と言及した。また、「10年後には現在の職種の半分が消える」と2014年に予測したマイケル・オズボーン教授も、2023年の新たなレポートでは「AIは人の仕事を奪うのではなく、AIはむしろ人の創造性を広げる存在だ」と述べている。
AIをただの効率化のツールとしてではなく、人間の可能性、特に創造性を開花させる次世代の基盤として再定義し、生活者と社会を支えるパートナーにすることが重要だと安藤はいう。
「AIを上手に使いこなそうとするだけでなく、AIを創発パートナーと捉えて協働することで、人間の創造性が進化し、AIの開発もまた進化する。そして私たちの考え方そのものもさらに進化していく。それがAIと人の間のみならず、人と人の新たな関係性にまでつながっていくでしょう」
価値創造のためのAI活用
安藤は、企業の成長に最も重要なのは「価値創造」だと強調する。
「今、世の中では、業界の垣根が消えつつあります。以前は自社の事業領域が明確でしたが、今では全く想像もしなかった競争相手が業界に参入してきたり、戦い方のルールや価値の判断基準が変わったりしています。こうした状況で企業や日本経済の競争力の本質的な源泉になるのは、目に見えるものではなく目に見えない「人の力」ではないでしょうか。その可能性をAIとの対話で引き出し、AIと創発するという考え方が価値創造につながるでしょう」
AIを活用していかに創造性を高めるか。そうした方向でAIを捉えずにAIの進化に追いつこうとしても、企業は同質化し、周回遅れのキャッチアップを続けることに疲弊してしまう。そこをどう逆転させるかが重要だ。
「現在、多くの企業のKPIや人事や事業の評価基準は、量的なものに偏っています。そもそも日本の組織も量をこなすことを目的としたヒエラルキー構造になっている。
テクノロジーの進化でデータの入手が容易になり、生成AIによりさまざまなアウトプットの生成が可能になった今、データやアウトプットの量による差別化は難しい。競争力・成長力を獲得するために、量から質への変換が求められています」(森)
人間中心のアプローチを行うHCAIを設立
「人間中心のAIという概念自体は以前からあるものですが、人間の能力の拡張に関連して議論されるようになったのは最近のことです。そして、博報堂DYグループは、生活者発想とクリエイティビティを強みにしています。この視点を中心に据え、AIを活用していかに人の能力を高め、さらには創造性を広げていくのか。私たちはこれまでの人間中心のAIという考え方自体を発展させ、少し先の未来のAIがある経済、社会、暮らしは一体どうあるべきかを考えて、AI戦略を扱う博報堂DYグループのコアな専門機関としてHuman-Centered AI Institute(HCAI)を設立しました。
人間中心のAIが人間の創造性が進化、拡張していく循環を生むと考えて、社会の支えとなる新たなAIの姿を追求していきます」(森)
「AIは、人が持つケイパビリティを発揮させ、価値につなげるという役割を果たすと考えています。生活者、企業、社会のそれぞれの内なる想いを解き放ち、時代を切り開くことが重要です。
博報堂DYグループは、自社やグループ内だけにとどまらず、産業全体や社会全体に貢献し、各企業や産業の成長につながるAI活用の取り組みを進めていきたいと考えています」(安藤)
「AIと、この世界に 別解を。」
生活者インターフェース市場フォーラム開催
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※「日経ビジネス電子版Special」2024年12月20日に公開
掲載された広告から抜粋したものです。禁無断転載©日経BP
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博報堂DYホールディングス
取締役常務執行役員CTO1988年に博報堂に入社し、数々の企業の事業/商品開発、統合コミュニケーション開発等に従事。現在、博報堂DYグループ各社を兼任しグループのテクノロジー領域を統括している。ACC(グランプリ)、Asian Marketing Effectiveness他受賞多数。博士(東京大学大学院/社会情報学)。
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博報堂DYホールディングス 執行役員/CAIO、
Human-Centered AI Institute代表1998年、慶應義塾大学経済学部卒業。外資系コンサルティング会社、グローバルインターネット企業を経て、監査法人グループにてAIおよび先端技術を活用した企業支援、産業支援に従事。東北大学 特任教授、東京大学 協創プラットフォーム開発 顧問、日本ディープラーニング協会 顧問。