地域企業の成長をトータルに支援するために──ソウルドアウト〈フルファネルラボ〉が目指すもの
全国の中堅・中小企業のデジタルマーケティング支援をしているソウルドアウト。博報堂DYグループの中でも「地域」と「デジタル」に大きな強みを持つ同社が、〈フルファネルラボ〉の活動を始めたのは2024年4月でした。地域クライアントを支援する企業が「フルファネル」というテーマを掲げる意味とは。そしてそれがなぜ「ラボ」なのか──。フルファネルラボを立ち上げた鷹觜愛郎と主席研究員の二人が、この取り組みの意義と目標について語りました。
鷹觜 愛郎
ソウルドアウト CCO
フルファネルラボ代表
亀ノ上 忠昭
ソウルドアウト デジタルマーケットデザイン本部長
フルファネルラボ主席研究員
中村 太一
ソウルドアウト デジタルマーケットデザイン本部スペシャリスト
フルファネルラボ主席研究員
地域における「デジタル」と「マス」の分断を克服したい
──〈フルファネルラボ〉を立ち上げる背景にあった課題を教えていただけますか。
- 鷹觜
- 課題は大きく2つありました。まず、ソウルドアウト社内の課題からご説明します。
ソウルドアウトは地域のSMB(中小規模企業)の皆さんのビジネスを主にデジタル領域で支援する活動を続けてきました。得意としてきたのは、検索連動型広告などのいわゆる顧客獲得型デジタル施策です。売り上げや会員化といったコンバージョンに近い領域での支援です。
しかし多くのクライアントが必要としているのは、短期的な売り上げだけではなく、中長期的な事業成長です。デジタルの獲得型広告だけでは、クライアントの長期的な成長に寄与することはできません。コンバージョンに至るまでのさまざまな支援、あるいはコンバージョン後の顧客との長期的な関係づくりの支援。そういったメニューをご提供することが必要です。しかしこれまでのソウルドアウトには、そういったサービスがほとんどありませんでした。
──認知や検討の段階から、購買や会員契約、さらにCRMに至るフルファネルの支援ということですね。
- 鷹觜
- そのとおりです。そのフルファネル型のサービスを提供していく体制をつくる必要がある。そう考えたことが1つです。
一方、フルファネルマーケティングへの取り組みは、クライアント側の課題でもあります。日本には、47の県域のそれぞれに独自のマーケットがあり、地域テレビ局、ラジオ局、新聞社があります。これは、おそらく世界的に見ても珍しい構造と言っていいと思います。それぞれの県域マーケットで、それぞれのメディアを活用し、イベントやチラシなどを組み合わせてコミュニケーションモデルをつくる。それが地域のマーケティングの1つの定型でした。
しかし近年では、ECなどのデジタルチャネルを使って商圏を他の県域、さらに全国へと広げていく企業も増えてきています。問題はその2つの手法、つまり、地域マス型の手法とデジタルを使った手法が分断されていることです。事業成長を目指すには、その2つの手法をうまく組み合わせていくことが必要です。
ソウルドアウトが得意とする顧客獲得型デジタル施策を中心としながら、マスを含めたさまざまなメディアや顧客接点を活用し、フルファネルでクライアントの成長を支援していく「型」をつくること──。それが、〈フルファネルラボ〉が目指したことです。
- 亀ノ上
- ソウルドアウトが博報堂DYグループの一員となったのは、2022年4月です。それによって、博報堂の地域拠点が得意とするマス型の広告手法と、僕たちが得意とするデジタル広告を組み合わせることが可能になりました。しかし、その実績をつくっていくのはまだまだこれからであり、知見やノウハウの蓄積もありません。そこで、「ラボ」という形でこれからの方向性を探っていこうと考えたわけです。
余力を価値に変えていく場所としての「ラボ」
──新しい方向性を目指す枠組みが「ラボ=研究所」であることの意味合いをご説明ください。
- 鷹觜
- 海外には仕事における「20%ルール」を採用している企業が多くあります。現業に充てる時間を80%とし、それ以外の20%の時間は自由な発想で新しいことにチャレンジしてみよう。そんなルールです。もちろん、自分が現在担当している仕事に一生懸命取り組むのはとても大事なことです。しかし、普段は出会わない仲間との交流から新しいものが生まれることもしばしばあります。変化の創出には「新しい結集」が必要です。普段の延長では生まれない新しい繋がりから、未来を生み出す場所が〈フルファネルラボ〉です。「ラボ」といっても、コツコツ研究活動をして、研究結果をレポーティングすることを目指しているわけではありません。雑多な話ができて、思い切りトライができる場所。野球に例えれば、バントやヒットエンドランで点数を重ねるのではなく、当たらなくてもいいから思い切りバットを振ることができる場所。それが〈フルファネルラボ〉であると僕たちは考えています。
現業が「授業」だとすると、「部活」のようなイメージです。部活があるから学校に行くのが楽しいということもあるし、部活で活躍することで授業の成績が伸びることもありますよね。ちょっと大袈裟かもしれませんが、そんな未来へとつながる循環が生まれることを目指しています。
──メンバーは何人いるのですか。
- 鷹觜
- 現在は13人です。戦略プランナー、クリエイティブ、CRMのそれぞれの領域の専門スキルがある人たちに声を掛けました。中村さんと亀ノ上さんには首席研究員を務めてもらっています。
──これまでの〈フルファネルラボ〉の活動内容をお聞かせください。
- 鷹觜
- 週に一度ミーティングを設けて、一人ひとりのメンバーが「フルファネルマーケティングを実現するにはどうすればいいか」という視点で、これまでの事例などを発表していく活動を続けてきました。すべてのメンバーが主体的に関わりながら、楽しく議論を深めていくことを大切にしています。
「100億円企業」を生み出すための「型」
──活動の中長期的な目標についてもご説明いただけますか。
- 鷹觜
- 経済産業省は、大企業と中小企業の中間の規模の企業を「中堅企業」とし、売り上げ高100億円を目指す中堅企業の税を優遇するという方針を発表しています。僕たちの目標は、フルファネルのマーケティング支援によって、中小規模のクライアントが「売り上げ100億円の中堅企業」になることを後押しすることです。
現在のソウルドアウトのクライアントの中には、年商数億円規模の企業が少なくありません。そのような企業が「100億円企業」になるには、3段階くらいのハードルがあります。10億円のハードル、30億円~40億円のハードル、そして100億円のハードルです。そういったハードルを越えるための「型」をつくっていきたいと僕たちは考えています。
ソウルドアウトのビジネスの背骨はデジタルです。デジタルによるコンバージョン領域を中心とし、ファネルのアッパー方向とロウワー方向に施策を広げていくとすると、おおむね3つくらいの型があると考えられます。「ダイレクト型」「リード獲得型」「店舗送客型」の3つです。これらの型をラボの活動を通じてブラッシュアップし、全国のSMBのクライアントの成長を後押ししていくこと。それが僕たちの大きな目標です。
──活動を始めてから、具体的な成果は出ていますか。
- 鷹觜
- 〈フルファネルラボ〉はあくまでも「実践型ラボ」なので、どんどんバッターボックスに立ってバットを振ろうとメンバーたちに言っています。つまり、ラボから生まれたアイデアを積極的にクライアントに提案していこうということです。
これまで70を超える提案をし、そこから実際のビジネスにつながる事例も出てきています。メンバー13人にはそれぞれに現場があり、クライアントとの接点があるので、ラボの活動の成果は会社全体に広がってきています。この流れをさらに加速させていきたいですね。
〈フルファネルラボ〉に参加するモチベーション
──それぞれの職歴やスキル上の強みをお聞かせいただけますか。
- 鷹觜
- 僕ははじめ盛岡の博報堂に入社し、その後も一貫して地域の博報堂で働いてきました。2012年にご縁があって本社に転籍になりましたが、地域のクライアントを支援する活動は続けていました。ソウルドアウトで働くようになったのは2023年からで、現在はCCO(チーフクリエイティブオフィサー)の立場にあります。
職能はもともとコピーライターで、CD(クリエイティブディレクター)も務めました。地域のクライアントとのおつき合いでは、広告クリエイティブだけではなく、ビジネス戦略を描くという意味でのクリエイティブが求められます。いわゆるコンサルタントに近い仕事です。そういったスタイルで、一社一社のクライアントを長くご支援してきました。
- 亀ノ上
- 2013年にソウルドアウトに入社後、地域の営業所の立ち上げに5年ほど関わりました。地域では総合広告会社の地域支社と協業する機会も多く、デジタル領域以外のスキルも身につけることができました。
現在は、今年新設されたデジタルマーケットデザイン本部の本部長を務めています。デジタルマーケットデザイン本部のミッションは、ソウルドアウトが得意とするデジタル領域を中心に新しいマーケティング手法や市場を創出していくことです。
- 中村
- 僕はソウルドアウトに入社して2年になります。それ以前は、総合広告会社、デジタルメディアエージェンシー、プラットフォーマーのマーケティング担当などを経験してきました。現在は戦略プランナーとして、ソウルドアウトの提案力を高める取り組みに注力しています。
──お二人は首席研究員とのことですが、それぞれどのような役割があるのでしょうか。
- 亀ノ上
- ファネルの領域で担当を分けています。アッパーファネルからコンバージョンまでが中村さんの担当で、コンバージョン以降のCRM領域を僕が担当しています。
──ラボへの参加を打診されたときの率直な感想をお聞かせいただけますか。
- 中村
- 僕自身ソウルドアウトに入社したときに、デジタル領域とほかのマーケティング領域を融合させていくことが必要であるという課題意識をもっていました。〈フルファネルラボ〉のコンセプトは、まさにその課題意識と合致していたので、ぜひ参加させてほしいと思いました。
- 亀ノ上
- 〈フルファネルラボ〉は課外活動のような形で、これまでソウルドアウトが取り組んできたことを検証したり、その検証をもとに新しいアイデアを出したりすることができる場としてとても意義があると感じました。
──日々の仕事をこなしながらこういった取り組みに参加することに、個々のメンバーはどう向き合っていますか。
- 中村
- レポートをまとめるのは、辛い時もあります。しかし、自分でテーマを決めて、それをみんなで深掘りしていくという活動は純粋に楽しいですし、通常業務では得られない成長を感じます。ほかのメンバーの気持ちも同じだと思います。こういう取り組みは徐々に出席率が落ちていくケースが多いと思うのですが、〈フルファネルラボ〉への出席率は一貫して高い状態をキープしています。日常の仕事とは違った視点で情報収集ができて、議論ができて、新しい発見がある新鮮な場。そんなふうにみんなが捉えていると思います。
- 亀ノ上
- 〈フルファネルラボ〉は業務の一部として認められているので、本業との調整も可能です。その点では、メンバーに大きな負荷がかからない仕組みになっています。
地域を豊かにしたいという強い思い
──今後はメンバーの規模も増えていきそうでしょうか。
- 鷹觜
- これまでラボにはいなかった営業系のメンバーに現在声がけをしています。また、デジタル広告の運用経験があるメンバーにもぜひ参加してもらいたいと思っています。ソウルドアウトの社員だけでなく、博報堂DYグループのほかの企業からも参加してもらい、より幅広い視点で情報共有や議論ができるようにしていきたいですね。ただ、あまり人数が多くなると創造的なハプニングが起きにくくなるので、30人くらいが上限かなと思っています。
──〈フルファネルラボ〉にかけるそれぞれの思いを最後にお聞かせください。
- 亀ノ上
- SMBのフルファネルマーケティングと言えばソウルドアウト──。そんな旗を立てていきたいですね。そのためには、数多くの実績をつくることが必要です。クライアントとともに成功事例を愚直に積み重ねていく取り組みを続けてきたいと思います。
- 中村
- 「100億円企業」への成長を支援するには、クライアントとの継続的かつ総合的なおつき合いが必須になります。「ファネルのすべての領域をソウルドアウトに任せたい」と言っていただける体制をつくり、「100億円企業」への確かな道筋をつくっていくこと。それが〈フルファネルラボ〉の役割であると考えています。「100億円企業を実現する型」を多くのクライアントにご提供していきたいと思っています。
- 鷹觜
- 僕は岩手県の出身で、広告業界に入ってからも地域を豊かにしたいという思いをもって仕事をしてきました。東京に来てから、ナショナルクライアントとお仕事をする機会をいただいて視野が大きく広がりましたが、やはり地域への思いが常にあります。
新しい価値は強い「思い」から生まれる。僕はそう信じています。広告会社の力をこれまで以上に地域に提供し、地域企業の成長をもっともっと後押したい。その「思い」を実現するための取り組みが〈フルファネルラボ〉です。このような取り組みは、日本にはほかにないと思います。〈フルファネルラボ〉の活動を通じてソウルドアウトの総合力を高め、地域企業の成長を力強く支援し、地域を豊かにすることに寄与していくこと。それがこれからの大きな目標です。
この記事はいかがでしたか?
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ソウルドアウト CCO
フルファネルラボ代表
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ソウルドアウト デジタルマーケットデザイン本部長 フルファネルラボ主席研究員
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ソウルドアウト デジタルマーケットデザイン本部スペシャリスト
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