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対談!EC+【第17回】「マーケットプレイス型EC」ってなに? フィロソフィーを軸にしたエコシステムをつくる
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対談!EC+【第17回】「マーケットプレイス型EC」ってなに? フィロソフィーを軸にしたエコシステムをつくる

博報堂DYグループのECプロフェッショナル集団「HAKUHODO EC+」のメンバーが、外部の専門家と語り合う連載「対談!EC+」。今回は、マーケットプレイス運営を支援するグローバル企業であるMirakl日本支社の代表取締役社長・佐藤恭平さんをお招きして、「マーケットプレイス型EC」の現在とこれからの可能性について語り合いました。
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(写真右から)
奥山 貴弘
HAKUHODO EC+ リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局 部門長補佐

佐藤 恭平氏
Mirakl 代表取締役社長

小田 塁
HAKUHODO EC+
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ ビジネスプラニングディレクター

「マーケットプレイス型EC」の定義とは

奥山
HAKUHODO EC+は、ECを起点とした新しいマーケティングの潮流をいち早くキャッチアップし、クライアントの事業成長やマーケティングDXを支援する取り組みを続けています。ECに新たな要素が加わることによって、つまり「EC+〇〇」によってECマーケティングは進化していくと僕たちは考えています。その「〇〇」に当たるテーマをこの連載では毎回掘り下げています。今回のテーマは「マーケットプレイス」です。マーケットプレイス型ECのプラットフォームづくりを支援しているグローバル企業Mirakl(ミラクル)の日本支社代表である佐藤恭平さんと、HAKUHODO EC+でEC事業のコンサルティングなどを行っている小田さん。このお二人とともに、マーケットプレイスとは何か、それがクライアントや生活者にどういうメリットをもたらすのかといった視点でお話をしていきたいと思います。はじめに、佐藤さんのご経歴とMiraklのビジネスについてご説明いただけますか。

佐藤
これまでいくつかのIT企業やコンサルティングファームで働いてきました。Miraklの日本支社の代表に就任したのは2年半ほど前です。Miraklは、マーケットプレイス型ECのインフラを提供するSaaSベンダーです。しかし、単にサービスを提供するだけではありません。クライアントのビジネスモデルやマーケティング戦略、あるいはブランド戦略にまで踏み込んで、DX推進を支援する。そんなビジネスを私たちは手がけています。
奥山
まず、マーケットプレイス型ECの定義について整理しておきたいと思います。マーケットプレイス型ECとはどういったものなのでしょうか。
小田
ECは、自社でつくった商品、あるいは自社で仕入れた商品を売る「リテール型EC」と、さまざまな売り手の商品を販売する「マーケットプレイス型EC」に大きく分けられます。ECをネット通販と考えれば、もともとのECの形態はリテール型(自社が販売主体となって顧客に商品を販売する形態)の自社ECが主であったと言っていいと思います。

ECでの売り上げを拡大していくには、販売商品のラインアップを増やしていく必要があります。しかし、自社でつくったり仕入れたりした商品だけでラインアップを拡張していくには限界があるし、在庫リスクも発生します。そこで、他社の商品を一緒に売っていくことで売上の源泉であるラインナップを拡張する方法がとられるようになりました。それがマーケットプレイス型ECです。

マーケットプレイスは「市場(いちば)」を意味します。市場で野菜や魚や日用品を売っているように、さまざまな商品を1つのECサイト内で販売していくのがマーケットプレイス型ECです。誰もがイメージするような大手ECプラットフォームも、マーケットプレイス型ECです。
最近になって、マーケットプレイスはより民主化してきています。例えば、個人事業主がハンドクラフトでつくったアクセサリーや小物などを集めたマーケットプレイスや、特定のカテゴリーの商品を中小規模の事業者が出品するマーケットプレイスなどが増えています。膨大な種類の商品が集まる「マスマーケットプレイス」、カテゴリーなどに特化した「スモールマーケットプレイス」、さらにニッチなアイテムを扱う「トライブマーケットプレイス」の大きく3つに分けられるのが、今のマーケットプレイスシーンの現状であるといえるのではないでしょうか。

独自の世界観や価値観を打ち出すことの意味

佐藤
私たちは、マーケットプレイスを運営する事業者を「オペレーター」と呼んでいます。オペレーターは自社商品をつくっているメーカーであるケースもあれば、リテール事業者である場合もあります。最近の傾向として、独自の世界観や価値観を明確に打ち出すオペレーターが増えています。例えば、レトルト食品のメーカーがマーケットプレイスを運営する際、単にものを売るだけではなく、「食と健康」というテーマを設定して、それを生活者にアピールしていくといったケースです。そして、そのテーマに賛同する売り手の商品をラインアップしていくわけです。そうすると、販売する商品の幅を食品だけではなく、健康機器やサプリメントなどにまで広げていくことができます。またそれによって、「食と健康」というテーマに魅力を感じる生活者が集まってきて、リピーターになってくれる可能性があります。

数年前、黒人の人権保護を訴える「ブラック・ライブズ・マター(BLM)」の運動がアメリカで盛んになりました。その際、黒人が経営するメーカーからの出品手数料を無料にしたり検索上位に表示するなどして、BLMを支援する姿勢を明確にしたオペレーターがいました。それによって、マーケットプレイスのメッセージがはっきり伝わり、メッセージに賛同する売り手(セラー)出品者や顧客が多数集まってきました。マーケットプレイスのテーマやフィロソフィーを明確にすれば、それを軸としてさまざまなプレーヤーのつながりが形成されます。つまり、一種のエコシステムが成立するわけです。そのようなエコシステムを基盤としたマーケットプレイス運営を支援するのが、私たちのビジネスの柱の1つです。

奥山
なるほど。単に商品の種類を増やすだけでなく、世界観によって仲間を増やしていくということですね。
佐藤
そうです。それがマーケットプレイスに出品する事業者のブランディングにもつながります。例えば、「サーキュラーエコノミー(循環経済)」をテーマに掲げてリファービッシュ品(整備済みの中古品)を売っているマーケットプレイスに出品すれば、「サステナビリティを重視している」という企業姿勢を生活者に伝えることができます。
もう1つ、そういったテーマ重視型のマーケットプレイスに出品することのメリットとして、値崩れを防ぐことができることも挙げられます。自社ECは一種の店舗であり、最終的な売値は在庫を持つ店舗側が設定することになります。在庫がかさんできたら半額で売るといったことを自社EC側が決められるわけです。しかし、マーケットプレイス型ECでは、在庫所有権と価格決定権は売り手(セラー)にあります。この特徴をうまく活かしているのが、売り手(セラー)としてのハイブランドです。ハイブランドにとって、安値売りはブランド棄損につながります。テーマ重視型のマーケットプレイスでは、基本的に売値はマーケットプレイス運営事業者(オペレーター)ではなく出品しているブランドである売り手(セラー)が決めることになります。したがってブランドは、値崩れとそれにともなうブランド価値低減を、ハイブランド自身が価格をコントロールすることで防ぐことができます。さらに、マーケットプレイス運営事業者(オペレーター)は詳細な購買行動データが得られるというメリットもあります。誰がいつ何を買ったか。複数の商品の購買を検討した結果、最終的に選ばれた商品は何だったか──。テーマ重視型マーケットプレイスでは、テーマを設定したプラットフォーマーとしてのオペレーターに蓄積されます。オペレーターによっては、売り手(セラー)に提供して、それによって売り手(セラー)はデータドリブンな商品戦略を立てることが可能になります。
小田
生活者視点から見ても、マーケットプレイスが掲げているテーマが明確であれば、自分たちの価値観やライフスタイルに合ったマーケットプレイスで購買ができるというメリットがあります。世界観やブランド価値を守りたいという売り手のニーズと、自分によりマッチしたものを買いたいという生活者のニーズが合致しているのが、テーマ重視型マーケットプレイスの特長と言えそうです。

売り手と生活者の「ツーサイドネットワーク」

佐藤
テーマ重視型のマーケットプレイスは、ターゲットとする顧客層が明確です。どのような顧客にアプローチできるかがはっきりしているので、その顧客層を求めている売り手(セラー)にとっては、極めて確度の高い顧客接点となります。そうして売り手(セラー)がどんどん集まり、商品を求める顧客もどんどん増えていく。それが理想的なスパイラルです。私たちは、独自のテーマや世界観を打ち出したマーケットプレイスを中心にして「ツーサイドネットワーク」が形成されると表現しています。売り手(セラー)のネットワークと顧客のネットワークということです。その2つのネットワークが拡大していくモデルをクライアントと一緒につくりたいと考えています。
奥山
メーカーやリテール事業者がマーケットプレイスのオペレーターになるにあたっての留意点についてもお聞かせください。
佐藤
やはり、自分たちが運営しようといるマーケットプレイスのフィロソフィーを明確にすることが最初に必要なことだと思います。なぜ自分たちはマーケットプレイスを運営するのか。そこにはどのような志があるのか。それをはっきり打ち出すということです。それがないと、多くの売り手(セラー)や顧客が集まってくるポジティブなスパイラルをつくるのは難しいと思います。
奥山
逆に言えば、明確なフィロソフィーがある事業者であれば、マーケットプレイス運営にチャレンジしてみる価値はあるということですよね。オフラインとマーケットプレイスの組み合わせもありうるのでしょうか。
佐藤
海外では多くの事例があります。リアル店舗を展開しているリテール事業者がマーケットプレイスのオペレーターになる場合は、オンラインとオフラインを融合させるモデルをつくることができます。例えば、マーケットプレイスに出品している商品が人気商品トップ5に入ったら、ランクインした売り手(セラー)にはリアル店舗の棚を提供する。そんなインセンティブを設けて、売り手(セラー)をモチベートする手法も見られます。また、リアル店舗にサービスカウンターを設けて、そこでマーケットプレイスで買った商品の返品を受けつけるケースもあります。商品を持ってきた顧客にその店舗で使えるクーポンを渡し、リアル店舗での購買を促すといった手法で売り上げを上げています。

たくさんの仲間たちと共存共栄していくモデル

奥山
マーケットプレイス型ECをどのように広めていきたいか。今後の展望をお聞かせください。
佐藤
オペレーターと売り手のエコシステムを広げていくことによって、マーケットプレイス型ECの市場は拡大していくと考えています。もちろん、エコシステムは1つの国の中に限定されるものではありません。例えば、家内制手工業のようなスタイルでものづくりをしている事業者がマッケートプレイスに出品したところ、それを見た他国のオペレーターが「ぜひ私たちのマーケットプレイスでも売りたい」と連絡をしてきたケースが実際にあります。そういったつながりをどんどん広げていきたいと思っています。重要なのは、オペレーターが「この指とまれ力」を磨くことをご支援することです。自分たちが運営するマーケットプレイスの存在意義を明確にし、メッセージを発信することで「この指とまれ」と訴えかけていく。そうして集まってきたたくさんの仲間たちと共存共栄しながら、顧客とも長期的な関係を続けていく。そんな流れを後押ししていきたいと考えています。
小田
自社ECをすでに展開していて、かつ明確なフィロソフィーをもっている事業者の皆さんを僕たちHAKUHODO EC+とMiraklが支援することによって、マーケットプレイスのシーンを活性化させることができると思います。オペレーターになることを目指すクライアントと一緒に、マーケットプレイスのストーリーや生活者へのアプローチの方法を考えていく。あるいは自社商品の販路拡大を目指す企業様に対しマーケットプレイスへの出品を促していく。そんな取り組みにチャレンジしていきたいですね。
奥山
僕たちは、ECは単にものを売る場所、ものを買う場所なのではなく、「つながりの場」なのだと考えています。マーケットプレイスは、まさに事業者と事業者、あるいは事業者と生活者がつながる場所になりうるということが、今日のお話を通じてよくわかりました。ECの新しい潮流としてのマーケットプレイスに、これから積極的に取り組んでいきたいと思います。
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  • HAKUHODO EC+ リーダー
    博報堂 コマースコンサルティング局 部門長補佐
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • 佐藤 恭平氏
    佐藤 恭平氏
    Mirakl 代表取締役社長
    慶應義塾大学総合政策学部卒業、 同大学経営学修士(MBA)。1998年SAPジャパン入社、eコマース(EC)事業の立ち上げに従事。ボストン コンサルティング グループ(BCG)戦略コンサルタント、日本マイクロソフト業務執行役員を歴任後、2016年SAPジャパンバイスプレジデント。2022年Mirakl代表取締役社長に就任。
  • HAKUHODO EC+
    博報堂 コマースコンサルティング局
    コマースDX推進グループ ビジネスプラニングディレクター
    2019年博報堂中途入社。マーケティングリサーチ会社や大手ECモールでのキャリアにおけるデータ・ドリブンな事業支援経験をもとに、様々な企業のEC事業戦略策定から施策の実行にいたるフルファネルでのコンサルテーションに従事。
    「HAKUHODO EC+」のメンバーとしても、グループを横断したEC業務対応やソリューション開発を推進。