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対談!EC+【特別編⑥】進化する「地域DXソリューション」Vol.3──地域事業者や自治体の海外展開を支援する「グローバル進出ソリューション」
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対談!EC+【特別編⑥】進化する「地域DXソリューション」Vol.3──地域事業者や自治体の海外展開を支援する「グローバル進出ソリューション」

自治体や地域事業者のECやDXの課題解決を目指して、2023年2月から提供が始まった〈地域DXソリューション〉。博報堂DYグループのEC領域の専門家集団であるHAKHODO EC+が取り組んでいるこのソリューション群は、現在も進化を続けています。
今回は、2024年7月に新たにローンチした6ソリューションのうちの1つである〈グローバル進出ソリューション〉をご紹介します。地域事業者が海外市場にチャレンジする意義と難しさ、そしてそれを支援するソリューションの概要について、4人のメンバーが語りました。

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(写真左から)
桑嶋 剛史
HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター

川口 渉
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 コマースコンサルティング局
コマースDX推進グループ チーフビジネスディベロップメントディレクター /
地域DXソリューションサブリーダー

毛利 崇之
HAKUHODO EC+
Hakuhodo DY ONE ECマーケティング本部 副本部長

熊倉 淳
HAKUHODO EC+
Hakuhodo DY ONE クロスボーダー事業局 ディレクター

ソリューションの3つのフェーズ

桑嶋
これまでこの特別編でご紹介してきた〈地域DXソリューション〉は、日本国内でのDX活用をご支援するものでした。今回取り上げる〈グローバル進出ソリューション〉は、それらのソリューションとはやや目的が異なります。僕たちが地方自治体や地域事業者の皆さんをご支援する中で、地域の産品を海外に向けて販売したいという声を多数お聞きしてきました。日本の人口が減少トレンドであることを考えれば、海外マーケットを視野に入れることは理にかなっています。しかし、これまで日本の生活者に商品を販売してきた皆さんが海外で商品を展開するには、さまざまなハードルがあります。そのハードルを越えて、海外展開の成功を後押しするのが〈グローバル進出ソリューション〉です。

今回は、〈地域DXソリューション〉のサブリーダーで、外資系大手ECプラットフォームで5年ほど働いた経験がある川口さん、〈グローバル進出ソリューション〉の取りまとめ役を担っている毛利さん、前職で上海と北京での勤務を経験した熊倉さん。この3人とともに、僕たちがクライアントのグローバル進出を支援することの意味合いと、ソリューションの具体的な機能についてご紹介していきます。はじめに、地域企業や中小規模企業が海外進出を目指す際によく見られるケースについて、川口さんから説明していただきます。

川口
海外展開を目指すクライアントから最初にいただくご相談は、「海外に進出したいんだけれど、どうしたらいいかまったくわからない」といったものがほとんどです。それに対して最初に起こすべきアクションは、クライアントの商材が最もマッチする国をリサーチすることです。そうしていくつかの国の候補を挙げ、それに優先順位をつけていきます。海外進出には、いろいろな「落とし穴」があります。商品は法律的に海外で販売できるものなのか、電化製品であれば仕様がそのまま使えるのか、サプリメントであれば薬事法上の規制をクリアできるのか──。そういったことも1つ1つ丁寧に確認していく必要があります。

桑嶋
商品と国のマッチングを検討する場合は、国ごとのいろいろな法規や商習慣、生活者が暮らす環境といった要素も重要になるということですね。そういったさまざまな観点を踏まえて地域事業者の海外展開を支援するのが〈グローバル進出ソリューション〉です。毛利さん、このソリューションの概要を説明してください。
毛利
今お話に出たように、海外進出を目指す際は、その国の商習慣、市場の性格、売れる商品の傾向、生活習慣、文化、法律など、さまざまなことを把握しなければならなりません。また、商品を出品できるECモールも日本国内のものとは異なります。クライアントの立場からすれば、まさに「どうしたらいいかまったくわからない」というのが本音だと思います。その「わからない」部分をすべてクリアにして、海外進出を支援するのが〈グローバル進出ソリューション〉です。

このソリューションの提供の形は、大きく3つのフェーズに分かれています。1つ目のフェーズが勉強会です。中国、台湾、東南アジア諸国など、海外進出の候補になりそうな国ごとの市場の特徴や生活者の傾向、法規、ECビジネスの現状、競合環境などについて、クライアントと一緒に学習します。2つ目のフェーズがECの実装です。展開する商品、ターゲットとする国、どのような方法でECを展開するかといったことを決定し、EC構築、運用、カスタマーサポートなどをトータルにご支援します。さらに3つ目のフェーズとして、海外現地におけるリアル店舗での展開のご支援も視野に入れています。
HAKUHODO EC+でこのソリューションを担当しているのは、主に博報堂とHakuhodo DY ONEのメンバーです。いずれの会社にも、国内にグローバルチームがあり、海外拠点も数多く展開しています。そのそれぞれの機能を組み合わせて、クライアントのニーズに最も適した方法をご提案します。

熊倉
ECや海外でのコマースの経験のあるスタッフが、海外展開する商品の選定からコンサルティングをしていくのも、このソリューションの大きなポイントです。日本で売れているものが海外で売れるとは限りません。また、日本で苦戦している商品は海外でも同じように苦戦するケースが少なくありません。ターゲットとなる国で最も売れる可能性がある商品が何かを見極め、場合によっては商品開発から支援していく。そうして「売る」ことにしっかりコミットしていく。それが、このソリューションが目指すものです。

知識のインプットを支援する

桑嶋
3つのフェーズをそれぞれ深掘りしていきたいと思います。フェーズ1の勉強会は、地域の商工会のマーケティング支援などで実績があるものですよね?
毛利
東南アジアに水産系の冷凍食品を輸出したいというご要望を受けて、現地の市場や法律について勉強しようということになりました。食品販売は法律的にクリアしなければならない項目が多く、物流の体制もしっかり構築する必要があります。冷凍食品の場合はとくに専用の物流網が必要になります。そういった体制がつくれるのかどうかといったことも勉強会で検討しました。

川口
勉強会を行う場合は、事前にクライアントの状況をしっかり把握しておく必要があります。クライアントは海外市場に対してどのくらいの知識をお持ちなのか。すでに海外とのパイプはあるのか。どのような商品を展開したいと考えているのか──。それらを理解した上で、どのような知識のインプットが求められるかを判断しなければなりません。
毛利
重要な視点ですね。もう1つ、勉強会において欠かせないのは、ECプラットフォームに関する知識のインプットです。中国や東南アジアで商品展開をする際は、日本では馴染みのないECプラットフォームを使う場合がほとんどです。まずは、それらのECプラットフォームがどのようなものなのかを知る必要があります。
熊倉
EC内で使われている言語が中国語で、アカウントをどう取得して、どうログインすればいいかもわからない。そんなケースもよくあります。勉強会では、中国語に精通したHAKUHODO EC+のメンバーがそういったECプラットフォームについて解説し、クライアントの理解を促進します。
桑嶋
熊倉さんが所属しているHakuhodo DY ONEのクロスボーダー事業局には、もともとクライアントの海外マーケティングを支援する機能がありますよね。
熊倉
クライアントのグローバルデジタルマーケティングを支援するのが、クロスボーダー事業局のミッションです。チームの中には、英語圏、中華圏、東南アジア圏のネイティブメンバーがいます。近年、マーケティングだけでなく、商品を売るところまでをサポートしてほしいというクライアントからのご要望が増えています。そのようなニーズを受けて、私たちは海外のパートナーと連携してさまざまなソリューションをつくってきました。とくに力を入れているのが、台湾と東南アジアです。台湾では、現地の大手コングロマリットと連携してつくった越境ECソリューションを2022年にローンチしました。また東南アジアでも、現地のEC事業支援企業と戦略的業務提携を結び、地域全体でEC展開をすることが可能なサービスを提供しています。

また、博報堂とHakuhodo DY ONEは、APAC(アジア太平洋地域)における両社の拠点の戦略的ネットワーク「H+」を2022年に発足させています。H+が提供するのは、コマース、オウンドメディア、デジタルマーケティング、CRMの4つの領域に関わるサービスで、EC支援はこのうちのコマースに該当します。このH+の機能も〈グローバル進出ソリューション〉に活用することが可能です。

ECの実装をどのように進めていくか

桑嶋
さて、勉強会の次のフェーズはECの実装です。このフェーズについて、引き続き熊倉さんから説明していただきます。
熊倉
商品の海外展開は、いきなり海外のECプラットフォームへの出品から始めなければならないわけではありません。できるところから段階的に着手していく方法を私たちは推奨しています。例えば、すでにある自社サイトの英語版、中国語版をつくる。自社サイトにECの機能を持たせる。あるいは日本でも展開しているグローバルなECプラットフォームを活用して海外に販売していく。そういったことが最初の段階になると思います。まずはそこで自社の商品がどれだけ海外の人たちに受け入れられるのかを見極めることが大切です。その上で次のステップとして、海外のECプラットフォームを活用したビジネスにチャレンジしていくといった流れがつくれればいいと思います。

桑嶋
「日本でも展開しているグローバルECプラットフォームを活用した海外展開」について、川口さんから解説していただけますか。
川口
グローバルECプラットフォームを使った海外向けの商品販売には、大きく2つの方法があります。1つは日本のアカウントで日本のプラットフォームに出品する方法で、これは一般的な商品の出品と変わりません。そこに海外のユーザーにアクセスしてもらって、買ってもらうという形です。もう1つは、同じプラットフォームの海外現地のアカウントを取得して、そこに商品を出品する方法です。後者の場合、国ごとにアカウント取得や出品の仕方が異なるケースも少なくありません。そのオペレーションを私たちHAKUHODO EC+がサポートすることが可能です。過去に、あるクライアントが3カ月かかっても海外アカウント取得と出品が完了しなかったところを、私たちがご支援することによって1日で終わってしまったという事例もあります。もっとも、グローバルECプラットフォームを活用する場合でも、熊倉さんが言うように、自社サイトでの海外顧客対応は必須です。多くの人たちはECで買う前に、商品を販売している企業の情報を知りたいと考えるからです。そういった人たちへの情報の窓口として、自社サイトを多言語化することは欠かせません。

オフライン展開支援を射程に入れたサービス

桑嶋
〈グローバル進出ソリューション〉の3つ目のフェーズが現地でのリアル販売です。越境ECと現地販売の違いとはどのようなものなのでしょうか。
熊倉
越境ECは、日本にいながら海外現地の人たちに物を売り、個別で配送していくモデルです。したがって、輸出入に関するオペレーションは必要ありません。それに対して現地販売は、商品をロットで輸出して、現地の店舗などで販売していくモデルです。当然ながら法律的な要件をクリアしなければならないし、関税などの手続きも必要になります。難易度という点では、後者の方がはるかに高いと言えます。
毛利
現地販売は、難易度は高いのですが、ある程度の量をロットで現地に送るので、個別で配送する越境ECよりも物流コストは圧縮できます。収益面から見ると、現地販売の方にメリットがあるという考え方もありますね。
桑嶋
なぜ、HAKUHODO EC+がリアルコマースを支援するのかということについて、ひと言つけ加えておきたいと思います。EC+のミッションは、ECを含む新しいコマース体験をつくっていくことです。ECを起点としながらも、クライアントのニーズがある場合は、オフラインでの展開までサポートしていきたいと僕たちは考えています。EC+だからECしかやらない。そのような閉じた思考では、クライアントのコマースの課題を解決することができないというのが僕たちのスタンスです。海外現地販売支援も、そのようなスタンスに基づいたサービスです。

毛利
コマース自体がシームレスになってきているので、ECだけ、あるいはリアルだけ、というあり方自体が難しくなっています。海外では、ECで注文して店頭で受け取るというケースも、その逆もあります。ECビジネスを支援するユニットであっても、支援の射程がオフラインまで拡張されるのは必然的なことだと思います。

グローバルへの挑戦が地域を活性化させる

桑嶋
最後に、地域事業者や地方自治体の皆さんを支援する取り組みにかけるそれぞれの思いをお聞かせください。
熊倉
私は10年ほど前から日本のインバウンドのプロモーション支援に携わってきました。インバウンド市場はコロナ禍によって一時期大きく縮小しましたが、ご存知のように、その後かなり回復してきています。しかし地方を見ると、まだまだインバウンドの恩恵を受けていない自治体や事業者がたくさんあるのが実情です。インバウンドの効果を全国に広げていくためのサポートに引き続き取り組んでいきたいと思っています。
毛利
グローバル展開というと、日本ですでに販売実績のある商品を海外に出していくというイメージがあります。しかし商品によっては、いきなり海外で売って成功するケースもありうると思います。そういった大胆なチャレンジをぜひご支援していきたいですね。まずはご相談をいただけると嬉しいです。
川口
私自身地方出身なのですが、地元に帰ると街が年々活気を失っていることを肌身で感じます。地方の停滞を打破する方法として、海外へのチャレンジはたいへん意味のあることです。海外への挑戦の最初の壁になるのは言葉です。とても優れた商品があるのに、言葉の壁があるのでグローバルに打って出ることができない。それは非常にもったいないことです。そのような壁を乗り越えるために、ぜひ私たちの知見や経験を利用していただきたいと思います。まずは、最初の一歩をご一緒させていただき、そこから大きな飛躍を後押ししていくこと。そしてそれによって地域の活性化に貢献すること。それが私たちの役割りであると考えています。

桑嶋
この特別編では、今年リリースした6つの新ソリューションをご紹介してきました。すでに新しいソリューションへのお問い合わせも多数いただいています。現在のソリューション数は12ですが、これが〈地域DXソリューション〉の完成形であるとは考えていません。外部のパートナーの皆さんとも連携しながら、地方自治体や地域事業者のさまざまな課題を解決できるソリューションをこれからも引き続き生み出していきたい。そして、このチームの力で地方の価値を国内外に広めていきたい。そう考えています。これからも地域活性化のために力を合わせていきましょう!
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  • HAKUHODO EC+ ビジネスコンサルタント/地域DXソリューション リーダー
    博報堂 コマースコンサルティング局
    コマースDX推進グループ イノベーションプラニングディレクター
    通販事業の運営チームを経て、博報堂のEC支援チームの旗揚げに参画。米国Kepler社への短期出向を経て、現職。ECを軸に、新規ビジネスの立ち上げや変革、事業設計を得意とする。各種講師や記事/書籍執筆なども担当。
  • HAKUHODO EC+ コンサルタント
    博報堂 コマースコンサルティング局
    コマースDX推進グループ チーフビジネスディベロップメントディレクター /
    地域DXソリューションサブリーダー
    クレジットカード会社にて、パートナーシップマーケティングやブランドマーケティングなどの業務に従事。その後、外資系ECモール会社のブランドコンサルタント、ビジネスディベロップメントを経験後、2022年博報堂入社。決済とECの知見を活かしたEC事業コンサルティング業務に従事。
  • HAKUHODO EC+
    Hakuhodo DY ONE ECマーケティング本部 副本部長
    2008年デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(DAC)新卒入社。WEB広告枠の営業、運用型広告のトレーディングデスク業務等を経て、2018年にEC領域の出品メーカー事業主に対するコンサルティングチームを立ち上げる。2022年からは複数のECプラットフォーム横断でメーカー事業主の抱える課題を解決する現組織の運営に従事。
  • HAKUHODO EC+
    Hakuhodo DY ONE クロスボーダー事業局 ディレクター
    中国での人材紹介会社現地法人立ち上げ、現地事業責任者などを駐在経験を経て、その後2008年アイレップ入社。グローバル事業の立ち上げから参加し、日本のインバウンド黎明期からプロモーション活動に携わる。
    2016年DACに加わり、グローバルセールス部マネージャーを経て、インバウンドおよびECのコンサルティング業務に従事。