【第5回】令和の買物欲を刺激する“ツボ”知ってますか?
※本稿より連載名を「”新生”買物研」から改め「【買物研】 ショッパーの気持ちをつかむ極意」としてお届けします。
「売るを買うから考える。」という言葉をスローガンに2003年より活動している博報堂買物研究所の取り組みを紹介する本連載。第5回は、設立20周年プロジェクトのひとつとして実施した「買物欲大調査」をもとに、研究背景や令和の生活者の“買物欲を刺激する20のツボ”について研究メンバー3名から話を聞きました。
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(写真左から)
河野 美咲
博報堂 買物研究所 マーケティングプラナー
飯島 拓海
博報堂 買物研究所 マーケティングプラニングディレクター
瀧本 晃裕
博報堂 買物研究所 マーケティングプラナー
買物研究の専門集団が唱える「買物欲」とは
――はじめに、買物研究所ではどういった活動をされているのでしょうか。
- 飯島
- 私たちは「売るを買うから考える。」をスローガンに2003年より活動を開始し、20周年を迎えました。買物研究所は、マーケターと研究者の2つの顔を持つ実践的なシンクタンクです。ショッパーインサイトの研究・発信を行いながら、マーケティング実践の場で活用できるソリューションや、クライアント企業に並走したプラニングを行っています。
- ――20周年の今、「買物欲」に再着目したのはなぜでしょうか。
- 飯島
- 20年の研究史を改めて俯瞰したときに、「買物欲」という一貫したテーマが見えてきたからです。まさに買物研究所の原点だと感じました。
「買物欲」とは、いい買物体験をしたい」という欲求、すなわち買物プロセス自体に対する欲求を指します。私たちは買物欲を、「いいモノが欲しい≒モノ欲」と全く別の概念であると考えています。現代では良い商品が多く機能価値だけでは差別化が難しいし、各社のマーケティング活動も素晴らしいので情緒価値だけでも差別化が難しくなってきていると感じます。そんな中で、生活者が買いたいと思うかどうか?は、「買物体験の良さ」でこそ差がついてくるのではないでしょうか。買物は「買物(カイモノ)欲」と「物(モノ)欲」が合わさって完結する、その中でも「買物欲」が果たす役割が大きくなっているのではないかと思います。
- 瀧本
- 「買物欲」は買物研究所として非常に大切にしている概念です。一方で、最初に提唱した2007年からは約15年が経過しており、生活者の「買物欲≒いい買物をしたい気持ち」をどう高められるか、という“ツボ”も当時とは随分変わっているのではないか、という感覚もありました。この15年でEC通販もだいぶ普及しましたし、SNS利用の拡大もありました。コロナ禍前後でも、買物の仕方は大きく変わったと思います。そこで、20周年を機に「買物欲」に再度注目した調査を行うことにしました。
令和の“買物欲を刺激する20のツボ”とは
――どのような調査を行ったのでしょうか。
- 河野
- 生活者の「買物欲」を高めるためにマーケターが刺激していくべき“ツボ”を見つけるために、私たちは「買物欲大調査」と銘打って様々な調査を行いました。
SNS投稿の全量データ分析、大手出版社の元編集長の方々や大手小売企業のバイヤーの方々へのインタビュー、また生活者のナマの声を集めることも意識し、生活者へのアンケートや直接インタビューも実施しています。そのような調査を通じ、幅広い視点での“良い買物体験”の事例を収集しました。
- 飯島
- そして、収集したこれらの“良い買物体験”の事例を、延べ1万シーンにわたる定量リサーチで検証しました。食品・飲料から家電・電化製品まで幅広い商品カテゴリーにおいて、スーパー、EC通販などどんな場所で買う時に、“何が買いたい気持ちを盛り上げてくれるのか”―その要素を検証しました。
そして検証の末に集約された20の要素を、令和の“買物欲を刺激する20のツボ”として独自定義したのです。
――令和の“買物欲を刺激する20のツボ”には、どのようなものがあるのでしょうか。
- 飯島
- 20のツボを読み解いていくと、2つの観点が見えてきました。
「買物欲のコントロール方法」については、買いたい気持ちを増幅させる「BOOST」タイプと、買いたい気持ちが流れないように維持する「KEEP」タイプのツボがあります。「買物欲を刺激する方法」については、感情に訴えかける「LOVE」タイプと、理性や理由で訴えかける「REASON」タイプのツボに分けられます。
●「BOOST」タイプのツボ
➢ 『LOVE&BOOST』:“買いたい”を“盛り上げる”
➢ 『REASON&BOOST』:“買ってもいい”を“盛り上げる”
●「KEEP」タイプのツボ
➢ 『LOVE&KEEP』:“買いたい”を“維持”する
➢ 『REASON&KEEP』:“買ってもいい”を“維持”する
――特徴的な分類ですね。「BOOST」「KEEP」「LOVE」「REASON」とはそれぞれどのようなものなのでしょうか。
- 河野
- 「BOOST」タイプは、刺激されると“つい買いたくなってしまう”けれども、刺激されないからといって“買いたい気持ちが下がるわけではない”、そういった性質を持ちます。「KEEP」タイプは、買物欲を維持することができます。“それを押さえておかないと買いたい気持ちが下がってしまう”が、たくさん刺激し続けたからと言って、“買いたい気持ちが上がるわけではない”、そんな性質があります。
- 瀧本
- 「LOVE」タイプは、“買いたい、これがいい”という自分自身の選択基準に関わります。「自己投資」というツボは、なりたい自分になるための“投資”に繋がる、と感じると買物がしたくなるという性質を指します。よく“自分へのご褒美”という言葉を聞きますが、それだけではなく、“頑張るために、気合を入れるために”先に買ってしまう―こんな行動も「自己投資」の顕れです。
「REASON」タイプは、“これでいいか”というタイプのツボです。例えば、何が人気なのか、他のみんなと比較してどうなのか、など“買ってもいいと思える理由を作る”ものです。
生活者が「今」、重要視する買物の“ツボ”とは
――では、実際に今の生活者の「良い買物体験」に繋がりやすい“ツボ”はどのようなものなのでしょうか。
- 瀧本
- 小売流通企業のバイヤーの方に、今の生活者にとってどんな買物が“良い買物”なのかインタビューしたところ、「ネガティブなことがなく、期待値に対して納得ができること」というご意見をいただきました。
- 河野
- 生活者に対するインタビューでも似たような話があります。極端な例かもしれませんが、選ぶことにストレスを感じている方は「あらゆるものをサブスク化したい」とまで仰っていてとても印象的でした。
- 飯島
- 決まったものを毎回選ぶのは生活者にとって悩みも大きいのかもしれません。実は定量調査からも、それを支持するような結果が得られているんです。
「食品・飲料」と「家電・電化製品」の買物において、生活者が重要だと思う要素の上位20項目をみてみると(下図)、「BOOST」タイプのツボに関わる要素よりも、「KEEP」タイプのツボに関わる要素が上位に数多くランクインしていることがわかります。この傾向は「化粧品」「トイレタリー・日用品」など他のカテゴリーやチャネルでも共通しており、生活者の“ネガティブを回避したい”気持ちがうかがえます。
――今の生活者は「KEEP」タイプのツボを重視しているんですね。「KEEP」タイプのツボには、例えばどのようなものがあるのでしょうか。
- 瀧本
- 今回は代表例として、「損失回避」「フリクションレス」を取り上げたいと思います。
損失回避は、『選択肢が絞られており、失敗しづらい』、『商品を高値掴みしない、損しない』といった要素から構成されます。これは、EC通販でどこでも商品を買えるようになり便利にはなったが、いざ届いた商品をみたら失敗していた―という苦い経験から、生活者から強いニーズが発生しているのではないでしょうか。
- 河野
- 失敗回避策も非常に巧妙化しています。ポジティブな口コミだけでなくネガティブな口コミをみることで、そこに自分が納得できるかどうか?という部分までみて判断しているケースもあるようです。
- 飯島
- 「フリクションレス」は、なるべく手間を減らしたいという生活者のニーズを押さえたツボです。例えば、希望の支払い方法でスムーズに買物ができたり、決まったものを買うときにわざわざ選ぶ手間が無かったりすることです。テクノロジーで便利になってきているからこそ、買物の際にストレスを感じると、途端に買いたい気持ちがなくなることがあります。
- 河野
- 生活者の声でも、普段行かないお店に行ったら品揃えが凄く良くて逆にストレスだった。そんな声が見られます。本来ポジティブなはずの品揃えの良ささえ、状況によってはストレスに繋がりうるのです。
- 瀧本
- 今の生活者の声をみると、いかに買物欲を逃さないような買物体験を設計するかが非常に重要であると感じました。
- 飯島
- 今回は、「KEEP」タイプのツボの重要性についてお話しました。ここまでの内容を見ていても、ストレスフリーな買物体験だけを志向していくだけでは、買物が楽しくなくなりそうです。次回の連載では、買物欲を刺激する20のツボから“未来の兆し”を読み解いていきたいと思います。
※「令和の“買物欲を刺激する20のツボ”」を解説したセミナーアーカイブ動画を期間限定公開しています。ぜひご覧ください。
【博報堂買物研究所 設立20周年記念セミナー】
買物欲で捉える今の潮流と未来の兆し
買物の“主導権”を再び取り戻し始めた生活者を紐解く
アーカイブ公開期間:~ 5月13日(月)15:00
詳細:https://www.bizgarage.jp/webinar/20240411
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博報堂
買物研究所 マーケティングプラナー外資系消費財メーカーを経て、2023年博報堂入社。リブランディングのための包括的なリサーチや、未来創造に向けたショッパーインサイトの発掘など、幅広いテーマの調査研究および、ショッパーマーケティング領域のソリューション開発を担う。
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博報堂
買物研究所 マーケティングプラニングディレクター市場調査会社を経て、2022年博報堂入社。 EC生活者、パーパス買い、リテールメディア、値上げと節約など幅広いテーマの調査研究および、ショッパーマーケティング領域のソリューション開発を担う。
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博報堂
買物研究所 マーケティングプラナー2017年博報堂入社。入社以来一貫してマーケティング部門で幅広い業種のブランドマーケティング戦略立案に従事。2022年より現職。ショッパーインサイト研究及びソリューション開発を担当。