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対談!EC+【第12回】──「ECにおけるデータ活用」ってなに? ECを経済成長のドライバーにするために
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対談!EC+【第12回】──「ECにおけるデータ活用」ってなに? ECを経済成長のドライバーにするために

博報堂DYグループ内のEC領域のナレッジやスキルを集約し、クライアント企業のEC事業を戦略構築から実装・運用までフルファネル、ワンストップでサポートする「HAKUHODO EC+」がお送りする、 EC事情の最前線をさまざまなプロフェッショナルの方とご紹介する連載 「対談!EC+」。第12回は、大手ECモールのデータ分析サービスを提供しているNintの川島和弘さんと横山玄さんをお招きし、データから見える現在のEC市場や生活者の動向について語り合いました。

川島 和弘氏
Nint
エンタープライズディビジョン マネージャー

横山 玄氏
Nint
エンタープライズディビジョン カスタマーサクセスユニット

奥山 貴弘
HAKUHODO EC+リーダー
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
局長代理 兼 コマースDX推進グループマネージャー

小田 塁
HAKUHODO EC+
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ ビジネスプラニングディレクター

水穂 優太
HAKUHODO EC+ コンサルタント
博報堂 ショッパーマーケティング事業局
コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター

コロナ禍で向上した生活者のECリテラシー

奥山
博報堂DYグループのECのプロフェッショナルが集まったユニット「HAKUHODO EC+」がお届けしている連載「対談EC+」は、今回で12回目となります。今回は、ECデータ分析サービスを提供しているNintの川島さんと横山さんとともに、EC市場の現在について語り合っていきたいと思います。はじめにNintとはどのような会社なのか、ご紹介いただけますでしょうか。
川島
私たちNintは今期で5期目を迎える、日本の大手ECモールの推計データを中心に、ECに関するソリューションを提供する会社です。母体であった会社が上海に設置していた研究部門が独立して生まれたのがNintの始まりであり、設立は2018年ですが、前身から数えると10年以上データビジネスに関わっています。現在日本のEC市場において大手ECモールの占めるシェアはおよそ7割に達しているとNintの推計データから推察しています。つまり Nintを活用する事によって、日本EC市場のおよそ7割の傾向値を把握した状態で、妥当性のある意思決定やアクションを行う事が可能になります。

奥山
中国でのEC研究からスタートしているというのが、Nintの特徴の1つと言えそうですね。
川島
おっしゃるとおりです。中国における全コマース活動におけるEC化率は50%を超えています。これは世界で最も高い数値です。その「EC先進国」である中国でECデータ分析をしてきたスキルやノウハウを日本の企業に提供できることが私たちの大きな強みです。
奥山
なるほど。そんなNintの活動から見た日本のEC市場の現状について解説していただけますか。
川島
経済産業省が毎年発表しているデータを見ると、2019年から21年までの3年間でEC物販市場はおよそ30%成長しています。とくにコロナ禍においてEC市場は大きく拡大しました。3年で30%超という数字にはかなりのインパクトがありますが、一方日本全体のGDPを見ると、20年から21年にかけて5%ほどダウンしています。これらの数値から推察できるのは、「EC市場はまだ日本経済全体を強力に牽引してはいない」ということです。とはいえ、EC市場は継続して成長を続けていますし、大手ECモールの成長率はEC市場全体の成長率を上回っています。また、コロナ禍の中でより加速して定着したECで物を買うというスタイルが今後衰退することはないと考えていますので、引き続きECにはまだまだ大きなポテンシャルがある。それが私たちの見立てです。
小田
生活者側の動きを見ると、ポストコロナの時代に入って、買物の「リアル回帰」が進んでいると言われています。しかし、それによってECが利用されなくなっているわけではありません。生活者はリアル店舗とECをうまく使い分けるようになっていると考えられます。それだけでなく、いろいろなECモールを回遊して、よりお得に買物をするという傾向も我々が実施したEC生活者調査データからも見られています。

奥山
いろいろな購買チャネルを賢く使い分けるようになっているということですね。
水穂
生活者のECリテラシーが向上しているという言い方もできそうです。ECモールや店舗ごとの特徴を見極めて、そのつど最適な買い方を選ぶ人が増えているということなのだと思います。
小田
EC事業を展開する企業の側から見れば、特定のECモールだけで販売すればよいというわけではない状況になってきていると考えられます。いろいろなECモールへの出店が必要になっているということであり、それぞれのモールの特徴に応じた販売戦略が求められるようになっているということです。

イベントでの売り上げを最大化するために

奥山
とくに、この1、2年で顕著に見られるようになった ECモールの動向についてお聞かせください。
川島
モールの成長に合わせて、各モールとジャンル毎に異なった特徴が見られるようになっています。例えば家電製品で見ると、以前は、家電製品が売れるモールとそうではないモールが比較的はっきり分かれていましたが、ここ最近以前はあまり売れなかったモールでも家電の販売数が伸びてきています。販売店舗数が増加傾向にあるので流通状況の変化も要因としてありますが、ここでもいろいろなモールを見ながら、最もお得なところで買うという行動をとっている生活者がいるという見方ができそうです。
奥山
価格帯はどのくらいなのでしょうか。
横山
平均7000円から8000円ぐらいですが、数万円の高額商品をECで購買するケースも増加傾向にあります。平均購買単価は毎年およそ10%ずつ伸びています。以前は、生活者が気軽にECで買い物ができる価格帯は3000円から5000円ぐらいと言われていましたが、この数年で高額商品を買うことに抵抗を感じない人が増えてきているようです。

川島
他にもファッションカテゴリでは、以前はレディースの売上規模が大きかったですが、コロナ禍以降メンズの販売数も伸びています。また、普段着が比較的売れるモールとハレの日用の服が売れるモールなど、モールごとの傾向の違いも見られます。

加えて各モール毎に、家電製品がよく売れる月、食品がよく売れる月、贈答品がよく売れる月など、年間を通じて特徴がある事がNintのデータからわかってきます。もちろん一般的なシーズナリティは各モールでも見られますが、それ以外のモール特有の傾向も見られる為、モール毎の特徴を捉えた戦略策定が必要と考えています。

水穂
各モールとも、さまざまなイベントを開催して生活者を呼びこむ工夫をしています。イベントによって売れ筋商品が変わるという傾向がありますよね。
川島
イベントによってハレの日をつくることによって、売り上げが大幅に伸びるというのは、どのモールにも共通して見られる現象です。加えてオフラインの慣習に合わせ各モールがイベントを設定しており、母の日やクリスマスなどだけでなく、中元セール、歳末セール、初売りなどオフラインで伝統的に行われてきた販売イベントをオンラインでも展開することによって、 ECモールがより生活者にとって身近なものとなっていると考えられます。
小田
一方で、海外から入ってきたブラックフライデーやサイバーマンデーなど、従来日本で馴染みのなかったオンライン発のイベントもかなり定着してきていますよね。生活者でも、こういった大型イベントを待って買い控えをするという購買行動も普通に見られるようになっています。企業側としては、イベント期間中の売り上げを最大化するためには、数カ月前から広告戦略を立案して出稿強化したり、商品ページを最適化したり、需要予測や在庫管理をしっかりしなければなりません。
水穂
そういった販売戦略立案には、専門的な知見が求められます。僕たちは、それぞれのモールのイベントの特徴を捉えたうえで、企業の商品戦略や販促施策の設計をお手伝いすることができます。

小田
それぞれのイベントの特性を捉えることはとくに重要ですよね。自社で売りたいカテゴリーの商品とイベントの親和性を見極めて、年間のプランニングを立てることで売り上げを大きく伸ばすことが可能になります。そのようなプラニングを支援するのも私たちHAKUHODO EC+の役割です。
川島
生活者は、オフラインとオンラインのチャネルをシームレスに行き来するようになっています。そう考えれば、プランニングする場合には「オンラインかオフラインか」ではなく、「オフラインもオンラインも」という視点が必要になります。企業によっては、オンラインとオフラインの担当部署が分かれていることも少なくありません。難しい課題である事は重々承知であるもののそこをうまく連携させていく事で、更なる事業成長が期待できると考えています。

モールと自社ECのハイブリッド戦略の重要性

奥山
モールの中にメーカー公式店舗を出店する動きも進んでいますね。
横山
データから見ると、実はメーカー公式店舗数は出退店を考慮すると2020年から5%しか増えていないんです。一方で、メーカー公式店舗全体の売り上げは30%ほど増加しています。弊社もメーカー様から公式店舗運営の難しさや課題を良く聞きますが、課題を乗り越え急成長しているメーカー公式店舗もある事がデータから見える事実です。

ECモールへの出店及び注力は、収益率の観点から避け自社ECへの注力を考える企業が少なくありませんが、必要なのは、ECモールと自社ECの展開を組み合わせたハイブリッド戦略です。特に大手ECモールはEC市場全体の7割を占める巨大な市場であり、その大きな市場の力を使って自社ブランドや商品を生活者に知ってもらうことができる強力な広告塔になりえます。一方、自社ECサイトに生活者を呼び込むには、独自の広告展開などが必要になる為、ECモールへの出店や注力の方が効率的なケースもあります。ECモール内で自社ブランドや商品の認知を拡大し、そこから自社ECサイトに波及させていく。そんな流れをつくるのが理想だと思います。

小田
おっしゃるとおりですね。自社ECサイトは、広告費だけではなくさまざまな運営コストがかかるビジネスモデルです。流通マージンがかからない分、一見利益率は自社ECの方が高いように見えますが、実は赤字になっているケースも少なくありません。また、川島さんがおっしゃるように、自社ECサイトは、大手ECモールの経済圏から離れたいわば「離れ小島」のようなものです。そこへの導線をつくるには、ECモールという「一等地」に店舗を出すのが最良の策だと思います。
奥山
自社ECサイトを展開するメリットは何でしょうか。
小田
ECモールの店舗にはCRMの機能が企業が求めるほど充実していないことが多いです。CRMによって顧客と長期的な関係を構築し、LTV(生涯顧客価値)を高めていくには、自社ECサイトでCRMを行うという戦略が必要になります。
水穂
自社ECサイトは、UI/UXを自由に設計できるので、ブランドの世界観を表現するのに向いています。大手ECモールは売り上げを上げる場所、自社ECサイトはブランディングを行う場所。一例として、そんな整理もできるかと思います。

データをフレームワークに基づいて活用していく

奥山
ECの売り上げをどう伸ばしていけばいいのか。具体的な方法論がありましたら、お聞かせください。

川島
データや考え方を因数分解したフレームワークに基づいて分析を行い、再現性のあるデータドリブンな意思決定と行動をしていくことが重要だと考えています。なのでNintでは導入後カスタマーサクセスチームがいくつかのフレームワークを用いてお客様をサポートする体制をとっています。

これを実現していく為に、まずは「3つの壁」という考え方のフレームワークを用いて、自社のデータドリブンにおける現在地を把握する事を推奨しています。

データドリブンを推進していく際にぶつかる壁が3つあります。
1つ目が「調査の壁」です。データ分析を行う上でデータ自体の有無を指します。大手ECモール内の市場競合動向のデータは、カバー率が高く信頼性のあるデータを入手しづらいですが、それを解決できるのがNintです。自社と市場と競合のデータを比較し妥当性のある意思決定が可能となります。

2つ目が「分析の壁」です。データがあっても、事業成長のヒントが見つからない事を指し、こういったケースは少なくありません。なのでNintでは「集めたデータ」を「使えるデータ」にしていく為に、カスタマーサクセスチームがデータ分析を支援する体制をとっています。

そして3つ目が「行動の壁」です。データがあり分析は行っているが、行動ができていない状態を指します。分析したデータを実際に行動に繋げるには、登場人物と具体的行動を明確にした上で、妥当性のあるデータ分析する事が必要です。
調査、分析、行動。この3つの壁を乗り越えデータドリブンを推進する事が売上向上の第一歩となります。

小田
HAKUHODO EC+の視点から見ると、売り上げを上げるために重要なことは3つあります。第一に重要なのが、「市場を知る」ことです。EC市場の動向を知り、そこにいる生活者の購買行動を知ることで、最適な売り上げ戦略を立てることができるようになります。そこにNintや博報堂のデータを役立てていただければと思います。

次に重要なのが、「組織を最適化する」ことです。川島さんがおっしゃったように、企業によってはオンラインとオフラインの担当部署が完全に分かれている場合がありますし、機能によって分断しているケースもあります。ECビジネスを成功させるには、「マーケティング」「セールス」「バックヤード」の三位一体が絶対に必要です。オンライン、オフラインの連携の形をつくり、かつ3つの機能を一体化させていく取り組みが欠かせません。

3つ目に重要なのが、これも川島さんから指摘があったように、組織全体でデータを共有し、データドリブンで売り上げを上げる仕組みをつくっていくことです。以上の3点を社内のリソースだけで実現することは簡単ではありません。Nintのようなデータのプロや、僕たちのようなECコンサルティングのプロの力を上手に活用していただいて、確実に売り上げにつながるECの取り組みを進めていただければと思います。

キーワードは「Best Place」

奥山
今後ECはどうなっていくか。それぞれのお立場から未来予測をお聞かせいただけますか。
横山
OMO(Online Merges with Offline)がスタンダードな世界となり、生活者の購買行動に合わせ企業の活動もどんどんハイブリッド化していくと考えています。その中で、EC市場も拡大を続けていく。そう考えています。
水穂
「地域」をテーマにしたEC展開も増えていくのではないかと考えています。大手モールに出店するハードルは以前より下がっていますし、自社ECサイト構築を支援するさまざまなツールもあります。それによって、地域の事業者がECにチャレンジできる環境が整ってきています。地域の商品をECで全国の生活者に届けることができれば、事業者と生活者の双方に大きなメリットとなります。そういった取り組みも、ぜひご支援していきたいですね。
川島
ECは経済成長のドライバーになるべきであり、おそらくなっていくだろうと思っています。それを実現するためには、マーケティングが非常に重要になります。先ほども話に出たように、ECモールで顧客を獲得し、そこから自社ECサイトに引き込む導線をつくる。そして自社ECサイトで顧客と対話を重ね、顧客が本当に求める商品をつくっていく。そのような流れをつくることができれば、ECはきっと日本経済を元気にすることができるはずです。そんな未来をつくるために、博報堂の皆さんと一緒にたくさんのクライアントをご支援していきたいと思います。

小田
「Best Place」がこれからのキーワードになると考えています。オンラインとオフラインの垣根がどんどんなくなっていく中で、生活者は自分にとってのベストな購買の場所をそのつど考えながら物を買っていくことになると思います。企業にとって重要なのは、各ECサイトの売り場の特性を踏まえること、自社ECサイトでの独自の展開を模索すること、そして顧客起点で戦略を立てることです。日本でもEC化率は今後どんどん上がっていくはずです。それはすなわち、ECビジネスが事業成長の鍵になるということです。HAKUHODO EC+として、これからもEC起点の事業成長に寄与していきたいと考えています。
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  • 川島 和弘氏
    川島 和弘氏
    Nint
    エンタープライズディビジョン マネージャー
    Nint エバンジェリスト
    新卒サイゼリヤ、株式会社TMJを経て、2016年アマゾンジャパン合同会社へ。ECのコアとなる、直販、モール、物流事業を営業、バイヤー、プランナーと様々な確度で経験し、2022年より現職。NintMission「データで世界を自由にする」を実現するため鋭意活動中。
  • 横山 玄氏
    横山 玄氏
    Nint
    エンタープライズディビジョン カスタマーサクセスユニット
    2022年株式会社Nintに入社。アパレルブランドのオフライン店舗、オンライン店舗のマネジメント経験をもとに現在メーカーと小売企業のデータドリブン支援に従事。
  • HAKUHODO EC+リーダー
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局 局長代理 兼
    コマースDX推進グループマネージャー
    2004年博報堂中途入社。大手通信会社を中心に長らく営業職を担当し、2019年より現職。ショッパーマーケティング・イニシアティブのメンバーとして、EC領域に特化した組織横断型プロジェクトチームである「HAKUHODO EC+」を推進する。
  • ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ ビジネスプラニングディレクター
    2019年博報堂中途入社。マーケティングリサーチ会社や大手ECモールでのキャリアにおけるデータ・ドリブンな事業支援経験をもとに、様々な企業のEC事業戦略策定から施策の実行にいたるフルファネルでのコンサルテーションに従事。
    「HAKUHODO EC+」のメンバーとしても、グループを横断したEC業務対応やソリューション開発を推進。
  • HAKUHODO EC+ コンサルタント
    博報堂 ショッパーマーケティング事業局
    コマースDX推進グループ マーケティングプラニングディレクター
    2022年博報堂中途入社。大手ECモールでのECコンサルタントの経験をもとに、EC領域全体の事業設計や戦略策定を担当。新規出店企業から月商数十億円規模のクライアントまで幅広いコンサルティング実績を持つ。EC領域に特化した「HAKUHODO EC+」にも所属し、新たなソリューション開発も推進している。

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