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ビッグデータ×AIでパーパスに基づく企業活動を支援する「パーパス・アクション・サイクル」開発秘話
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ビッグデータ×AIでパーパスに基づく企業活動を支援する「パーパス・アクション・サイクル」開発秘話

パーパスを作ったものの、具体的なアクションにつながらない。そのような悩みをもつ企業が増えているといいます。博報堂ブランド・イノベーションデザイン局が開発した「パーパス・アクション・サイクル」は、AIを活用して世の中との対話を促進し、具体的なアクションを生み出すソリューションです。その開発の経緯や特徴を、開発担当者に聞きました。

山田 聰
株式会社博報堂 ブランドイノベーションデザイン局 部長 コピーライター

伊藤 友博
株式会社 インサイトテック 代表取締役社長

パーパスの実践を促進するのは世の中との「対話」

ーー「パーパス・アクション・サイクル」開発の背景やきっかけについて教えてください。

山田
数年前から、ブランドのパーパス(企業の存在価値)を策定する仕事が増えています。そんな中、特に最近増えている相談が、「パーパスを策定したのだが、その後のアクションにつながらない」という悩みです。
なぜパーパスが、アクションに結びつかないのか。その原因の1つに、コミュニケーション不足が考えられます。具体的には、新たに作ったパーパスを一方的に従業員や社会に発信はしているものの、その反応を聴いたり、対話するような機会がないのです。
とはいえ、大企業では、従業員一人一人に話を聞いたり、顧客全員に反応を聞くことは難しい。どうすれば、パーパスを真ん中に置いて対話やコミュニケーションを促進できるのか。そんな悩みを抱えて、インサイトテックの伊藤社長に相談したのがきっかけです。
伊藤
私たちインサイトテックは、生活者の声をAIで解析して、新たな価値を発見するための支援を行なっているテクノロジー・スタートアップです。「声が届く世の中を創る」というビジョンを掲げている弊社にとって、山田さんから頂いた相談はとても興味深く感じたのを覚えています。
私たちの強みは、大量の日本語をAIを使って解析する「自然言語処理(NLP)」と呼ばれる技術です。生活者の発話の中でパーパスがどれくらい浸透しているのかという問いは、私たちのビジョンにも技術的にも合致するもので、ぜひご一緒させて頂きたいとお伝えして、プロジェクトがスタートしました。

パーパスの要素を分解し、世の中の声を「見える化」する

ーー「パーパス・アクション・サイクル」の概要について教えてください。

山田
このプログラムは、既にパーパスがあるという事を前提にして、3つのステップで進めていきます。もちろん、パーパスを作るところから始めたいというニーズにもお応えします。

ステップ1では、パーパスを形作る要素を分解していきます。
通常、パーパスには企業が成し遂げたい複数の価値が統合されて作られます。短い文章でまとめるために統合することは大事ですが、対話を進める上ではやや抽象的すぎる場合もあります。そこで、ワークショップを通じて7~8程度の価値軸に分解していきます。

ステップ2では、パーパスがどのように語られているかをAIで分析します。
具体的には、自社のブランドに言及のあるSNSやブログ、クチコミなどのデータを収集した上で、ステップ1で定めた価値軸や関連ワードがどの程度含まれているのかを判定して、スコアリングします。
例えば、下記の図は架空の家電メーカーのブランドの事例ですが、パーパスを構成する7つの価値軸を定めた上で、ブランド名に言及しているSNSの書き込みのうち、それぞれの価値軸がどの程度含まれているかをスコアリングして、オレンジの線で示しています。同時に、メーカーから発信されているニュースリリースのデータも、同じAIプログラムで分析することが可能です。それを示したのが黄色の線になります。

ーーこの図を見ると、オレンジの線と黄色の線にかなりのギャップがありそうですね。

山田
そうですね。例えば、ニュースリリースでは「多機能」について発信しているものの、そこに対する反応は思ったほど伸びていないことが分かります。一方で、「技術力」「愛着がわく」「家事が助かる」といった項目は、リリースよりもSNSの方が大きな数値になっています。ここは、世の中から期待されている価値であり、具体的なアクションに力を入れるべき領域であることが分かります。

ーースコアリングは、どのように行なっているのでしょうか

伊藤
価値軸に関連する類義語をAIに学習させて、オリジナルの「辞書」のようなものを作っています。例えば、「家事が助かる」という価値軸の言葉そのものが、ブランド名と共にSNSに書き込まれている場合もあれば、「家事が楽になった」「時短になった」など、同じような意味だけれども違う言い回しの場合もあります。そのような類義語も含めて、価値軸ごとのスコアが判定できる仕組みを作っています。
では、なぜ我々が独自に類義語を設定できているかというと、インサイトテックの独自サービスに「不満買取センター」というアプリがあり、ここでの蓄積が活用できているからです。このアプリは、誰でも自分が日々感じた不満を投稿することでポイントがもらえるサービスなのですが、このアプリに投稿される1日約2万件の日本語データを、私たちは日々蓄積・ 分析し続けています。累積では3,800万件の生活者の声のビッグデータとなっており、 その中で、どの言葉が同じ意味で語られているのか、類義語のパターンを膨大に持っているのです。
パーパスのような、やや抽象的な概念を分析する上で、我々がもつ日本語解析の技術を活かして、生活者の声やそこからにじみ出る意味合い を余すことなく分析できるのが、このプログラムの特徴の1つではないかと思っています。
山田
インサイトテックの日本語解析のトップ企業としての経験やデータの蓄積が、このプログラム開発にあたり大変助けて頂きました。
また、当然ですが、SNSの書き込みは、場合によっては何万件にもなり、人の目で判定することは不可能です。しかし、AIに判定方法を学習させた上で分析すれば、AIは何万件だろうが短時間で分析を行うことができます。そうすることで、よりスピーディーかつタイムリーに、パーパスに対する世の中の反応が可視化できるようになります。

ーー最後のステップはどのように進めるのでしょうか

山田
ステップ3は、分析内容を元に、具体的なブランドアクションを開発していきます。具体的には、博報堂のブランディング専門チームが、より効果的なプランを提案します。
先ほどの例を再度使うと、分析の結果「技術力」「愛着がわく」「家事が助かる」といった項目に可能性があることが分かってきました。そのような点を伸ばすような広告やSNS施策、イベントや商品開発など、ポイントを見極めた上で活動内容を検討していきます。
また、このプログラムの最後に「サイクル」とつけているように、具体的な活動が実施されたあとに再び分析を行い、その効果検証を行う「PDCAサイクル」を推進することを想定しています。このように、本プログラムを通じて世の中とパーパスについて対話を行うことで、生活者と共により良いブランドを共創していくブランディングが可能になると考えています。

業種に合わせて対象となるデータを変えていく

ーー対象は世の中の生活者だけなのでしょうか

山田
そんなことはありません。従業員に対して活用することも可能です。むしろ、パーパスを作ったら最初に伝えたいのは従業員かもしれません。対象が従業員の場合は、分析はSNSデータではなく、従業員のアンケートの自由解答欄などを使います。
1つ、事例をご紹介します。ある企業でこのプログラムの実証実験を行ったのですが、その際は、新たに作られたブランドパーパスを従業員がどう感じているのか、社内でアンケート調査を行いました。分析の結果、特に若手層のパーパス共感度合いが低いことや、異なる部署と交流している人たちの方が共感度合いが高いことが分かりました。そこから、若手中心に異なる部署との交流を促進する企画を実行しようという企画が生まれ、現在進行中です。
伊藤
日本語データであればどのようなものでも分析可能です。今、山田さんがおっしゃったような社内アンケートの声を分析する以外にも、カスタマーセンターに日々集まってくる声を分析したり、ECサイトのクチコミレビューなどを分析することも可能です。

ーー「パーパス・アクション・サイクル」に向いている企業や業種はあるのでしょうか

山田
どのような業種でも活用可能だと思います。しかし、取得するデータは業種によって変わるかもしれません。例えば、広告をよく行っている消費財メーカーなどであればSNSデータの分析が可能ですが、BtoBメーカーの場合はそこまでSNSの投稿が無いかもしれません。その場合は、取引先のアンケートや、メディアの記事など、分析を行うデータが変わる可能性があります。具体的な進め方については個別にご提案したいと思っていますので、気軽にお問い合わせいただけたらと思います。
伊藤
新たにデータを分析するだけでなく、先ほどご紹介した「不満買取センター」に蓄積されている不満データなども、パーパスアクションを考えるヒントになるかもしれません。いろいろな側面で、「生活者との対話」をお手伝いできたらと思っています。

ーー最後に「パーパス・アクション・サイクル」開発後の今後の展望をお聞かせください。

伊藤
パーパスは抽象度が高く且つ戦略的に重要なテーマだからこそ、生活者一人ひとりの声に耳を傾け、パーパス浸透に向けた「現在地」と「取るべき舵」をファクトに基づいて明らかすることが重要と考えます。 「パーパス・アクション・サイクル」はそんな重要だけど難しい課題を解決できるサービスであり、インサイトテックがビジョンに掲げる「声が届く世の中を創る」の実現につながると確信しています。インサイトテックはこれからも「生活者の声」を価値に変える挑戦を加速して参ります。
山田
「パーパス・アクション・サイクル」をいくつかのクライアントと実践させていただいて発見があったのは、「パーパスのどんな部分が生活者や世の中に響いていて、どこは響いていないのか」を探求することが、実はブランドが眠らせていた新しい使用価値の発掘や新しい市場の創造につながっていく、ということでした。パーパスと聞くと、理念的で、ビジネスの現場から遠い話だと感じてしまう方もいるかもしれないのですが、パーパスから出発することこそが新たな市場機会への近道なのだと改めて感じています。パーパスを起点にビジネスにインパクトを生み出していく。そのお手伝いができればと思っています。

「パーパス・アクション・サイクル」の詳細はこちら

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  • 株式会社博報堂 ブランドイノベーションデザイン局 部長 コピーライター
    2006年博報堂入社。制作職として、オーラルケア、食品、トイレタリーなど、多様な業種のコミュニケーション開発、クリエイティブ開発、商品開発に従事。2011年より博報堂ブランドデザインに加入。企業・商品のブランディングやイノベーション支援に携わる。アジア太平洋広告祭ヤングロータスグランプリ、グッドデザイン賞など受賞。共著に『東大式 世界を変えるイノベーションのつくりかた』(早川書房)、『ビジネス寓話50選 物語で読み解く、企業と仕事のこれから』(アスキーメディアワークス)など。
  • 伊藤 友博
    伊藤 友博
    株式会社 インサイトテック 代表取締役社長
    1999年三菱総合研究所入社。ビッグデータマーケティング、AI(人工知能)を活用した新規事業開発を牽引。2017年代表取締役社長としてInsight Techに参画。「声が届く世の中を創る」ことをVisionに掲げ、生活者の「不満」はイノベーションの種であると確信し、課題解決・価値創出にこだわる事業を推進。