おすすめ検索キーワード
KPIの共通意識こそがオウンドサービスの根幹
BUSINESS UX

KPIの共通意識こそがオウンドサービスの根幹

顧客ID取得の窓口としての「オウンド」の重要性が高まり、企業やブランドと生活者のインタラクティブな関係構築・価値提供を行う 「オウンドサービス」も増加中。しかしその多くが、グロースを行うためのKPIが設定されていなかったり、UX/UIのアップデート体制が確立されていなかったり、といった課題に直面しています。hakuhodo DXDが提供する「DXD Growth Program」は、戦略立案からシステム・デザイン・コンテンツ開発まで、オウンドサービスのグロースに向けた運用を一気通貫で実施できる画期的なプログラムです。本連載では、「DXD Growth Program」の意義や支援内容など、計6回にわたって詳しくご紹介します。今回はVol.1として、KPI設定を共通認識化させることの重要性を中心に、同メンバーの増田昌弘に聞きます。
ーDXD Growth Programの誕生背景を紹介するVol.0はこちら
ーhakuhodo DXDについてはこちら

複数の部門がかかわりKPIが不明瞭に
PM人材の不足が問題に拍車をかける

――本日は、DXD Growth Programの1つ目のステップである「現状理解とゴール設定」の大切さについて伺っていきます。まずは、増田さんの自己紹介をしていただけますか。

 私は、博報堂に入社する前は出版社で7年近く編集者をしていました。博報堂に来て7年経ちましたが、入社当初はマーケティング職で、企業の広告コミュニケーション等の戦略立案を担当し、後に今の所属であるhakuhodo DXDに移りました。企業の事業課題を解決するためのDXを推進するチームです。もともとマーケティングをやりたくて入社したのですが、モノ作りを経験しているので、戦略からアウトプットまで一貫して関われる仕事のほうが向いていると思うようになりました。前職では新規事業開発も経験していたので、そんな強みも生かせる現在のポジションに落ち着いたという経緯があります。
 今はコモディティ化が顕著になり、サービスも商品も世の中に溢れて「新しいモノなんてできるのか?」という懸念もある中で、広告会社として培ってきたものをプラスしながら、クライアント企業の支援をしたいと思っています。

――デジタルを伴うオウンドサービスは、企業にとって複数の部門に関わるため、分掌が不明確になりがちです。そのためにどんな問題が生じるのでしょう?

オウンドサービスには、まず事業部、IT部門、さらに広報や広告宣伝部の方といった具合に、多岐にわたる部門の方が関わってきます。広告コミュニケーションであれば、基本的に広告宣伝部の方と会話するのですが、デジタルサービスの領域になると、すべての部門の方とコミュニケーションをとることになりますね。さらに部門ごとに使う「言語」も変わるんです。その全員に理解しやすくお伝えして、コンセンサスを得ていく作業は自ずと複雑になってしまうのです。
どの会社でも、部門によって役割が違います。事業部がサービスの企画を立案し、IT部門でそれを実装して、広告・宣伝部が世の中に広めていくわけですね。そんな状況で、最も陥りやすい問題は部門を横断して「仕切る人」=PM(プロジェクト・マネージャー)の不在です。PMがいて意思決定や課題管理を率先してやれば、プロジェクトはスムーズに進行します。PMが不在だと部門の垣根により、責任の所在が不明瞭になるし、ファシリテーションする人がいないから議論も散漫になりがちで、発散集約が相当困難になってしまう。もともと部門間で思いもやりたいことも違うし、コミュニケーションが難しいのだから、仕切り役がいなければうまくいきませんよね。
ただし、このPM人材というのが、どの企業でも不足しているのが現実なのです。現代ビジネスでは、どんな業種でも「未知の領域」が増えていると思います。自分がわからない分野はスペシャリストに頼らざるを得ない。そんな未知な部分を含めて、領域を越境しながら自発的に行動できる人材は、極めて不足していると思います。
 我々は、意思決定をする立場にこそなれないものの、プロジェクト進行と各フェーズでの課題解決をお手伝いすることができます。PMをアシストし、並走する機能としてプロジェクト進行をすることが可能なのです。だから、各部の様々な立場の方々と会話しながら、我々がハブの役割を果たすという事例が多くなっていますね。

――KPIを共通認識とすること。それがいかに重要なのか、ご自身の体験を含めてお話しいただけますでしょうか?

 関わる人が増えれば増えるほど、全員が一丸となってサービスを作りあげなくてはいけません。そのマインドセットが非常に難しいのですが、大企業であればあるほど、部門ごとにそれぞれのKPIを課される傾向にあります。最終的なゴールは同じであるはずなのに、各部門で設定される目標値がそれぞれ異なるので、各部門がそこにフォーカスしてしまうと動きがバラバラで相乗効果が生まれませんよね。
 私が担当したあるクライアントの案件で、オウンドサービスのコンサルティングを行いました。同社の多くの部門の方が参加していましたが、全体数値を管理している方が不在でした。自分の業務に関連する指標はしっかりチェックしているけど、最終的にどのKPIを動かすためにやっているのかというと、誰も明確に答えられない。各部門での業務が、全体につながっていかないのですね。そのサービスが誰をターゲットとして、どんな役割を果たすために作るのかという、全体的な目的がいつの間にか不明瞭になってしまっているのです。細かい課題がどんどん継ぎ足され、KPIはむやみに増えていく…。「あれ、これって何のために提供しているサービスだっけ?」という状況になりかねない状態でした。このKPIの下にこういうロジックがあるから各部門が動くという、全体を管理する役割の人がいなかったために、そんな事態に陥ってしまった。そこで我々が、KPI設定を起点として各部門のマインドセットまで支援して、サービスグロースを導くためのかじ取りをサポートしたという経緯がありましたね。
 とにかく、自分たちが今やっていることが、どの数値に対して跳ね返るのか、そこをしっかり意識して動いていかないと、サービスとして前進しません。そうならないためのKPI設定とマインドセットに対して、我々がやらなくてはいけないことが非常に多いなと実感しています。

博報堂が部門間のハブとなって
客観的な視点でプロジェクトを設計する

――博報堂が部門間のハブの役割を果たせるというお話でしたが、そのことによるメリットについて、詳しく教えてください

 あくまで客観的な視点で全体を設計できることが大きいと思います。どこかの部門からインナーでPMが立つと、どうしても自分の所属部門のメリットを優先しがちになってしまいます。しかし、その優先したワークが本当にサービスをグロースしていくために正しいのかというと、そうでないケースも多い。
そこで、我々が客観的にサービスの構造や部門間の関わり方をきちんと評価した上で、目標の立て方や最適な動き方をしっかりプランニングしていくことが有用なはずです。
さらにサービスは、最終的に広告コミュニケーションにつなげて大きくしていくものです。サービス開発のみを担当していると、広告コミュニーションまで一貫して考えられません。逆に広告コミュニケーションだけが専門だと、サービス開発やプロジェクト設計のことがわからない。しかし、博報堂のチームは両方とも一気通貫でやってきた、かつアウトプットの一つである広告コミュニケーションを熟知しているからこそ、的確なプロジェクト推進のお手伝いができるのです。
具体的には、定例会の取り仕切りを我々が一括してやります。定例会をセットして各回のアジェンダと各部門へのToDo出しをはじめ、我々からの提案を定例会にかけることもありますね。あるクライアントのケースでは、部門間の連絡がメールのみだったので、資料がどこに蓄積されているのかが不明だったりしました。そこでメールに代わるプロジェクト管理ツールの導入を提案しました。それで、全員が各回に何を話したのか、何が宿題になっているのか、資料はこれで、次回は何が必要なのか、といったポイントをすべて管理して共有できるようにしたのです。これを見れば自分が欠席した会も一目瞭然で内容を把握できます。自分が何をやるべきなのかもメンションされるし、プロジェクトのタスク管理もできるため、現時点のフェーズがすごくわかりやすくなりましたね。このケースでの特徴は、全員にオープンである点で、可能な限り、クローズで管理しないということがポイントですね。博報堂には、じつに様々な職種の人材が揃っていて、私自身はサービスのプランニングがメインですが、タスク管理や、いわゆるPMO (Project Management Office )の役割が得意なメンバーもいます。KPIを管理してデータ構造を作っていくことに長けている人材もいる。そんなスペシャリストたちを集結させてプロジェクトに臨めることも博報堂の強みであり、ここは他社にもなかなか真似ができないことだと思います。
また、私個人の視点で言えば、事業会社で経験を積んだことがとても大きいですね。相手側にどんなコンフリクトが起こるのかが、だいたいわかりますから。当時の職場で、部門間のコミュニケーションの難しさや板挟みの苦労も体感しているし、目先のKPI以外に目がいかなくなることも経験しました。ただ、前職で複数の部門を巻き込んで動かすことを経験してきたので、クライアントが陥りやすいポイントや不満をすべてキャッチアップできると思っています。それが私自身の強みになっていますね。博報堂では、サービスや事業開発だけでなく、いわゆる広告コミュニケーションの業務も経験してきました。クリエイティブ、メディア、戦略とすべて携わらせてもらえたので、博報堂の特徴である一気通貫性を自分の中でも実感でき、それも仕事に生かせています。サービスを作り、リリースすることがゴールではなく、グロースさせることがゴールなので、すべてを実感値としてクライアントに提案できることが、自分の強みではないでしょうか。

――では最後に、オウンドサービスを運用する上で、ご提言があればお聞かせください。

 自分がどの部門に所属し、どんな仕事をしているから、という考え方でサービスに関わろうとすると絶対にうまくいかないと思います。もちろん分業は必要なので、各分野のスペシャリストたちに仕事をお願いしながら連携して進めていくことも大切です。しかし、「自分の領域を乗り越えてサービスを推し進めていく」という人が1人でも増えることが望ましい。確かに、未知の領域に足を踏み入れるのはハードルが高いでしょう。私自身、知らないことを少しずつ勉強したり、人に助言をもらったりしながらやってきました。だから、「領域を超える」というマインドや行動指針をもって、仕事に臨むべきだと思います。我々が最後まで永久的に伴走することは無理かもしれない。サービスを運営する時、P/Lを考えると外注費が重く感じられてしまうこともあります。プロジェクトマネジメントや推進は、本来は事業会社が自前でやるべきだと私は思っています。初動は作るけど、基本的には事業会社側で実装できるようにしてほしい。本当は、我々が入って部門間のハブになり、サービスがスムーズに進行している状態がゴールではないんですね。あくまで事業会社側でしっかり管理できる環境や体制が作れることが理想です。だからこそ、そうなれるためのお手伝いを我々は全力でやりたいと思います。

――ありがとうございました。次回はシステム投資、環境構築の最適な考え方について担当者に聞いていきます。ご期待ください。

sending

この記事はいかがでしたか?

送信
  • 博報堂
    hakuhodo DXD
    マーケティングプラニングディレクター / サービスデザインディレクター
    2009年、通信教育事業会社にて、商品・サービス開発、CRMプランニングに加え、新規事業開発まで幅広く従事。
    2016年、博報堂入社。マーケティングプラニングディレクターとして、クライアントのブランド開発、マーケティング戦略立案、商品開発、統合コミュニケーション開発などに従事したのち現職。現在は、サービス開発やWeb・アプリ制作を中心に、中長期的な生活者接点づくりを支援している。