【連載 Creative technology lab beat Vol.1】 「クリエイティブ×テクノロジー」の力で生活者の心を動かす
博報堂DYグループの多様なテクノロジー人材とクリエイティブ人材が集結して、新しいクリエイティブワークの形づくりに取り組んでいる横断型組織「Creative technology lab beat」。テクノロジーの力でクリエイティブ業務を刷新し、これまでになかった広告表現を生み出すことを目指すこの組織の取り組みについて、チームリーダーの2人に語ってもらいました。
木下 陽介
博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
柴山 大
アイレップ 取締役CTO
博報堂テクノロジーズ 執行役員
生活者の心を「打つ」ためにテクノロジーを活用する
──Creative technology lab beatが発足したのは2022年の1月でした。あらためて、この組織の成り立ちとミッションについてご説明ください。
- 木下
- ご存知のように、運用型広告の市場は右肩上がりで成長していて、パフォーマンス型クリエイティブのニーズもどんどん増えています。たくさんのクリエイティブを短い時間でつくり、その効果を検証していくには、テクノロジーを活用して自動化できる業務をAI技術やテクノロジーの力を用いながら、優れた広告を生み出せる仕組みや体制をつくらなければなりません。それを目的に発足した博報堂DYグループの横断型組織がCreative technology lab beat(以下、beat)です。
beatは「クリエイティブ×テクノロジーを社会実装し、世の中を魅了する体験価値を提供する」というミッションを掲げています。一般に、テクノロジーを活用する主要な目的は効率化ですが、僕たちが目指しているのはたんなる効率化ではなく、クリエイティブにテクノロジーの力を掛け合わせることによって、人々の心を動かすことです。「beat」、つまり生活者の心を「打つ」ためにテクノロジーを上手に活用する。それが、僕たちが一番大切にしていることです。
- 柴山
- 従来のデジタル広告で重視されてきたのは、主にターゲティングでした。しかし、プライバシー保護の強化にともなって、これまでのようなターゲティングを行うことが難しくなりつつあります。ターゲティングのような「仕組み」だけではなく、広告クリエイティブの持つ「人の心を動かす力」によってマーケティング効果を上げていくことがあらためて求められている中で、広告クリエイティブを軸に博報堂DYグループの各社、各セクションのメンバーが集結したのがbeatです。
また、現在のデジタル広告は、生活者がデジタルデバイスに接触する時間が長くなっているために、一人の生活者が同じ広告を何度も目にするようになっているという課題があります。それによって広告クリエイティブの「賞味期限」がどんどん短くなっています。賞味期限が切れた広告を配信し続けても効果は薄れてしまうので、新しい広告クリエイティブを短期間で更新していかなければなりません。そのような課題を解決するのもbeatの役割であると考えています。
- 木下
- beatの注力領域は大きく3つに分けられます。
1つめが、テクノロジーに関わる基礎研究や応用研究の領域です。外部の学術組織などと連携しながら研究を進め、論文を出したり、学会で発表をしたりする活動がここに含まれます。2つめが、その研究成果をもとに具体的なプロダクトを開発する領域です。「審美眼とビジネスパフォーマンスを両立させる」というのがこの領域のコンセプトです。
そして3つめが、クリエイティブ業務のワークフロー改善です。テクノロジーを活用して業務を刷新し、クリエイティブのアイデアを生み出すことに使える時間を増やしたり、これまでにはなかった発想を生み出す支援をしたりするのが3つめの取り組みの目的です。
プロダクト開発の3つの領域
──プロダクト開発はどのように進めているのでしょうか。
- 木下
- プロダクト開発にも3つの領域があります。まず、パフォーマンス型広告のクリエイティブづくりを支援するプロダクト。それから、従来のテレビCMなどのクリエイティブにAIをはじめとするテクノロジーを活用するためのプロダクト。これを僕たちは「ブランデッド領域」と呼んでいます。そしてもう1つが、生成AIや3DCGといった先端テクノロジーを使ったプロダクトです。
beatのプロダクトが当面目指していることは、あるクリエイティブソースを多様な媒体で活用する際に、それぞれのメディアに適した形にアジャストする作業を可能な限り効率化、自動化することです。中長期的には、プロダクトを活用することによって、クリエイティブの新しい発想が生み出せるようになったり、生活者の潜在的なニーズをデータなどから読み取って広告プラニングの発想支援をサポートしたり、クリエイティブ企画のヒントとしたりすることを目指しています。
- 柴山
- パフォーマンス型広告のクリエイティブは、「効率化」を進めることによって質を「高度化」するというアプローチ方法があります。例えば、AIを活用して広告コピーを自動生成することによって、人間の力では不可能だった大量の広告コピー案を短時間で生み出すことが可能です。そこからよいものを選び、それをプロのコピーライターがブラッシュアップしていくことで、優れた広告コピーを世に出していくことができます。つまり、プロダクトを使った効率化の結果として高度化がもたらされるサイクルを作り出すことができるわけです。
一方、総合広告会社が得意領域としてきたブランディング型の広告クリエイティブにおいては、効率化よりも、「どうすれば生活者の心を動かすことができるか」という観点でプロダクトを活用していくことになります。さらにそこに先端技術を組み合わせることで、これまでになかった優れた表現を生み出すことができると私たちは考えています。
- 木下
- 加えて、先ほどお話したように、プロダクトを活用することによってクリエイティブ業務のワークフローを新しくし、クリエイティブ業務に携わるメンバーのクリエイティビティをより高めていく取り組みも進めています。
beatの活動が生活者とクライアントにもたらす価値とは
──beatの取り組みが生活者にもたらす価値とはどのようなものですか。
- 柴山
- 生活者が接するメディアには、それぞれに適した表現があります。例えば、縦型のリール動画を見るメディアに静止画の延長線上のような広告を出しても、生活者の心を捉えることはできません。必要なのは、生活者のメディア接触のモメントやマインドに対して最適な広告クリエイティブを制作することです。しかし、それを1つ1つ手作業で行うにはたいへんな時間とコストがかかります。私たちは、その最適化をテクノロジーによってアシストしようと考えています。生活者の立場に立てば、その時々の利用しているサービスマインドにぴったり合った広告クリエイティブが表示されるようになるので、広告を有用な情報として受け取る可能性が高くなるメリットがあると考えられます。「生活者発想」を掲げる広告会社グループとして、「広告を生活者にとって有益なものにする」という視点を絶対に忘れてはならないと思っています。
──クライアントに対してもたらされる価値にはどのようなものがあるでしょうか。
- 木下
- クリエイティブワークのスタイルが変わることが一番の価値だと思います。従来のワークスタイルから生まれていたクリエイティブ以上の訴求力や表現力をテクノロジーによって実現し、新しいユーザー層にメッセージを届けたり、従来の顧客をロイヤル化したりする。そんなクリエイティブを生み出すプロダクトをご提供していけるようにしていきたいと思っています。
また、一部のプロダクトでは、AI技術を駆使し、広告クリエイティブの効果を事前に予測する機能が組み込まれています。従来は、テスト出稿やABテストを繰り返しながら良い広告クリエイティブを模索していましたが、制作したクリエイティブをAI技術により、広告効果を予測し、評価の高いと予想される広告クリエイティブを出稿することで、より高速にPDCAを回すことができるようになっています。結果、広告予算を無駄なく効率的に消化できるというメリットを生んでいます。
- 柴山
- クライアントの価値と生活者の価値は一体的なものです。広告の本質的な機能は、クライアントの商品やサービスを多くの人たちに認知してもらい、購買してもらうことであり、広告会社の役割はそのための情報をデリバリーすることです。その情報の内容を優れたものにすることで、生活者は知りたいと思っていた情報やほしいと思える商品に出会うことができるし、クライアントは商品やサービスをそれを必要とする生活者に届けることができます。その基本的で本質的な広告の機能をテクノロジーによってクリエイティブ強化すること。それが、beatが生み出す価値と言えると思います。
──すでにリリースされているプロダクトにはどのようなものがあるのですか。
- 木下
- 「H-AI SEARCH」「H-AI MOVIE RESIZER」「H-AI EYE TRACKER」「H-AI UpRes」「H-AI TD GENERATOR」の5つです。このうちのいくつかはすでに社内での利用が進んでいて、それにともなってクリエイティブのワークスタイルも変化してきています。
- 柴山
- これ以外にも、開発中のプロダクトは数多くあります。とはいえ、プロダクトの種類をいたずらに増やしていくことが目的ではありません。広告会社がクライアントに提供する最終成果物はあくまでも広告クリエイティブです。その広告クリエイティブの質を高めていくために必要なプロダクトは何か。そんな視点をもって開発に取り組んでいます。
- 木下
- 現在のクリエイティブの種類は、動画、画像、テキスト、3DCGの4つが軸となっています。それらを、パフォーマンスクリエイティブ、ブランデッドクリエイティブ、先端クリエイティブのそれぞれの領域で生み出していくためのプロダクトを開発し、さらにそのプロダクトを使って新しい業務システムをつくる取り組みを今後も進めていきたいと思っています。技術は日進月歩で進化していますから、すでに開発したプロダクトのバージョンも上げていきながら、クライアントに提供できる価値を高めていきたいですね。
多様な専門人材がワクワクして働ける環境を
──beatの組織体制についてもご説明ください。
- 木下
- 博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター、アイレップ、negocia、DAC(デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム)、博報堂テクノロジーズなどから計80名ほどのメンバーが参加し、要素技術の研究チーム、プロダクトサービスの開発チーム、プロダクトを用いた業務オペレーション支援チーム、の大きく3チームを構成しています。それぞれのメンバーが本属の組織で働きながら、テーマごとに横の連携をつくる。それがbeatの基本的なスタイルです。同じグループとはいえ、それぞれカルチャーや働き方は異なります。個性豊かな多様性を維持しながら、お互いに刺激し合うことを重視しています。
- 柴山
- クライアントから業務を依頼いただく場合、例えば、博報堂を窓口にするのとアイレップを窓口にするのでは、クライアントの期待値も、依頼内容も、業務プロセスも異なります。ですので、汎用的なプロダクトがあっても、最適化の方法などは個社ごとに異なってきます。それぞれの会社や部門の得意領域や個性を活かしながら、beatの傘の下で共通化できるところを見極めて、グループとしての全体最適を目指していきたいと考えています。
──beat内での人材交流も進んでいるのですか。
- 木下
- 会社や部門を超えて情報を共有する仕組みづくりが進んでいます。データサイエンティストやエンジニアは慢性的に不足していますから、採用活動に力を入れながら、beatという枠の中でテクノロジー人材が柔軟に動ける形をつくっていきたいですね。
- 柴山
- メンバーの側から見れば、beatができたことによって、活躍できるポテンシャルの幅が非常に広がったと言えると思います。この組織にはさまざまな専門性をもった人たちが集まっているので、興味範囲を広げることができますし、自分の専門性をこれまで携わってこなかった領域で活かすことも可能です。
──これからの見通しを最後にお聞かせください。
- 木下
- テクノロジーを効率化だけではなくクリエイティブにいかしていくというbeatのコンセプトをポジティブに捉えているメンバーが多いと感じます。さまざまな専門性を持った人たちがワクワクしながら働ける環境も生まれつつあります。この環境をさらに充実させていきたいと思っています。
- 柴山
- 広告クリエイティブとは、その時代の空気を吸収してアウトプットをつくるミッションであり、時代を表現するミッションであると私は捉えています。そのようなやりがいのあるミッションにテクノロジー人材が関われる機会はこれまであまり多くありませんでした。その機会を創出しているところにbeatの大きな意義があると思います。現在のメンバーやこれから新しく入ってくるメンバーと「クリエイティブ×テクノロジー」の面白さを共有しながら、優れた広告クリエイティブを世に出していきたいですね。
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博報堂DYホールディングス
マーケティング・テクノロジー・センター 室長代理
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アイレップ 取締役CTO
博報堂テクノロジーズ 執行役員