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注目すべきASEANデジタル市場のDX最新情報【Media Innovation Labレポート.30】
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注目すべきASEANデジタル市場のDX最新情報【Media Innovation Labレポート.30】

近年成長著しいASEAN地域。コロナ禍の影響もあり、2020年にECリテールGMV(流通取引総額)が急伸、以来2桁成長を続けており、2025年には2340億米ドル規模に達する見込みとされています。タイを拠点にグローバルビジネスを推進しているデジタル・アドバタイジング・コンソーシアム グローバルビジネス本部長の菅沼道彦と、2012年にASEAN各国拠点の立ち上げに携わり、現在は日本からASEAN事業を支援している同グローバルビジネス本部 アライアンス事業局 局長の和泉美那に、ASEAN市場のDXの実態と最新情報についてナレッジイノベーション局兼Media Innovation Labの田代奈美が聞いていきます。

■若年層人口が急増し成長著しいASEAN市場

田代
日本にとって非常に身近なASEAN市場ですが、80年代は日本企業の生産拠点として、やがて消費マーケットとして、さらにイノベーション創出の拠点として注目されるなど、その捉えられ方は時代とともに変遷してきました。そのような中、DACは2012年にASEAN地域に進出。市場の伸長に合わせて、デジタル周辺ビジネスを軸にプレゼンスを築いてきています。外務省によると、ASEANに進出している日系企業の数はインドネシアが約4700社、タイは約5800社で、特にタイは人口増加率も高く注目を集めています。まずはASEAN市場の概要から教えていただけますか。
菅沼
ASEANを構成するのは、インドネシア、カンボジア、シンガポール、タイ、フィリピン、ブルネイ、ベトナム、マレーシア、ミャンマー、ラオスの10カ国です。DACはグループとして、タイ、インドネシア、ベトナム、シンガポール、ベトナムにフォーカスして事業展開しています。

これらの国々の人口がトータルで約6億人、GDPは2兆ドルです。GDP成長率は年間平均5.1%で、日本の1.6%と比べると相当早いペースで市場が拡大していることがわかります。
新たなテクノロジーはリスクよりも大きな機会をもたらすと考える人の割合を示す”技術への楽観度”に関する調査では、日本が 44%であるのに対し、インド 79%、フィリピン 74%、シンガポール 62%と、日本に比べ ASEAN の国々ではテクノロジーに対するスタンスがオープンであることがわかっています。さらにコアになる世代が30代で、デジタルネイティブが圧倒的に多い市場でもある。私たちはこの成長とデジタルの掛け算に注目しているところです。デジタル人口についてもう少し詳しく見ると、過去3年間に約1億人の新しいインターネットユーザーが生まれています。国によって人口の規模は異なりますが、総じてデジタルネイティブの方々がアクティブにデジタル上で活動しており、通信環境も都市部を中心にほぼ日本と同レベルで整備されています。さらに、全体の8割くらいがパソコンではなくモバイルを介してインターネットを利用しており、1日のアクセス時間も日本は1.4時間に対し、タイなど5.2時間と長時間に及んでいます。

田代
ASEANで、30代を中心にこれほどモバイルが利用されているということに驚かされます。フィリピンで多くの人がPlay to Earn型のNFTゲームで収入を得ている話が少し前に話題になりましたが、今おっしゃったような環境が大いに作用しているわけですね。
菅沼
そうですね。GDPの成長とインターネット環境の変化により、生活者の消費の質が先進国型に変わってきているという特徴があります。たとえば自動車や家電といった耐久消費財が中間層にも売れ始めていて、インターネット広告市場の伸びにつながっています。そこに、若年層人口が爆発的に増えていて、彼らがそのままインターネットユーザーになっていっている。ポテンシャルが高い状態で、今まさに私達が投資をしているところです。
田代
ASEANの生活者はどのようなサービスをモバイルで利用しているのですか?
和泉
Whatsapp、Facebook Messanger、LINE、Zaroなどコミュニケーションを目的としたメッセージングアプリや、コンテンツ消費としてYouTube、Instagram、TikTokなどのソーシャルプラットフォームの活用など日本と同様のサービスを活用しています。アプリを通じた購買行動も活発ですが、活用しているECフォームが日本と異なっていますね。
EC市場はコロナ禍を経て世界的に拡大していますが、ASEANも例外ではありません。各国の人口が異なるため流通額にも大きな違いがありますが、Google e-Conomy SEAでも紹介されているように、デジタルエコノミー市場は2023年には2000億ドルを捉える見通しで、20%以上の成長を見込んでいます。

私がシンガポール駐在をしていた2012年頃は、Redmartなどのネットスーパーが台頭し始めたころで、リアルでの買い物が主流でしたが、2020年に入る前頃から各国でインターネット環境が整備され、EC市場が急速に成長しました。現在は、ShopeeやLazadaなど、インドネシア、マレーシア、フィリピン、シンガポール、タイ、ベトナムといったASEAN地域をカバーするECプラットフォームが台頭していたり、インドネシアではTokopediaなど各国内でプレゼンスがあるECプラットフォームも出てきていたりします。タイではLazadaで電気代を払うなどもできますので、日本で電子決済での支払いができるようになり選択肢が広がってきているように、ASEANでも利便性が高まっています。

田代
そうしたプラットフォームを、ほとんどのユーザーがモバイル経由で利用しているわけですね?
和泉
はい、冒頭でもお伝えしたモバイルでの利用時間は日本に比べて圧倒的に長いです。タイではネットのアクセス時間が5時間と、日本と同様、コロナ禍においては家の中での利用が多かったようですが、現状では仕事の休憩時間や帰宅途中などにスマホから買い物をしているケースが多いようです。交通網が発達していて国土が狭いシンガポールでは通勤時間がそれほどかからなかったり、バイク通勤が多いベトナムでは、その時間のEC利用ができないなど国によって異なる事情はあるものの、モバイル経由でのEC利用が圧倒的だというのは確かです。
田代
国による違いは面白いですね。生活者の消費行動については、日本と比べてどのような特徴がありますか?
和泉
日本の場合、長年かけて少しずつインターネット環境が整っていったこともあり、若い世代は検索してオンラインで購入するのが当たり前な一方、高齢世代は通販のカタログを見て購入する方が多いといった、世代による消費行動に違いがあります。ところがASEANでは、近年になって垂直立ち上げ的に一気にデジタルサービスがスタートしたため、Eコマースがすでに確立された状態で世代を問わず多くの人が初めてネットに触れています。そのためデジタル上で買い物をするという行為も、短期間のうちに人々の生活に浸透している印象です。ただ、買ったものがきちんと届くというロジスティックの面では、日本に比べるとまだまだ課題が多い状況かもしれません。

■欠かせないのは国ごとに異なる言語や文化特性を理解すること

田代
プラニングするにあたり、どういった日本との違いを感じますか。
和泉
ASEANと日本ではECの主要プレイヤーがまったく異なっていて、個別のプラットフォームの特性をきちんと理解する必要があります。
Shopeeをはじめとする大型プレイヤーが、さまざまな文化がひしめくASEANのカルチャーに順応して一気に立ち上がっていて、その成り立ちからして日本のプレイヤーとは異なります。たとえばコロナ禍では、生鮮食品のECの取り扱いが一気にスタートしましたが、ラストワンマイルの物流に課題があり、一旦立ち消えました。ところがここ最近また流行の兆しを見せ始めていて、変化が激しいと感じます。そうしたトレンドに沿ってプラニングや提案をしていく必要がありますね。
田代
人口が多いという特徴もありますよね。ASEANの人口の約25%にあたると推計されている
1億6400万人のZ世代の人たちがどうモバイルを使っていて、そこをどうマーケティングで攻略するかがポイントになりますよね
和泉
日本はiOSのシェアが高いですが、ASEANではAndroidが多いです。通信費用をあまりかけたくないので月額パッケージのサービスを更新しながら買う、フリーWiFiのある場所まで移動してそこからアクセスする人が多いというのも、日本とは異なる特徴です。またソーシャルコマースが隆盛で、ソーシャル上でのお金のやり取りが盛んに行われています。
田代
ソーシャルコマースについて具体例を絡めてもう少し教えてください。
和泉
YouTube、Instagram、TikTokなどのソーシャルプラットフォームを通じて、コンテンツ消費の延長で、商品を購入するという行動はASEAN各国でもみられます。たとえば、気に入ったインフルエンサーのInstagramアカウントをフォローして、紹介している商品をすぐ買ってみたり、ライブ配信での商品紹介を見ながら購入してみたりという行動は見られると思います。日本では特にZ世代がハイライトされていますが、タイでは若者に限らず、すべての世代に当てはまっていると思います。タイ拠点の現地メンバーも、特にスキンケアや美容用品に関してはインフルエンサーの情報をベースに購買をしています。
また、2022年度大きくASEANで伸長したのがTikTokです。今期ASEAN全体でユーザー数を大きく伸ばしていて、存在感を増しています。短い時間で一気にコンテンツ消費できるという点で支持を得ているだけでなく、日本よりも英語コンテンツの消費が浸透しているからか、さまざまな国から発信されたコンテンツを楽しめて、非常に相性が良いですね。多くのプラットフォームが、コマースで売り上げを拡大していくことを事業の1つとして戦略にしていますが、TikTokでも最近、TikTokショップというTikTok内で商品の販売や購入が行えるようになる機能が開始されました。まず米国のみでローンチしていましたが、ASEANではインドネシアが先行してスタートをしました。日本でもライブコマースが注目を浴びていると思いますが、ASEANでもショッパーテイメントの動きが盛んになってきていて、TikTokショップもその流れに乗る形でさらにユーザーとのエンゲージメントを増やしていくのではないかと思います。
田代
ありがとうございます。TikTokはグローバルでもそのプレゼンスを大きく拡大させていますが、あくまでもコンテンツを楽しむプラットフォームとして利用されている日本と異なり、ASEANではその少し先をいっている感じですね。ほかに注目しているECプレイヤーはいますか。
田代
ASEANは一括りにとらえてしまいがちですが、文化も言語も大きく異なるところは重要なポイントですね。中国のWeChatに代表されるような“スーパーアプリ”として、Grabの名を日本でも耳にします。実際の利用状況はいかがですか。
和泉
Grabが展開しているのは現在8か国、400都市以上となります。Grabは配車アプリから始まったサービスで、そこにEコマース機能を持たせ、さまざまな流通にサービスを拡大させていっています。コロナ禍の後押しもあり、特にデリバリーサービスが急速に成長しているところです。また現在、スーパーと連携して、店内で購入した商品を自宅に届けてくれるサービスの展開が特に注目を集めています。博報堂DYホールディングスはGrabAdsと戦略的パートナーシップを結んでいますが、移動や日常的な買い物の手段などすべての生活圏を押さえられるプラットフォームでもありますから、マーケティングのタッチポイントとして、利用者の急拡大に応じた広告事業強化を進めているところです。彼ら自身のことをe-Walletとも呼んでいますが、あらゆるサービスがGrab内で完結しています。一方で、インドネシアではGojekという配車アプリも台頭しています。バイクや車の配車はもちろん、デリバリーも手掛けていましたが、昨年大手ECのTokopediaと合併し規模が急拡大しました。このように、よりリテールの領域は伸びていくように感じています。

田代
日本では多くのケースで、まだ「どのスクリーンでどのコンテンツを見てもらうか」という点に注力している印象ですが、人が集まった後いかにコマースをつなげていくかという点において、ASEANの方が非常に積極的に取り組まれているようですね。
和泉
はい、そうですね。冒頭にも少し触れましたが、デジタルに対する捉え方がとてもポジティブなASEANにおいて、リープフロッグ型発展になるようなサービスがどんどん出てくるのではないかと思います。例えば、メタバーズに関してもBondee (ボンディー)というシンガポール発の企業が提供するメタバーズSNSが日本でも注目を浴び始めていますが、まさにこのような最先端技術の導入により一気に発展するようなサービスがASEAN発で益々出てくると面白いと思っています。また、ASEANと一括りにしてしまいがちですが、国ごとに言語が違います。宗教も文化も違う。そのため、国ごとに適用することが重要です。

■ダイナミックな変化の進むASEANのEC市場で日本企業をサポートする

田代
そうしたメディア環境をふまえて、日本企業が進出する際に気を付けるべき点などはありますか。
和泉
ASEANを構成する国々の言語や文化の違いを知っておくべきです。同じ方式で横展開すればいいということはなく、国ごとの調整が必ず必要になってきますから、まずはテストマーケティングを行い、どの国でどんな商品がどういった消費者に売れるかというのをしっかりと見ていくこと。円安の流れもあり、まず越境ECという形でスタートし、その後国を定めて進出していく企業様が実際に増えている印象です。ただ、ひとつの商品を複数のEコマースから販売し売り上げを上げていくにはかなりの体力が必要ですから、パートナー選定が大きなカギとなってきます。その点私達DACは、さまざまなマーケットプレイスとつながるパートナー企業と連携し、フルフィルメントを含めたワンパッケージの形で、さまざまなモールで一気に販売できるソリューションを提供しています。ワンストップ、かつすべてのEコマースに最適化をかけられるという点で、お客様からはかなりの高評価をいただいています。
田代
DACではEC総合管理プラットフォームのSell in ALLと連携し、2022年8月にはASEAN全体を統合してマーケティングを展開するという戦略ネットワークを立ち上げられましたよね。詳しく教えていただけますか。
菅沼
DACは、13カ国43のECモールと接続されているSell in ALLと連携することで、ECサイト制作からECデータ活用、フルフィルメントを含めたサービス提供をスタートさせています。また、ECやCRMに博報堂DYグループ全体で取り組むために、新たに「H+(Hプラス)」という戦略ネットワークを発足しました。デジタルマーケティングのケイパビリティを強化し、広告、オウンド、CRMをすべて一気通貫で対応できるサービスをつくるべく、DXを推進させているところです。購買データや広告データ、CRMのデータ、ソーシャルアカウントのデータなどあらゆるデータを統合したプランニングを行ううえで、Sell in ALLとの連携も非常に大きな強みになると考えています。

実際、広告会社としてEC領域でプラスのバリューを出すにはかなりの難しさが伴いますから、まず我々は、コマースのデータと広告のデータを相関で見ながら、どういう広告施策を行えば購買に寄与するのか、DACの強みであるマーケティングの視点から深く分析提供するところから取り組みを始めているところです。他社と異なり、かなり深度のある生活者理解をベースにしたアプローチが可能ですし、パートナーとの連携によって実際のエグゼキューションまでを確実に実現させることができます。

円安もあり、現在は日本製品を海外展開するには完全に追い風の状態です。たとえば訪日外国人が日本で買って気に入ったものを、自国に戻ってからリピート購入するといった動きもある。そこをとらえるべく、現在日本から海外にプロモーションできるチームを補強しているところです。地場のEC事業に我々の海外拠点が貢献していくようなサイクルが生まれると理想的ですね。日本企業にとって役立つ体制、プランニングのフレームづくりに「H+」で取り組んでいるところなので、企業がASEANエリアを強化させる際の選択肢として、ぜひ知っていただきたいです。

https://www.hplus.digital/

田代
ありがとうございました。
最後にASEAN市場の可能性について、一言ずつお願いします。
菅沼
日本とASEAN諸国は重要なビジネス・パートナーです。ASEANの国々はルックイースト的な視点を持っていて、欧米よりもむしろ日本に対して好意的な印象です。しかも市場としても非常にポテンシャルが高い。日本企業が海外展開する際、まずはASEANから参入するというのは非常に理にかなっていると思います。博報堂DYメディアパートナーズ、DACも投資をしながら、地場で頑張っているところです。今では当社グループにグローバル人材は約900名が在籍しており、現地の最先端の情報をいち早く活用し、企業の海外におけるデジタルマーケティングを支援しています。長年の経験から多種多様な案件の実績があり、経験がノウハウとして蓄積されています。1社でも多くの企業と世界とを繋ぐ架け橋となるべく、お客様に最適なソリューションを一貫して提供していければと思っております。
和泉
一番面白いと思うのは、変化の早さです。先日、駐在帰任後初めてシンガポールやベトナムに行くことがあったのですが、生活が豊かになるスピードが本当に速いと感じました。ベトナムでは、かつて道路ではバイクが圧倒的だったのが、自動車が増えていて驚きました。日本にいるとなかなか体感できないそうした変化のスピードを感じることができ、「次はまた新しい変化があるんだろうな」というわくわく感、高揚感がある地域です。その特徴を熟知する人たちと仕事ができる、選んでいただけるパートナーに、私達グループがなれるといいなと思っています。
田代
変化の激しい非常にダイナミックなエリアで、一緒にチャレンジをしていける市場に我々は投資をし、まさに参入しようとしているわけですね。これからの動きにも期待が高まります。今日はありがとうございました!

※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとデジタル・アドバタイジング・コンソーシアムが、日本、深圳、シリコンバレーを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。

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  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
    執行役員 グローバルビジネス本部 本部長 兼 アジアDX戦略局 局長
    メーカーの海外部門を経て2006年DAC入社。世界中の最先端アドテク/マーケティングテクノロジー企業の中から、HDYグループ事業強化となるアライアンス事業を推進し、2015年に執行役員に就任しグローバルビジネス本部の立ち上げ、以降同本部の本部長として国内外でグローバルビジネスに関わる事業を牽引。昨年H+を立ち上げ、博報堂と一体運営にてアジアでのDX推進を牽引中。
  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
    グローバルビジネス本部 アライアンス事業局 局長 兼 アジアDX戦略局 ディレクター
    2006年DAC入社。HDY担当企画営業を経て、グローバルメディアプランナー、プロダクト開発を経験し、2012年シンガポール拠点立ち上げのため駐在開始。帰任後グローバルビジネス本部にて、クロスボーダービジネスの立ち上げやグローバルプラットフォーマーや海外テック企業とのアライアンスを推進中。
  • 博報堂DYメディアパートナーズ ナレッジイノベーション局メディアインテリジェンスグループGM兼Media Innovation Lab
    博報堂入社。テレビ局、メディアマーケティング局、博報堂香港、メディアビジネス開発センターなどを経て2019年よりメディアやテクノロジーのグローバルトレンドを研究。