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SNSの「幸せ」投稿に現れる国民性――日米印泰 4カ国AI分析【デジノグラフィ・トーク vol.21】
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SNSの「幸せ」投稿に現れる国民性――日米印泰 4カ国AI分析【デジノグラフィ・トーク vol.21】

博報堂生活総合研究所が提唱する、デジタル上のビッグデータをエスノグラフィ(行動観察)の視点で分析する手法「デジノグラフィ」。
今回は、博報堂コンサルティング・アジア・パシフィックの堀場久美子が、デジノグラフィの手法で「幸せ」の形のグローバル比較を行いました。コロナ禍を経て、各国の「幸福観」はどのように変化したのかをご紹介します。

◆AIモデルがデータに「文化的な意味づけ」を行う

今回、博報堂コンサルティング・アジア・パシフィックではAIを活用したビッグデータ分析によって、「幸せ」の形が各国でどう違うのかを比較しました。
具体的には「QUILT AI」(以下QUILT)というプラットフォームを利用しているのですが、まずはこのQUILTがどういうものなのか、簡単にご説明します。

QUILTはひとことで言うと、AIを活用したビックデータ解析プラットフォームです。特に、「Cultural AI」を組み込んで、SNSに投稿された生声や画像などのビッグデータから文化的な意味を解読できる点に特徴があります。

一般的に、AIに画像解析をさせると、そこに写っているモノを特定できます。一方、Cultural AIはそこからさらに一歩踏み込んで、あるモノが写っていたとき、それがどのような意味を持つのかを文化的に解釈できる点に特徴があります

Cultural AIは膨大な学習データにもとづいて、たとえばある画像に大人と子どもが写っていたら「家族」であるとか、燦々と照りつける太陽と海が映っていたら「リゾート」であるとか、そういったことを瞬時に判別してタグ付けしていきます。そのうえで、その画像に投影されている感情が「楽しい」とか「孤独である」といった意味づけを解読することができるのです。

こうした意味づけの作業を、イメージについてもテキストについても行えるのがQUILTの特徴です。

◆Twitterの投稿を「体験」で分類

今回は日本、アメリカ、インド、タイの4国における、「幸せ」について言及しているTwitter投稿を分析の対象としました。Twitterの投稿は生活者の日々の出来事を投影したものであるという観点から、投稿に含まれるテキストや画像を分析することで、「人が幸福を感じる経験」が見えてくるのではないか、というのが分析の狙いでした。
さらに、コロナ禍以前、以後の投稿を比較することで、「幸せ」の形がコロナ禍によってどのように変わったのかも分析しています。

具体的なアプローチとしては、まず各国のTwitter利用者のうち、過去に「ハッピー(happy)」「ハピネス(happiness)」などの単語を含む投稿したことがある人を特定します。
特定した人々が、コロナ以前の2019年、コロナ禍真っ只中の2021年、やや落ち着いてきた2022年――という3つのタイムポイントで投稿した、「ハッピー(happy)」などの単語を含む投稿をピックアップし、比較を行いました。

画像については後述するとして、ここではテキストの比較分析について説明します。
まず、Twitterに投稿されている日常体験をざっと分類し、Twitter上で表現される30種の代表的な体験(30“everyday experience”)を機械学習によって抽出しました。この30種の体験はTwitter上の独自の使い方や意味を精査するために、定性調査インタビューを踏まえて内容の精緻化を行った上でモデル化されているので、Twitter独自の文化やニュアンスを捉えるラベルとなっています。

たとえば「We Stan」というラベルは、日本語では「推し活」に相当する表現ですが、お気に入りのセレブやブランドなどに対する熱烈な賞賛やサポートなどを指します。
「Celebrating Special Event」は分かりやすくて、誕生日や結婚式、卒業などの記念日をお祝いすること。「Light Relief」というのは、日本で言うところの「笑笑(わらわら)」みたいな、ストレス解消に息抜き的に投稿されるちょっと嘲笑的なユーモアのある投稿のことを示します。

このような体験に関する30種のラベルで、各国の「ハッピー/ハピネス」というキーワードを含む投稿を分類することで、「幸せ」の傾向を国別に見ていこうというのが今回のコンセプトです。

◆「オタ活」がハッピーの源になる日本

30種のラベルのうち、各国の特徴が現れた10種を抜粋したのがこちらのグラフです。
まずは日本から見てみましょう。全期間を通じて、日本では「Watching Together」というラベルが「幸せ」と大きく結びついているのが特徴です。

「Watching Together」というのは、アニメやドラマをテレビや動画サイトを見るといった、インドアなファンダム(熱狂的なファン集団)活動を指します。他の国と比較するとわかりやすいのですが、幸せの形が自宅で完結しているような形がコロナ禍の日本の傾向と言えるでしょう。
Twitterでは、テレビでスタジオジブリアニメが放映されたり、朝ドラで衝撃的な展開が起きたりするたびに書き込みが大いに盛り上がりますが、特に2021年には、こうしたSNS上の連帯感に幸せを感じる人が多かったのではないでしょうか。

もっとも、時系列で見れば、2022年になるとコロナ禍での行動制限などが緩和された影響からか、「Watching Together」関連の投稿の割合は減っています。それでもほかの国々と比べれば多いのですが、2021年と比べれば半分以下です。

代わりに増えているのが「Foodie Adventure」つまり食の探求です。2022年前半は、それまでステイホームが長く続いたぶん、「外に出る」ことに幸せを感じる人が多かったことが見て取れます。
また、前出の推し活=「We Stan」も増加。「Watching Together」と「We Stan」は、いずれもファンダム活動ですが、後者のほうがよりアクティブに、ライブやイベント等に参加していることが分かります。このような同じ推し活でも、自宅なのかライブ会場なのかをテキスト文脈から判定できるようになっているのが今のAIの精度であると言えます。

◆「社会問題」をめぐるアメリカの本音

続いて、アメリカの投稿の特徴を見てみましょう。アメリカでは全期間を通じて、「Celebrating Special Event」つまり記念日のお祝い事が、最も幸福と強く結びついているという傾向が見られます。家族を大切にするカルチャーが垣間見える結果です。

ただ、2019年には「ハッピー/ハピネス」関連の投稿の40%にこのラベルが付いていたのが、2022年になると25%まで減っています。アメリカでは2022年1月に過去最大の新型コロナ感染者数を記録しました。この時期にはお祝いのイベントも減っていたことがわかります。

反対に、この時期に増えたのが「Animal Cuddles」つまりペットや動物への愛情や、彼らと過ごす時間への感謝をつづった投稿です。併せて、料理をしたり、運動をしたりといった日々の平凡な活動に関する「Everyday Life」の投稿も増えています。
コロナ禍が再燃する中で、何気ない日常に改めて感謝の気持ちを抱く人が多かったのだと思います。

30種類のラベルの中には「Celebrate Diversity(多様性を讃える)」というものもあります。アメリカだと、この項目に対してハッピーを感じる人が多いのではないかという印象を持つ方もいるかと思いますが、今回の分析上、値は高くありません。個人的に感じるのは、アメリカの投稿はものすごくパーソナルだということで、基本的には自分自身や自分の身の回りの投稿が多い印象です。
Twitterというプラットフォームの特徴なのかもしれませんが、社会問題に対して意見を求められれば、ポリティカルコレクトネスを気にして多様性を支持するような発言もしますが、自分事として積極的に発信する人は少ないのではないでしょうか。アメリカ社会の本音が垣間見えるようで興味深いですね。

◆コロナの前後で幸福観が変わらないインド

アメリカとある意味で対照的なのがインドです。インドの人々も家族を大事にするので、「Celebrating Special Event」つまり記念日のお祝いに幸せを感じる傾向があるのはアメリカと同様です。インドで更に特徴的なのは「Truth to Power」つまり、社会的不公正などに立ち向かって発言していくことが幸せにつながるという感覚です。これは、Twitter上では「ハッピーな社会をつくるために○○」とか、「一人一人にハッピーになる権利があるので自分は○○を支持する」といった投稿に表れます。

また、アメリカでは目立たなかった「多様性の賞賛=Celebrate Diversity」にタグ付けされる投稿が多く見られます。多民族、多宗教、多言語のインド社会では、多くの人が「多様性」を自分事として捉えていることが見て取れます。

インドについてもうひとつ興味深いのは、コロナ禍以前、以後で「ハッピー/ハピネス」に連動する投稿の傾向にほとんど違いがないことです。インドは世界でも最もコロナ被害の大きかった国のひとつ(死者数は世界3位)なのに、ある意味では「コロナの影響を受けていない」のです。このようなところにインド人の何事にも動じない強さや底力のようなものを垣間見えるような気がするのです。

◆ハッピーを他人に「おすそわけ」するタイ

最後にタイの分析結果を見てみましょう。タイの傾向で目を引くのは、「I Needed That」という文化です。

「I Needed That」がラベル付けされる投稿というのは、「月曜日のモチベーションを高めてくれる」投稿と説明しているのですが、新しい週を迎えるにあたって「今週もハッピーに頑張ろう」とメッセージを送るような感じでしょうか。「笑っていれば毎日がハッピー」みたいなポジティブ投稿もそうですね。これは、自分で自分をモチベートしているだけではなくて、他人が「I Needed That=その言葉を求めていた」と感じるようなメッセージを積極的に発信していくのが、タイの人々の特徴でもあるようです。

もともと他者との調和を重視する文化なので、自分がポジティブな姿勢を保ち、周りの人もハッピーにしようする感覚があるのだと思います。さすが「微笑みの国」といったところでしょうか。

この傾向はもともと強かったのですが、2022年になって、「I Needed That」にタグ付けされる投稿の割合は前年の倍以上に増えました。コロナ禍からの復興期に入って、改めてみんなで前向きに頑張ろうという気運が高まっているのでしょう。

◆画像を分類することで見えてくる

最後に、投稿に紐づいている画像の分析結果も見てみましょう。画像の場合は4カ国で投稿された画像を10種のクラスターに分類し、各国の画像でその比率を見てみました。

日本では、やはりファンダム活動が中心です。時系列で見ると、特に2021年に盛り上がったという傾向が見られます。二次創作や動画配信など、自ら発信者となってファンダム活動を楽しむ人が増えたということでしょう。
また、2022年に入ると空や植物などの自然や食べ物、あるいは周囲の人との幸せな瞬間を写した画像が増加傾向にあるようです。

他の国についても見てみましょう。タイでは、BTSを筆頭にK-POPがたいへん盛り上がっていますが、漫画やアニメも人気が高く、バンコクには日系のアニメ専門店が進出しています。そのため投稿内容もファンダムに関する画像の比率が日本に次いで多い傾向があります。ややニッチなジャンルで言うと、タイ発のBL(ボーイズラブ)ドラマは日本に逆輸入されて、雑誌で特集が組まれたりもしていますね。

アメリカではテキスト分析と同様、「カジュアルなお祝い」に関するイメージ投稿が多いですね。誕生日や結婚式はもちろん、母の日やイースターなどの年中行事をきちんとお祝いして楽しむことがハッピーにつながっているようです。

インドは明らかに、他の国とは趣が異なり、圧倒的に「宗教・政治的なイベント」が多いのが特徴です。
テキスト解析でもわかったように、宗教や政治への意識や関心が高くTwitterで政治的・社会的なニュースを積極的に共有し合うことはインドの特徴ですね。福利や生活水準の向上による幸せを共に追求していく感覚です。

このように、Twitterの投稿内容を分析することで、「幸せ」のような抽象的な概念についても、国ごとの特徴、国民性が大きく反映されることがわかりました。あらためて、AIによるビッグデータ分析を異文化理解に活用する可能性が見えたように思います。

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  • 博報堂コンサルティング・アジア・パシフィック
    シニアディレクター/ Head of Market Intelligence
    早稲田大学卒業後、音楽事業会社を経て、日系シンクタンクにてマクロ環境分析、事業需要予測、消費者インサイトに従事。2009年外資系ブランド調査会社日本、シンガポールオフィスにて、消費者インサイト、グローバルブランドエクイティスタディ等。2018年博報堂コンサルティング・アジア・パシフィックに入社し、未来洞察、AIを活用した消費者デジタルエスノグラフィ、グローバルブランドのブランド・マーケティング戦略支援。IFTF (Institute For The Future) 認定 Futurist。