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DXの先を目指して ―生活者インターフェース市場を、企業の成長フィールドに【生活者インターフェース市場フォーラム2021レポート】
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DXの先を目指して ―生活者インターフェース市場を、企業の成長フィールドに【生活者インターフェース市場フォーラム2021レポート】

デジタルトランスフォーメーション(DX)という言葉が、日々叫ばれている中、企業は「デジタル化するだけでは価値が生まれない」ことに気付き始めています。いま問われているのは「DXの先に何をつくれるか」ではないでしょうか。その問いに応えるべく、博報堂が実現しようとしていることとは――。本稿では、先日行った「生活者インターフェース市場フォーラム2021 DXの先を目指して―データ×テクノロジー×クリエイティビティが切り拓くブランドの可能性」における代表取締役社長・水島正幸によるオープニングの内容をご紹介します。


予想を超えたスピードで拡大・成長する生活者インターフェース市場

コロナの新規感染者数はこのところ大きく減少し、街にも少しずつ活気が戻りつつあります。一方で、コロナ以前と比べて私たちの暮らしのありようは大きく変わりました。デジタル化はこのコロナ禍で一気に加速しました。たとえばオンライン会議システムは、オフィスのあり方を変えただけではなく、多様な働き方を社会が認めるきっかけをつくりました。便利な食事宅配サービスの普及は、家事のあり方を変えただけでなく、余暇を楽しむ時間を増やしました。コロナは技術進化のスピードを上げただけでなく、生活革新までもたらしたのです。今後、コロナが収束に向かっていっても、私たちの身の回りのあらゆるところでデジタル化が加速していく限り生活革新は続いていきます。あらゆるものがデジタル化され、ネットワーク化されていく「オールデジタル化」、「生活のデジタル化」が進むということは、生活者との接点が変わるということです。ネットワークにつながったものと生活者との間には情報のやりとりが生まれるようになり、単なる接点から、相互に情報をやり取りするインターフェースに進化していくのです。

もう少し詳しくご説明しますと、モノ、デバイス、店舗、メディアなどのインターフェース化が進むと、データを通じて生活者一人ひとりの生活課題や家族の課題、その背景にある社会課題など、生活者の「ニーズ把握」ができるようになります。そして企業はその生活者のニーズに最適化したサービスを提供できるようになります。つまり、モノのインターフェース化が進んでいくと、企業と生活者の間で起きる情報のやり取りを通じ、価値創造、価値の提供が可能になるのです。それは、企業と生活者との関係が進化していくということです。いま、さまざまな領域で、この企業と生活者の新しい関係が生まれています。
 

このインターフェースの爆発的な広がりと、そこから生まれる新たな価値創造の可能性を私たちは「生活者インターフェース市場」と名付け、過去2回のフォーラムでもこの市場の大きなポテンシャルについて提唱してまいりました。いま、DXという言葉を聞かない日はありません。コロナ禍によるデジタル化の加速を受け、生活のデジタル化はどんどん進んでおり、生活のデジタルトランスフォーメーション、すなわち生活者インターフェース市場は我々の予想を越えたスピードで拡大・成長しています。本日は、この新たな市場を攻略するために企業が意識すべきこと、市場攻略の要についてお話をさせていただきたいと思います。

価値創造型のDXがより強いブランドをつくっていく

生活者インターフェース市場を制する要は、価値創造への取り組みです。生活者との接点において、デジタル化、インターフェース化が進んだことで、これまで以上に詳細に生活者のデータが見られるようになった企業の皆さんは、データを活用したより効率的なマーケティングに取り組まれていることと思います。しかし、効率化だけでは生活者インターフェース市場のポテンシャルを十分に生かしているとは言えません。生活者との情報のやり取りを通じて新たな価値を創造し、企業と生活者の新しい価値をつくるという、「価値創造型のDX」にいち早く取り組むブランドや企業が増えてきています。

たとえば、NIKEではシューズやウェアなどの商品に加えて、ランニングアプリを始めとするさまざまなデジタルサービスの提供を行っていますが、その理由は“商品の購入につなげることだけがゴールではない”からであり、“アプリを通じてスポーツに関心を持つ人、スポーツを実際にする人を増やしたい”という狙いがあるからだそうです。スポーツライフを一緒に楽しむランニング仲間を増やし、その仲間とともに競い合ったり、励まし合ったりする。そうした場と機会をデジタルサービスを通じてNIKEは提供しているのです。走る喜びや楽しさを加速させるようなワクワクするサービスを通じて、生活者のスポーツライフを変えていく。心動かす体験をブランドが提供することで、生活者とのつながりを築いていく。まさに、価値創造のDXです。

我々博報堂でも、価値創造のDXに取り組む事例が増えています。
たとえばMaaSにおいては、ドライバーの高齢化や免許返納による移動難民の増加、公共交通の赤字化といった地方の移動問題の解決に取り組んでいます。効率的な移動を実現させる便利なサービスなら、テクノロジーを使えば実現できますが、それだけでは地域の抱える本当の課題は解決されません。我々は、「どうすればドライバー不足という問題を解消しながら、家からなかなか出かけられない高齢者を1人でも減らすことができるのだろうか」と考え、「コミュニティモビリティ」というアイデアにたどり着きました。近所の人が駅や少し遠くの病院に車で出かけるとき、「ついでに乗っていきませんか」と隣人に声をかけるといった、昔からある“ついで送迎”をデジタルの力で現代的によみがえらせ、ドライバー不足や移動の課題を解決するだけでなく、地域の住民同士が気遣い、助け合うコミュニティをデジタルの力で実現したのです。それが、「ノッカル」というモビリティサービスです。

デジタルサービスに不慣れな高齢者であっても、顔見知りが乗せてくれるなら安心できます。すでにローンチしている富山県朝日町では高齢者の方々にこのサービスを喜んで使っていただいており、「10年ぶりに外出したよ」という嬉しい言葉も届いています。移動が便利になるだけではなく、出かけたくなる気持ちまで動かすサービスをつくるという、価値創造のDXに挑戦した事例です。

また、コロナでお客様がリアル店舗に来ることが難しくなってしまったという課題をデジタルテクノロジーで解決できないだろうかというご相談も増えています。そうしたニーズに応えて、たとえば、チャットによる接客や、ARを使ったお試しサービスなど、最新技術を使ったデジタルサービスも増えています。しかしそれらは本当に、リアル店舗でお客様が感じていた、ワクワクする買い物体験を提供できているのでしょうか?博報堂DYグループが開発したデジタル試着サービス「じぶんランウェイ」では、最新の3Dアバター技術を使い、服を試着した自分の分身が、ファッションモデルのように颯爽とランウェイを歩く姿をバーチャルに楽しめます。 「リアル店舗に行かなくても試着ができる」という便利以上の、楽しい、ワクワクするという買い物の本来の価値を、デジタルの力を活用して実現しました。むしろリアル体験を超えて、デジタルだからできる、心動かす買い物体験をつくることで、生活者とのエモーショナルなつながりをつくろうとしている事例です。

効率化にとどまらない価値創造を実現する取り組みは、こうしたサービス提供による「心動かす体験創造」にとどまりません。
データを高度に活用することによって実現する価値創造、テクノロジーを活用した事業や産業の創造といったさまざまな取り組みが、すでに博報堂で始まっています。

価値創造のDXを実現することができれば、企業やブランドのありようも大きく変化していきます。生活者との接点がインターフェース化していくなかで、その変化の意味を理解し、新たな価値創造を成し遂げたブランドは、生活者とのより深い関係性を築く強いブランドになっていくのです。従来の広告によるブランディングだけでなく、デジタルを活用した事業開発やサービス開発も含めて生活者との新たな関係を築いていくという、「ブランド変革」への取り組みがこれからは重要になります。博報堂ではそれを、「ブランド・トランスフォーメーション」と呼び、クライアントの皆様にご提案を始めています。

 

データ・テック×クリエイティビティで実現するブランド・トランスフォーメーション

「価値創造のDX」、そしてその先にある「ブランド・トランスフォーメーション」には、より高度に統合する力が必要とされています。データやテクノロジーを高度に扱う専門性はもちろん、そこに掛け算する、生活者の心を動かす創造性が必要です。データ・テック×クリエイティビティ、科学と人間性の掛け算が求められるのです。
 

私たちが大切にしているのは、単に高度なテクノロジーを扱うことではありません。
なぜなら私たちの武器は「クリエイティビティ」だからです。データ・テクノロジーの活用だけではなく、そこに生活者への深い共感と理解に基づくクリエイティビティが掛け算されることによって、新たな価値創造やその先のブランド・トランスフォーメーションが可能になるのです。
たとえば、先程の「ノッカル」の事例では、位置情報とAIルートというデータ・テックを活用するだけではなく、地域の助け合いのコミュニティをつくるという視点が掛け算されることで、“ついで送迎”モビリティという、まったく新しい価値が創造されました。
生活者が求めているものは、便利さや効率性だけではありません。
生活が楽しくなる、買い物にワクワクするといったことや、外にでかけたり、人と会ったり、自分だけの趣味を見つけるなど、生活者は毎日をより生き生きとしたものにしたいと願っています。その願いに私たち企業は応えているでしょうか。企業は生活者一人ひとりの「こうありたい」を応援する存在として、生活者との「信頼」や「絆」を結ぶことに取り組まなければなりません。そのためには、生活者への深い理解や洞察力をもって、それをアイデアや形あるサービスに変えることができるクリエイティビティが必要になります。博報堂には、そのクリエイティビティがあると自負しております。

効率化のDXの枠を超えた、価値創造のDXの実現を目指し、広告領域はもちろんのこと、新規事業開発やサービス開発にも取り組みながら、生活者との新たな関係をつくり、ブランドの在り方を変えていく。それがデジタル化の大きな変化のなかで博報堂が皆様に提供する一番大きな価値です。拡大する生活者インターフェース市場を、皆様の成長フィールドにするお手伝いをしてまいりたいと思います。

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  • 株式会社博報堂 代表取締役社長
    1982年博報堂入社。営業局長、経営企画局長、取締役常務執行役員などを経て2017年4月より代表取締役社長。2019年6月より博報堂DYホールディングスの代表取締役社長も兼任。