toBeマーケティングに聞く、MA/CRMツールの最前線と博報堂DYグループとの連携
スタートアップ企業に出資をし、新しいビジネスモデルを創出することを目指して2019年に設立された博報堂DYベンチャーズ。同社が設立後まもなく出資をしたのが、マーケティングオートメーションツールなどの導入・運用支援を手がけるtoBeマーケティングでした。出資からの1年数カ月の間に、両社の連携はどのように進んできたのでしょうか。協業の現在とこれからの可能性について、博報堂DYベンチャーズの取締役COO・武田紘典が、toBeマーケティングCEOの小池智和さんに話を聞きました。
想像以上のスピードで進む企業活動のデジタル化
- 武田
- 博報堂DYベンチャーズがtoBeマーケティングへの出資を発表したのは、2019年の10月でした。あらためて、toBeマーケティングの事業内容をご説明いただけますか。
- 小池
- セールスフォース・ドットコムが販売しているBtoBビジネス向けのマーケティングオートメーション(MA)ツール「Pardot」の導入と運用支援、それから、同じくセールスフォース・ドットコムのBtoCビジネス向けのマーケティングプラットフォーム「Marketing Cloud」の導入と運用支援。その2つが大きなビジネスの柱です。さらに、それらと連動したCRMツールの導入・運用支援も手掛けています。
- Pardotに関しては、これまで1500社を超える企業への導入を支援してきました。導入後すぐに利用できるスピード感を多くのお客さまに評価いただいています。一方のMarketing Cloudの導入支援のお問い合わせが非常に増えていて、今後ますますニーズが高まっていくという手応えを感じています。
- 武田
- 創業は2015年6月でしたね。どのような経緯で創業されたのですか。
- 小池
- 創業以前は、私自身はセールスフォース・ドットコムのアライアンス部で、全国のビジネスパートナーとの関係づくりを担当していました。セールスフォース・ドットコムは、自社が販売する製品の導入支援や運用をパートナーに委託するというビジネスモデルを長年続けています。私は多くのパートナーと向き合う中で、デジタルマーケティングの運用やMA活用のニーズが今後高まっていくに違いない。そしてそれにともなってツールの導入・運用のサポートがさらに重要になっていくに違いない──。そう強く思いました。そこで、企業のビジネス成果につながる導入・運用支援を私自身が手掛けてみたいと考え、独立してtoBeマーケティングを設立したわけです。
- 武田
- 創業時の6年前と比べると、企業活動のデジタル化は格段に進んでいますよね。
- 小池
- 想像以上のスピードと言っていいと思います。とくに昨年からのコロナショックで、マーケティング活動のデジタルトランスフォーメーションはさらに加速しています。私たちのようなサービスベンダーが果たすべき役割がいっそう大きくなっていると感じます。
事業連携の可能性を視野に入れた投資
- 武田
- 博報堂DYベンチャーズは、中長期的にグループのビジネス拡大やサービスの価値向上につながる事業を手掛けているスタートアップに出資することを一つの方針としています。
- 小池
- 出資後の事業連携の可能性を重視されているということですね。
- 武田
- そうです。小池さんに最初にお目にかかったのは、出資を決める2カ月ほど前だったと思いますが、話を伺って、toBeマーケティングのビジネスは博報堂DYグループとの親和性が非常に高いと感じました。
- 近年のデジタル化やOMO(オンラインとオフラインの融合)の進展によって、企業と生活者のタッチポイントは多様化し複雑化しています。そのため、多くの企業がデータを上手に活用してコミュニケーションを最適化したいというニーズを抱えています。そのようなニーズにお応えするには、マーケティング全体のデザインの中にデータ設計やツール活用を上手に組み込んでいく必要があります。
- 小池
- マーケティングのトータルなデザインは、まさに博報堂DYグループが得意とするところですよね。
- 武田
- ええ。一方で、データ設計やCRMツール、MAツールの導入・活用支援ができる人材が十分にいるとは言い切れません。しかし、toBeマーケティングと連携することができれば、クライアントのニーズに的確に応えることができるし、課題解決の提案力も大きく向上する。そう思いました。
協業のシナジーを推進するための「機能」
- 小池
- 実際、出資いただいて早々にそのような連携の形ができましたよね。それは私たちにとっても非常にありがたいことでした。博報堂や大広の得意先に対してMarketing Cloudを共同提案する機会をいただきましたし、2020年4月にはアイレップとの協業も発表いたしました。
- 武田
- 投資先の企業との事業連携を具体的に進めるためには、それを推進する機能が必要です。博報堂DYグループ横断のプロジェクトである「スタートアップ連携プロジェクト」には、グループ内70名以上のメンバーが参加しています。投資が決まったあと、小池さんにそのメンバーに向けた説明会をしていただきましたよね。あのあと、プロジェクトがグループ内に情報共有したことで営業担当からいくつも問い合わせがあって、クライアントへの共同提案、さらに成約までの流れをスムーズにつくることができました。
- 小池
- 一般に、CVC (コーポレートベンチャーキャピタル)の投資の多くは事業シナジーを目指したものです。しかし、シナジーが自然に起こるということはないと私は考えています。両者の連携を進め、チームを組成し、協業をドライブしていく機能がないと、シナジーは実現しません。グループ内にそのような機能をつくっていることは素晴らしいと思います。
- 武田
- そういった機能があるだけでなく、小池さん以下toBeマーケティングの皆さんが、迅速かつ真摯にそれぞれの案件に向かい合ってくださっていることも非常に大きいと思います。このような連携を、今後さらに深めていきたいですね。
プランニングから実装までをワンチームで
- 武田
- 最近、マーケティングツールの導入・運用支援に関して、とくに相談が多い業種業態がありましたらお聞かせいただけますか。
- 小池
- 近年は業種業態のかたよりはほとんどなくなっていますね。事業のカテゴリー、あるいはビジネスの規模を問わず、さまざまな企業から相談いただいています。自社の顧客がどういう属性の人なのかを特定し、その顧客との長期的な関係を構築していくことが必要なビジネスであれば、CRMツール、MAツールはあらゆる企業に役立つと思います。
- 武田
- クライアントの業種業態が多様になればなるほど、それぞれの企業のビジネスを深く理解して、最適な提案をしていくことが重要になりますね。
- 小池
- まさにそこに博報堂DYグループの皆さんと私たちの連携のバリューがあると考えています。
- CRMツール、MAツールはITツールの一種なので、導入はシステム構築に近いプロジェクトになります。さらに導入後3カ月から半年くらいをかけて、正しいデータを正しくインプットする形を作っていきます。そのような業務は、限りなくSIerの仕事に近いと言えます。実際、toBeマーケティングの社員の3割はシステムエンジニアです。
- そういった技術支援のスキルやノウハウの点で、私たちは自信を持っています。一方、先ほど申し上げたように、クライアントの事業理解、顧客理解、市場理解、コミュニケーションプランの立案など、マーケティングをトータルにデザインするという点では、博報堂DYグループの皆さんが抜きん出たスキルをお持ちです。博報堂DYグループのデザイン力やコミュニケーション設計に基づいて、私たちがシステムを実装していく。そのような役割分担ができれば、クライアントに提供できる価値は非常に大きくなると思います。
- 武田
- プランニングからシステム活用までをトータルで提案し、かつ実装までをワンチームで担っていくということですよね。
- 小池
- そうです。そこまでのサービスをクライアントに提供できるチームはあまりないと思います。
課題解決のスピードをさらに上げていきたい
- 武田
- 企業とのおつき合いの中で、最近特に目につく変化はありますか。
- 小池
- 企業側の担当者がどんどん上位層の方になっていますね。役員クラスや経営者と直接お話しする機会も増えていますし、ステアリングコミッティ(企業内で重要な意思決定をする委員会)で説明を求められることもあります。
- 武田
- デジタル活用は経営課題になっていますからね。経営者や上位の意思決定者の皆さんの多くに、デジタルのプロの提案を直接聞きたいというご要望があるのだと思います。
- 小池
- 理想的には、MAツールやCRMツールの導入をきっかけに、ほかのデジタルマーケティング支援も共同提案できればいいですよね。
- 武田
- クライアントも、トータルなマーティング予算の配分を見ながら、ツール導入やいろいろな施策を考えているはずです。デジタル活用に関する相談窓口を一本化できれば、クライアントにとっても大きなメリットになるのではないでしょうか。
- 小池
- ワンチームで相談に対応し、ワンチームでさまざまな課題解決策の提案をしていくということですよね。そのような体制をさらに強化していければと思います。
- 武田
- クライアントのニーズを踏まえながら、共同でソリューションを開発していくこともできそうです。
- 小池
- ぜひチャレンジしたいですね。一方で、私たちの対応のスピードをさらに上げていく努力も必要だと思います。デジタルトランスフォーメーションに対する企業の危機意識はどんどん強くなっています。それに応えるには、スピード感が極めて重要です。
- 武田
- そこは一つの課題かもしれません。この協業の価値を博報堂DYグループの仲間に知ってもらい、多様なニーズにスピーディに対応していける体制をつくりたいですね。
- 小池
- 営業の担当者を始め、多くのグループ内のメンバーの皆さんに、私たちができることをどんどんお伝えしていきたいと思います。
- 武田
- ここまでの1年ちょっとの間に、博報堂DYグループのとtoBeマーケティングの連携の基本的な形はある程度見えてきました。これからもこの連携をさらに加速させ、力を合わせてクライアントの課題を解決していきましょう。
この記事はいかがでしたか?
-
小池 智和 氏toBeマーケティング 代表取締役CEOリクルートにて企業の販促支援事業の営業を経て、ネクスウェイでネット広告事業の立ち上げおよび商品開発責任者を歴任。
その後セールスフォース・ドットコムでパートナーアライアンス部にてパートナー支援や地域スキームを構築。
2015年6月マーケティングオートメーションシステムの導入支援に特化した事業推進のため、toBeマーケティングを設立。
-
博報堂DYベンチャーズ
取締役COO/マネージングパートナー監査法人、証券会社を経て博報堂に入社。博報堂DYホールディングス経営企画局にて投資戦略立案、ベンチャー投資、M&A、グループ再編、事業開発を担当。2019年5月に博報堂DYグループのコーポレート・ベンチャー・キャピタルである博報堂DYベンチャーズを設立し現職に。