本当の“あなた”はどれ? ――オンラインだけでどこまで創発できるか?vol.3
デジタルとリアルの狭間で
あなたはオンライン会議は顔出し派ですか?顔無し派ですか?
そして、それはどうしてですか?
人には幾つもの「顔」がありますよね。夫、妻、娘、息子、上司、お隣さん、PTA、習い事の生徒・・・我が家の8歳児でさえ、学校での顔、母親にくっつくときの顔があるのですから、社会的な立場にある皆さんは無数に抱えていることでしょう。
今回のクエスチョンは:「どの“あなた”が本気で創発するあなた」か、とも言い換えられます。創発するのに適した“あなた”はどの“あなた”でしょう。
人の対話の起源は、当然ながら実際の対面による対話です。そこに文字が媒体として発明され、書物が記録媒体として出現し、電話による音声対話、そして今、「新しい対面対話」がオンラインデジタル技術によって始まっています。この新しい対面環境であなたはどんな「顔」を用いて未来を語るでしょう?
こんにちは。VoiceVisionの田中です。
VoiceVisionは「ひとりひとりの声から、もっとステキなこれからを。」というビジョンをかかげ、ファシリテーションの技法を活用し、生活者との対話から創発をうみ、マーケティングに活かす会社です。単に意思決定を促進するワークショップを実施するのではなく、そこに創発を促して、一人では達成しえない未想像の域に、複数の思考を掛け合わせることで辿り着くことを目指しています。
そんな私たちの今回のチャレンジは「オンラインだけでどこまで創発できるか」。複数ある自身の「顔」の中から、オンライン対話の中でもっとも居心地よく、それでいて心の深淵に挑みうる「顔」を探してみます。
【仮説】
「本当の対話はやっぱりオフラインの対面対話でしょう!」
はい。私はリアル主義者です(=リアリスト?)。15年間子育てに東奔西走してますから、人は物を食べて糞をするリアルな生き物であるという揺るがない事実を突きつけられていますので。(お食事中の方、すみません。)
一方、オンラインの方が本音を爆発させやすいという現象もみなさん見ていますよね。オフラインに対するところのオンライン。そしてリアルに対するところのバーチャル。これらの中で発生する「アノニミティ(anonymity/匿名性)」は社会的建前から解放されて自由を得られる好都合な状況でもあります。
・・・でも、冷静に本音と本音の相乗効果をつくるなら、やっぱりオフラインじゃね?言うてもオンラインには限界があるでしょう、というのが私のあまのじゃく的仮説です。
でも、それはどうしてでしょう? 顔が見える・見えないの単純な違いなのでしょうか?オフライン創発にはあってオンライン創発にはないものを探るために、「顔」の種類で実験してみます。
【実験:「3種類の顔で創発を試みる」】
●方法:名前のみ、キャラクター、リアルの3種類の顔を使いわけながら、ワークショップを実施します。
3種類の顔を以下のように定義します:
【ノーFACE画像】=表情隠し <実名/表情なし>
【キャラ名画像】=自キャラ隠し <匿名/表情なし>
【リアルFACE画像】=全出し <実名/表情あり>
●進め方:ファシリテーターからのお題に沿って、ある課題への解決策を模索します。その際、ステップ毎に使う「顔」を変えていきます。
Step 1:課題の洗い出し →使う画像「ノーFACE」
Step 2:課題の重点を見極める →使う画像「キャラ名」
Step 3:解決策を考える →使う画像「リアルFACE」
それでは、Let’s go!
まずは私自身の「顔」を調査。最近私が他者と接する際の様々な顔を一覧してみました。
左上から時計まわりに:SNSの私、イニシャルの私、名前の私、バーチャルバックグラウンドと私、白バックな自撮の私、生活感丸出しな私
これを見るだけでも「生活感丸出しな私」の表情が明らかに一番柔らかいですが(顔が無いものもあるし)、まぁ、やってみましょう。
<STEP 1:課題の洗い出し →使う画像「ノーFACE」>
お題は『コロナ在宅でずっと家にいるお父さんを、最高にかっこいいお父さんにする、最短の方法をひとつ、みんなで考える。』
条件は「全員カメラオフ」。
あまりこのお題に意味はありません。
見てみたいのはメンバーの反応の変化です。全員画面上に名前のみ。真っ暗なボックスと名前だけの状態で、対話になるのか。
「発言しにくいなぁ。」
「このお父さんは在宅に関係なくメタボになっていたと思う。」
「お父さんはおうちにいるものなんじゃないの?」
「家のことに協力しないことが問題なのでは?」
「おうちにいるお父さんは邪魔がられているもんなんですか?」
「なんだか、追いやられているのかも。」
VoiceVisionのメンバーが集まっているので、発言が無いということはないのですが、これらは「発言」であって「対話」ではないですね。
この後5分ほど話してもらったのですが、「対話」による掛け算は驚くほど生まれませんでした。個人個人が自分の発言に言葉を加えることはあっても、同意や共感による相乗効果は皆無に等しい状況でした。
<STEP 2:課題の重点を見極める →使う画像「キャラ名」>
さぁ、一旦ここで「お父さんをかっこよくする」ための課題の洗い出しは、終了します。そして、メンバーには内緒でそれぞれのメールに、ある国民的キャラクター名を割り振っておきます。そのキャラ名が入った画像をプロファイル画像として保存してもらいます。
そして全員が揃ったオンライン会議画面がこちら↓
そして、ここから「お父さんをかっこよくする」ための重点課題に絞り込むわけですが、それぞれのキャラクターには性格と固有の口癖を付与してみました。
義理の息子キャラは、お父さんキャラの発言には必ず「いいですねー。」とヨイショ。幼児キャラはすべての人の発言の後、すかさず「どうしてですかァ?」と差し込むなど。
例えば:
赤ちゃん言葉しか使ってはいけないメンバーなどは発言に相当苦戦してましたし、上記の幼児キャラは「どうしてですかァ?」を2回くらいしか使えていなかったですが、
この簡単な実験で見えてきたのは以下3点:
● 一定のルールを入れることで、(意味はなくとも)対話のキャッチボールは進む。
● 発言の少なめなメンバーも必ず発言の機会が回ってくる。
● 同意口調が課せられた者や、否定口調が課せられた者が入ることで、対話に強制的に強弱が生じる。
特に3点目は「キャラ」ならではの有効な対話促進となったようです。なかなか異なる意見を挟み込みにくかったり、強い意見に向けて同調空気が流れる時、強制的に、でもユーモラスに予定外の思考が差し込まれるのは対話の流れを常に揺らすことができ、創発誘発のヒントになりそうです。創発に必要な対話は、予測不能な重なり合いをどう構築するかということだとすると、予測不能性をどこに発生させるかが、デジタルとリアルの狭間の設計かもしれません。
というわけで、ススメます。
<STEP 3:解決策を考える →使う顔「リアルFACE」>
キャラクターからの解放です!
全員ピコピコッとカメラをつけながら、鎧を脱いだ戦士のようにすっきりした笑顔!「いや~、気持ちがいいね!何もない自分!」
何者をも演じる必要なく、己のままでいられることの幸せを10秒ほど味わってもらった後、ワークの最終コーナーです。
『コロナ在宅でずっと家にいるお父さんを、最高にかっこいいお父さんにする、最短の方法をひとつ、みんなで考える。』
メンバー全員、出だしからいいリズムで発言が飛び交っていました。直前のワーク2発の抑制とのギャップもあるのでしょう。“Yes, and.”はもちろんですが、いい塩梅の“Yes, but.”も差し込まれました。(通常のオフライン・ワークショップでは、Yes, but.も禁止します。)
キャラクターをついつい背負ったままのメンバーもいましたが、顔が見えることの一番の利点は、やはり、表情が見えることですね。発言者だけでなく、発言者以外の人の顔が見えることはとても大切です。特に同意の表情。「それはいいですね!」のかすかな笑みでも発言者を乗せますし、逆に今ひとつなアイデアには、そのアイデアを否定するわけではなく、雰囲気全体が一瞬止まる。この一瞬は「受け入れ」の一瞬であり、「別模索」への同意の一瞬でもあるのです。この空気感が集まりの行き先を方向付けます。
オフラインでの会議には当たり前に存在している「非言語コミュニケーション」ですが、オンラインではここをかなり意識してコミュケーション設計することが創発の重要な争点になりそうです。
下のスクリーンショットは「ふん、ふん」と発言者の内容に耳を傾けている瞬間です。
肘のつき方とか、(あ、今検索しているな)とか、非言語情報も創発促進にはとても重要ということです。
結果、今回の実験の過程においては、「オフラインの対面対話が最も創発に適している」という仮説に添うように、その再現性が一番高い「リアルFACE」の使用、しかも背景もリアルの時の方がお互いの様子をフルで理解でき、最も創発効果が見られたということになります。
【「リアルFACEが一番」だけではないかもしれない?】
でも、結論を「リアルFACEが一番」にしてしまうのはちょっと早合点すぎる気がします。なぜなら、私たちが追い求めているのは、「どんな状態の新しい対面を作り出すことが創発に最も適しているか」だからです。
今回のメンバーにとっては、リアルな顔とリアルなバックグラウンドが最適でした。一応全員が納得する方向の結論を、当初の想定を超えて発案することができたように思います。
が、例えばその場限りのアイデア出しのために集まる他人同士の場合、キャラ名を付与して、本来の「個」から解放してあげるのもありでしょう。実際、今回の実験でも、キャラの時の方が臆せずに意見を出せているメンバーもいました。キャラ名画像を使えば、立場やコンプレックスに関係なく、思いの丈をぶつけ合うことができるでしょう。
が、全員キャラ名画像の状態で「総意」を形成するのは難しいそうです。最終結論は投票で多数決するしかないかもしれません。そうなると、アンケートやオンライン・グループインタビュー等のリサーチスキームとの違いが見出しづらいように思います。個人的には、Unheard Voice (声なき声)が無かったことにされてしまい大衆主義的な居心地の悪さが残り、別解を求める創発には値しないようにも思います。
でも、対話の促進手段としてのキャラFACEの可能性も「新しい対面」としては捨てずに置きたいものです。
また、オンライン/オフラインに関わらず、ワークショップでの役割(ロール)付与については再考してもよさそうです。多くのオフライン・ワークショップでは参加者全員に対して1つのロールを設定します。主役、イノベーター、いち生活者、等々。普段のロールから解放して参加者間のフラットな関係を築くという狙いでは多いに効果を発揮します。でも、果たしてこれだけで「創発のための対話」を促し切れているだろうか、と今回の実験で思い至りました。
例えば、あなたは反論を、あなたは同意をと対話上のロールを付与することもできるでしょうし、今回各キャラクターに性格や立場を与えたように、ロールに留まらない“キャラ付与”、そしてさらには演技で“キャラ”になりきるための役作りとして、それぞれのキャラとしての情報収集を事前にしてきてもらうなど、創発の場をもっと「劇場化」する工夫は多いにできそうです。テーマに対する多面的なステークホルダーの立場をシミュレーションした創発が促せます。
そしてこのロール付与に、オンラインxオフラインを絡ませる。「キャラ名画像」の周辺に様々なロールを付与しながら、画面上で本気に「キャラ」になることができるのはオンラインならではの創発手法ですね。
今回の実験でも終盤の「リアルFACE」が盛り上がったのは、直前の「キャラ」のロール付与があったからではないか、とも。普段とは違う発言の勢いやメンバー間の力学が「リアルFACE」での議論に良い意味で引きずられていたように思います。
恥やプライド、社会的立場を超えてホンネを出し合う場の形成。様々なFACEを自由に行き来できるオンライン創発の面白さはこれから生まれる予感です。
【人としてのFACEを切り出す瞬間に敏感になる】
今までの対話環境にデジタル環境が掛け合わされたことで、私たちには無限の「対面」の選択肢が与えられました。
デジタルをどの場面で取り入れるかの自由を手にいれました。と、同時に、大きな責任も求められているように思います。
今回の実験を経て、改めて考えさせられたのは、非言語コミュニケーションも含めた「リアル FACE」同士の相乗効果で、どのように集合体としての意思を形成し、何を選びとっていくかということ。
デジタルは本当に便利です。無限排出の便利さをもとめてAIの力を借りたブレーンストーミングを行うこともできます。デジタル統計から被験者の希望の最大公約数を最短時間で探すこともできます。でも、最終的に生活に何を取り入れるかの判断を下すのは、そこに関わる人々です。その総意として、何を大切にし、何を改革していきたいと意思決定するか。デジタルには計算しえない倫理とか、愛とか、情熱とか、個々人が背負う体験から大切にしたいものを選び抜くのは「リアルFACE」な私たちだからです。
デジタル時代に何故あえて「創発」するか。それは一人の人間としての心地よさも違和感も希望も他者と分かち合いながら、一人では成し遂げられない未来に共に挑むためではないでしょうか?
【おまけ】
で、ワークショップの結論はどうだったの?お父さんはどうなるの?
ここまで読んでいただいた方限定で(?!)VoiceVisionの精鋭たちが「創発」した、「お父さんをかっこよくする最短の方法」を教えちゃいます!
鍵となった最後のメモがこちら↓
お父さんをかっこよくするためには、ずばり!
「家族メンバー1人1人と、1対1で月1お出かけする」ことをご提案します!
Withコロナでのお出かけは実行段階での方法を少し検討する必要はありそうですが、月1お出かけのココロが知りたい方は、VoiceVisionへお問い合わせを!
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コミュニティ・プロデューサー
博報堂リーママプロジェクト ファウンダー1998年慶應義塾大学卒、博報堂入社。2012年“博報堂リーママ プロジェクト”設立。企業で働くママたちと今までに100社以上1000人以上との「ランチケーション®」を慣行。2014年生活者共創を専業とする(株)VoiceVision の設立に参画。2016 Prix Ars Electronicaデジタルコミュニティ部門審査員。2019年同部門及びSTARTS部門審査員。共著『リーママたちへ 働くママを元気にする30のコトバ』(角川書店)2男1女の母。