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米国小売業界は「テクノロジー追求」のその先へ。<NRF Retail’s Big Show 2020 レポート>(2/2)
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米国小売業界は「テクノロジー追求」のその先へ。<NRF Retail’s Big Show 2020 レポート>(2/2)

<「人」由来の体験価値を付加するブランド>

翻って、オンラインでブランディング・販売・アフターサービスまで行うD2Cブランドをはじめ、大手メーカーについても顧客との関係性強化を目的に、顧客との直接接点を構築・強化していく動きが進みます。特にNRFでは、「Humanity Digital」という言葉に代表されるように、テクノロジーに「人」を敢えて介在させることによって体験価値を高める手口に注目が集まりました。

例えば、「デジタル上のストーリー+リアルの場」の取り組み。ある程度成長したD2Cブランドがリアル店舗を持つ動きが進みますが、直近では「寄り合い」のような形でD2Cブランドがリアルの場に進出するケースがみられます。NY市内にあるNeighborhood Goodsは、ライフスタイルを切り口にD2Cブランドの展示が行われる店舗です。店舗スタッフは単なる販売員ではなく「ストーリーテラー」と位置付けられ、ブランドの魅力をホスピタリティを持って伝える役割として、ノルマを課さない高待遇・固定給が取り入れられています。ここではオンライン上で構築されてきたブランドストーリーに、リアルの場で人を介しながら伝える機能を提供しています。

 NY市内のNeighborhood Goods店舗

 大手ブランドでも、ユーザーに直接サービスを提供する中で、人を介在させた仕組みを取り入れる動きが進みます。例えば、L’Orealグループが提供するbeauty&coは、先端のAI技術を活用しユーザーにマッチするヘアカラーを提案するサービスです。ここでポイントとなるのは、最終的なレコメンドが「人」を通じて行われる点。AIのレコメンドをベースに、画面を通じてヘアスタイリストがユーザーと対峙し、レコメンドした髪色のメイクキットを送付するという仕組みです。先端テクノロジーを活用しながらも、最終的なユーザー接点を人に置くことで、納得度の高いレコメンドを提供する事例です。

小売を介さず、オンラインを通じて直接ユーザーと関係性を作っていくD2Cブランドの拡大や大手メーカーも「モノから体験を売る」ことへのシフトを模索する上で、現在は製品の品質以上の価値を付加することが求められています。そうした中で先端的なテクノロジーを活用するだけではなく、あえて「人」由来の体験価値を提供することが求められてきています。

<小売機能を提供するRaaS(Retail as a Service)>

買物のデジタル化が進む中、オムニチャネル化の完了を背景として小売業はこれまで店舗が持っていた機能を削ぎ落とすことで顧客体験を高める一方、D2Cや大手ブランドは製品以上に小売機能を獲得していくことでユーザーに新たに体験価値を提供しようとしています。いわば小売とブランドの垣根の融解が起きていく中で、両者に必要な機能をサービスとして提供するのがRetail as a Service(RaaS)です。近年はデジタル化に対応するためのバリューチェーンの強化・構築を支援するテクノロジー・サービスに注目が集まっています。

例えばオンライン配送サービスを支える小規模倉庫や配送機能について、それらをロボティクスを活用することで最適化された仕組みを提供するプレイヤーが登場してきています。英国でネット専業スーパー事業を運営するOcadoは、自社のECプラットフォームや自動倉庫や配送システムなど、ネットスーパーのサービスを提供するにあたって必要なバックエンドの仕組みやノウハウを各機能ごとにソリューションとして提供しており、日本でも昨年大手小売業との提携を発表し注目を集めました。

(左)Ocadoは世界各地の小売と提携/(右)各機能をソリューションとして提供する

 直近で日本でのサービス提供を発表したb8taは、主にD2Cなどが提供するガジェット系の商品を展示し商品紹介タブレットなどで情報提供をし、店内行動センサーを通じてサプライヤーに立ち寄り人数や滞在時間などのデータ提供が可能な売り場フォーマットをサービスとして提供します。

博報堂DYホールディングスがテクノロジー・パートナーシップを締結した米国のSTRATACACHE社(リンク https://seikatsusha-ddm.com/release/10715/)は、小売店舗における体験づくりで重要な役割を担うデジタルサイネージのテクノロジーソリューションを提供している会社で、自社でサイネージのハードウェアおよびソフトウェア開発、コンテンツ配信を行う基盤や行動測定、導入にあたってのコンサルティングを行う機能など、小売店舗のデジタル化を支援していく包括的なサービスを提供しています。

<顧客の体験価値を起点としたテクノロジー活用が重要>

これらに共通しているのは、先端テクノロジーを単体で提供するものではなく、包括的な顧客体験を提供するための機能を自社で保有しており、提供先の課題やニーズに併せて必要なものを導入していくことが可能である点です。これにより、一貫した顧客体験を提供することが可能であると同時に、バックグラウンドにおけるデータや機能連携が容易に行えることで、テクノロジーの導入コストが下げられる点が強みとしてあげられます。すなわち、テクノロジーありきではなく、提供すべき体験から逆算して必要なテクノロジーの活用を切り出せる、ということ。体験価値の提供を小売もブランドも志向する中では、テクノロジーの先端さが求められるというより、いかに顧客体験ありきでテクノロジーを活用できるかの目利きと実装が求められている中、包括的なソリューションを保有するテクノロジーベンダーへの注目が高まっています。

<新しいデータとマーケティングの関係づくりが求められている>

NRF2020では、企業が勝手に生活者のデータを取得・活用する時代の終焉が見えPersonal Utilityの開発競争が想定される中、小売・ブランドも垣根なく「自分が本当にほしいものを提供してくれる」という信頼を生活者から勝ち取るために、改めて「顧客体験の磨き込み」が論点となりました。小売業はオムニチャネルを前提にいかに店舗体験を先鋭化させるか、ブランドは敢えて人を介在させることで製品に体験価値を付加していく取り組みが紹介されました。この動きはこれまで資本力がある大手企業を中心に進んできた動きですが、バリューチェーンにおける必要な機能をテクノロジー・サービスとして提供するRaaSプレイヤーによって「民主化」が進み、今後急速に拡大していくことが想定されます。

本メディアがテーマとする「データ」の切り口でこの変化を捉えていく際、これまでは「いかにデータを取得・リッチ化し、利活用していくための基盤を構築し、それらを活用したサービス/体験に落とし込むか」が争点だった”データ・ドリブン”マーケティングも、今後は「提供すべきサービスや体験を起点に、データを活用していく基盤のあり方やその際に必要なデータ」を考えていく、逆のサイクルを想定することが重要になりそうです。「今あるデータをどう使ったら良いか?」という問いではなく、「どういう体験づくりにデータやテクノロジーは使えるか?」という問いへのシフトです。ますますの情報過多・買物行動の多様化が進んでいく中でも、生活者との継続的な関係性を築いていくために、”データ・ドリブン”ではない、新しいデータとマーケティングの関係づくりも求められていると言えるでしょう。

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  • 博報堂 CMP推進局 第二グローバルG
    2012年博報堂入社。以来TBWA\HAKUHODOにてブランド・コミュニケーション戦略の立案に従事した後、博報堂買物研究所を経て、現在は主に小売・CPGメーカー・通信会社等の企業が保有する顧客データや「生活者DMP」の活用によるマーケティングの高度化を支援。また、サイネージ・モバイル等の生活動線メディアを連携させ、都市の中で新たな情報体験の提供を可能にするメディアサービス・ビジネス開発を推進。