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「メディア生活フォーラム2019」パネルディスカッション: 「メディア満足」につながる情報・コンテンツの新しい届け方とは(2/2)
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「メディア生活フォーラム2019」パネルディスカッション: 「メディア満足」につながる情報・コンテンツの新しい届け方とは(2/2)

野田
三浦さん、広告クリエイティブの視点からはどうですか。
三浦
広告やコンテンツにおいて大きな結果を残そうとする場合、2つの手法が注目されていますね。ひとつめは、ソーシャルメディア上や社会現象として流行っているものや手法、注目されている事象に乗っかって表現をつくる、“ピギーバッキングクリエイティブ(便乗表現)”。比較的ライトで頻度が高い表現が多いです。もうひとつはその逆で、1日400分のメディア時間があるなら、10日間で4000分、少なくともその4000ぶんの1分になれるような、ユニークで忘れられない表現をつくる、意図的な“オーバークオリティクリエイティブ(過剰表現)”。個人的な印象では、そのどちらでもない表現やブランドはすぐに忘れられている印象です。大成功しているブランドは、そのどちらも持ち合わせたスゴい表現をブチ込んできたりしますね。

博報堂 統合プラニング局 クリエイティブディレクター/チームリーダー 三浦竜郎

前者の流行に乗っかるピギーバッキングクリエイティブは昔からあった普遍的な考え方ではあるのですが、最近はSDGsのような、社会をこんな風にポジティブに変えたいよね、という全人類共通のゴールに乗っかる方法の研究が進んでいます。乗っかっただけと言う、ちょっと意地悪な見方をする人もいますが、生活者とブランドが態度で結びつくことができますし、広告のシェアや商品の購入といった生活者が取ることのできる数少ない具体的行動が、社会をいい方向に動かす一部になるという意味で「いい時間」がつくれているのかもしれないなあ……と先ほど改めて思いました。
また、後者の4000ぶんの1分をつくるオーバークオリティクリエイティブで言うと、鉄板コンテンツの方程式みたいなものも、徐々に確立されつつあります。いくつかありますが、たとえば僕が、コンテンツのリピート耐久性……リピータビリティと呼んでいるもので、1回目見てわかりやすく、よく目立ち、2回目見ても面白く、3回目見ると発見がある。そんな、細部まで注目して観た人だけが発見できる面白さがあるコンテンツは、ハマってくれた人の熱量も味方につけて、ブランドのリスペクトを育んでいきます。

野田
何度も見たくなるようなクオリティにするといったこと以外に、コンテンツ強度を高めるポイントはありますか。
三浦
企画段階から演出段階にいたるまで、また視聴されるメディアごとに、大小さまざまな技術が発見されつつあります。全部に凝ればいいわけではない。たとえば、最近先輩に教えてもらって勉強になったのは、ファーストカットは絵にこだわるか?音にこだわるか?ということ。スマホベースのデジタルコンテンツの場合、ソーシャルメディアで流れてくる時にはミュートされていることが多く、音声アイコンをタップするまで音が出ない。だから一般的には絵を強くした方が良いです。音声タップをしたくなるぐらい面白そうじゃないとダメ。一方テレビに流すことが中心ならば、音に凝った方が良い。なぜなら密着調査でスクリーンサーフィンをしていた大学生や、お皿を洗いながらドラマを流していた女性のように、モニターから目を離していることが多く、振り返ってもらえないといけないので。他にも、人物のサイズ感をメディアごとにどう作り分けるかなど、いろいろ面白いですよ。
野田
原田さんは新しい情報の届け方についてどうお考えですか。
原田
新しいメディアであるスマホよりも、テレビやラジオの事例から学ぶことが多いです。米国のNBCユニバーサルが、プライムタイムのCM時間を20%カットすると発表しました。売り上げを増やすためには広告単価を上げざるを得ないので、これからは非常に高単価で効果の高い1分CMのようなものを作っていかないといけない。そうすると先ほど話に出てきたような、コンテンツ強度を高めていくことが求められるのだろうなと思いました。
ネイティブ広告みたいな、コンテンツへの没入体験を邪魔しないような広告も有効と言われていますよね。いまそのユーザーがどういうモーメントで、ライフステージで……といったことをとらえるようなデータ活用も必要ですが、やはりコンテンツ強度は無視できないと思います。

デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室長 原田俊

野田
スマホはやはり自分の興味の時間に使うので、余計に邪魔をされたくないという意識が働くのかもしれませんね。
原田
アメリカのポッドキャスト広告においては、番組のMCがそのまましゃべる広告の効果が非常に高いことがわかりました。つまり広告とか情報というより、コンテンツの延長のようなもの。従来のラジオだけでなくデジタルでもそうだというのは、学ぶところが多いと思います。
嶋田
テレビで流れているコンテンツとCMがすごく親和性が高くてシンクロしていると、自然と見てもらえますよね。僕はCMの直前に「続きはCMの後で」というのを、そろそろやめませんかという話をメディアの方にはしているんです。CMを邪魔なものとしてマインドセットするのではなく、「今からいいものが来る」くらいのマインドセットで入ってほしい。メディアの方も、本編をしっかり続きで没入して見てもらえるよう、CMをまたがせるのではない作り方に少しずつ変わっていっている気はしますね。
原田
その点YouTuberのCMは、挿入タイミングがうまいなと思います。次の展開を散々あおった後に、6秒CMが2つ流れて、すぐ続きが見られるというような。短いのでCM自体にも飽きないでいられる。
三浦
YouTuberのコンテンツをリスペクトしているブランドはうまく広告していますよ。たとえばその手があったか!と思ったのは、ぽちっと押すだけで、そこにピザが届く「IoTピザ注文スニーカー」。企画単体としては微妙だなと思いましたが、これをYouTuberに渡すとめちゃくちゃ盛り上がるんです。「開封してみます」「本当にここまで来るかやってみました」「ポチ」「本当に来たよ、わはは!」「ピザうまい!」と(笑)。やってみた系、開封の儀系といったコンテンツが好きなYouTuberの頭の中をハックしている。彼らと彼らのサブスクライバーたちが見たいものをリスペクトし、愛し、動画がより盛り上がる形で商品が入る構造を作り出している。広告スキルが高いなあ……と勉強になりますね。

プロダクトにいじる余地がなくても、売り方をYouTuberが盛り上がりそうにする方法だってある。スマホのAR機能でストリートアートに書かれたスニーカーが買えますよ、と言うと、YouTuberが「本当かなあ」「買ってみようぜ」「本当に買えた!」「スニーカーかっこいい!」とか言って自然と集まってくるとか。生活者の代表であるYouTuberが面白がることを尊重してコンテンツ化していくと、「メディア満足」が高い広告やそれにつながる何かが生まれるのではないでしょうか。

原田
それから、これまでは広告がつく代わりにコンテンツは無料で見られるというのがバリューエクスチェンジとしてありましたが、最近はその関係性が崩れ始めています。コンテンツはただで見たいが、広告は見たくないという人に対しては、お金を払ってでも広告なしで没入できるモデルがいいのか、コンテンツは無料で広告も見てもらうのか……生活者に選択肢を提示して交渉できると思います。
三浦
いま話を聞いていて、空気を読む広告というのをつくってみたいなと思いましたね。到達はしているけれど見えなくて、気持ちが高まっているちょうどいいタイミングにニョキっと出てくるような。アイトラッキングとかコンテンツの中身とかをうまく使いながら、時限爆弾みたいに、店頭など最高なタイミングで大爆笑できるようないい届き方ができればいいな。スパイウェアみたいで怒られるかな(笑)
野田
自分が主導権を持ちたいという気持ちと生活行動があるわけで、1日の時間のどのタイミングなのか、どの曜日なのか、あるいはスマホで見ているのかどうか。そうした条件に最適化して出せるということが、いい時間につながるんでしょうかね。
嶋田
CMでもキャンペーンでも番組をつくるときでも、こちらからハッシュタグでつぶやこうというタイプのものは、もうあまりうまくいかないということがわかってきました。そこはこちらが1枚上手になってやっていかないといけない。やっぱり生活者は道に乗せられるのを嫌がることもあると思うので、あくまでもオーディエンス側に主導権があるように思ってもらえるようにしないといけないですね。

先ほど出てきましたが、曜日によってもだいぶ気分は違いますよね。番組タイトルとかでも、それぞれの曜日の気分に合わせたコンテンツですよ、というヒントを渡してあげているものもある。曜日と気分と満足度は非常に絡んでいることを、今日改めて思いました。

野田
今日は、生活者の“満足したい”という気持ちに対し、「メディア満足」へのマインドセットをつくりながら届けるという方法、広告自体の単体の強度を高めることなどの話がありました。生活者に主導権をゆだねる重要性への気づきもありました。
生活者の状況について、マインドセット、モード、曜日など、どんな気分でその情報を欲しているかをきちんと考え、そして私たちがいい時間をつくっていくことが大事なのではないかと思います。最後に、それぞれ今日の感想をお願いできますか?
嶋田
届け方の精度が上がってきている中、メディアの特性を考えながら、そのメディア、ブランドなりの、商品の表現方法を考えなければいけない。プロのオーディエンスを攻略するためには、企業と広告会社とメディアが同じ方向を向いて、連動しながらプラニングや企画作りをしていかなくてはならない時代が来たんだと感じました。
三浦
ビジネスも、それ以外も、すべてのもののつくり方がユーザセントリックに変わってきているなと感じます。ユーザーが心地いいか、ユーザーが望んでいるか、そういったことへの洞察抜きに大勝ちはできなくなっている。それが難しいし、面白いところですね。情報が多すぎて困っている人たちが、「ああ、いい時間だな」と思える瞬間を作り続けられるブランドこそが、結局は価値をぐんと上げていくんでしょう。そういうものを生んでいけたらいいなと思いました。
原田
僕らはまだまだ、これまで以上に生活者や顧客のことを理解することができるのではと思いました。通常のネット広告であれば属性や興味関心…などを分析するという話になるのでしょうが、今日の話にあったような生活者は、その瞬間や、ライフステージによって異なるマインドセットにある。やはりもっとうまくデータを活用し、一緒に考えていきたいと思いました。
野田
第二部のパネルディスカッションは以上です。
ありがとうございました。
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  • 博報堂DYメディアパートナーズ
    クリエイティブ&テクノロジー局 統合クリエイティブ部 部長

  • 博報堂 統合プラニング局 
    クリエイティブディレクター/チームリーダー

  • デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム株式会社
    イノベーション統括本部 研究開発局 広告技術研究室長

  • 博報堂DYメディアパートナーズ メディア環境研究所 上席研究員
    2003年、博報堂入社。マーケティングプラナーとして、食品やトイレタリー、自動車など消費財から耐久財まで幅広く、得意先企業のブランディング、商品開発、コミュニケーション戦略立案に携わる。生活密着やインタビューなど様々な調査を通じて、生活者の行動の裏にあるインサイトを探るのが得意。 
    2017年4月より現職。生活者のメディア生活の動向を研究する。