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博報堂DYグループとMESONが共同研究で目指す「ARクラウド」のある未来
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博報堂DYグループとMESONが共同研究で目指す「ARクラウド」のある未来

(左から)MESONの梶谷健人 代表取締役CEO、小林佑樹 取締役COO、博報堂DYホールディングスの木下陽介、目黒慎吾

博報堂DYホールディングスのマーケティング・テクノロジー・センター(以下、MTC)では、現行のマーケティングやデバイス環境に関わるテクノロジーのみならず、生活者に影響を及ぼす次世代のテクノロジー(次世代顧客接点:詳細はこちら)を利用したソリューション開発を国内外の様々な企業や大学、団体と共同で研究を進めています。

その研究のひとつに、ARを利用した最新技術「ARクラウド」があります。その活動の一環として、AR技術に強みをもつMESONと共同で、4月27日から3日間に渡り神戸市三宮で行われるイベント「078Kobe」に出展します。詳細はこちら
ARクラウドが実際に体験出来るイベントとしては国内で初めてとなる同展示。出展の理由や今後の取り組みなどについて、博報堂DYホールディングスの木下陽介と目黒慎吾、MESONの梶谷健人 代表取締役CEO、小林佑樹 取締役COOに聞きました。

博報堂DYグループとMESON共同研究のきっかけ

木下
博報堂DYホールディングスのMTCに所属している木下です。「次世代顧客接点」に関する研究開発をしています。
目黒
同じくMTCで次世代顧客接点について取り組んでいる目黒です。
MESONの皆さんと知り合うきっかけとなったのは、2018年の夏頃にヘッドマウントディスプレイの学会に参加したことです。そこで偶然隣に座っていた小林さんと名刺を交換しました。参加されている方の中で小林さんが真っ赤なサマーセーターを着ていて凄く目立っていて印象に残っていました(笑)。いただいた名刺のTwitterアカウントを見ると、私が普段からAR/VRに関する情報を頻繁にチェックしていたアカウントが小林さんだと分かり、ファンのような気持ちで連絡しました(笑)。
梶谷
MESONの代表取締役の梶谷です。当社はAR技術にフォーカスしたスタートアップとして2017年9月に創業しました。我々は2~3年後にARが一気に一般の消費者にも普及し始めると考えており、それを見据えてARのサービス作りに力を入れています。ARは、一般の人の生活 に大きな価値を生むようなユースケースがグローバルでもまだ見つかっていないんです。我々はそれを見つけるべく、様々なパートナーと一緒に研究を進めています。 ARの開発のみに特化した会社は国内にもいくつかありますが、我々は自動車メーカーやアパレルなど、様々な企業のサービスプランニングの仕事をしてきました。したがって、開発だけでなく、そもそもどういったサービスを作るかの企画フェーズからできるところが強みであり、特徴です。

MESON代表取締役CEOの梶谷健人さん

小林
MESONのCOOの小林です。先ほどの目黒さんのお話でもあったのですが、お会いした後に凄く熱のこもったメールをいただきまして(笑)。何度か打ち合わせを重ねるうちに一緒にお仕事をさせていただく流れになりました。
木下
私個人が「ARクラウド」について知ったのは2017年の11月頃でした。MESONの皆さんと初めてお会いした2018年の夏頃はちょうどMTCで「ARクラウド」に取り組もうという話になっている時だったんです。MESONとの打ち合わせでその話をしたら、「ちょうど078Kobeというイベントがあるから、それに向けて取り組んでいきましょう」とご提案いただいたんです。
梶谷
初めてお会いした2018年の夏の時点で、「ARクラウド」について既に知っていて様々なお話をできるパートナーは他にいなかったので、大きなチャンスだと感じました。

「ARクラウド」とは

小林
「ARクラウド」は、簡単に言うと“現実空間のデジタルコピー”です。クラウド上に、例えば今私たちがいるこの部屋や東京の地形など、地球上のあらゆる空間情報をコピーしておくことができます。そしてARクラウド上にユーザーや開発者が何らかのコンテンツを登録すると、ARクラウドに接続した端末をもつ人たちがそのコンテンツを見たり、インタラクションしたりすることが可能になります。
 ARクラウドには大きく二つの特徴があります。一つ目は永続性です。ARクラウドは空間情報とそれに対応するコンテンツの位置関係を保持し続けるので、ARクラウドに一度コンテンツを置くとずっと空間上にコンテンツを残すことが可能になります。
 もう一つはAR空間の共有です。従来のARアプリケーションでは自分がみているAR空間と近くの人が見ているAR空間は全く別物になり、AR空間内で同じものをみることができません。ARクラウドがあれば、複数人で同じAR空間をみることが出来るので、AR空間を通したよりリアルタイムなコミュニケーションが可能になります。

MESON取締役COOの小林佑樹さん

梶谷
ARクラウドは技術的な難易度が高いので、取り組んでいる企業や団体は、現在のところ、国内では非常に少ないです。海外では「ARクラウドを作った企業が次のグーグルになる」と言われているくらいで、技術投資の熱が非常に高い状況です。アメリカが一番発展していますが、イギリスにも有力なスタートアップがいます。
目黒
イギリスのScape Technologiesというスタートアップは、開発したARクラウドをディベロッパー向けに解放しています。我々も将来的にはそういうことに取り組んでみたいと思っています。

2社で協業するメリット

目黒
MTCにはマーケティングテクノロジーを開発する人材はいますが、AR/VRについて深い知見がある人は少ないため、社外に求めていました。AR/VR関連の会社には、受注したものをその通り制作するところもあれば、取り組みたい領域が限定されているところもあります。そんな中でMESONに魅力を感じた点は、プランニングから一緒にできるところです。ワークショップをしながら、078Kobeまで繋げていくという形で進めていったのですが、こうしたプロジェクトの進め方や考え方はとても博報堂と似ているな、DNAが近いなと感じました。
木下
通常のシステム開発だと、最初にしっかり要件定義をして開発物を完成させるというのが基本です。MESONの皆さんとは毎週定例をやっているのですが、打ち合わせで合意した内容を受けて、次の週にプロトタイプの開発物を改善して打ち合わせに持ってきて、その場の意見に応じてどんどん変えていきます。開発のプロセスがとてもワークショップ的なんです。そこがとても我々の文化と合うし魅力的でしたね。

(手前左)博報堂DYホールディングスの木下陽介

梶谷
我々にとって博報堂と組んでやっていくことの大きなメリットは、ARで跳ねるユースケースを一緒に探せることです。博報堂DYホールディングスは広告というものを通してずっと消費者の近くで向き合ってきたプロの方たちだと思っています。その博報堂DYホールディングスの皆さんと一緒に、ARという今後スマホ以上に消費者の生活に深く入り込んでくる技術でどういうユースケースが人々にとって価値があるのか、インパクトが大きいのかというのを一緒に探求していけるというのが今回の取り組みの一番の意義だと考えています。

078Kobe出展について

※「078Kobe」:「若者に選ばれ、誰もが活躍するまち」神戸を実現するため、未来に向け魅力と活力あふれる都市として発展する神戸を発信するための新たなクロスメディアイベント。エンジニアが集い、交わることで創りあげる参加型フェスティバル。「音楽」「映画」「アニメ」「ファッション」「IT」、「食」、「子ども」をテーマとしたものを掛け合わせ、ライブ、カンファレンス、トレードショーを組み合わせた実験的・国際的な集約点を目指している。

小林
ワークショップの最初は、MTCの皆さんと我々が同じ目線でARクラウドについて議論できるように、ARクラウドについての知識や事例などの情報を共有することから始めました。
梶谷
その後の議論では、まず2040年のサービスの形を考えました。そしてその未来から逆算して2020年にあるべきサービスを考え、それを078Kobeの展示ではどう表現すべきかを考えていきました。最初から078Kobeで何をするか考えてしまうと、小さくまとまったり、ありきたりのものになってしまうためです。078Kobeでは、まず「ARクラウドとそれが当たり前になったときの生活」について知ってもらうことを目的としました。
目黒
ARクラウドについて聞いたことのない人に対して、技術の応用的な使用法の展示をしてしまうと、ハードルが2段階になってわかりづらくなってしまいます。そのため、ARクラウド技術のコアの部分をなるべくシンプルに体験できるものが良いのではないかということになりました。
小林
実際の展示では、三つのステップで体験が構成されています。まず、ARクラウドという技術を知ってもらい、その後、実際にARクラウドで作られたアプリケーションを体験してもらいます。最後に、ARクラウドによって未来の生活がどう変わるかを体験者自身に考えていただきます。このような形にしたのは、ただARの体験をしてみるだけでなく、自分の日常生活と関係があることとしてARクラウドについて考えていただきたいからです。
体験エリアは、デバイスをかざしてARで見ることができる三宮の仮想マップ上に建物を配置したり、他の人が置いたものを置き換えたり、というARクラウドのメリットが直感的に理解できる体験になっています。複数人が同時に1つのAR空間のなかでインタラクションすることで、ARクラウドをつかった新しいコミュニケーションを体感してもらえると思います。
目黒
オブジェクトが立ち上がって、複数人でそれを操作して共有できるところは、展示の見所です。これが次の時代のコミュニケーションの大きな幹になると思うので、そこに注目していただけたらと思います。
木下
私は個人的に、お子さんが体験しているのを見てみたいですね。子供は素直なので、夢中になるか、すぐに飽きるのか、はっきりすると思うんです。UI自体はお子さんでも使えるものなので、是非体験しにきていただきたいと思います。
梶谷
「ARクラウド」は本当に難しい概念ですが、今回の展示は、お子さんやITに明るくない方であっても使えるように設計していますので、そういった方にどう使っていただけるかを楽しみにしています。

生活者にARクラウドを知ってもらいたい理由

小林
そもそも078Kobeには、「未来の都市生活を市民に知ってもらう」というテーマがあります。ARクラウドは今後間違いなく我々の生活の中心的な存在になるので、078Kobeのテーマにぴったりだと考えました。
 神戸市にはITを強みにしていきたいという考えがあり、ARについても市民の方から理解が得られれば今後ARに関連した取り組みを進めやすいというメリットがあります。我々としても、今後も神戸市と一緒に社会実装に取り組んで行きたいという希望がありますので、市民の方にARクラウドについて知っていただくのは大きな意義があります。
木下
今回ARクラウド技術を用いて開発した展示作品は、市民の方から今後街をどうしていきたいかをフィードバックしてもらうためのツールとして、非常に適していると思っています。そういった意味でも、市民の方に実際に使っていただく機会は大切だと考えています。これまでにも擬似的にARクラウドを映像で紹介しているものはあったのですが、実際のARクラウド体験を実現した展示は、078Kobeが恐らく国内で初めてなのではないかと思います。

ARクラウドがある未来

梶谷
ARクラウド の確立に加えて、ARを体験するのに適したデバイスと5G回線が普及すると、一般の人が日常の中でARを使うようになると考えています。今のARは、例えるならPCがインターネットに繋がっていない時代に、PC内に入っているゲーム(ソリティアやマインスイーパー)を一人でやっていたようなものです。PCがインターネットに繋がると、メールでやり取りできたりSNSができたりと、コミュニケーションが飛躍的に変わっていきました。次の時代はARクラウドで空間を共有できるようになるので、AR上で見ているものをそのまま人に共有したり、ホログラムで相手の姿を出して会話したり。コミュニケーションのレイヤーが一段上がります。
目黒
ARだと、自分にとって必要な情報を空間上の見える位置に置いておくことができます。(注:ARを見ることができるデバイスを通して、空間を見ると、そこにSNSのページや書類などを配置しておくことができるということ)
木下
そうなったときにSNSのあり方がどう変わるかということも凄く興味があるテーマです。投稿へのコメントが場所に紐づいたり、場所によって意味が変わったり。今の使用方法とは全てが変わるはずです。
梶谷
「ARによって何が変わるの?」とよく聞かれるんですが、基本的に全てが変わると考えています。今まで文字から画像、画像から映像と発展してきたコンテンツの次元が三次元・空間を扱うところまで進化するので、コミュニケーションが大きく変わります。

今後の取り組みについて

目黒
今回はイベントブースの一角での展示ですが、都市全体でARクラウドを実践してみたらどうなるか、日本全体でやったらどうなるか、と広げていきたいと考えています。都市全体に広げていくには、行政の協力が不可欠です。可能であれば神戸市とより大きな規模で実証実験を行えたら、と考えています。

博報堂DYホールディングスの目黒慎吾

木下
3Dプリンタが出た時に、製品の試作品を作るコストや時間が効率化され、開発プロセスも大きく変わりました。ARクラウドが普及すると街づくりや都市計画において同じようなことが起きると思ってます。建物を建てる場合、これまでは模型やCGを作って想定していましたが、ARクラウドなら実際の風景のなかにAR上で実際の大きさの建物を精緻に見せたり、複数人で体験することも可能となり、市民も参加した形での街づくりに変わっていくのではないかと思ってます。
小林
先日目黒さんたちと一緒に神戸市へ視察に伺った際に、市の職員の方々や078Kobeのスタッフの方々とディスカッションをしたのですが、皆さん非常にITへの理解があり、ARクラウドに対する関心もとても高かったんです。今後の取り組みについても、スムーズに進められるのではないかと期待しています。
梶谷
今回の神戸での取り組みをロールモデルとして、将来的には日本全体に実装していきたいと考えています。
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  • 博報堂DYホールディングス
    マーケティング・テクノロジー・センター
    開発1グループ グループマネージャー

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    開発1グループ

  • 梶谷 健人
    梶谷 健人
    MESON
    代表取締役CEO

  • 小林 佑樹
    小林 佑樹
    MESON
    取締役COO

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