AI時代の生活者サービスとは ~デジタル先進国在住者から探る豊かな生活体験~
これからのAI時代、生活者に求められるサービスとは何か。デジタルは生活の豊かさをどこまで深化させられるのか。また我々だからできる提案価値とは何か――。そんな問いを持って海外在住の日本人を対象に行ったインタビューレポートと、国内で生活者サービスを展開する株式会社コネプラの実践例を紐解きながらディスカッションを行いました。
モデレーター
株式会社博報堂 グループメディアビジネス推進局
メディアインテリジェンス部
大野 光貴
スピーカー
株式会社博報堂 グループメディアビジネス推進局
メディアインテリジェンス部
新美 妙子
株式会社コネプラ
代表取締役社長
中村 磨樹央 氏
■デジタル先進国における生活実感とは

- 新美
- 「2024年世界デジタル競争力総合ランキング」によると、日本は67カ国中31位。特に企業の変化対応力、行政の推進力などDX活用の準備に関する評価が低いという結果でした。
ランキング1位のシンガポールの場合、国が主導してHEALTHY 365 という健康増進サービスを推進しています。企業が提供する商品やメニューを国民が利用し、ポイントも貯められ、アプリを活用して、お得に楽しく健康増進できる、国・企業・生活者にとって三方良しの仕組みになっています。デジタルを取り巻く環境や文化が違うため、この仕組みをそのまま日本で展開することは難しいですが、デジタル先進国の事例からヒントを得るために、私たちは各国在住の日本人10名に「生活実感インタビュー」を行いました。彼らが活用しているさまざまなサービスの中から生活・社会課題解決型サービスにフォーカスして、その価値をご紹介します。
① 生活サービス
アメリカ発のClass Dojoという学校サービスは、連絡や学習状況の可視化、行動評価などに活用されており、世界180カ国以上で導入されています。生徒と家庭の連携が強まったり、多言語対応によるコミュニケーション円滑化といった効果があるようです。ユーザーに話を伺ったところ、「学校に関するあらゆることが一つのサービスで完結でき、重宝している」「成績の透明性が高く、課題の達成度も教えてくれるので、親子の会話が自然に増えた」と話してくれました。学習能力に応じてテストが出題されるなど、子どもの成長を親と学校が見守ることができるこのサービスからは「可視化からポジティブなコミュニケーションが生まれる」という価値が見えてきました。
デンマークのチラシアプリeTilbudsavisは、店舗横断のお得な情報が集約されており、節約ができ買い物プロセスも効率化できます。ただこのサービスの価値は効率化という機能面だけではなく、家族で買い物リストを共有しているユーザーによると、「買い物リストがコミュニケーションツールになっている」という家族をつなぐという点にあります。デンマークは外食費が高く、基本的に残業もないため、家で作って家族が一緒に食べるという文化が背景にあるからこそ、このサービスが生活に根付いているようです。
ドイツの交通手段検索アプリOmioは、世界の列車、バス、飛行機などの交通手段が一括検索でき、予約、チケット発券まで、母国語かつ自国通貨で利用できます。ユーザーは、国境、交通手段、言葉の壁を越えたワンストップのサービスによって安心感を得られることに価値を感じると話していました。便利・効率という機能面だけではなく、安心感という情緒的価値が見て取れます。
韓国発の共同貯蓄アプリのカカオバンクは、カカオトークのネット銀行です。友達と共同アカウントで定額を積み立てているユーザーは、平等に貯めたお金を旅行費用として全員で平等に使うことが目的です。旅行が始まる前からワクワクしているそうで「ストレスなくお金と楽しみを貯められる」という、実際にお金を貯めるだけではなく、旅行に行く前から始まる高揚感という情緒価値を感じていました。
② 社会サービス
デンマーク発のフードロス削減サービスToo Good To Goはレストランやスーパーの余剰食品を割安で購入でき、現在世界にユーザーが広がっています。イギリス在住のユーザーは、このサービスが自分が知らない店を知る“きっかけ”になっていると話してくれました。フードロス削減に寄与するという社会貢献だけではなく、発見感がこのサービスの価値になっているようです。
アメリカ発分かち合いのコミュニティBuyNothingは、無償でモノやスキルのやりとりを行うサービスで、GPSの認証や住所の入力によって地域を特定して安心を確保しておいた上で、対面で取引が行われます。アプリ上の感謝を表明するボタンには、助け合いの気持ちを取引相手に伝えるだけではなく、地域に助け合いの文化を広げていくというサービスの思いが表れています。資源やスキルの有効活用に加えて、感謝の気持ちをベースにした地域のつながりの醸成がこのサービスの価値になっています。
韓国のフリーマーケットコミュニティ、ダングンマーケットはGPSの認証や実名登録で安全と安心は確保されており、基本は近隣住民同士による対面取引です。中古品の売買は、ただボタンを押して買うというより、コメントして話し合って決めることが多く、売買や助け合いだけでなく、交流が大きな特徴です。ユーザーによると韓国は初対面の人と話すハードルが低いという文化的背景もあって、このサービスが地元の人同士の出会いの場にもなっているとのことです。ダングンマーケットは情緒的なつながりを支えるプラットフォームでもあるようです。
最後は、マンション管理、住民、地域をつなぐシンガポールのコミュニティサービスiCondoです。居住認証で安心を確保した上で、アプリでは匿名投稿できるという安心できるつながりをつくっています。マンションという最も狭域のコミュニティサービスであるiCondoのユーザーはこのサービスの価値を「程良い距離感と良い形のご近所づきあい」にあると言います。ペットを預かってくれる人を募ったり、要らないものの売買や譲り合い、家の不具合の情報共有などを通して新たな関係も生まれているそうです。

■マッチングの最適化で生活アップデート
- 新美
- インタビューでは、「AIがバックエンドでマッチングを最適化して生活をアップデート」しているという発見がありました。
ポイントは4つ。
1つ目は、先生と家庭の円滑なコミュニケーションによる学校のコミュニティ化や、情報共有や助け合いによるマンション生活の充実といったハイパーローカルのサービスでの地域社会の活性化。
2つ目は効率化、可視化、透明性といった機能的価値と、ストレス軽減や不安感の払拭といった情緒的価値の提供。
3つ目は、買い物や交通などあらゆるシーンが一つのサービス内で完結するというシームレスな体験の設計。
最後のポイントは、実名を特定して安全を確保し、実際のやりとりは匿名使用で不安を排除するといった、安心で緩やかなつながりの創出です。これらの中でも、我々は、「安心で緩やかなつながりの創出」に着目しました。地域の関係性が薄まりつつある中で、日常の生活圏に新しいつながりを育むことは、これからのデジタルサービスに求められる生活の豊かさの方向性のひとつです。これを日本において具現化し、近隣同士の新たなつながりをデザインしているのがコネプラのサービス『GOKINJO』です。
■生活者どうしの心地良いつながりとは?

- 大野
- これからのつながりということで、ここからは、GOKINJOというサービスでマンションの住民コミュニティや運営管理をサポートする事業を展開している、株式会社コネプラの中村磨樹央社長を交えて話をすすめていきます。今回の調査の結果をふまえ、AI時代だからこそ生活者サービスに必要なこと、生活者同士が心地よいつながりを実現するためのヒントを探れたらと思います。まずは事業を通して何を実現しようとしているのか、教えてください。

- 中村
- 最初に、マンションをメインのターゲットとする我々の事業、GOKINJOの利用シーンについてご説明します。
たとえば子どもが使わなくなった自転車を誰かに譲りたいけど、フリマアプリは梱包が面倒だと感じるとき。あるいは子連れで気軽に行ける近くのお店を知りたいと思ったとき。同じような家族構成、世帯構成、さらには生活環境や志向性も近い同じマンションの住民に聞けたら解決しそうですが、近所付き合いが不得意な人にはそれも難しい。そんな住民同士のつながりを再構築するために、私たちがデジタルとリアルで構築したのが、GOKINJOという狭小地域特化型のコミュニティサービスです。
これまでGOKINJOでは、リアルでは防災訓練などのさまざまなイベント、シニアへのアプリ導入支援などの活動を行ってきました。
デジタルでは、情報交換や譲り合い、安否確認などさまざまな機能を持たせたGOKINJOアプリを展開しています。特徴の一つは、登録を部屋番号で行い、投稿はニックネームを使うということ。匿名だけだと誹謗中傷などのリスクがありますが、〇〇号室の誰かまで提示するには抵抗感があるということで、信頼性と匿名性のバランスを設計しています。
GOKINJOでは、子ども用品や食品のお裾分けなどの情報や、「高圧洗浄機を貸してほしい」といった困り事が出てきます。格安で大量の商品を「共同購入しませんか」といった呼び掛けもあります。こうした自分の便益主体――我々は機能的価値、経済的価値とも言いますが――の投稿が見られるのが特徴です。
「自転車の空気入れを買って共用しませんか」といった意見が出て、管理組合で購入することになった例もあります。住みよい場所にするために一人一人が参画する場になっているだけでなく、共通の趣味からサークルができたり、ゲーム会が開かれたりと、自主的なつながりも生まれています。
人づきあいの性質に目を向けてみると、積極的に自分からコミュニティ活動を行う人、何を言われても無関心な人、そして「自分からは積極的にはいかないけど、誘われたらやってもいいかな」というどちら側にも振れ得る人たち、の3つに大別できると考えています。この「誘われたら~」の層がコミュニティにおいてはマジョリティです。ですからこの層の方々にいかに興味関心を持ち続けてもらうか、自分ごと化してもらって、活動に参加してもらうかが重要になってきます。
我々はアプリにおいては、情緒的価値を意識してコミュニティづくりをスタートさせましたが、今では施設予約や安否確認など機能的価値も組み込んでいます。
コミュニティというのは情緒的価値も機能的価値も含めいろんな要素が複雑に絡み合って成り立っていて、それがゆくゆくは集合知となり、地域特性や文化的価値、そこに住む人たちのプライドになっていくと考えています。私たちが最終的に目指すのは、「町内会長やマンションの理事長など特定の人に頼りすぎず、一人一人が自分らしく気軽に行動でき、程良くつながりたい時につながれて、その地域ならではの集合知、文化的価値を築いていく」という姿です。各人の負担も小さく、持続可能な社会・つながりが築けると考えています。
■AIを活用し、公平で民主的で効率的なマンション管理を実現

- 大野
- ありがとうございます。AI を活用した新たなサービス、gAIbooについても教えていただけますか。
- 中村
- 我々は、AIの非人格性、感情を介さない点を、合意形成や意思決定に活用できないかと考えています。マンションでは、管理組合の重要な意思決定も感情に左右されてしまうことがあります。管理組合の構成員が、的確に「事象」について必要か不必要かを判断できるようになれば、効率的かつ効果的なマンション運営ができると考えています。具体的には、昨今日本でも増えつつある外部管理者方式を高度化しようと考えています。
外部管理者方式は、理事会がないから個別要望を却下しにくい、報告書などの作成が大変という悩みがあります。マンション住民の場合は、問い合わせの返事が遅い、意見を伝えたいけれども投書は面倒だとか、他の住民の意見も聞いてみたいといった悩みがある。これらを解決するのが外部管理者方式向けに開発しているgAIbooというシステムです。
gAIbooの3つの機能をご紹介します。まずは、各マンション毎に規約や議事録を読み込ませ、住民からの問い合わせにAIが回答する問い合わせ対応機能です。次に合意形成の可視化、簡易投票機能。そして、資料や議事録の自動作成機能です。
開発の背景となった実例の一つをご紹介します。理事会方式の場合、「エレベーターの内素材の色がおかしいから変えてください」という声に対し、管理者を含む理事会が判断して却下することが可能です。一方外部管理者方式の場合、多くは、管理会社に所属する管理者が理事会の担っていたマンション管理の執行業務を代行していますから、「色がおかしい」という住民の声に対して「いやそんな意見は他に出ていない」と一方的に却下することはなかなかできず押し問答になってしまう。そこでgAIbooを使うと、住民から受けた個別の要望に対してAIが簡易投票を実施し、何票以上集まったら検討する、あるいは何票以下ならやめておこうという結論が出せます。
議論を民主制の中で可視化し、鬱憤がある人にも納得してもらうことができますし、管理会社としても検討の正当性を維持できる。こういうことを私たちはAIを使ってやろうとしています。
- 大野
- 今後の展開も含め、AI時代の地域コミュニティサービスの将来像もお聞かせください。
- 中村
- 今後はAI活用との両輪の中で、人のぬくもりや汗をかくこと、手触り感などに対する価値認識が強くなっていくと考えています。その上で、地域の持続性という点で2つのポイントがあると考えています。
1つは拠り所となるプラットフォームづくり。
消費者向けのデジタルツールという、多くはSNSのような情緒的なものか、ある目的を達成するために使う機能的なツールに分かれます。それはそれで使い勝手に特化したもので重要なことだと思いますが、こと「地域コミュニティ」という点においては、多様な価値観・人が存在する中で、そのどちらかだけで解決できるものではありません。我々はGOKINJOを、機能的価値、情緒的価値、そして最終的にはその地域の文化を育てていけるような、多様でシームレスなシステムに育て、地域コミュニティの拠り所となるプラットフォームになることを目指しています。
もう1つは経済としての持続性です。
商業系のエリアマネジメントと異なり、収入減が限られる住宅地においては持続可能な仕組み、つまりエコシステムが生まれにくいのが実情です。
そこで我々は、GOKINJOアプリ、予約システム、ウェブサイト、町内会支援、ご近所コインを用いた価値の見える化、イベント、あるいはライブラリーやカフェの運営など現地でのスタッフ対応など…デジタルとリアルの施策が一体化したエリアエコシステムの仕組み提供を考えています。
街に広げて考えてみると、つながりができて助け合いが習慣化したらGOKINJOアプリが活性化する。するとそこに投稿される行政のメッセージや地元の商店からのクーポンが活用され、ハイパーローカルメディアとしての価値が生まれる。さらにその町が住みやすくなれば、移住促進の補助金が出て地価も上がり、地域がコミュニティ・つながりを軸にしながら活性化するというサイクルが生まれていくと考えています。
たとえばエリマネ(エリアマネジメント)1.0が、タワマンの1、2階を商業施設にし、上階をホテルと住家にするといった「ハード設計」のものだとします。エリマネ2.0は、そこにどう人を入れるか、どういう仕組みを作るかなどのソフト運用を加えたもの。ただ2.0も、ソフトを運営する人の重荷になってしまうと持続可能ではありません。我々が考えるこれからの時代のエリマネ3.0 は、個々人発意で、小サークル活動を行う人たちが複数出てくる姿を考えています。お譲りなどでAさんとBさんが出会い、コミュニティになり、スモールサークルができていく。そういう小さな繋がりの輪・きっかけが、至る所で起きてくる世界。そうすると持続可能性も実現できるのではないかと考えています。こういう世界観、エコシステムを作っていくのが理想です。
- 大野
- 社内コミュニケーション、地方自治やブランドコミュニケーションなどに転用可能なことはありますでしょうか。
- 中村
- GOKINJOを活用して、最終的にはDAO(自律分散型組織)の世界を実現できるのではないかと考えています。
たとえば近くの公園で遊具を刷新する場合、ブランコがいいのかベンチがいいのか、その公園をいつも使う近隣の子育て世帯住民が投票して決めえいく。地方自治体の予算の何分の1の用途を直接的な住民投票で決めるとすると、多くの人が改めて自身が住む地域や行政の取組に興味関心を持てる。そういうことができたらとても面白いと思っています。
また、お譲りにたくさん出品しているとか、地域の清掃活動など貢献活動をしている人ほどポイントがもらえるようにして、たくさんポイントを保有している人がもつ投票権が多いというような仕組みができれば、皆が自然と貢献活動に参加するのではないでしょうか。このポイントが地域通貨やクーポンと連動できれば、さらに地域全体での活性も促進される。こうした自律分散の在り方こそが、良いコミュニティの形成や地域住民の幸せ・持続可能な街づくりにつながるのではないでしょうか。そういう世界観をGOKINJOで実現できたらと思っています。
- 大野
- 中村さん、ありがとうございました。
これまで見てきたデジタル先進国の事例や中村社長のお話からは、ハイパーローカルだけれどグローバルにサービス提供している、強固なセキュリティで安心・安全を確保する一方で実際のつながりは緩やかである、地域に固有なサービスが普遍的に展開しているといった相反する価値が存在していることがわかりました。そのバランスをどうつくるのかということがAI時代の生活者サービスの提供価値として今後大切になっていくのではないでしょうか。
※収録されている内容は2025年10月30日時点の情報です
※肩書は取材当時のものです
この記事はいかがでしたか?
-
中村 磨樹央株式会社コネプラ 代表取締役社長神戸大学経済学部卒。旭化成入社後、サランラップの国内営業、化学品の海外営業を経て、2018年にMBA留学(IE Business School@スペイン)。IE最大のスタートアップイベント、Venture Dayファイナリスト。留学後は半導体部門および住宅部門の経営企画担当を経て、2022年4月に旭化成グループ発ベンチャー“株式会社コネプラ” を、旭化成ホームズ(株)と共同出資で創業。デジタル×リアルの融合で、狭小地域住民が「ちょうどよく」つながる新しいコミュニティの在り方を提案している。旭化成公認「起業家クラブ」発起人。
モットーは、情熱と絶対に諦めない執念。
マンション管理士、再開発プランナー、NewsPicksプロピッカー
-
博報堂 グループメディアビジネス推進局メディアインテリジェンス部 兼Hakuhodo DY ONE 広告技術研究室ラジオ局のビジネス企画開発部、メディアビジネス開発センター、データドリブンビジネス
開発センターなど新規開発系部署を経て、2018年よりナレッジデザイン局・ナレッジイノベーション局で主に海外のテクノロジーやメディアにおけるDXを調査。2025年より現職。 Hakuhodo DY ONEの広告技術研究部にも所属。
-
博報堂 グループメディアビジネス推進局メディアインテリジェンス部1989年博報堂入社。新聞局、メディアマーケティング局を経て、2012年よりメディア環境研究所所属、2024年KI局メディアインテリジェンスG、2025年より現職。これからのメディアビジネスとメディアの役割などを研究・インテリジェンス発信。


