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兆しから読み解く、メディアビジネス2026 ~ステーブルコイン、SNS、コマース、AIエージェント、変化の時代における広告会社の役割とは~
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兆しから読み解く、メディアビジネス2026 ~ステーブルコイン、SNS、コマース、AIエージェント、変化の時代における広告会社の役割とは~

2026年、メディアビジネスはどう変化していくのでしょうか。
博報堂 グループメディアビジネス推進局 メディアインテリジェンス部とHakuhodo DY ONE広告技術研究部のメンバーが集まり、現在の兆しから2026年を読み解く座談会を開催。
いま起きている変化を前向きに捉え、未来に向けてどのようなマインドセットが必要なのか。5つのトピックから、そのヒントを探ります。

 

1.ステーブルコイン経済圏 ~取引の仕組みの変化と新たなビジネスの可能性~

新美
今日は皆さんの研究テーマから、2026年を見据えたトピックを持ち寄っていただきました。まずは1つ目のトピック「ステーブルコイン経済圏」から始めましょう。ステーブルコインの実用化が始まりましたが、「価格が安定した仮想通貨」と理解してよいでしょうか?
そうですね、定義としては間違っていませんが、「仮想通貨」という言葉だけで捉えると、金融や投資だけの話に受け取られる可能性があります。
ステーブルコインは、そういう意味で仮想通貨とは異なり、生活も、仕事も、これからの経済活動をも大きく変えていく「デジタルアセット」です。
この20年で決済や通貨のデジタル化は進み、電子マネー、モバイル決済などさまざまなサービスが出てきました。そしてブロックチェーン技術が登場した後に、その上で動くデジタルマネーも生まれました。
一番有名なのはビットコインですが、ビットコインは投資・投機に向いている一方で、価格の変動が激しく日常の支払いには向きません。その課題を解決するために、ブロックチェーンの技術的な特徴を残しつつ、価格を安定させたのがステーブルコインです。
グローバルではドル建てのUSDTやUSDCが市場を独占していますが、昨秋から日本でも円建てのJPYCが登場するなど、国内でも注目が集まっています。ステーブルコインの入手方法はビットコインなど仮想通貨と同様、取引所を経由して、自分の入金額に相当するステーブルコインを受け取るというものです。
またステーブルコインの発行企業自体が自社の発行量に応じて、現金や国債を裏付け資産として購入し、それを銀行に預けて管理してもらうという裏側の仕組みもあります。
ステーブルコインの主な特徴を以下に述べます。
・法定通貨と連動していることで価格が安定していること。
・ブロックチェーンにより仲介業者を介さずにB to Bの即時送金・決済ができること。
・「プログラマブル」であること。スマートコントラクトという技術を使い、決済そのものを自動化できます。例えば「仕事の完了に応じて即座に報酬が支払われる」といった設計も可能です。

新美
具体的に、私たちの生活やビジネスはどう変わるのでしょうか。
生活においては、海外旅行先で両替せずにそのまま支払いができたり、個人間の国際送金や給与受け取りがスムーズになったりします。自国通貨が不安定な国のフリーランサーが、価値の安定したドル建てコインで報酬を受け取るといった利用もすでに始まっています。
ビジネスの変化を3つの視点で整理すると、まず1つ目は「取引の柔軟性」です。為替や決済の手数料を大幅に抑えることができます。これまで100円のキャッシュバックキャンペーンを行うのに150円のコストがかかっていたようなケースも、ステーブルコインならコストを低減でき、施策の幅が広がると思われます。
2つ目は資産運用・保全、支払い、送金、給与報酬の受け取りなど、「新興国を中心に生活者の利用が進むこと」です。海外旅行・出張の際にも両替の手間やコストが不要になります。今後、円建てコインを使ったインバウンド向けのキャンペーンなども考えられるでしょう。
そして3つ目は「取引決済の小口化・自動化」です。楽曲のサビ部分だけを販売するといった、細かい単位でのコンテンツ販売が可能になります。また、インフルエンサーマーケティングにおいて、投稿というタスクの完了ごとに即時報酬を支払う仕組みを作れば、彼らのモチベーション向上やキャンペーンのパフォーマンス改善にもつながります。ステーブルコインは単なる通貨のデジタル化ではなく、ビジネスモデルそのものを変える可能性を秘めています。
新美
通貨としての便利さだけでなく、小口ビジネスのロングテール化やインセンティブの設計など、経済の仕組みそのものに影響がありそうですね。

2.AI時代のSNS ~「交流の場」から、完結型の「消費インフラ」へ~

新美
続いて2つ目のトピック「AI時代のSNS」に移ります。
SNSへの生成AIの実装はどのような状況にあるのでしょうか。
大平
この1~2年、主要なSNSで生成AIの実装が急速に進み、ユーザー体験が変化しています。SNSの主な用途である「投稿」「検索」「視聴」「コミュニケーション」の4領域すべてで変化が起きています。
まず「投稿」では、誰もがクリエイターになれる環境が整いつつあります。TikTokでは写真からショート動画を生成できますし、YouTubeショートでは、 Google DeepMind の Veo 3 Fastが導入され、無料で 動画背景や音声付き動画クリップを簡単に作成できるようになりました(日本への導入は未定)。
次に「検索」です。SNSにも要約機能が導入されていますし、YouTubeのAI検索機能(米国の有料ユーザー向け)では、動画の内容をテキストで回答し、最適な動画クリップへ直接誘導してくれます。米国の掲示板アプリのRedditでも、膨大なコメントを集約して回答するサービスが登場しています。
「視聴」体験も変わってきています。テスト段階ですが、YouTubeではAIが動画コメントをトピックごとに要約したり、再生中の動画についてAIに質問して理解を深めたりできます。
そして「コミュニケーション」です。LINEでは独自のAIキャラクター作成や対話支援機能が登場しています。また、xAIの「Grok」では音声対話が可能なAIコンパニオンが話題になりました。若者を中心に、AIを悩み相談の相手とする文化が広まりつつあります。

新美
SNS上でユーザー体験を横断して支援する「AIアシスタント」の存在感も増していますね。
大平
はい。Meta AIはInstagramやFacebook内で画像・動画生成や対話ができ、例えば、友人とのDM上でAIと一緒に「旅行の計画」を立てることも可能です。
Xに搭載された 「Grok」は公開ポストをリアルタイム参照できる強みがありますが、一方でフェイク画像生成などのリスク対策として一部機能を有料化する動きも出ています。
こうした変化から、SNSは人との交流の場だけではなく、役割を再定義するときに来ていると思います。3つのポイントがあります。
1つ目は「SNS内での体験完結」です。
検索、視聴、コミュニケーションがSNS内で完結するように変化しています。例えば従来はSNSで興味を持った後、検索エンジンへ移動していましたが、今はAIが要約・補足してくれるため、「探す・見る・理解する」がSNSの中で完結します。結果としてSNSの滞在時間が伸び、その結果、より深い行動データが蓄積されるでしょう。
2つ目は、AIが「人の支援者」として定着すること。
AIが人の代わりに話すのではなく、翻訳や言い換えなどの補助によって人のコミュニケーションを滑らかにする役割を担います。
3つ目は「タイムラインの消費インフラ化」です。
従来は友人との交流が中心でしたが、今はアルゴリズムとAIによって「その人が好きそうなコンテンツ」が優先的に流れるようになっています。そして、日常のやり取りはDMへと、タイムラインは受動的なコンテンツ消費の場へと役割が分かれてきています。
新美
フォロー外の投稿が増えているのは、まさにアルゴリズムとAIによるものだったのですね。生活者接点のインフラとして、SNSを再定義するという視点が必要になるということが理解できました。

3.コンテンツとコマースの融合体験 ~コンテンツに商品が溶け込んで広告になる、「視聴即購入」が当たり前になる世界~

新美
3つ目のトピックは「コンテンツとコマースの融合体験」です。従来のプロダクトプレイスメントやライブコマースなどと何が違うのでしょうか?
高橋
今起きている最大の変化はコンテンツとコマースの融合が「コンテンツ」「コマース」双方のプラットフォームから進んでいることです。
コンテンツ側は「新規視聴者獲得と広告」に強みがあり、コマース側は「購買データと決済導線」という強みを持っています。この両者が交わる場所に生まれているのが「ショッパブル広告」です。
例えばAmazonは、ECの顧客基盤を活用してプライムビデオに、プライムビデオの広告からECへ相互送客する仕組みを強化しています。
一方のディズニーは、食料品配達のGopuffと連携し、広告から購入・配達までを完結させるQR広告を展開しています。また、EC構築支援のShopsenseを使って、番組内に登場したアイテムに似た商品をAIが選び、即座にショッピングサイトを立ち上げ、プラットフォーム上でコンテンツとECを完結させ、ユーザーを維持しています。

新美
生活者の体験は具体的にどう変わるのでしょうか。
高橋
主に「セレンディピティ」「レコメンド」「パーソナライズ」の3点が高度化します。
まず、コンテンツを視聴しながらウィンドウショッピングをするような感覚で、商品に出会い、買うことができるようになります。ディズニープラスでは、AIが番組をスキャンして登場商品を一覧表示する機能があります。NBCユニバーサルも、CM中に番組内の関連商品を購入できる二重構造の広告を出しています。
レコメンドについては、Amazonのショッピングアシスタントが象徴的です。雑誌パブリッシャーと連携して、ライフスタイルコンテンツを強化する流れになり、今後はユーザーの好みに合わせて、商品を欲しくなるようなコンテンツをAIが生成して提案する時代が来るのではないかと予想しています。
そして広告のパーソナライズです。Netflixは「モジュール式広告フレームワーク」を打ち出しています。これはAIが個々のユーザーや文脈に合わせて、広告素材を自動で組み替えて配信する仕組みです。
コンテンツと購買の距離が近くなることで、広告は「コンテンツに溶け込んだ有益な情報」へと変わり、広告の概念自体が変わっていくのではないでしょうか。
新美
コンテンツの世界観を壊さず、自然に欲しいものに出会える体験は、生活者にとってもポジティブな変化ですね。

4.AIエージェント・新常態 ~「人」だけでなく「AI」に向けたマーケティングへ~

新美
4つ目のトピックは「AIエージェント・新常態」です。
「AIエージェント」へ進化すると、何が起こるのでしょうか。
藤丸
2024年から2025年にかけて、GoogleやSalesforce、ChatGPTなどのサービスが次々と「AIエージェント」へと舵を切りました。これまでのAIアシスタントは商品候補を出すところまではやりますが、最終的な絞り込みや決済は人間が行う必要がありました。対してAIエージェントは、ユーザーの代わりに「実行」まで担います。
最大の価値は「ユーザーの要望にダイレクトに応えること」です。従来の検索エンジンはリンクを提示するだけで、内容の判断は人間がしていました。AI検索はそれを要約して答えをくれますが、エージェントはさらにその先、予約や購入といった作業まで肩代わりしてくれます。
このAIエージェントが常態化する世界では、マーケティングに3つの変化が訪れると思われます。
1つ目は「新たな広告設計」です。
AIエージェントがユーザーに最適な候補を提示している段階で広告を出したとしても、既に絞られた選択肢の中から判断しようと考えているユーザーにはノイズでしかありません。判断の邪魔をせず、比較検討の候補として自然に提示される「AIエージェントに最適化されたタイミングやフォーマットを考えた広告体験」が必要です。また、Googleが検討しているように、広告に割引が適用されるといった明確なメリットの提供も重要になってくるでしょう。
2つ目は「コミュニケーション対象の拡大」です。
購買の主体が人間だけではなく、AIということになると、私たちは「AIエージェント」に向けてマーケティングをする必要が出てきます。AIが「この商品はユーザーの課題解決に最適だ」と判断できるよう、構造化されたデータや論理的な情報をAIに伝えていく、新たなコミュニケーションが必要になります。
3つ目は「ビジネスモデルの変革」です。
AIサービスはサブスクリプションモデルが主流ですが、AIエージェントもサブスクリプションモデルがメインになると思われます。また、その先を考えると、「タスクの難易度に応じた課金」や「専門特化型エージェントへの追加課金」など、より柔軟な料金体系の可能性が広がると予想されます。将来的には、ユーザーのAIエージェントと企業のAIエージェントが裏側で交渉して取引を完結させる、といったAIエージェント間のコミュニケーションというシナリオも現実味を帯びてきます。

新美
生活者だけでなく、AIそのものを対象にしたマーケティングというのは非常に刺激的な視点ですね。

5.エージェンシーの未来図 ~部分最適ではなく、全体最適 広告会社の役割は「オーケストレーター」へ~

新美
最後に、AIが前提となる世界での「エージェンシーの未来」を考えたいと思います。グローバルな広告業界の潮流はどうなっているのでしょうか。
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非常に大きな転換点にあります。
これからのエージェンシーが生き残るための役割は、一言で言えば「AIを使いこなすオーケストレーター」です。クライアントの課題解決のために、人のクリエイティビティ、AIの効率性、データの分析力といったあらゆるリソースを指揮し、統合的なソリューションを提供しなければなりません。
オーケストレーターに求められる役割は3つあります。
1つ目は「テクノロジーR&Dガイド」。激変する技術の中から本当に使えるもの・使っていいものを選定し、導入を支援する水先案内人です。
2つ目は「ブランドの横断的・長期的設計者」。単発のキャンペーンではなく、ブランド体験全体を設計し、AIで浮いたリソースを本質的な戦略設計に注力させる役割です。
3つ目は「才能の培養」。AI時代こそ、クリエイティビティや戦略的思考をおろそかにできません。AIと協働できる組織文化を作ることが、エージェンシーの競争力に直結します。
いま起きている兆しを整理すると、まずエージェンシー各社の戦略が「ビジネスモデルの転換」や「コンサル力強化」へと明確に分かれました。そして、組織やデータなどの「サイロ(分断)」を統合されたシステムへと導く「オーケストレーション」が求められています。AIをパートナーとして統合しつつ、提供できる価値を模索していくのが、私たちの進むべき道なのではないでしょうか。

2026年のマインドセット

新美
5つのトピックを通して、ビジネスに向き合うマインドセットが見えてきました。
・ステーブルコインが取引の仕組みを変え、ビジネスの可能性が広がる。
・アルゴリズムやAIという変化によってSNSが交流の場から、AIが最適化する消費インフラへと変化し、SNSを再定義するときにきている。
・コンテンツに商品が溶け込み、コンテンツと広告の境界が消え、広告の概念が変わる。
・コミュニケーションの対象が生活者だけでなく「AIエージェント」にまで広がる。
・広告会社は、部分最適ではなく全体を統合する「オーケストレーター」になる必要がある

AIを協働相手に統合する役割を担いつつ、人にしかできないことを模索していくのではないでしょうか。
これらの変化を新しい可能性として前向きに受け止めることが2026年のマインドセットなのだと感じました。陳さん、最後にメッセージをお願いします。

グローバルのスピード感は凄まじいです。「単発の施策」ではなく、「ビジネス全体をどう変革するか」という経営レイヤーの相談が当たり前になっています。私たち自身が視座を高く持ち、変化をオーケストレート(指揮)していく覚悟が必要ですね。
新美
兆しを読み解くことで、私たちが取り組むべき課題が見えてきました。本日はありがとうございました。

※収録されている内容は2026年1月15日時点の情報です
※肩書は取材当時のものです

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  • Hakuhodo DY ONE 
    テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部
    2019年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 Hakuhodo DY ONE)入社。海外のビジネストレンドやスタートアップの動向調査を中心に、社内の新規事業の立ち上げ支援にも従事。
  • Hakuhodo DY ONE 
    テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部
    2023年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 Hakuhodo DY ONE)入社。
    ソーシャルメディア、動画配信プラットフォームなど国内外のメディア領域の調査を担当。
  • Hakuhodo DY ONE 
    テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部
    2020年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 Hakuhodo DY ONE)入社。アドテクやソーシャルメディア、生活者に近いテクノロジーを中心としてデジタルビジネスのトレンド調査、事業開発に従事。
  • Hakuhodo DY ONE 
    テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部
    2021年 デジタル・アドバタイジング・コンソーシアム(現 Hakuhodo DY ONE)入社。広告技術研究部では新卒時から先端テクノロジー領域の調査を担当し、直近では生成AI領域で注目のトレンドやAIツールについての調査に従事。
  • Hakuhodo DY ONE 
    テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部長
    2023年 Hakuhodo DY ONE入社。テクノロジーR&D本部 研究開発局 広告技術研究部にて、先端テクノロジーや海外エージェンシー・法規制の調査を軸に、広告領域への応用可能性を分析。AI・センサー・半導体・ゲーム・UGCなど幅広い技術潮流を俯瞰し、企業の事業機会創出に向けたナレッジ提供および新規領域の研究開発を推進。
  • 博報堂 グループメディアビジネス推進局メディアインテリジェンス部
    1989年 博報堂入社。新聞局、メディアマーケティング局等を経て、2012年よりメディア環境研究所所属、2024年KI局メディアインテリジェンスG、2025年より現職。これからのメディアビジネスや生活者にとってのメディアの役割などを研究・インテリジェンス発信。