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ヒット習慣予報 vol.351『休憩所コミュニティ』
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ヒット習慣予報 vol.351『休憩所コミュニティ』

こんにちは。ヒット習慣メーカーズの永井です。

私が住む北海道では雪まつりシーズンを迎え、本格的な積雪と寒さに堪える日々を送っています。子どもの頃は初雪に心躍らせたものですが、今では寒さにめっぽう弱くなってしまい、自分の子どもが白銀の世界にワクワクしているのはまったく共感できないものになってしまいました。
とはいえ、子どもの相手をしないわけにはいかず雪遊びにお出かけしようとすると、ある事実に直面します。それは街なかに休憩所が少なすぎる問題。自宅周辺にはいくつか公園があるものの、ひとたび街に繰り出せば腰を掛けられる場所は少なく、杖で歩くお年寄りや小さなお子さんを抱っこしながらすり足歩行している親御さんにとっては、そうとう辛いものだろうな…。そんなことを思う今日この頃です。
急速なまちの再開発が進む中で、経済合理性や防犯対策からベンチなどの休憩所は少なくなってきているそうです。下記のGoogleトレンドでは、「休憩所」の検索数は少しずつ上昇傾向にあり、私と同じように「疲れたな」と感じて、ちょっと一休みできるところがない。カフェはどこも混んでいてすぐには入れないし、街なかに公園やベンチも少ない。なんて不満に思っている人は増えてきているのかもしれません。

出典:Googleトレンド「休憩所」で検索

また、休憩所や公園は単に休める場所だけではなく、コミュニティづくりにおいても重要な役割を果たしています(同僚と仲良くなれる喫煙所がまさにそうですよね)。そんな中で、ここ最近、一般的な休憩所や公園とも異なる休憩スポットが新しいコミュニティづくりの拠点としてにわかに注目されています。今回は、リサーチの中から見えてきた休憩スポットから生まれるコミュニティの兆しを「休憩所コミュニティ」と題して、具体例とともにご紹介したいと思います。

まずひとつ目が、"自宅内"に「休憩所コミュニティ」です。
30歳を過ぎると、戸建て住宅を建てたり、分譲マンションを買ったりする同世代が増えてきました。先日、自宅をリノベーションした建築家の友人宅へ新居祝いに訪れると、なぜか見知らぬ若者たちが入れ替わり立ち替わりで訪れていて、不思議に思って話を聞いてみると、友人たちが自由に使えるよう有償で一室を開放しているとのことでした。普段は自分用で使いながら、要望があればホームパーティーや雑誌の取材インタビューにも使える貸しスタジオとしても運用し、特定の目的を持たない部屋を自宅の一部として設計したそうです。いわゆるSOHO(Small Office Home Office)のように、共有スペースとプライベート空間がパキっと分けられておらず、ともすると赤の他人に私生活が丸見えなのも驚きです。かなり特異な例かと思いますが、このようにプライベート空間に他者を招き入れる余地をつくる物件がその友人曰くにわかに増えているそうです。

もう少し身近な事例が、"ベンチ"で「休憩所コミュニティ」です。
最近、ある街を訪れたとき、自宅前にベンチを設置している家がやたらと多いエリアを発見しました。ある場所では妙齢の婦人が集まり、ある場所では若者がたむろして、ちょっとした地域の交流拠点になっていました。そもそもなぜベンチが設置されているのか調べてみると、もともとは高齢者がお出かけするときの一時的な休憩所=とまり木ベンチとして、家主と市民団体がボランティアで設置したものらしいですが、次第に近所の人が何をするわけでもなく集いはじめたそうです。思い出してみると、私が生まれ育った田舎町では、土地を持て余している豪邸が近所の人たちの憩いの場になっていたり、バスの待合室が地元のおばあちゃんたちのおしゃべり場と化していたり、かつて井戸端会議が繰り広げられた日本家屋の縁側のような存在ともいえそうです。効率性や合理性が重視され、どことなく窮屈なまちづくりが進む中、地域コミュニティづくりに一役を買っているひとつが「ベンチ」といえそうです。

最後は、"オフィス前"の「休憩所コミュニティ」です。
先ほど紹介した事例は特定の地域だけの話に思えますが、自由に休める場所は都心部でも徐々に増えてきています。ここ最近のオフィス街の再開発では、その中心にビルではなく公園のようなパブリックスペースが設計されることが多く、若者たちが仕事帰りにワン缶(お酒を1本だけ飲み交わす飲酒スタイル)したり、仰向けで寝そべりながら談笑していたり、オフィス街に似つかわしくないさまざまな使われ方がされています。仕事仲間と肩肘張らずに気楽に話せて、早めの解散をしても気にしなくていい点がウケているそうで、オフィス街がまるで京都・鴨川のようになっているのです。実は私自身もオフィス前を流れる小川で、恥ずかしげもなくボーっとしてから帰宅するのを習慣にしており、やり始めた2018年当時は自分とお散歩中ののおじいさんしかいませんでしたが、今ではたくさんの老若男女がたむろしており、時代のインサイトを感じます。

さて、いくつか事例を紹介してきましたが、なぜ「休憩所コミュニティ」が注目されているのでしょうか。
ひとつは、休憩所の持つ無目的性にあると思います。タイパ・コスパの時代、人との出会いや付き合いも目的意識や合理的なものを求めてしまいがちですが、その予定調和感が日常生活を窮屈にしている部分もあるかと思います。無目的だからこそ生まれる偶発的な出会いや会話のキッカケを、意図的に生み出すための装置として生活者は求めているのだと思います。
もうひとつは、他者とゆるくつながれる点だと考えます。働き方は多様化し、プライベートではSNSで常時接続される時代。時間も人間関係も公私がパキッと分けにくく、人付き合いにおける悩みのタネは尽きません。その中で、ビジネスライクな関係でもなく、深入りする友人関係でもない、パブリックとプライベートの中間であるセミパブリックな関係性は、無理することなく孤独感を癒やしてくれる「ちょうど良さ」があるのではないでしょうか。

最後に、「休憩所コミュニティ」のビジネスチャンスについて、少し考えてみました。

「休憩所コミュニティ」のビジネスチャンスの例
■自宅の空き室や庭を時間単位で貸出できるレンタルサービスの開発。
■お菓子や飲み物、足湯などくつろぎサービスが付帯したバス待合室の設置。
■再開発中の空き地を活用した移動式休憩所の設置。
など。

なにかと目的意識や合理性を求められる時代ですが、気の合う仲間たちと無目的に過ごす時間も大切にしていきたいものです。

▼「ヒット習慣予報」とは?
モノからコトへと消費のあり方が変わりゆく中で、「ヒット商品」よりも「ヒット習慣」を生み出していこう、と鼻息荒く立ち上がった「ヒット習慣メーカーズ」が展開する連載コラム。
感度の高いユーザーのソーシャルアカウントや購買データの分析、情報鮮度が高い複数のメディアの人気記事などを分析し、これから来そうなヒット習慣を予測するという、あたらしくも大胆なチャレンジです。

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  • 北海道博報堂
    ヒット習慣メーカーズ メンバー
    2018年北海道博報堂に入社。2020年から2024年まで博報堂統合プラニング局、生活者エクスペリエンスクリエイティブ局へ出向・複属。クリエイティブストラテジストを自称し、戦略からアウトプットまで考えるのがお仕事。夢は多拠点居住で、日本の地域カルチャーをこよなく愛する。