存在感を増す”グランフルエンサー”の実像 後編【Media Innovation Labレポート45】
シニア世代を始めさまざまな世代に影響力を持つグランフルエンサー。
世界的に進む高齢化により、国内外でその存在感が増しつつあります。年齢を感じさせないアクティブな活動で、Z世代からも支持を集めるグランフルエンサーの実像や、期待されるマーケティング価値などについて、Hakuhodo DY ONE 広告技術研究部の陳辰と同社令和シニア研究所リーダーの吉川真紀子に、Hakuhodo DY ONE 研究開発局長 兼 Media Innovation Labの永松範之が聞いていきます。
前編はこちら
■国内外で話題を集める多種多様なグランフルエンサーたち
- 永松
- グランフルエンサー自身や、彼らをフォローする人にはどのような特徴があるのでしょうか?
- 陳
- 今の80歳の方々は1940年前後に生まれ、戦前戦後で価値観や社会状況が様変わりした世代です。その後高度経済成長がありバブルがあって、バブルが崩壊して…と、激動の社会を生きてきた。常に価値観を更新し続けてきた現代のシニアは、新しいものへの受容性も高くなるのだろうと思います。時間もできたし新しいライフスタイルも可能になり、デジタルも使えて、新しいことにどんどん挑戦できるようになったシニア層の中で、グランフルエンサーとして、インターネット上に自分の国を作るかのようにチャンネルを作っていくような方たちの姿は、それほど不思議には映りません。高齢でありながらアクティブに挑戦し、身近でありながらちょっと憧れる存在でもある。相反する魅力があるのだと思います。
(前編にて述べた通り)Z世代とグラン世代の類似性はアメリカでも顕著で、グランフルエンサーは同世代への影響力はもちろん、Z世代の若い世代へのアプローチも期待できるという特徴があります。
たとえば、あるアメリカのファッショニスタ系グランフルエンサーの主なファン層は、18歳から34歳の女性で、彼女のボディポジティブさや、鮮やかな色使い、セクシーなファッションが評価されています。若者にとっては、キャラクターとしてのかわいらしさに惹かれると同時に、人生の先輩として憧れの対象にもなる。最近はSNSで飾り立てることに疲れたZ世代がリアル志向に行く傾向もあるので、グランフルエンサーの等身大でのびのび生きる姿が評価されているという考察もあります。
- 吉川
- 多様性の中のひとつとして年齢も捉えられているのかしれません。今は生き方を示してくれる人と捉えて、受け入れているのかもしれませんね。
- 永松
- 実際に、どのような領域で活躍しているインフルエンサーがいるのか教えてください。
- 陳
- ではまず多様性といえば、アメリカのThe Old Gaysは、平均年齢75歳、陽気なゲイ・ソーシャルメディア・パーソナリティで、LGBTQ関連の情報発信をしつつ、マイノリティシニアとしての助言などで人気です。
そして同じぐらい人気なグループとして、Retirement Houseは、シェアハウスに住んでいるという設定で、俳優出身のメンバーがコントのようなドタバタ劇を繰り広げます。脚本を担当する若いスタッフも一緒になってやっていて、TikTokで570万人、インスタグラムで181万人に広まっている。日本にも、似たコンセプトのらくらくシニアライフがTikTokで23万人フォロワーがいるなど人気です。
また先ほどお話にも出ましたアメリカのファショニスタ系グランフルエンサーがHelen Van Winkleさんだが、、カラフルな服装が目を引く96歳のおばあちゃんで、孫娘の投稿がバズった後、歌手のリアーナがフォローしたことでより注目されるようになりました。
中国のDouyinでは、我是田姥姥(田おばあちゃん)という、「近所にすごく面白いおばあちゃんがいる」といった雰囲気で日常の面白い瞬間を切り取るアカウントが人気です。フォロワーは3500万人で、Z世代のお孫さんがサポートしています。ファン層は18~34歳の女性が中心です。
教養系では、アメリカの宇宙科学者、Neil deGrasse Tysonさんが天体にまつわる解説をしてくれるTikTok動画が人気です。中国では犯罪心理学の専門家が、実際の事件を起こした犯人の心理を紐解き、解説するBilibiliの動画が人気です。
国内ではファッションや料理で支持を集めるきょうこばぁばさんが有名で、35歳~64歳の女性からの支持を集めています。きょうこばぁばさんのプロデューサーでもある森田さんに取材したところ、森田さんが元々介護施設で理学療法士として働かれていた際、高齢者になんとか積極的に運動してもらえるよう、彼らがよく見ているYouTubeを通した発信を思い立ったそうです。
- 吉川
- 日本でも「ひろちゃん農園」という農業について解説するYouTube動画が人気ですよね。農業に関する専門知識をかなり詳しく語ってくれて、毎日アップしている。登録者数は27万人以上で、主なファン層は45~64歳。紹介された農機具などがすぐ売り切れるくらいの人気だそうです。
孫世代から見て「うちのおばあちゃんいけてるな」「かっこいいな」というところが発端になっているケースが多く、収益化できるので、サポートのモチベーションにもなっているのかもしれませんね。
■Z世代に刺さるのは、年齢をはねのける力強さやクールさ
- 永松
- シニア世代に対するマーケティング手法とはどういったものか、また最近のトレンドなどについて、吉川さんからお願いします。
- 吉川
- 具体的なシニア向けの施策として、直近で実際に提案しているものをご紹介します。
前提として、60代のシニア層は、情報収集にデジタルを盛んに活用する一方で、他世代と違いKOL(Key Opinion Leader)に対してまだそれほど強い意向を示してはいません。
というのも、KOLは、「SNSのリアルの声は信じられる」という若い世代に主に支持され、生まれてきたものですが、上の世代は自分で調べて情報を精査することに自信がある世代でもあるんです。彼らの検索率の高さからもわかるように、何かしらの情報に接触するとまずは自分で調べてみるという世代なので、KOL発信の情報には工夫が必要そうです。ですので、芸能人やタレントからの発信というよりは、きょうこばぁばさんのような等身大の同年代インフルエンサーや、同年代よりもさらに上の世代(人生の先輩)のインフルエンサーの起用が良さそうです。
また、シニア世代には実は起業する方も多く非常にチャレンジに取り組んでいる世代なんです。でも、そのような今のシニア世代像を意外と当のシニア世代自身があまり知らなかったりするんですね。そのためそういった内容を特集記事にしたり、広告あるいはタイアップ記事を制作しながら、その中でサービスを見せていくような施策を提案しています。
たとえば、60代で介護を経験した後に起業している方を取り上げ、パーティーでの席である商材の試食をしていただき、現場の生の声を拾っていくといったタイアップを提案しています。
他にもタッチポイントとしては、この層に特に有効なYouTubeを提案したり、検索面で接触できるよう、SEOをやって記事に触れていただくなどの認知施策を実施しています。
- 永松
- ありがとうございます。次に、陳さん、グランフルエンサーの今後の活用の可能性や、何か気をつけることなどがあれば教えていただけますか。
- 陳
- アメリカでは、Z世代に向けてグランフルエンサーを起用する例がいくつか出てきています。例えば、通信会社のVerizon社がLGBTQへのアプローチとして、昔風のクイズ番組を作ってLGBTQの取り組みについてアピールしつつ、法的に家族と認められていなくても同社の家族割を使える点をアピールしています。Carnival Cruise Lineというクルーズ会社は、元人気アメフト選手を起用し、クルーズ船上で引退後のラフスタイルを疑似体験するシリーズを展開しています。
国内においては、まだこのようなグランフルエンサー自体を活用した事例は多くなく、市場としてまだ確立しきっていないのが実状です。
いずれにしても、グランフルエンサーを活用したマーケティングの価値としては、「ユニークで印象的なキャンペーン」ができること、「LGBTQなど社会的価値観へのブランドの姿勢をアピール」できること、また「セグメントに特化した深い浸透力」が期待できたり、「深い見識から信頼性の高いコンテンツ」が提供できるなどといった点があります。
- 永松
- 数が増えていくシニア世代向けのマーケティング手法として、価値があるのはもちろんのこと、Z世代など若い世代への訴求力もあるし、ロングラン商品の再発見などにも有効ということですね。
- 吉川
- 今回ご紹介したインフルエンサーの方々は70歳、80歳を超えていて、Z世代から見ればそれだけで、経験や知識だけではなく人間としてすごさを感じているように思います。
また、多様性やインクルーシブのテーマなどに対して、これだけ上の世代になるとちょっと突き抜けた感覚があるというか、「ありのままで生きればいいんだよ」という力強さがある。それもZ世代に非常に刺さるのではないでしょうか。
- 陳
- 実際に、グランフルエンサーの多世代への“刺さり方”については、調査論文も出ています。若者世代はグラン世代に対して、年齢のイメージを跳ねのけるのがクールだと思っているし、実際に信頼性があるというふうに見えています。また、グラン世代自体は孫世代に対して、両親よりも愛情深く、寛容になりやすいといった点もポイントです。
■私たち自身の思い込みをなくしていく必要がある
- 永松
- 対シニア世代のマーケティングや、グランフルエンサー活用についての今後の可能性などについて、お2人それぞれから意見をいただけますか。
- 陳
- そもそも広くインフルエンサーという存在自体が、トレンドとして今後ますます重要になっていくと考えます。
その中でのグランフルエンサーに目を向けておく意味はあると思います。国内での盛り上がりはまだまだですが、こうしたトレンドがアメリカで着実に生まれ、活性化しているので、日本においてもその流れがやってくる可能性は十分あると思います。
また、個人で活動されている方が多いので、事務所と連携したり、ネットワーキングしていくなど、今のうちからアプローチの準備を始めておくと効果的かもしれませんね。
- 吉川
- 今、年齢がどんどん記号化していっており、確実に「消齢化」が進んでいると実感しています。
その一つがこうしたグランフルエンサーの兆しであり、あらゆる世代から評価される存在が出てきているということなのではないかと思います。これまでのシニアマーケティングでは、なるべく同じ立場の共感性の高いリアルな人を起用すること、ペイン型の課題解決型プロモーションが定石ではありましたが、世の中の価値観は確実に変化してきています。シニア世代が本当に多様性に満ちているということをふまえ、プロモーションとしてのゴールは何かという点を再度見つめつつ、マーケターとしての私たち自身の思い込みをなくしていくべきではないかなと思います。
- 永松
- ありがとうございました!
※Media Innovation Lab (メディアイノベーションラボ)
博報堂DYメディアパートナーズとHakuhodo DY ONEが、日本、シリコンバレー、アセアンを活動拠点とし、AdX(アド・トランスフォーメーション)をテーマにイノベーション創出に向けた情報収集や分析、発信を行う専門組織。両社の力を統合し、メディアビジネス・デジタル領域における次世代ビジネス開発に向けたメディア産業の新たな可能性を模索していきます。
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Hakuhodo DY ONE
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局 広告技術研究部
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Hakuhodo DY ONE
新規テクノロジー事業開発本部 研究開発局長 兼 Media Innovation Lab