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メタバース生活者たちと共にデジタル世界のこれからを考える vol.1 メタバース生活者と『人間関係』 ~リアルな属性や外見にとらわれない自由でアクティブな人間関係~
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メタバース生活者たちと共にデジタル世界のこれからを考える vol.1 メタバース生活者と『人間関係』 ~リアルな属性や外見にとらわれない自由でアクティブな人間関係~

博報堂は、2024年11月に、メタバース空間における新しい生活者価値の創出と、イノベーションを生み出すことを目指し、研究員全員がメタバース生活者当事者によって構成されたコミュニティ型プロジェクト「メタバース生活者ラボ™」を設立しました。

本連載では、メタバース生活者ラボの理念に共感いただいている、メタバース生活者当事者でもあるゲストとの対話を通じて、メタバース生活者の未来を探求していきます。

第一弾は、国内最大級のメタバースプラットフォームであるクラスター株式会社代表取締役CEOの加藤直人さんをお招きして、「メタバース生活者と、人間関係」について語らいました。

※本ラボにおける「メタバース生活者」は、「バーチャル空間上で、自身のアバターやキャラクターを通してコミュニケーション等の行動を実施する」すべての生活者を対象としています。

■年齢や性別にとらわれず、気軽に「新しいコミュニティ」に飛び込める“究極の多様性空間”

瀧﨑
皆さんは普段、様々なメタバースにおける「人間関係」について感じていることや気になっていることはありますか?
加藤
メタバース空間には、コミュニティとか人間関係がたくさんあります。例えばクラスターでは、コミュニティが沢山あるんですけど、中心となっているのは実は主婦の方ですね。主婦の方同士でイベントを開催していたりします。

女性比率自体は49パーセントですが、コミュニティの中心として発言をしている人は女性が多い印象です。ちょっと放置して家事をして戻ってきてみたいな(長時間利用する)使い方をしている人も多いと思います。

最近では、特に10代、20代の男性が多いイメージを持っている人も多いかなと思いますが、そんなことはないというのが面白いとこですね。

瀧﨑
女性ユーザーの多さには、どういう背景があると思いますか?
加藤
基本背景はバラバラ。テレビで見ましたとか、なんか面白そうと思って見に来てみましたとか、そういうきっかけが多いですね。そういう意味では「アバターでなんか作ったりできるらしい」みたいな(気軽な)感じで入ってくれる人もクラスターは多いです。
瀧﨑
背景は、実際バラバラなのかもしれないですね。
ただ、私も女性コミュニティの盛り上がりを感じているところがあります。やはりリアルでは、「女性だから」という理由で、体験できないこともあると思うのですが。それが、メタバースであれば、一人でどんなところにも行けたり、気軽に知らない人に話しかけたり、気軽にいろいろなことにトライできるという側面もあるように感じます。

加藤
そうですね。
一方で、メタバースでは「年齢や性別がバラバラの人たちが仲良くなっている」ということもあります。現実世界で年齢や性別がバラバラの人たちが仲良くなるのは難しいですが、メタバース空間では、蓋を開けてみたら本当にそういう人たちの交流が結構行われているんです。

もう10代と40~50代の方とかが仲良くなったりすることは普通に発生しているし、「女性だと思っていたら、男性だったのか」ということも普通に発生しているので。究極の多様性みたい感じで、面白いです。

平沼
メタバースプラットフォームと方向は違うかもしれないですが、割とFPSゲームを親子でやる人が多いイメージもあります。「子供がやっているから始めた」という感じで、小学生たちのパーティーにお母さんが一人で入っていて、10代前半の子と40代のお母さんが本気で喧嘩しちゃうこともある。

瀧﨑
実際、「年齢差が気にならない」ことは、アバターを通して一番体感します。以前お話を伺った方では、教員の方が生徒とFPSゲームでパーティーを組んで一緒に戦って、その時に本音を聞いているとお話されていました。
私の場合は、就職活動の際に「MMORPGをやると、自分に合っている企業がわかるのでは」と話していたこともあります。多様な人と交流をしたり、「自分はどんな(ゲーム内の)チームが合っているか?」と考えて試したりすることが、就職活動の参考にもつながると感じました。

瀧﨑
ある種、「失敗が許される場」でもありますもんね。
(現実世界と違って)すぐに辞められるということも大きいですよね。
瀧﨑
人間関係のトライアル的なところの一面もあるのかもしれませんね。

ちなみに最近クラスターさんでは、就職の説明会とか企業の交流会でやられていらっしゃいますが、こちらはどうでしょうか。

加藤
就職活動や企業の説明会でも使っていただいたくことが結構多いです。
最近は、リアルでもオンラインでも「リアクションが返ってこない」という声をよく聞くのですが、大人数のオンライン説明会をしても全然反応が来ないのに対して、クラスター上で実施すると、ゲーム的な感覚なのか、参加者から拍手が起こりやすかったり、コメントも書かれやすかったりします。

子どもの本音を聞くためにゲームを通して交流するということに近しいですね。

ちょっと違う話ですが、バーチャル空間では自閉症の子や視線恐怖症の子が話しやすいという結果もあるらしいですね。リアルは「見られている、目が合うのが怖い」となってしまいますが、バーチャル空間だとそれが和らいでしゃべる言葉が出てくる。表情恐怖症という相手の表情を見て喋れなくなってしまうような子が普通にコミュニケーションできるそうです。

三浦
アバターは、人間関係を構築する上ですごく重要な課題の一つなんだなと思いました。

関連して、メタバースでは「人の、見た目への言及から入れる。」のも特徴。
リアルで話すときは、人の見た目(に関する言及)から会話を始められないけど、メタバースではそこから入ることで一気に距離を近づけることができるのは、いい特徴の一つだなと思います。だから友達とかもも作りやすいもかもしれませんね。

「見た目」の情報が変わることで、リアルだけでは絶対に交流しなかったような地域の人とも交流できますよね。
瀧﨑
メタバースには、バーチャルツインを作ろうとする傾向もありますが、「リアルの自分とは違う姿になれる」ということが、メタバース空間ならではの体験と結びついているのかもしれませんね。

■“多様性”あふれるメタバース空間だからこそ、「自分自身」の成長の場にも

瀧﨑
人間関係を構築するときに、気をつけていることとかありますか?
佐野
メタバース空間では、とくに初めて会う方に対してすごい気をつけようという気持ちがあります。特定のイベントに行って、「怖かったんですよ」みたいな話を他の人にしたときに、「そこで楽しんでいる人もいるんだよ」ということを言われて、ハッとしたんです。

普段生活している中では、なんとなく自分の価値観に似ている人たちが集まってくるので強く意識できていなかったが、自分の価値観を押しつけるのは本当に良くないんだなと実感しました。

瀧﨑
ありますよね。
私も、見た目ではどんな人たちか、性別すら全くわならないので、実は自分が話していることがもしかしたら傷つけているかもしれないとより意識しました。メタバースを通して、成長した気がします(笑)
加藤
ネガティブなコミュニケーションに関して、メタバースならではの問題もありますよね。
現実世界だったらつきまとい等の迷惑行為をする人がいれば、(警察が)逮捕をしてくれるけど、バーチャルだったらそんな逮捕とかないからこそ、自分で「ブロック機能」などを使うしかない。
瀧﨑
ある種、「ブロック」は抑止力になっている気もします。(相手が)自分でブロックできるからこそ、人間関係をより慎重に行おうとする部分もありますよね。
加藤
あとは現実世界を物理的に離れるっていうのができますしね。
身体を拘束されないがゆえに、ブロック機能は賛否両論あるんですけど、ないとそれは困るんですよね。

こういう環境が作り出しているコミュニティとか人間関係は面白い。メタバースは気軽に「試せる」っていう話をしましたけど、「リセット」もできる。ただ、リセットするのはもちろん大変なんですけど。

平沼
逆に、「最悪嫌だったら別にブロックできるから」という理由で、結果的に過激な発言が増えている部分もありそうですよね。
瀧﨑
非常に難しい問題ですね。メタバースにおける「法」的なテーマは、今後メタバース生活者ラボで個別にも探求してみたいですね。

■「見た目」や「利害関係」にとらわれないからこそ、自由に人間関係が構築できる

瀧﨑
「より親交を深めた」体験については、ありますか?
加藤
僕はメタバースで出会って結婚しましたけど、そういう人も、付き合っている人もめちゃくちゃメタバースにいますね。数えるのをやめるくらい。

なので、人間関係深めるツールとしてはすごくいいんだろうなと思いますね。
見た目がね、バリアにならない。

瀧﨑
面白いですね。
「かわいいね」などの「見た目についての言及」から入れるけど、(関係構築の場合)見た目がバリアにならないという。
加藤
妻と最初に会ったのがクラスター上なんですけど、それまでリアルであったことなくてっていう感じだったが、バーチャルで結婚式をあげると、普通だったら呼ばないような人たちを集めることができるっていうのはすごい面白いところだなと思いましたね。
人間関係を深めるハードルが低いというのもありますよね。
同じサービスを十何年やっていくと、現実世界の利益関係に全くなくて、本当に何でも相談できる友達もいれば、自分のバックグラウンドを分かってないからこそ話せることもいっぱいあったりする。リアルの友達より深い関係の人が一人二人くらいはできている。

■企業がメタバース空間で生活者と関係を構築するために必要なのは、「当事者目線」を持つこと

瀧﨑
そんなメタバース空間の中で、企業が生活者の方と人間関係を構築するためにはどうしたらいいのでしょうか?うまくいっているケースなどはありますか?
加藤
2パターンあると思います。

1つ目のパターンは企業自体が、生活者と1つのコミュニティをつくること。

うまくいっているケースでは、企業の担当の方自身が色々なイベントに出没する。SNSを使いながらではあるんですけど、(企業の)人格をコミュニティの中に送り込んじゃうっていうのが、まず1つうまい使い方だなと思っていますね。

もう1つは、「場自体を提供している」というケースが何個かあります。
最近だと「模試を実際に受けられる」場があって、バーチャル上でコミュニティになる。

都市部に住んでいると気づかないですけど、やっぱり地方に住んでいる人たちは模試を学校で実施するのに人数が足りてないケースもある。そういう子たちが普通にバーチャルで模試を受ける、受けている人たちがコミュニティで繋がる、模試を受けられるようになる。

なので、今まで「できなかったこと」を通じてつながることができる、そういう機能を提供している企業さんですね。

瀧﨑
1つ目は、「企業自身が当事者になる」ということですね。
2つ目は、メタバース生活者に目線を合わせることや、「(彼らが)現実ではできないことは何なのか」ということをちゃんと見極めるということが、大切なように感じました。

■メタバース生活者にとっての「人間関係」の未来

瀧﨑
最後に、5年後に彼らの「人間関係」はどう変化すると思いますか?
三浦
自分の分身のAIアバターを作って、平日働いているときはバーチャル空間に放置させて、色々な人と会話してもらって…週末に入る前にログを見て再生して「こういう人と話したんだな。」「じゃあこの人、もしかしたら結構長期的にフレンドになれるかも。」というように、フレンドを作る前の確認じゃないですけど、自分以外の自分の分身にさせられるのかなと思う。
瀧﨑
放置しておいた「自分自身」から、効率的に学びを得るのはありかもしれないですね。しかも、嫌なことも分身に体験しておいてもらえば傷つかなくて済むのかも。
三浦
スマートフォンで過去に撮った写真を見返すかのように、(見返すこと自体を)楽しめたらいいですよね。
加藤
5年というか、もうちょい長い未来かもしれないのですが。
インターネットサービスは利便性を追っていくところから、ウェルビーイングを追っていく流れに変わっていっているんじゃないかというのはすごい最近感じています。

いわゆるメディアを見る、コマースでモノ買うというような、受け身な活動はすごく発達したけど、でも基本的に一方通行。(生活者の)アクティブな活動も含めた、双方向性のある価値というものがどんどん伸びていくし、それを追っていく世界になっていくと思う。

メタバースの1番の価値は、学校の「部活動」のようなかたち。数人から数十人くらいの人数が集まって、ある一定期間目標に向かって努力をしたり、イベントをやるために皆で準備して練習したり、それを何回も続けたりという、あたかも「部活動」ですね。人と仲良くなれる要素も、部活動にはあると思いますし。

瀧﨑
部活動のような経験がメタバースでできるっていうのは、しっくりきますね。
学校などは設備によって部活の数も限られますが、メタバースであればより候補が広がる可能性もありますね。
加藤
色々な種類あるし、選択肢もたくさんあって、やめて別のやつに入ってもいい。今後は、こうしたジェネレーターとしての価値が高くなり、そういう体験にお金をかける人が増えるというようになるのかなと思います。
瀧﨑
なるほど。メタバースは「エンターテインメント」と捉えられることもありますが、メタバースだからこそ生まれた大切な人間関係や体験が根幹にあるからこそ、「エンターテインメント」という言葉だけで言い表されないシーンも多いですよね。そういう意味で、個人的にも現在でも「部活」という表現がしっくりくる部分もある気がします。

メタバース生活者にとっての、「どんな体験に参加したいか」という受動的な体験欲求だけではなく、「どんな体験を自ら作りたいか」という能動的な欲求視点は、どのようなテーマにおいても大事な視点になりそうですね。

引き続きメタバース生活者ラボでは、様々なテーマからメタバース生活者の探求をしていきます。

本日はありがとうございました!

■クラスター株式会社
誰もがバーチャル上で音楽ライブやカンファレンスなどのイベントに参加したり、友達と常設ワールド(バーチャル空間)やゲームで遊ぶことのできるメタバースプラットフォームを展開しています。スマホやPC、VRといった好きなデバイスから10万人が同時に接続することができ、これにより大規模イベントの開催や人気IP(Intellectual Property・知的財産)コンテンツの常設化を可能にしています。クラスター株式会社では、様々なコンテンツ制作・運営を実施し、全く新しいエンタメと熱狂体験を提供し続けています。
https://www.biz.cluster.mu/

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  • 加藤 直人
    加藤 直人
    クラスター株式会社 代表取締役CEO
    クラスター以外にも、サンドボックスゲームやMMORPGユーザーとしても活動
  • メタバース生活者ラボ リーダー
    博報堂 研究デザインセンター 生活者発想技術研究所 上席研究員
    MMORPG・メタバースプラットフォームユーザー
    MMORPGで出会ったコミュニティで7年以上交流を続けている
  • メタバース生活者ラボ 研究員
    博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジーセンター
    メタバースプラットフォームユーザー
    バーチャル空間上のイベントを中心に参加
  • メタバース生活者ラボ 研究員
    博報堂DYホールディングス マーケティング・テクノロジーセンター 
    FPSゲーム・メタバースプラットフォームユーザー
    FPSゲームで出会った友人とリアルでも交流が盛ん
  • メタバース生活者ラボ 研究員
    博報堂 グローバルストラテジックプラニング局 マーケティングプラニングディレクター
    15年以上MMORPGユーザー
  • メタバース生活者ラボ 研究員
    博報堂 研究デザインセンター 生活者発想技術研究所
    メタバースプラットフォームユーザー
    普段はしない「(アバターの)自撮り」をバーチャル空間で楽しむ

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