DATA GEARの新たなチャレンジ【連載第1回】 「マーケティングシステム×生成AI」でクライアントの課題を確実に解決する
マーケティングシステムの導入や運用によってクライアントのビジネスを支援する博報堂CRM &システムコンサルティング局。その中で、これまでとくにデータ活用に取り組んできたチームがDATA GEARです。
この4月以降、データサイエンスとストラテジーの機能が新たに加わり、クライアント支援機能が強化された新生DATA GEAR。そのミッションやソリューションをご紹介する連載をお届けします。第1回目は、新生DATA GEARリーダーの土井京佑が、ミッションやAIに取り組むスタンスについて語りました。
土井 京佑
博報堂 CRM&システムコンサルティング局
データプラットフォームグループ
グループマネージャー
「ストラテジー」「テクノロジー」「データサイエンス」のプロが集結
──新生DATA GEARが今年度から新たなスタートを切りました。その概要をお聞かせいただけますか。
- 土井
- 昨年度までのDATA GEARは、主にデータを活用してクライアントのビジネスを支援することをミッションにしていました。新生DATA GEARが従来と異なるのは、データサイエンスやストラテジーを専門とするメンバーが加わったことで、できることの幅が格段に広がった点にあります。
DATA GEARでは以前からデータ分析などにAIを活用していましたが、AIの専門家がメンバーに加わったことで、生成AIによるクライアントの業務効率化支援や、新しいCX(顧客体験)の開発にAIを活用できるようになりました。また、従来のDATA GEARは、広告やCRMへのデータ活用など、エグゼキューション(実行)領域での取り組みが多かったのですが、ストラテジーの機能が強化されたことで、より上流の事業戦略などの領域からクライアントをご支援できる体制が整いました。
──チーム体制についてもご説明ください。
- 土井
- 人材の職能は「ストラテジー」「テクノロジー」「データサイエンス」の3つに大きく分けることができます。ストラテジーを専門とするのは主にコンサルティング会社出身のメンバーで、クライアントの事業戦略立案などを支援します。テクノロジー系の人材は、データを活用したソリューション開発に力を発揮します。データサイエンス系人材は、文字どおりデータのプロです。生成AIを含むAIの専門家はここに含まれます。
実際の業務においては、案件ごとに最適な人材をアサインしてチームをつくることになります。例えば、事業戦略立案からスタートする案件であれば、戦略系のメンバーがチームの中心になります。また、クライアントがすでにデータを保有していて、その活用基盤をつくる必要があるといったケースでは、テクノロジー系メンバーを中心にチームを組成します。最近は生成AIに関するご相談が増えていますが、そういった案件の場合は、データサイエンス系人材がクライアントの生成AI活用をサポートします。
「Can be」を見極められる力
──現在、博報堂DYグループでは、さまざまな部門が生成AI活用に取り組んでいます。新生DATA GEARならではの生成AIの取り組みについてお聞かせください。
- 土井
- 博報堂DYグループは、クリエイティブアイデアに大きな強みをもつ企業体です。生成AIとアイデアの組み合わせによって、これまでになかったAIの活用法や、生活者との接点における新しいインターフェースを生み出していくこと。それがグループにおける現在の主要な取り組みとなっています。
もちろん、それらはとても重要な取り組みですが、DATA GEARの立ち位置はやや異なります。僕たちが目指しているのは、「クライアントのビジネスに確実に役立つAI活用」です。クライアントの課題がまずあって、それを解決していくためにAIを活用する。そんな発想を僕たちは重視しています。
今期新設の新部署であるデータプラットフォームグループは、マーケティングシステムを専門とするCRM&システムコンサルティング局の中の一部署です。マーケティングの知見とシステムなどのテクノロジーを組み合わせ、クライアントの課題に対して解決可能で、かつコスト的にも合理性のあるご提案をすること。それが我々 のミッションでもあります。
クライアントの課題解決においては、しばしば「As is」と「To be」の見極めが重要であると言われます。「As is」は現在の状態、「To be」は今後目指すべき方向性を意味します。しかし、その2つの視点だけで課題を解決することはできません。必要なのは「Can be」、つまり「現実的に何ができるか」という3つ目の視点です。とりわけ生成AIのように「何でもできそうに見えるツール」を活用する場合は、「Can be」の視点が非常に重要になります。その視点に基づいて、ソリューションの提案から実装・運用までをご支援できるのが博報堂DYグループ内におけるDATA GEARの強みであり、他社に対する差別化ポイントでもあると考えています。
──「Can be」の視点に立つには、テクノロジーやデータに精通した人材の存在がとても重要ですね。
- 土井
- そのとおりです。そのような人材がいることのもう1つの利点は、スピーディなプロトタイピングが可能になることです。課題解決策をクライアントにご提案する場合、10枚の企画書よりも、目で見られるもの、動くものの方が「何ができるか」を明確に伝えやすくなります。例えば、ソリューションをご提案する際には、簡易版のプロトタイプを実際に使ってもらい、使い勝手やどのようなアウトプットが得られるかを体感していただくことで、解決策の良し悪しを判断していただくことができます。プロトタイピングは、経営層の方々の意思決定にもとても役立つ方法であると僕たちは考えています。
──博報堂DYグループの他部門と連携するケースもあるのでしょうか。
- 土井
- チーム内で完結する案件も多いのですが、大規模なシステム開発などが必要なケースでは、他部門とも適宜連携していきます。また、インターフェースの開発が求められる場合には、クリエイティブ部門のメンバーの協力を仰ぐこともあります。逆に、クリエイティブのメンバーからテクノロジーに関する相談が寄せられることもあります。そのつど柔軟にフォーメーションをつくって、広範なクライアント課題に対応していきたいと考えています。
具体的な成果を積み重ねていくことが大切
──クライアント側の窓口はどのような部署なのですか。
- 土井
- 多いのはマーケティング系の部署ですが、ほかにもDX(デジタルトランスフォーメーション)の担当部門や経営企画室などから「全社的なAI活用を支援してほしい」というお話をいただくケースも多くなっています。
またここ最近では、さまざまな部署のご担当者から「会社で生成AIを積極的に活用するという方針が決まったが、どう使えばいいかわからない」といった相談をいただく機会も増えています。そのようなケースでは、ヒアリングをしながら「どのような課題に対して、どのようなAIの機能を、どのように使うか」をクライアントと一緒に検討していきます。その際も、テクノロジーやデータ活用のプロの視点をいかしながら、確実に実行可能で、予算を使う意味のあるAI活用法を見極めることを常に重視しています。
──この4月以降、具体的にどのような案件に取り組んできたのでしょうか。
- 土井
- 大きく3種類のケースで実績を重ねてきました。1つ目が、クライアントの社内の人材育成や研修への生成AI活用です。
例えば、小売店舗や自動車のディーラー、不動産事業者などの新人の営業パーソンは、多くの場合、先輩社員とロールプレイングをして接客スキルを身につけます。そのロールプレイングの対手をAIにすることで、いつでもどこでもスキル研修ができるようになり、新人と先輩が互いに気を使い合ったりする必要もなくなります。また、トレーニングの回数やシミュレーションのスコアを人事評価と連動させることも可能です。
2つ目が、膨大な情報の要約や分類に生成AIを活用するケースです。
コールセンターにかかってきた電話の内容を要約して分類したり、SNSへの投稿を分析したりすることを通じて、生活者のニーズを捉え、商品の改善や新規開発などにいかしていく。そんな取り組みをご支援しています。コールセンターやSNSにはネガティブな意見が寄せられることが多々ありますが、その中にはマーケティングに非常に有用な示唆が含まれていることが少なくありません。しかし情報の膨大な「砂の山」からマーケティングに役立つ「砂金」を人間の手ですくい上げるのは、気が遠くなるような作業になります。そこで、その「砂金すくい」に生成AIを活用するわけです。
3つ目が、新しいCXの創出です。
一例として、ECサイトにおいて、生成AIを活用してユーザーの意図や目的をリアルタイムで理解し、それに基づいた最適なレコメンドを提供する仕組みを提案しています。例えば、ユーザーが再購入を考えている場合、関連するセール情報や人気商品をすぐに表示するようにサイトの構造を自動調整します。また、新商品の確認が目的であれば、そのページへの導線を簡単に案内することで、より直感的で効率的なサイト利用を可能にします。さらに、オンラインとオフラインの連携強化も進んでいます。具体的には、ウェブの行動履歴を元に、AIがユーザーの意図を解釈し、店舗での推奨商品やサービスを提案します。過去の購入履歴をAIが分析し、店舗スタッフがそのデータを基にパーソナライズされた提案を行うことで顧客一人ひとりに合わせた接客が可能となり、リピート率の向上や顧客満足度の向上が期待できます。
これはまさに、AIを活用した新しいCXの創出と言えると思います。
DATA GEARの大きな目標は、クライアントの売り上げや事業成長に貢献することですが、まずは目に見える具体的な成果を積み重ねていくことが大切だと思っています。求められる成果はクライアントの課題によります。課題をしっかり把握し、それを着実に解決していく取り組みを続けていきたいと考えています。
AI活用の「勝ち筋」を見極めていきたい
──生成AIは大きな可能性をもったテクノロジーであると同時に、リスクもあると言われます。生成AIにどのように向き合っていくべきか、お考えをお聞かせください。
- 土井
- 仕事や生活には、AIに任せられる部分と、あえてAIに任せなくてもいい部分があると思います。「すべてをAIに」という風潮はちょっと行き過ぎかなと感じますね。例えば、クリエイティビティが必要とされる領域では、人間が手をかけたものに人は感動すると僕は考えています。AIのサポートによって創造性を高めるという方法は有効ですが、創造そのものをAIに任せてはいけないと思います。
また、AIに何かを任せる場合も、人間によるチェックのプロセスが必須であると考えています。インプットする情報のコントロールやAIによるアウトプットのチェックは、どこまでいっても人間の仕事なのではないでしょうか。
AIに仕事が奪われるという議論は、10年くらい前から続いています。AIに置き換わる仕事は間違いなくあると思いますが、一方でAIが代替できない仕事も確実にあるし、逆にAIが進化することで人間の新しい仕事が生まれる可能性もあります。何をAIに任せて、何を人間が担うべきなのか。その見極めが大切だと思います。
──人とAIの協業もこれから進んでいきそうですね。
- 土井
- そう思います。しかし、その協業の主導権を握るのは人間です。よく指摘されることですが、AIはしばしば「噓」をつきます。誤った情報を出してくるということです。AIに嘘をつかせないようにするには、AIが解釈しやすいようにデータを選別し、加工する必要があります。それができるのは人間だけです。そのようなデータ成型のスキルがある点にも、マーケティングシステムに取り組んできた僕たちの強みがあると考えています。
──今後の DATA GEARの活動の見通しを最後にお聞かせください。
- 土井
- 生成AIの活用シーンは広がっていますが、ビジネスにおける「勝ち筋」は見えていないのが現状だと思います。AIを使うことによってビジネスにどのように貢献し、どのような成果を出していくか。AI活用の「出口」をどうつくっていくか──。そのモデルづくりに引き続き取り組んでいきたいと思っています。
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