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NFTで顧客が動く!?新規顧客を獲得し、既存顧客を味方につけるロイヤルティ向上施策と最新事例
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NFTで顧客が動く!?新規顧客を獲得し、既存顧客を味方につけるロイヤルティ向上施策と最新事例

近年 web3技術を活用したマーケティングやCRM施策が注目されています。NFTを通じたファン顧客の育成や、サービス・ブランド横断で行動データを可視化し、顧客ロイヤルティ向上をはかれることが特徴で、マーケティング領域をweb3という概念で新たにアップデートしていくことが求められていると言えるでしょう。

博報堂ではweb3スタートアップのProofX社と共同で「NFTを活用した顧客ロイヤルティ向上プログラム」を開発。その第一弾として、富士薬品グループ様が開催する「富士薬品グループ 第13回お客様感謝フェスタinさいたまスーパーアリーナ(以下、お客様感謝フェスタ)」にて実証実験を行いました。
本プログラムの実施背景やNFTを活用したマーケティングの取り組み意義、実証実験で得られた成果について、プロジェクトメンバーの3人に話を聞きました。

(写真右から)
吉田 和史
博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部 クロスコマーステクノロジー部

平川 翔一朗氏
株式会社ProofX 取締役COO

大嶋 崇晃
博報堂 コマースデザイン事業ユニットプロデュース局 第一プロデュースグループ

「既存顧客の繋ぎ止め」と「新規顧客の集客」という業界の課題を解決したかった

── まずは皆さま自己紹介をお願いします。

吉田
現在所属しているクロスコマーステクノロジー部では、主にリテール業界のクライアントに対して、デジタルを活用したマーケティングやプロモーションの支援を行っており、店舗にデジタルサイネージを設置したり、アプリとビーコン連携による来店時のリアルタイムのコミュニケーション施策を行うなど、「顧客とのデジタル接点の創出」を担っています。
「NFTを活用した顧客ロイヤルティ向上プログラム」を共同開発した富士薬品様とは2022年頃からお仕事をさせていただいていて、今回の実証実験では博報堂プロダクツが窓口となりました。
大嶋
私は現在、博報堂のコマースデザイン事業ユニットプロデュース局に所属しておりまして、現在の部署の前身にあたるDXプロデュース局時代から、XRやweb3といった先端テクノロジー領域の営業企画を担当しています。当社のweb3事業の開発やプロデュースを手がける「博報堂キースリー」という関連会社と連携しながらクライアント企業のDX推進に関わってきました。その一環で、博報堂キースリーの運営するweb3スタートアップを中心とした専門家集団「KEY3 STUDIO」に参画しているProofXを紹介いただきました。ProofXの提供するNFTソリューションについて伺うなかで、「NFTを活用して何かできないか」というアイデアは持っていました。
今回の実証実験に至った経緯としては、博報堂社内向けセミナーをきっかけに吉田さんから富士薬品様にNFTを使ったご提案ができないか相談をもらいまして、何度かご提案をさせていただいたのち、具体的な取り組みを進めることになりました。
平川
私が取締役COOを務めるProofXは、2022年に創業したweb3スタートアップです。NFTの配布をきっかけに、新たな顧客接点を生み出し、顧客ロイヤルティの向上やデータとテクノロジーで顧客の繋がりを深めていくサービスを提供しています。
KEY3 STUDIOには昨年の夏ごろから参画していて、今回の実証実験の機会をいただき、サービスの知見を活かしてプロジェクトに関わっています。

── 今回のプロジェクトに取り組むにあたっては、どのような課題を解決しようと考えていたのでしょうか?

吉田
ドラッグストアやリテール業界においてはコモデティ商品を扱っているからこそ、「差別化が難しい」という共通の課題を抱えています。
一方生活者は、日常の生活動線に近い店舗を利用するため、生活動線が少し変わると容易に競合へスイッチするということが頻繁に起きていました。既存顧客を繋ぎ止めるためには、店頭プロモーションキャンペーンを実施するなど、顧客が他社を利用してしまうことを防ぐ施策を打つのが定石です。
また、来店顧客を増やすために新聞の折込チラシやポスティングといった手法で新規顧客の集客を行うことが小売業全体でもまだまだ多くみられます。
しかし生活者のライフスタイルや価値観の多様化が進み、従来のプロモーションのやり方だけでは新規顧客獲得が難しくなってきており、新規顧客の獲得コストが高騰しています。そしてせっかく新規獲得をしても簡単に離れていってしまいます。

こうした課題を解決しようとするなかで、NFT技術を使ったロイヤルティプログラムによる新しい集客手段に着目しました。
例えばAさんがクーポンを何人かに発行して、それが広がっていった時に、 ブロックチェーン上だと「誰に配ったクーポンがどこで使われているか」という履歴データが可視化されるので、Aさんの口コミ効果に対してインセンティブを付与できるのです。インセンティブは拡散するモチベーションにもつながるので、既存顧客の繋ぎ止めや新規顧客の集客に生かせるのではないかと考えました。

大嶋
実はもともと、「NFTを活用した顧客ロイヤルティ向上」に関しては、ブロックチェーン上にプログラムを蓄積していくので新たに構築しやすく、色々な場面で連携しやすいと考えていました。複数の事業やサービスを抱える企業では、「個別最適はされている一方で、横の連携がうまくとれていない」という状態に陥りがちですが、web3を活用していくことで横連携しやすくなるというわけです。
さらにその先で、企業間の連携を見据えてロイヤルティ 向上を図っていくという構想を描いていました。

そんなときに吉田さんから富士薬品様のお話を伺って、私の方で企画のブラッシュアップや体制構築を行っていきました。富士薬品様はドラッグストアや配置薬、ECといった領域ごとに事業部が分かれていて、事業をまたいだ相互送客を課題としていました。その課題を解決する1つのソリューションとして、事前に思い描いていた構想をもとにプロジェクトの具体的な方向性やゴールを決めていきました。
既存のインフルエンサーマーケティングのように、既存顧客が新規顧客を連れてくるような仕組みをweb3の技術を作って構築すれば、「誰がどのくらい紹介したのか」がわかるようになるため、紹介数の多い“熱量の高いお客様”を可視化できます。さらに将来的には、ロイヤルティの高いお客様と共創しながら、新商品や新サービスの開発も取り組んでいけると考え、ProofXと共同して「新規獲得」と「ロイヤルティ向上」を一貫して支援できるソリューションを企画提案していったのです。

平川
プロジェクトを推進していく上で、弊社としての役割はweb3の技術や知見、ノウハウの提供でした。また、富士薬品様の運営するドラッグセイムスの公式アプリとの連携をどうしていくかなどの技術的な部分のサポートも担当しました。

既存のファンが新しい顧客を連れてくるためには、2つの段階を経ることが大事になります。マルチチャネルで顧客と接点を作っていき、ロイヤルティを高めていくフェーズ。そして、ロイヤルティが向上した顧客が、新しいお客様を紹介してくれるフェーズです。
さらに新しく獲得した顧客がロイヤルティプログラムでファンになっていく……このようなサイクルを回すことによって、ブランドや企業の発展に寄与できるのが、web3で見出せるCRMマーケティングの価値だと思っています。

NFTを活用することで「連続的なCRM施策」を実行できる

── web3技術を活用したマーケティングやCRM施策は、どのような有用性があるのでしょうか?

大嶋
まず、NFTは非代替性トークンであり、唯一性を持たせることができるため、誰から誰に渡したものであるとか、他の人のものと違うと区別できるなど個性が出せるというのが特徴と言えます。
実際の活用事例では、顧客とのコミュニケーションの中でNFTを配布することで、それがバーン(削除)されない限り、ウォレットの中にそのNFTが残り続けるのです。例えば、イベントでNFTを配布し、1年後にまた同じイベントを開催したときに、去年配ったNFTを持っている人が来場したら、特典を差し上げるということ等に活用できます。
つまり、これまではイベントや施策ごとに単発のCRM施策しかできなかった状況から、NFTを活用することで「連続的なCRM施策」の実行ができるようになります。

今回の実証実験では、富士薬品グループ様のイベント「お客様感謝フェスタ」の会場で特典がもらえる引き換え券(NFT)を配布しました。ファーストステップとして、NFTの発行で顧客との繋がりを創出していく試みを行ったのですが、中長期的にそれを起点とした別のイベントやキャンペーンへの誘導にも活用できると考えています。
また、今回は実装していませんでしたが、イベントに参加できなくなった人が別の人にNFTを譲渡するといったことも技術的に可能です。例えば、NFTをABCの3種類を用意したときに、AとCは保有しているけれどもBは持っていないという場合に他の人からBをもらうという形も取れるんですね。

このような形で、顧客同士のコミュニケーションを促進させて、ロイヤルティを上げていくことも中長期的に考えている取り組みのひとつです。

吉田
既存のCRM施策の一環として、イベントでポイントを還元するといったキャンペーンを実施した際に、どのイベントでもらったポイントも一緒なので、ポイントをもらって終わりになってしまう可能性が高いと思います。
NFTを活用したCRM施策では、NFTに個性があるからこそ、過去のイベントやキャンペーンに参加してくれた人がわかりますし、顧客がアクションを起こすモチベーションにもなる。これはまさに、NFTならではの体験だと言えるでしょう。

── 今回の実証実験における取り組みの概要や、プロジェクトを進めていく上で苦労した点があれば教えてください。

吉田
富士薬品グループ様の「お客様感謝フェスタ」では、「お友達紹介キャンペーン」として、NFTをフックにイベント会場までお客様をお連れし、「セイムスの公式アプリの会員数も増やす」ために会場に来てくれた方がアプリをダウンロードしたらインセンティブを付与する設計にしました。

インセンティブは「メーカーのサンプル品」と「セイムスで使えるクーポン券」のどちらかを選べるように提示し、さらに紹介者のモチベーションを高めるために、「紹介した人数に応じてセイムスポイントを還元する」という仕組みにすることで、より多くの人にキャンペーンに参加してもらえるよう企画しました。

特に試行錯誤した点は、アプリ会員が「誰を紹介したのか」というのを紐付けるために、どのように会員IDと連携させるかについてです。イベント開催までの時間が限られているなか、連携基盤を開発するとコストも時間もかかるため、いかにライトに設計するかが課題でした。

平川
PoCを実施する上で、アプリ側の改修はせずにどう連携をしていくかが鍵を握っていました。そこで今回の実証試験ではアプリ会員が知人・友人に紹介リンクを送付して、そのURLから「誰がどれだけ紹介してくれたのか」を追える仕組みを作りました。もともとアプリ側で入れていたシステムを使って、URLに固有のパラメーターを振ってもらい、それに紐づく形で、ウォレット情報やNFTの発行量、紹介人数などのデータをProofX側で集約したのです。
最終的には、データ集約したものを富士薬品さまがアプリ会員のIDと突合し、「紹介者のリンク経由でイベントへ来場した非紹介者の人数」を把握できるようにしました。

生活者の視点に立ち、「NFT」という言葉を使わないように意識した

── 今回の実証実験は、どういったことを念頭に設計したのでしょうか?

平川
NFTを活用したCRM施策のポイントは大きく2つあると思っています。
1つ目が、NFTの相互運用性(インターオペラビリティ)を活用した継続的な顧客との接点構築です。これまで企業がイベントやキャンペーンを行うと、顧客エンゲージメントが高まる一方で、その施策が終わると顧客エンゲージメントがどうしてもリセットされてしまう状況でした。イベントやキャンペーンの有無によって、顧客エンゲージメントの増減を繰り返していたのです。NFTを活用すれば、イベント単位で顧客との関係が途切れることなく、ウォレットを通じてイベント間を横断して、 顧客と継続的な接点を持つことができます。そのため、イベント終了後も次に繋げていくことができ、徐々にエンゲージメントを高めることができます。

2つ目が、中長期の視点でNFTを活用していく上で肝になるオムニチャネル です。小売業界ではリアル店舗やEコマース、公式LINEやオンラインコミュニティなど、企業は多様なチャネルで顧客と接点を持っています。ただ、オフラインで店舗に来た顧客とはデジタルの接点がなかったり、サービスごとにIDがバラバラになっていて顧客情報の連携や紐付けができていなかったりと「チャネルを横断して顧客と接点を持つことができない」という課題があります。
この部分についてもNFTの配布によって、1つのブロックチェーン上でウォレットアドレスに顧客の行動が紐づくため、一気通貫で顧客の行動がわかるようになります。

(1)NFTを活用して、継続的に接点を作っていくこと
(2)中長期では、ロイヤルティプログラムをオムニチャネルで接点を持つこと

この2つを組み合わせていくことで各イベントに参加した顧客がロイヤルティプログラムで継続的にロイヤルティを高めていく、「顧客のファン化」につなげることが重要になってくるでしょう。

大嶋
キャンペーンを通じて大事にしていたのは、「NFT」という言葉をあえて使わないようにしたことです。どうしてもNFTやweb3という言葉を使うと難しく感じて、身構えてしまう方も多いのではと考えていました。
今回は「特典引き換え券」という呼称にすることで、抵抗感なくキャンペーンに参加できるUI/UXにするなど、博報堂の強みである生活者目線に立って参加のハードルが低いデザインや文言コピーを作るように心がけていました。

またインセンティブ設計についても、紹介する側と紹介される側の視点に立って「どういうインセンティブだったら嬉しいのか」と考え、サンプル品とセイムスで使えるクーポン券の2種類を用意しました。イベント会場では出展ブースを回って色々なグッズや商品が欲しいお客様もいるため、滞在時間が長くなれば荷物が増えていきます。そのような状況では、最初にサンプル品を特典で渡すよりも、後日使えるクーポン券を渡した方が喜ばれるので、生活者の行動から逆算してインセンティブ設計に落とし込むように工夫しました。

web3に限らず、先端テクノロジー領域はどうしてもまず理解すれことが難しく、生活者にスムーズに受け入れてもらえないことが多いため、そこをいかに分かりやすく翻訳して伝えられるかが重要だと考えています。

NFTクーポン配信によってイベントの来場促進につながった

── 今回の取り組みで、どのような成果や反響を得られましたか?

吉田
キャンペーン期間の中では、トータルで600名以上の方がNFTの引き換え券を発行していただき、そのうちの約半数が実際に来場いただきインセンティブと引き換えてくださいました。さらに被紹介者による特典の引換も約6割に上るなど、当初想定していたよりも良いリアクションをいただき、PoCの実績としては高い成果をあげることができたのではないかと感じています。
大嶋
NFTの引き換え券による特典の交換率は相当高くなるとわかったことに加えて、 被紹介者に関しては6割以上の方が実際に来場いただき、特典と交換してくださいました。紹介人数に応じてセイムスポイントの付与率を変えたこともあり、2人以上の紹介をしてくれた紹介者の方は全体の3割ほどを占めていました。

やはり紹介という形が来場促進につながるというのが、今回の実証実験でわかったことになります。

吉田
紹介者の中には、なんとお一人で10名以上お連れいただいた方もいらっしゃって、いわゆる“スーパースプレッダー”となるアプリ会員が今回の取り組みで顕在化したのではないでしょうか。
大嶋
将来的にはNFTを活用した紹介キャンペーンを継続して行い、そのリアリティを可視化していくことで、本プロジェクトはもちろん、他のプロジェクトでも、本当に熱量の高い人たちをコミュニティリーダーに抜擢したり、新商品の開発に携わってもらったりと運営側として巻き込んでいく動きにも取り組んでいきたいと考えています。
平川
キャンペーン期間中にSNSを見ていると、「セイムスのイベントに参加すると景品がもらえる」という情報をお得な情報として発信いただいていて、イベントを起点にファンのお客様が自律的に情報を広めてくれていたのも今回の実証実験で良かったポイントですね。

── 最後に今後の展望について教えてください。

吉田
今回の取り組みを通していくつかクリアしなくてはいけない課題が出てきたので、そこを改善できるように継続していきたいと思っています。セイムスアプリでは既存のポイントプログラムがすでに動いているので、突然ロイヤルティプログラムを導入してもユーザーが戸惑ってしまいますし、店舗の従業員も混乱してしまうので、本当に今は何をやるべきかを整理しつつCRM施策全体のあり方を探っていきたいです。
平川
実証実験のファーストステップとしてはロイヤルティの高いコアファン層をターゲットにしたことで、キャンペーンのことを積極的にご友人に紹介していただけたことも、成功のひとつの要因だったと理解しています。 今後の展開としてはお客様をしっかりと育成し、ファンをたくさん作っていく。そこから、さらに紹介が生まれるアンバサダープログラムを構築できたらと考えています。
大嶋
世の中にはNFTを基盤にしたCRM施策を実行できるサービスは他にもあります。ただ、ロイヤルティの高いファンを巻き込みながら、その方々が新しい顧客を連れてきてくれるという「新規顧客獲得」と「ロイヤルティ向上」の2軸をサイクルとして回せるのは、我々が開発したプログラムならではの付加価値だと捉えています。
本ソリューションは幅広い業界のクライアント様にご活用いただける可能性を秘めていると感じておりますので、まずはユースケースをさらに広げつつ、継続的な顧客とのつながり創出と価値ある体験提供に貢献できるよう尽力していきたいです。

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  • 平川 翔一朗氏
    平川 翔一朗氏
    株式会社ProofX 取締役COO
    早稲田大学大学院修了後、大手日系コンサルティングファームで経営コンサルタントとして活躍。主に大手企業の業務改革(BPR)プロジェクトに多数携わり、豊富な経験を積む。その後、株式会社ProofXを共同創業。現在は取締役COOとして成長を牽引。
  • 博報堂プロダクツ コマーステクノロジー事業本部 クロスコマーステクノロジー部
    CVSのスーパーバイザー経験を経て、2014年博報堂プロダクツに入社。主にメーカー企業の店頭プロモーション領域の課題解決に従事し、2021年4月から現職。流通業界での知見と店頭プロモーションの知見を活かし、流通・メーカーを問わず様々な企業への最新リテールテックソリューションの導入に携わっている。
  • 博報堂 コマースデザイン事業ユニットプロデュース局 第一プロデュースグループ
    2016年に博報堂入社。消費財やダイレクト系クライアントの営業職としてアカウントプランニングに従事したのち、2023年より現職。コマースおよびCRM領域のプロデューサーとして多様なプロジェクトをリードしつつ、特にメタバースやweb3等の先端テクノロジー領域のプロジェクトにて専門性を発揮。