ニュートラルであることが芸。クライアントを深く知り、自分に求められるものを俯瞰する|横山昴×ショート動画クリエイター対談vol.2 修一朗編
新たなメディアとして影響力を高め、今後の企業PRに不可欠な存在となりうるショート動画。ショート動画クリエイター(以下クリエイター)たちは、企業の案件をどのように咀嚼し、どのように発信することで生活者に“愛されるPR動画”を開発しているのでしょうか。いま博報堂社内でクリエイターと最も交流が広いと自称する横山昴が、注目のクリエイターと対談する連載企画です。
第二回目のゲストは修一朗さん。最近では等身大のキャラクター×ラグジュアリー商材や、海外クライアントのPRも後を絶たない修一朗さんに、クライアントとの向き合い方や動画づくりのこだわりをききました。
修一朗
動画クリエイター/株式会社スターミュージック・エンタテインメントCCO(Chief Creator Officer)
横山昴
株式会社博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
アクティベーションディレクター
修一朗さんとは、普段からSNSのDMで連絡を取り合う仲です。つまりマイメン。
常にニュートラルであること。とにかくクオリティにこだわること
- 横山
- 修一朗さんはTikTok をはじめて4年目なんですよね。最初は大学生の日常を描くスタイルから、プラットフォームの成長にあわせてさまざまに動画のスタイルを変化させ、いまでは世界を舞台に活躍されています。その間お仕事の内容も変わってきましたか?
- 修一朗
- 基本的に大きくは変わっていないと思いますが、はじめは大学生キャラが強かったので大学生や新社会人に向けた商品やサービスが多かったですね。でもいまはカード会社のプラチナカードのPRをさせていただいたり。初期から考えたらちょっと想像できないですけど、それは自分の動画のクオリティが評価されているということだと思うので素直に嬉しいです。
- 横山
- 修一朗さんって、ラグジュアリーな商材もいい塩梅にカジュアルダウンしてくれる存在なんですよね。世の中に新しい文化や言葉を届けたいとき、すごく相性がいいと思います。それはなぜかと考えると、ニュートラルだから。クリエイターは一芸に特化する方がやりやすいという側面もありますよね。料理に特化するとか、寸劇に特化するとか。でも修一朗さんはいい意味で無味無臭。それでいて、「アイデアマン」で居続ける。そのあたりは意識していますか?
- 修一朗
- そうですね。逆にニュートラルにいることが自分の芸だと思っています。
料理もするし、馬に乗ったりスポーツもする。全部やるスタイルでいたいんです。以前は学生のイメージが強かったのですが、2022年くらいにこれではもうもたないなって。
次から次へと新しいクリエイターさんは出てくるわけで、勢いでやっているだけでは長続きしない。自分はもっとニュートラルに長く続けていきたいので、一旦学生キャラのお仕事はお断りさせていただくことにしました。その代わり、クリエイターとしていい作品をつくるので結果を見てくださいというかたちでお仕事させていただいて、この数年はとにかくクオリティにこだわった動画づくりを心掛けています。
ショート動画を仕事にできる時代がきた
- 横山
- 僕もはじめてご一緒させていただいたのが2022年のタイミングでしたよね。初対面はオンライン会議でした。
- 修一朗
- そうでしたね!そのとき1時間予定のオリエンが15分で終わってしまって、横山さんが残りの45分間僕に質問しまくるという謎の展開になって…(笑)。
- 横山
- 確か、あれマネージャーさんに怒られましたよね。「横山さん、こっからは修一朗のコンサル料取りますよ」って! 僕は修一朗さんに夢中で、聞きたいことがありすぎたんですよ(笑)。
- 修一朗
- いや、横山さんは出会ったときから熱かったです。
- 横山
- いやあ~恥ずかしい(笑) その会で、修一朗さんが動画の作り方をアップデートされたと話していたのがすごく印象的でした。2022年まではカットを細かく切ってとにかく情報を詰め込んで飽きさせないようにしていたのが、いまは60秒を大きく5分割くらいにして、1カットのクオリティを上げていかないと見てもらえなくなっていると話していて。
僕も2018年くらいから動画をはじめて、どうやって見られる動画広告をつくるかハックし続けてきたので、修一朗さんと出会って「あ、この人とならいいセッションができる」と思ったんです。
ちなみに! いま修一朗さんが興味があることってなんですか?
- 修一朗
- 「YouTube ショート」の収益化ですね。
- 横山
- へー!TikTokではなくて!?
- 修一朗
- ほかプラットフォームと比べて、短い動画でも収益化する。これまで以上に「クリエイターエコノミー」の土壌が整ってきた印象です。これからは本当に、年齢も学歴も関係なくショート動画を仕事にできる時代がきたなって。クリエイターとして、短い動画から経験を積んでいくというのも今後の新しい手法かもしれません。
- 横山
- これまでを振り返ると、本来ショート動画は短いものが好まれていましたが、そこからもっと情報の価値を求めるようになって、1分以上のコンテンツがバリューを持つようになりました。そしてまたいま、1分以下の短い動画に波がきているという印象でしょうか。それはクライアントワークでも同じ流れがくると考えますか?
- 修一朗
- 流行りとか、波が来ていると言うより、クライアントの施策の目的に合わせてクリエイターの使い分けがより大切になってくると思います。
- 横山
- なるほどね!
- 修一朗
- 例えば、瞬間的な話題を生み出し、マス受けするようなインパクトを残すことができるショート動画クリエイターと組むことで強烈に記憶に残し、商品の認知を取る。10秒くらいの動画でもいいと思います。
そして、料理系や、美容検証系など、ロールモデルとなる説明が上手なクリエイターと組んで、45秒から60秒くらいの長尺動画で商品に納得感を持たせる。これを同じタイミングで一緒にやることが大事。
これまで僕は長尺動画を作ってきましたが、2024年は短尺×インパクトに挑戦をしたい。このスタイルは商品によって毎回クリエイティブを変化させる必要があるし、型にとらわれないやり方が求められるので、まだまだハックしがいがあると思うんです。
- 横山
- 「よく見る」を継続的に生み出していくことは、ショート動画では大事ですよね。
短尺×インパクトって聞くと、少し前に若年層を中心に流行したVine(ヴァイン)というプラットフォームを思い出しますね。あれもショート形式の動画共有サービスで、「6秒間のループ再生」が特徴でしたよね。ああいった場所で活躍していた方とかが参入してくるとか大いにあり得ますよね。
- 修一朗
- 当時のVINEクリエイターが、あのクリエイティビティを持ち込んだら相当強いはず。視聴者視点でグッと引き込む力がありましたよね。
ショート動画クリエイターの発信だけで、フィードのプランニングが成立する
- 横山
- 10秒以下でも収益化ができる場ができたいまだからこそ、今年は新しい市場が生まれる可能性があるということですよね。おもしろい。
- 修一朗
- まだこの話は一部のクリエイターが実感をしている話だと思うので、その変化に気付いたクリエイターからどんどん参入してきます。今よりももっと動画1本あたりのクオリティが高まっていくし、あっと驚く最先端な動画が生まれていくと思います。
- 横山
- フィード領域ではショート動画クリエイターの発想だけでクリエイティブプラニングを成立させる。そんなネクスト戦略も考えられそうです。
そう考えると、これまで単なるインフルエンサーとして見られていた人がよりクリエイターとしての存在感を示すようになり、収益化の仕組みと相まってクリエイターエコノミーが促進されるように思いますがいかがですか?
- 修一朗
- ショート動画の収益化で、クリエイターエコノミーを意識するクリエイターは確実に増えると思います。僕なんて始めた当初は姉にお金借りながら動画つくっていましたからね(笑)。
「LOOK at ME」ではなく「LOOK at THIS」。会社の歴史や理念も調べる
- 横山
- 僕がいま修一朗さんの強みだなと思っているのが、海外のものを日本にあった形にフィットさせてエンタメ化していく「ローカライズ」の力と、企業の敷居の高さを払拭していく「カジュアルダウン」の2点ですが、修一朗さんがクライアントと対峙するとき、大事にしていることはありますか?
- 修一朗
- 毎回やるのは、徹底的に調べること。商品はもちろんですが、会社の歴史や理念も調べます。社訓を読んだり(笑)。
あとは、なぜ僕を起用してくれたのかを考える。オフィシャルアカウントだったらどんなことをやるか、じゃあ僕がやるべきことは?と考えるし、ほかに起用されるクリエイターを見て、自分の立ち位置を俯瞰しながらクリエイティブを考えます。これは毎回すごくいい経験になりますし、カメレオン的に変化させていくのが僕のやり方ですかね。
- 横山
- なるほど、そこまで考えてくれているから企業のトンマナをキープすることができるんですね。いい意味で企業の色に染まりながら、自分のクリエイティブを発揮できるのがすばらしい。「LOOK at ME」ではなく「LOOK at THIS」を実現できるクリエイターだと思います。
- 修一朗
- 社会人経験のない若いクリエイターも多いのでむずかしい面もありますが、やっぱり企業がどれだけの想いで商品をつくっているかを理解するのが大事。正直、企業が本気を出せば、僕らなんてまったく及ばないようなクオリティのものがつくれるわけです。自分に仕事がくるってことは自分のつくるものがすごいんだなんて思ったら大間違い。全体を理解するということが大事だし、自分に何が求められているのかを客観的にみるしかないんです。
企業とクリエイターのフラットな関係が、愛されるブランドを生む新たな潮流に
- 横山
- 修一朗さんはスターミュージックのCCO(チーフクリエイターオフィサー)も務められていますよね。僕も昨年からスターミュージックと一緒にショート動画クリエイターを動画プランナーへ育成していくプロジェクトをスタートしました。数回の勉強会とクライアントワークを交えた実践活動で、クリエイターの可能性を広げていくプログラムです。
修一朗さんは、今後どのようなクリエイターが育っていくといいと考えていますか?
- 修一朗
- 横山さん!むずかしい質問ですね(笑)。でも理想なのは、顔出しでも匿名でも活躍できるクリエイターかな。自分のチャンネルもできるし、企業のアカウントではプラナーとして活躍できるみたいな。二足のわらじでできたら最強だと思います。僕もなりたいし、そんなクリエイターを見てみたい。もし企業とタッグを組めるようなチャンスがあったら、クリエイターの方からどんどんアピールしてほしいですね。自分のノウハウを企業、ひいては世の中の役に立てられたらすごいことだと思うんです。
- 横山
- TikTokのミーム文化により型を作る「アイデアマン」と型に乗る「アレンジマン」が生まれていると僕は考えていて、特に修一朗さんのような「アイデアマン」と組めるとクリエイターがマーケター担当としてチームの中でうまくワークする傾向にある。
単にPRで1投稿何リーチ稼いだみたいなことではなく、企業とクリエイターがフラットな関係でいっしょにクリエイティビティを高めていくことが、愛されるブランドをつくるための新たな潮流になるんじゃないかな。
ショート動画の黎明期はたくさんのクリエイターをキャスティングしながらトライを続けていましたが、これからは一人のクリエイターとしっかり取り組んでいくのがいい方法かもしれないですね。
- 修一朗
- 企業との年間契約みたいな考え方は今以上に増えてくると思います。その企業の専属になれば、クリエイターも安定するので、そこにかけられる時間や熱量に比例して動画クオリティも高くなると思いますし、企業さんの要望にも応えられる。企業の気持ちに寄り添いたいクリエイターにとって、2024年はそういう変革のきっかけの年になると思います。
- 横山
- いやぁ、時代は変わりましたね!僕も最近では、企業と生活者の中長期的な関係値をどう築くかということにあらためて注力しています。「Steam(蒸気)&Mist(霧)」と名付けて修一朗さんのようなマーケッター目線を持った方々をチームに入れて一緒にクライアントとブランド作りをするチャレンジをしています。この前のプレゼンも楽しかったですよね(笑)
- 修一朗
- この取り組みがスタンダードになるはず。そう信じていまはご一緒させてもらっています!
- 横山
- 嬉しいですね。修一朗さんは海外クライアントとの取り組みも増えていますが、さいごに今後チャレンジしたいことがあれば教えてください。
- 修一朗
- 海外のエンタメ系、テック系クライアントと国内向けの動画をつくっていますが、今後は国外向けの動画にもチャレンジしてみたいですね。システムや文化的な違いもあるのでハードルは高いですが、ぜひ挑戦したい。
あとは、2022年にTikTokで「修一朗ボイス」というテキスト読み上げ機能の自動音声をつくったんですが、たくさんの人に使ってもらっています。その音声機能を活用したチャレンジもできると思っています。
- 横山
- その「修一朗ボイス」を使って他の人がつくった動画を見て、修一朗さんのお母さんが「最近、あなたの動画の雰囲気が暗くなった気がするけれど大丈夫?」って心配して連絡をしてきたって言ってましたもんね(笑)それはすごい精度だ。
- 修一朗
- そうなんです! その自動音声が、いまは誰でも自分の声でつくれるようになってるんです。20分くらいあれば自分のボイスがつくれちゃう。この機能でさらにクリエイターが増えると思います。顔は出せないけど声は出したい人もいますし、移動中など声が出せない場所でも編集できますからね。いやー、こんな世界想像できなかった。いい時代になりました(笑)。
10秒以下でもいいし、誰でもできますから、まずは皆さんも自分がおもしろいと思うことをアップしつづけてほしいですね。僕も毎日おもしろい動画を見つけるたびにくやしいですし、やられたな~と思うこともたくさん。自分もまだまだ足りないなと思うので、今後も試行錯誤しながらがんばりたいです!
- 横山
- これからも、ショート動画に、一緒に没入していきましょうね笑。
ってことで、第一回目の「まいぱんポーズ」に次ぐ、「没入ポーズ」で締めましょう!
- 修一朗
- 今日も、“ご拝読”ありがとうございましたっ!⤴
- 横山
- 出た!お決まりの! じゃあ僕もありがTODAY!
この記事はいかがでしたか?
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修一朗総フォロワー数210万人を超えるマルチクリエイター。 “日常”を紹介する『Vlog』投稿で脚光を浴び、平均再生数は150万再生を超える。ショート動画Vlogのパイオニアとして多くの企業案件実績あり。またTikTok以外のショート動画プラットフォームも勢力的に投稿しており彼独自の細かな分析力やノウハウを生かし未だに成長が止まらないクリエイター。夢は、映画監督。
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株式会社博報堂 生活者エクスペリエンスクリエイティブ局
アクティベーションディレクタープラットフォームと連携しQuickに効果的な動画を作り出す「.QuickMovie」を発足後、1,500本以上の動画を企画からPDCA運用まで担当。その経験から動画起点で逆上がりしTVCM運用までを統合プラニングすることを得意とする。2021年にはTikTokとの国内初のクリエイティブチーム「TiQuick」を発足し、1年で日本企業初の認定クリエイティブteamへと成長させた。また、2024年に新設された「TikTok Creative Award」で審査員を務める。